Uber・Lyftのドライバー事情


先週SunnyvaleでLyftに乗ったら、ドライバーはネパールから去年やってきたばかりという24歳の青年だった。グリーンカードの抽選に当たったのだそうだ。現在はコミュニティーカレッジで英語とコンピュータネットワークについて勉強するかたわらLyftの運転手をしているとのこと。

インドの大学でコンピューターサイエンス(CS)の学位を取ってネパールに戻ったら「グリーンカードが当たったのでアメリカ大使館に面接に来るように」という通知が来ていて、するするとそのままやってきた、と。しかも、グリーンカードはお兄さんが家族全員分を応募しており本人も知らない間に当たっていたらしい。とはいえ24歳青年的には、大学卒業後は父親の仕事を継ぐつもりで満々だったのに当の父親からも「アメリカに行け」と言われ、なんだかあれよあれよとこういうことになってしまった、という感じなようだ。(なぜそこで、全米で最も生活費が高いところを選んだのかは聞きそびれた。まぁ、もともとCSだから妥当性はあるのだが。)

この先は、コミュニティカレッジ(=2年制)から大学(=4年制)にトランスファーしてコンピュータ関係の学位をとりなおして就職したいと思っているとのことであった。しかし私が

「インドでCSを勉強したんだったら、もう一度やり直すのはもったいなくない?UC Santa Cruzのエクステンション(サテライトキャンパスみたいなもの)がサンタクララ(=近く)にあって、日本の4大卒の知人がそこでCS関係のクラスをとってこちらに就職したけど似たようなことはできないの?」

と聞いたところ、

「知らない、それはなんだ」

と興味津々の様子で、「後で調べてみる」と言って「UC Santa Cruz, UC Santa Cruz」とつぶやいていた。

さらに長期的な計画としては、市民権をとって家族を呼び寄せ嫁も娶ってアメリカに呼びたいとのこと。

「若くて大卒でグリーンカードがあってアメリカ在住だったら、ネパールでお嫁さん候補が引きも切らないんじゃないの?」

と聞いたところそのとおりで、前回国に帰ったときは知り合い一家が娘さんを連れてきて、

「うちの娘を息子さんの嫁に」

と彼の父親を熱心に説得していたらしい。(しかし、彼自身に「うちの娘はどうか」とは聞かれなかったそうだ。気がついたら嫁が空輸されてそう。)

なお彼は私の家の近くまで来た所で

「ここはまるでネパールのようだ」

と言っていた。そういえば何年か前に乗ったタクシーのエチオピア人の運転手も、私の家の近くで

「ここはまるでエチオピアのようだ」

と言っていた。どうもうちの周りは、遠くから来た移民の人たちに故郷を彷仏とさせるところらしい。(冒頭の写真参照)。

+++

なお、UberもLyftも起業以来いまだに絶賛ドライバー大募集中。Uberには「ドライバー紹介制度」があり、ドライバーの紹介した友達がドライバーになると、紹介者と友達両方にボーナスが出る。最近ではその額はそれぞれ750ドルだそうだ。ドライバー獲得コスト一人当たり1500ドル。去年乗ったUberのドライバーによれば、彼がUber運転手になった頃の2014年時点ではご紹介ボーナスは300ドルだったそうなので2倍以上になっている。

一度Lyftで、「社内トップ数パーセント」というドライバーに当たったことがある。サンフランシスコから私の家まで60キロくらい乗ったのでドライバーさんのご機嫌もうるわしく、いろいろ教えてもらった。なお、60キロは東京駅から成田空港くらいある。といってもいつもそんなお大尽なことをしているわけではなく、1ヶ月ほど実施した「自家用車を使わない暮らしテスト」の一環であった。車が空いている時間でなければCaltrainという列車で行く方が速いし楽です。(駅まではUber/Lyftだが。)

もとい、Lyftのトップ数%の彼は「Facebookの駐車場で特定の時間に客待ちをしているだけで時給35ドルもらえることがある」と言っていた。Lyftはサンフランシスコ市内では人気だが、それ以外ではかなりUberに押されているので、なんとか有力顧客を増やそうという施作であろう。また、彼のいとこは早くからLyftの運転手をしており2014年の年収は8万ドル(900万円くらい)になったとのこと。しかしその後Uber、Lyftとも値下げをしているのもあって、最近では「燃費のいい車を選ぶ」とか「客待ちをする場所を選ぶ」など、いろいろ頑張らないと儲からないらしい。そしてかなり頑張っても時給にして10ドルぐらいにしかならないという人も結構いるようだ。

