$1 billion、10億ドル(1200億円)以上の企業価値のベンチャーがユニコーンと呼ばれて久しい。ユニコーン=伝説上の生き物、というイメージで名前がつけられたわけだが、最近では世界で150社近くあるので希少価値は薄れてきた。さらに、ユニコーンの一社のSquareが去年の11月に上場した時は、企業価値がブライベートの最終増資時の半分以下になったりしたこともあり、「これってユニコーンバブル?」と言われて久しい。では、このユニコーンバブルは誰が作り出しているのか。
答えはベンチャーキャピタル「以外」の投資家である。ユニコーンの増資ラウンドを調べてみればその傾向は明らかに出てくる。たとえば米国のユニコーン97社の投資家をDatafoxで調べると、全部で522社が出てくるが、「投資額が$100 million(約120億円)以上の投資ラウンドに参加した投資家」を投資回数順にリストアップすると以下のようになる(カッコ内が投資回数)
- Andreessen Horowitz (19)
- Fidelity Investments (19)
- Sequoia Capital (17)
- Wellington Management (16)
- T. Rowe Price (14)
- Kliner Perkins (13)
- Goldman Sachs (12)
- Tiger Global Management (12)
- New Enterprise Associates (9)
- Alibaba (9)
- Founders Fund (8)
- General Atlantic (8)
- Salesforce Ventures (8)
赤い字はシリコンバレーのベンチャーキャピタル、太字+アンダーラインは投資信託(かヘッジファンド)である。投資信託ってベンチャー投資もしてたんだ、というわけで無理やり投資回数を「VCとそれ以外」に分けてみたのが冒頭のいい加減な円グラフである。
しかしながら「投資額が$100 million(約120億円)未満の投資ラウンドに参加した投資家」を投資回数順にリストアップするとこうなる。
- Sequoia Capital (49)
- Khosla Ventures (27)
- Andreessen Horowitz (26)
- Greylock Partners (24)
- Lightspeed Venture Partners (22)
- SV Angel (19)
- Accel (18)
- Kleiner Perkins Caufield & Byers (17)
- General Catalyst Partners (16)
- Founders Fund (15)
唯一のアウトサイダー、General Catalyst Partnersは東海岸のVCファンドだが、シリコンバレーにも素敵なオフィスを持ってかなりがんばっている。(余談ながら、下記の黄色い普通の家がGCPのPalo Altoオフィス。良い立地だが超ボロ屋で億円単位の修理が必要だったため誰もが手を出しかねていた物件。ついにベンチャーキャピタルのオフィスになった)。
もとい、この2つのリストを見ると、ユニコーンの出だしを見極めた投資家のほとんどはシリコンバレーのインサイダーVCだが、その企業価値を押し上げた後期の巨大増資ラウンドは、シリコンバレーに軸足もなければベンチャーキャピタルという仕事も「内職」的な投資家が牽引してきたと言える。(なお、初期のラウンドに参加した投資家は、その後の増資ラウンドにも参加し続けることが多いので、とんでもない企業価値のラウンドに参加しているからといって、必ずしも心から賛成しているとは限らない。)
ちなみに、投資信託は、投資案件の時価を四半期ごとに公開する義務があり、そこでユニコーンの企業価値を大幅に下げて評価発表したケースも去年から複数出ている。(ただし、企業価値は各投資信託の独自判断なので、必ずしも足並みはそろわない)。
Equityzenというところが、上場した会社の企業からの投資家と企業価値を上場資料からまとめているのだが、それを見ても「地理的にも業種的にもアウトサイダー」が後期の企業価値を押し上げていることがわかる。
たとえば上述のSquare。最初の4ラウンドはKhosla、Sequoia、KPCBがリードしているが、最後の二つはRizvi Traverseというヘッジファンドと、GICというシンガポールのソブリンファンド。(そしてそれぞれ上場時に18%、42%損している)。Lending Clubの最終ラウンドは投資信託のT. Rowe Priceがリード、同じく投資信託のBlackRock、Wellington、Sands Capital、そしてロシアの大富豪、DST Capitalが参加している。Boxも、最終ラウンドはPEのTPGが、最後から二つ目のラウンドは伊藤忠のITVがリードしている。
というわけで、ここからわかることは何かというと、一つは「美味しい話はなかなかない」。ちゃんとシリコンバレーに軸足を置いて長い間苦労してきたプロの投資家でないと、景気がいいからといってほいほい儲かるわけではないのである。(もちろん、シリコンバレー以外にもユニコーンはたくさんあるわけだが、やはりその濃度は圧倒的に当地が濃い。)
二つ目は、「ユニコーンバブルがはじけても困る投資家は外の人」。もちろん、UberやらAirBnBが雇用しなくなったらシリコンバレーの人材は余るかもしれないが、どこの会社も人不足ゆえ余らないかもしれない。そもそもこれ以上人が住むところもあまりないので、ちょうどいいかもしれない。
ということで、「今回のバブルははじけてもシリコンバレーはそれほど痛まないのではないか」と推測しているのですが、はたしてどうなることでしょうか。
(投資家の分析は、ただいまベータテスターとして使っているexploratoryを利用しました。元データをクリーンナップしたり分けたり合体させたりという大変なプロセスを簡単にしてくれる分析ツールでございます。)