全米が泣いた、というのはもちろん嘘ですが、私は泣いたよ。アフガニスタンとベイエリアを舞台にした小説、The Kite Runner。
今日、うちの近くで作者の講演会があるというので、行く気満々だったのだが、出かける直前にチェックしたらチケットが売り切れていた。。。うーむ、早く申し込んでおけばよかった。
1代で財を築き、カブールでも有数の資産家の父親と、その父の才覚を受け継ぐことができなかったひ弱な息子。その2人の軋轢からストーリーは始まる。やがて、父子は戦乱のカブールを逃れ、アメリカにたどり着くが、待っていたのは貧窮した生活だった。しかし、さらに、その後意外な展開でカブールに戻った息子を待っていたのは・・・・というお話。
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そもそも、最初にこの本のタイトルを聞いたのは、ペディキュアをしてくれたオバサンからだった。東欧か中近東あたりの出身と思われるネイリストさんが、
「最近、寝る間も惜しんで読んだ。本当に素晴らしかった。」
と絶賛。ちなみに、アメリカのネイル屋さんは、最近ベトナム人ばかり。ベトナム人は丁寧だし、しかも安い。しかし、英語が通じない人も多い。一方、白人系の人(とはいっても移民が多い。東欧系とか。)は、結構英語はできるが、仕事が雑なことが多い。隅っこがちゃんと塗れてなかったりとか・・。
もとい、ネイルの人に本を薦められたのは初めてだ。しかもKite Runner (凧の走る人?)という、なんだか変ったタイトルである。
その後しばらくして、知人のお嬢さんがDartmouth大学に進学することになったのだが、大学から「入学前の読み物」として送ってきたのがKite Runnerだった、ということで、実際に送られてきた本を見せてもらった。大学名が印刷してある特別バージョン。「とにかく全員読め」という指示つき。
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随分異なる二つのソースから情報が入ってきたことで、俄然興味を持ち、読みました。著者は、実際にアフガニスタンからアメリカにやってきた移民で、これが初めての小説とのこと。
最初の方はちょっと退屈。カブールでの暮らしが淡々と語られる。主人公である息子があまりに弱弱しくて、いらいらしたり。しかし、戦乱で荒れ果てる前のアフガニスタンでの暮らしが垣間見られ、興味深く読み進む。
親子の家庭には、召使がいて、その召使の息子が主人公と殆ど同じ年だ。そして、召使の息子の方がずっと優秀である。運動神経も優れ、頭もいい。父親は、実の息子よりも召使の息子をかわいがっている風ですらある。一方、主人公がどんなに父親に気に入られようとしても、父親は受け入れてくれない。このあたり「カインとアベル」的。
が、泣けるのは、その後アメリカにわたった親子の生活。やり手のビジネスマンで富豪、しかも正義感に溢れ貧しい人を助けるスーパーマンだった父親は、ガソリンスタンドの店員に落ちぶれる。そして・・・・。
この後があっと驚くストーリー展開なんですが、それは読んでのお楽しみ。ちなみに、アメリカにわたった親子が暮らすのがベイエリアなので、いろいろと馴染み深い地名が出てきて親近感が。また、暗い話だが、最終的にはredemptionへと行き着く。
(redemptionはイマイチぴったりの日本語がないんですが、再生・救済・罪があがなわれること、など)
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最初に勧めてくれたネイルの人も移民だったのだが、もしかしたらイランとかアフガニスタンとかそのあたりの人だったかも。
移民というのは、何かを捨てたり失ったりしてやってくる。日本人の私の場合は、まぁ大して無くしたものもないのだが、政治情勢が不安定な国から来た人たちには、本当に全てを失ってやってくる人も多い。
失うものは財産や人脈だけではなく、培ってきた知識やキャリアまでも無に帰すこともある。近くのMountain ViewにあるSufi Coffeeという喫茶店の経営者も、元はイランかどこかで大学教授だったはず。私のかかってる歯医者の助手も、元はペルーでは正規の歯科医だった。それ以外にも、医者だったのに看護士にしかなれない人、弁護士だったのにNPOの事務をしている人など、いろいろいる。
90年代にアメリカに留学したときびっくりしたのは、サンフランシスコ空港の入国管理のところで「難民」窓口があったこと。「アメリカ人」「アメリカ人以外」というのの他に一つカウンターがあって「refugee(難民)」となっていて、
「ひょえー、そんな恒常的に難民が来るですか!」
と驚いた。実際にその窓口で話し込んでいる家族も見たことがある。とにかく、アメリカという国は、世界中からありとあらゆる理由をつけてやってくる人がわんさかいる国なのだ。
この本はアメリカでベストセラーになったのだが、それはこの本に、移民たちの「喪失」という痛みに響くものがあるからかも。
話の展開としては、John Irvingを、ウェットかつエスニックにした感じ。Irvingが好きだったら、多分楽しめると思います。

ちかさんこんにちわー。
心の中ではひそかにちかっぺと呼ばせてもらってます。
ホントにアメリカは移民の国ですよねー。日本人のオイラでも、人と話していると「いずれはここに移住するのか」と必ず聞かれます。どーも日本の国籍を捨てるのか。というニュアンスが含まれているような気がします。
捨てへんっちゅーの。
北朝鮮に亡命した赤軍派の人たちを見てて思ったんですけど、絶対歳とったら日本が恋しくなるんですねー。だからオイラも例にもれずそうなるんでしょう。きっと。
ちなみに、ここいら(LAね)では最下層の仕事はほとんどメキシコ人です。
いつも楽しいブログあざーす。最近更新してなかったので、ついにガス欠かと思うておりました。
さっき Israel Kamakawiwo’ole の曲を Google で探してたらここにたどりついて「およ?写真変わってるやん」「あれ、更新されてる?」てコトで新エントリー発見!