この人に限らず、Uber、Lyftに乗ったらなるべくドライバーに話を聞くことにしている。他に何をしているのか、収益はどうか、どんな客が乗るのか、などなど。去年半ばくらいまでは「この仕事最高!」という感じのドライバーが多かったのだが、ここ数ヶ月は両社とも「あんまり儲からないねぇ」「次の仕事が見つかるまでのつなぎ」といったドライバーのコメントが多くなった。ドライバーのレベルも全体として下がってきている気もする。もともと「タクシーより質の高いドライバーがやってくる」というのがUber、Lyftの大きな優位性だったわけだが、それを維持するには今の価格体系は無理がありそう。

加えてUberはドライバーたちから「自分たちを正社員として扱って福利厚生を提供すべき」という訴訟を起こされてもおり、本当にそうなったらかなりのコスト増となる。

利用者としてみると、どんなに安くてもランチ一回20ドル近く簡単にかかる当地の相場的に見て今の価格はちょっと安すぎる感じもする。前述の60キロ乗った時で90ドル弱だった。混雑によるサージプライス*で25%余分にかかっていたのにもかかわらず、である。やはり少し高めに戻したところが需給均衡点なのではないか。

とはいえ、Uberは90億ドル、Lyftは20億ドルを調達、合わせて1兆数千億円という巨額な資金をキャンプファイヤーのように燃やして**しのぎを削っている現状では「需給均衡」などという合理的な均衡点は誰も考えていないのかも。当面の間はベンチャーキャピタルやヘッジファンドやミューチュアルファンドのみなさんの資金を助成金とした「安上がりな暮らし」を楽しむのがシリコンバレーの粋というものでしょう。

++

*サージプライスはビッグデータの割と高度な活用例。有名な話なのでご存知な方も多いかもしれないが、Uber・Lyft両社とも需給関係をリアルタイムで解析、局所的にsurge priceと呼ばれる「高値」を適用しており、ドライバーが足りない場所では急に高値になる。セミナーが終わって人がどっと出てきた、雨が降ったといった、などなど。Uberは1.2倍か、と思ってLyftを見たら1.7倍で、もう一度Uberに戻ったら2倍、みたいなこともあった。去年11月に乗ったUberのドライバーによれば朝の通勤時のマウンテンビューでは「料金3〜4倍」ということも結構あるそうだ。と思えば、ちょっと待ったらサージがなくなったりすることもある。なかなか難しい。

ちなみに、Uberはこのリアルタイム需給解析にはLinkedIn発祥のKafkaを使っているそうだ。そしてKafkaの第一回ユーザコンファレンスは再来週。Uberはじめ、Google、Netflix、Dropbox、IBMなどいろいろなユーザ企業が事例紹介をする。もう売り切れですが。

** TM by M. W.

Uber・Lyftのドライバー事情」への3件のフィードバック

  1. サージプライス、そんなに変化するなら、両方に同時にリクエスト投げて安い方を捕まえるサービスがもう出てたりします?

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  2. グリーンカードを持っていてCSの学位があるネパール人がLyftの運転手をしているのは、おそらく英語力不足か技術力不足が原因でビザの問題ではありません。一方で渡辺さんの知人の日本の4大卒の人はおそらくグリーンカードを持っていなくてOPTを短期間で取る必要があったのでしょう。つまりこの二人は異なる問題を抱えています。異なる問題を抱えている人に同じ助言をしても効果は薄いでしょう。

    UC Santa Cruzのエクステンションではそれほど高度な授業はしていません。プログラミングのことなど何も知らないレベルから、Advancedレベルであってもせいぜい入門書1冊読めば身につく程度のものです。ですから就労許可の面で問題がない人が技術習得のために行く学校ではありません。お金でOPTを買う学校です。

    個人的にはそのネパールの方はまず貯金を作り、クレジットスコアを上げてローンを組み、そのお金で3ヶ月くらい仕事を辞めて食いつなぎつつブートキャンプにでも通うのがよいと思います。ブートキャンプの授業はUC Santa Cruzのエクステンションのように温くはなく、朝から晩までみっちりしごかれますから身につく技術の期待値はずっと上です。さらに就職斡旋で実績がありますから、英語の不利をカバーしてもこれらの学校がお墨付きを与えれば仕事が見つかる可能性は高いはずです。

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    • 基本英語の問題が大きいみたいでした。ESL通ってると言ってたし。ブートキャンプ修了者を雇用する会社はないと揶揄されてたりしますがそうでもないのでしょうか、、、

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