保守派がUberを支持するアメリカ

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Uberのような「既存業界破壊型」のビジネスがアメリカでじわじわ合法化されている影には、この手のビジネスがアメリカの政治的保守派にウケがいいという謎がある。

この間、「Uber and Goliath」というタイトルが表紙に書いてある雑誌を図書館で見かけた。表紙のイラストは、黄色と黒のチェックの服を着てTAXIとかいてある帽子(?)を被った腹の出た巨人と、背中に「U」と書かれたチュニックを着てiPhoneを振り回しているスリムな長髪男性が戦っている様子だ。

ダビデとゴリアテといえば弱小な者が強大な者を打ち負かすという表現で、ゴリアテ=強大な者である。私的にはUber=タクシー業界をいじめる巨人、なので、逆の描写に「ほえ?」と思って手にとって読んでみた。中身は、ちゃんと調べて書かれてはいるものの、

「既得権益をもった悪魔のカルテルであるタクシー業界に果敢に立ち向かうベンチャーUber」

というトーン。そもそもタクシー業の規制はインターネットなどカケラもなかった1930年代に作られたもので、ユーザが1回乗車ごとにシビアにレビューできる現代においては全く意味をなさない・・・・などなど。Uberがこれまでに82億ドル、1兆円近く調達した「強者」であることは全く書かれていない。

「一体全体これはどんな雑誌なんざましょ」

と思ったら、National Reviewという1955年からある保守派雑誌なのであった。

アメリカはRepublican Party(共和党)とDemocratic Party(民主党)支持者)の二大政党制である。

でRepublicanが保守。その価値観のセットは、

  • 小さな政府(最低限の福祉)
  • 神の見えざる手万歳(プロビジネス・最低限の規制)
  • 銃賛成
  • 中絶反対

となっている。対してDemocratは

  • 大きな政府(手厚い福祉)
  • ビジネスはちゃんと規制しよう
  • 銃反対
  • 中絶は女性の権利

である。個々の主張はわかるのだが、これがセットの価値観であるところがイマイチ腹落ちしませんな。しかし2大政党制であるがゆえに、いいとこ取りの主張をすると敵に汲みする感が出てしまうので「福祉賛成だけど銃賛成」といった組み合わせはなかなか難しい。

そして「小さな政府」「反規制」という価値観からすると、Uberはいい感じのビジネスなんですな。

というわけで「銃賛成」「中絶反対」と「Uber賛成」が一つの価値観に組み合わされる、という謎のアメリカの保守派なのであった。

(余談ながら、アメリカで銃規制が進まないのは、上記の価値観セットの中では「銃問題」が国の方向性的に最もどうでもいい争点なせいではないか、と疑っている。結局政治は経済がちゃんとまわらないと力を失うわけで、そのためには政府のあり方と規制の手綱が肝要。そちらで意見を通すためには、銃規制については最も得票しやすい方にしておく、というのが楽そうではある。)

保守派がUberを支持するアメリカ」への2件のフィードバック

  1. お久しぶりです。アメリカに長すぎて、共和党と民主党の意見の組み合わせが腑に落ちないなんて、思ったことないですが、あえて説明しようとすると、やっぱりアメリカ人のアイデンティティと歴史の問題なんじゃないかな、と思います。共和党をコンサバのアメリカ人はやはり自分達の原型として、フロンティア時代のアメリカ人というのを念頭においている。つまり合衆国が成立する前、あるいは成立してからも合衆国に組み込まれてない「奥地」に入って、自分達の道を切り開いていく。つまり国家の力を頼らず、神の力だけを信じ、銃を持って危険を切り抜けていく、というイメージ。もちろんこういう発想は、歴史的に見れば、白人の自己陶酔に過ぎないんだけど、こういうマッチョな発想は、まだまだ白人のアメリカの文化の根底にあると思う。それに対して、民主党が提示している人間像と言うのは、アメリカでは割合新しくて、やっぱり人間は社会的動物で、皆で仲良くしていかないと、やっていけないし、そのために銃と言うのはやっぱり危なすぎるし、差別もなくそう、という感じ。

    ちなみにアメリカで銃規制が進まない理由は、中西部の田舎にいると、割合すっきりわかります。というか銃が生活のものすごく近くにあるんですよね。まず従軍経験のある人々が多いから、その人たちにとっては、銃は身の回りにあって当たり前のもの。それから農業を守るためと称して、秋の鹿狩りが季節の風物詩になっていて、男の子が男になるための通過儀礼として、銃の扱いを覚え、家族の鹿狩りに参加することが大事とされてる。昼間鹿狩りをしたあと、皆でピクニックだかパーティだかして、ワイワイやるのが特に楽しいらしく、女の人も、鹿狩りに参加したければするし、それはしなくてもパーティの方は必ず参加するみたいな感じのよう。だからそういう人は、「銃を保有している大多数の人が、銃と安全に共存しているのに、何でそれに規制をかけるの? それって、憲法で保障されている、自分の身を守る権利に反するんじゃないの?」と言う。こういう人々に銃協会がサポートされて、DC他各地でロビーイングを繰り広げてるから、銃規制は進まないんだなと思います。

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  2. 上のコメントの4行目、「共和党を支持するようなコンサバのアメリカ人」でした。すみません。

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