もの忘れと怪我とワーキングメモリ

BandolierBandolierの肩掛け携帯ケース

前にも書いたが、著しくものをなくす。さらに、あちこちにぶつかったり階段から転げ落ちたりするので、いつも1日が終わる頃には疲弊している。脳内で常に指差し確認をしている状態だからだ。

「階段の段差よーし」

「車の鍵よーし」

「家の鍵よーし」

「水の入ったコップよーし」

みたいな。それだけ注意していても、平均的な人の10倍くらいトラブルがあると思う。前も書いたがどうもこれは発達性協調運動障害、またの名をドンくさい子供症候群というもののように思われる。

先日、とある飛行場内を家族で移動している時、ダンナが私のキャリーオンバッグ(ローラー付き)を自分のキャリーオン(同じくローラー付き)と一緒にして重ねて転がしていた。すると私は

「飛行場内で、普段は自分で持っているはずのキャリーオンがない」

という状態になるわけだが、それで歩きながら気づいたのは、数分に一回くらい「あ、キャリーオン持ってない」という衝撃的認識が小さな電気刺激のように全身に走るということ。そしてそのたびに「ダンナが持ってるからOK」と思い直す。つまり私は、「カバンを持っているかどうか」という状態の記憶を保持しておくことができていないようだ。

前述のリンク先に書いたが、ドンくさい子供症候群の原因は脳内のワーキングメモリが小さいということらしい。おそらく普通の人は「カバンを持っている」という認識をワーキングメモリに入れてキープしておけるのではないか。

一方、それができない私は、脳内小人が「カバン、よーし」と指差し確認しなければならない。脳内小人はそれ以外にも常に「障害物、よーし」「パスポート、よーし」「つまづかないよう足を動かす、よーし」などといろいろ指差し確認をしているので、「カバン」の順番がくるのは数分に一回なのだ。

そういえば、小学校6年生の時に、家を持って出たはずの手提げ鞄が学校に着いたらなくて、通学路を逆行したら途中で道の真ん中に落ちていたことがあった。「カバンを持っている」ということを忘れて手から離してしまい、そこで落としたまま学校まで歩いて行ってしまったのである。道路の真ん中に落ちているカバンを見たときは「この先、人間としてやっていけるのだろうか」と非常に不安に思ったのを覚えている。

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去年大学院の同窓会があって、当時のクラスメートが10人ほどうちに来て夕食をしたことがあった。その時、ケーキを切ろうとした私はぐっさりと指を2本包丁でスライスしてしまった。かなり血が飛び散って、クラスメートたちには「ERに行った方がいいんじゃないか」などと言われたのだが、私は慌てず騒がず、「大丈夫、しばらく押さえていれば血が止まる。そうしたら瞬間接着剤でくっつけるから」と告げた。この手の怪我は日常茶飯事なのである。そして過去に「100均で買えるような瞬間接着剤は手術用の接着剤とほとんど同じ成分。体内に入らなければ怪我をくっつけても大概大丈夫」というリサーチもしてあったのだ。

この時はかなりざっくり行ったのでほんの一瞬でも血が止まるまでに3時間ほどかかったが、そこでさっと瞬間接着剤をつけて終わり。瞬間接着剤が自然に剥がれるのに数日〜1週間くらいかかるが、その時には完全に傷も治っている(よいこの皆さんは真似しないように)。

して、そのざっくり行った翌々日くらいに、その時にいた友人二人とランチをしたのだが、そこで、私が上記のもろもろを説明したら、もう一人が

「僕もだ!いつもあざだらけだ」

と言って、ズボンをめくって膝の下を見せてくれた。彼はまた、鍵や財布をやたらになくすので、5分に一回くらい手でズボンのポケットの前と後ろを触る、という癖がついているそうだ。ポケットに入っていなかったら5分だけバックトラックすればどこかで見つけられる。彼も脳内小人指差し確認派なのだ。

私は首がもげるくらいうなづきながら

「わかる、わかるよ!」

と力強く同意したのだが、もう一人の友人は心底呆れた顔をして、

「鍵を入れるポケットを決めておけばいいだけじゃないか、そもそも・・・・」

と説教を始めた。私はそこで、

「そういう常識的に考えて普通にできそうなことができるなら、こんなことにならない。私たちがどれだけ苦労して、瞬間接着剤を家に常備したり、5分に一回ポケットを触る癖を身につけたと思うのか。我々は別に無能でも、非常識でもないのだ。どれだけ努力しても普通のことができないだけなのである」

と力説しておいた。ちなみに「5分に一回」の友人は数兆円規模の年金ファンド運用のヘッドでもある。

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Akili Interactiveというアメリカのベンチャーがある。ADHDを治療するビデオゲームの開発をしていて、すでにFDAの認可プロセスが進んでいる。これまでに製薬会社のメルクも含めた投資家から1億5千万ドルを調達した。ゲームを通じて脳に直接働きかけ、「注意力」「ワーキングメモリ」「認知的柔軟性」を変容させることができるらしい。

「おお、ワーキングメモリ!それは私に必要な治療!!」

と思ったのだが、その後思い直した。

というのも、私の周りには、「ドンくさい子供症候群」的だったり「ADHD的」だったりする人がとても多いのだ。皆盛大に、ものをなくしたり、ミーティングをぶっちぎったり、サンフランシスコ空港とサンノゼ空港を間違えたり、成田と羽田を間違えたり、イベントの日付を間違えて誰もいない日に正装して登場したりしている。しかし、皆プロフェッショナルな仕事をしている。

そして、私の周りのそういう人たちの割合は、子供の頃に比べて格段に増えた。

ということは、何らかの理由で「ワーキングメモリが小さい」ということが、現在の私の仕事環境に対し、何らかの適応を促している可能性があるのではないか。

だとすると、ワーキングメモリ問題を改善したら、その「何かの適応」がなくなってしまうのではないか。

ゆえに、怪我したり、なくしたり、いろいろと大変なのだが、それなりに対処しながら一応やっていけている以上、今さら治療しない方が良さそうな気がするのである。

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なお、最近、非常に役立っているのが冒頭の写真のBandolierという肩からかけられるストラップ付き携帯ケース。

家の中でも肩からかけ続けている。10時間乗る飛行機でもずっと肩からかけている。友人に

「徘徊老人か。白いペンで名前書いてあげるよ」

と揶揄されたが、一応徘徊老人っぽくならないよう、おしゃれ風に作られている。

2−3枚だったらカードも入るので、クレジットカードと運転免許もここに入っており、外出もこれだけでOK。完全にキャッシュレスな人生になった。車の鍵も携帯アプリになり、持ち歩く必要がなくなった。

脳内小人がチェックしなければならないことが減って、真面目に毎日の疲れ方が違う。私のために世界が進化してくれている感じで、本当に素晴らしい。

あとは、スゥエーデンに行ってペイメントチップをインプラントしてもらいたい。

パスポート等もインプラントできるようになったら最初の実験体にぜひ志願したい。よろしくお願いします。

もの忘れと怪我とワーキングメモリ」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: ADHD的な人間に必要なものはマグニートーかマイ・ドローンか | On Off and Beyond

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