誰でも却下される可能性があるアメリカの就労ビザ

アメリカの就労ビザは非常に難しい。アメリカで事業をする際の最初の難関が「ビザ」である。特に「新しいことをアメリカで始める」場合の難易度は非常に高い。これまで何百人と駐在員を送っている会社でも、従来と違う任務の人を送る場合は同じことが言える。

これについては何度も書いているのだが、甘く見て大変な思いをしている人が私の周囲だけでも後を絶たない。私の周囲の人が私のブログを読んでいないだけかもしれないが、読んでもイマイチ自分は関係ないと思っている可能性もあるので、もう一度書きます。心しておくべきことは

就労ビザは出ることもあれば出ないこともある

ということ。何十億円アメリカに投資しようと、日本の会社に何兆円売上があろうと、どれほどアメリカの事業に真剣であっても、本人がどんなに高学歴でも、出ないときは出ないのである。

学生ビザはまともな学校に受かっていれば出るものだが、就労ビザはそうではない。駐在員派遣に慣れているはずの大手商社ですら却下されるケースが皆無ではない。くれぐれも「必ずもらえるものの単なるプロセス」だと思わないでほしい。

ビザ申請もまだなのにアメリカの家を探したりする人が時々いるのだが、それは「大学に受かっていないのにその大学の近くで住むところを探す」のと一緒。まず受かってから考えましょう。

なお、就労ビザ、と言っても神父さんとか寿司職人とかさまざまな仕事があるが、このエントリーで想定しているのは、IT系事業で米国オフィスの立ち上げをする人。ビザの審査では、会社自身が妥当か、その職務が妥当か、その人がその職務をするのが妥当か、という3つが問われるのだが、その会社で最初にビザを取得する場合、それが全部一度に審査されることになる。

そういう人が取れる可能性があるビザをまとめると下記のような感じになる。(一番左は必要条件。十分条件ではありません。)

Jは、オフィス立ち上げの最初の一人がとるのは無理だが、何人目かの立ち上げ要員を日本からこのビザで連れてこようとするケースもあるので。また、これ以外の特殊なケースもあるとは思う。

IT企業はバランスシート上の資産が少ないのがビザ取得を難しくしている。移民局から見ると「嘘くさい」事業なのだ。(その点、厨房機器などが資産計上できる飲食店の方が楽なので「なんでもいいからアメリカに住めるビザが欲しい」という人はレストランを購入したりするのがお勧め。)

図で見てわかるように、移民局から見た重視点は「雇用の創出」か「(アメリカ人で代替するのが困難な)専門性」。「投資」というのはない。お金では米国ビザは買えないのだ。

(なお、L1ビザは本人の専門性で取れるものもあるのだが、「アメリカの事業立ち上げ」をL1でした場合は、更新時に雇用が創出されていないと却下される。)

さらに、

  • アメリカにすでにオペレーション(オフィス確保、人員雇用、バランスシートに乗るような資産の購入など)が立ち上がっていないとビザ取得は困難

という問題もある。つまり、「アメリカのオペレーションを立ち上げるためにビザが欲しいが、アメリカのオペレーションが立ち上がらないとビザが取れない。」しかも

  • 申請しようとしてから発給されるまで6ヶ月は見た方がよい

それはご無体な、と思うかもしれないが、ここで活躍するB1ビザというのがある。商用でアメリカ国内で給料をもらわずに行く人のためのビザで「出張ビザ」という感じ。これは割合簡単に出るので、まずB1をとってアメリカに行き、オペレーションの体裁を整えてから本番の就労ビザを取得するのが安全策。(ただし、出来立てのベンチャーの場合はB1も簡単ではない)。

なお、B1は「1回6ヶ月ずつアメリカ滞在できる」というビザで数年間有効なものが発給されるのだが、これは「6ヶ月ずつだったら何度行っても良い」ということではないので注意。毎回違うプロジェクトで入国する、という想定らしい。B1保持者が、アメリカで定住する家がありその住所を入国書類に書き込んでいたら、入国審査官に「永住目的」とみなされてB1を剥奪されたケースもあるそうです。(一度でもビザを剥奪されると、その後はESTAでアメリカに入国することはできず、観光でもいちいちビザ申請が必要になる。)

また、申請に6ヶ月見た方がよい理由は

  • ビザ申請は何十ページもある分厚い書類をカスタムで作り込んで提出するので、それを書くだけで時間が掛かる
  • 米国企業を買収するなどしてすでにオペレーションがあるなどなんの問題もなさそうな場合でも、会社で初めての申請の場合には「追加質問が書面できて、それに追加回答を書面で出す」というやりとりが一度は発生することが多い

(以上、最近の情報は、移民法弁護士の冨田さんに先日教わりました。)

去年書いた「ビザに関する過去エントリーのまとめ」もご参考あれ。こちらのエントリーの末尾にある「移民法弁護士起用方法」も重要。

なお、私は移民法の専門家ではないので、詳細は移民法弁護士に必ず確認ください。

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