でコメント一番乗り、かな。
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Redemptionの意味:QUOTEしかし服役中にジャーナリストらとの接触を通じて贖罪(罪を償う事)に目覚め、児童
向けの書物を執筆するなどしてストリートギャング撲滅運動に参加した
この活動が評価されノーベル平和賞(5回)や文学賞(4回)にノミネートされており、
また映画化され、日本でも2005年7月にはDVDが国内販売されている
※クリップス(米2004年・原題:Redemption)UNQUOTE
また、ハリウッド映画型「ハッピーエンド」の意味も含む?
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makamon-san,
どうも。またこれを機会にごひいきに:-)ちなみに、二重国籍を認めている国は多いです。(アメリカも認めている)日本が二重国籍を認めたら両方のパスポート持ち歩くのも可能になりますよー。
snowbees-san,
とにかく全然ダメなもの(会社や人間など)について、「redeeming valueはあるか」(ちょっとでも何とかなるところは残ってるのか?)という表現をしたりしますね。
>ハリウッド映画型「ハッピーエンド」の意味も含む?
ちょっぴりビターだけど、ほろりとしたハッピーエンド、みたいな感じでしょうか。
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ちかさん、いつも楽しみにしています。久しぶりのコラム、それぞれ興味深いです。特に本コラムで、サンフランシスコ空港の入国管理に「難民」窓口があるのを初めて知りました。それだけ往来があるということ、アメリカの懐の深さを表しているのでしょう。
私はパキスタンで仕事をしていたことがあり(以前に一度コメントいたしました。投稿時のHNは違ったと思います。)、難民の存在は非常に身近です。ここに出てくるアフガニスタン難民の事情は、まさにその通りです。向こうで大規模に農業を営んでいたのに、戦争で全て失って流れ着いたとか、たくさんいます。
逆に、パキスタンに来て商売で成功し、大邸宅を構えている難民もいます。そういう人たちは、もちろんアフガニスタンには帰りません(休暇での帰省とかはありますが)。難民の方々は、腰を落ち着けられる場所を、「喪失」の痛みから回復できる場所を探すため、様々な苦労をしていますね。
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もっかーsan
パキスタンから帰られたんですね。お疲れ様です。あのあたりの国に行くと「日本人に生まれて、私ってシアワセ・・・・」と思います。修行が足りないのでしょうか。。。
前々からいつか書こうと思っているのがルワンダでのフツ族虐殺問題。本も二冊読み、映画も見て、中身はあるんですけど・・いかんせん重いテーマなんで中々。あのあたりも複雑な難民問題と、それに加えて植民地問題があって、苦しいものがあります。
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向こうでは言葉も含めて地元密着型ながら、「日本人に生まれてなんて幸せなんだ」って常に思ってました(笑)。日本が大好きです。
フツ族虐殺問題の記事を是非書いてもらいたいです。重いテーマだと気が滅入るのは確かですが、様々な観点からの読者さんの反応を通じ、新しい何かが得られると思います。Chikaさんの切り口に興味ありです。
私、以前はマイノリティー問題にベースを置いていたものの、辛いことが多かったので、何本か書いた後に路線を変えてしまいました。。。もっとも、自分で気づかなかったことについてコメントをもらったりしたので、関係性を活かして今の論文を書いていますが(現在院生)。
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ルアンダの問題について。私も、近傍のザンビアに、ずっと以前に長期商談で滞在したことがあり、関心があります。しかし、その根底にあるのは「世界の貧困問題」でしょう。ルービン元財務長官(回顧録)によれば、発展途上国についても、経済強化が最良の社会改善策であると。生活水準を向上させ、国民を貧困から救い出すには、高水準の経済成長が不可欠である。サハラ砂漠以南のアフリカ諸国の大半は、経済的苦境にある。しかし、ウガンダやモザンビークは、市場改革に取り組み、著しい経済成長を遂げ、医療制度や他の社会指標も大幅に改善されたと。ルービン氏によれば、今後の前進のためには、アフリカ諸国にはもっと有能な政府と強力な制度が必要であると。先進国も、現地特有のニーズに対応して、適切な投資を行うべきであると。
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千賀さん、はじめまして。仙台に住んでいる63歳の主婦です。kite runnerは2ヶ月前、イギリス人の友人が送ってくれました。凧の走る人ではなく、凧を揚げる人(少年)ではないでしょうか。初めてのアフガニスタンの物語をとても興味深くよみました。 千賀さんのおかげで、松岡正剛さんのサイトもよく見ています。
パキスタンとアフガニスタンのことなら、PA在住20年、イスラマバードで日パ旅行社を経営されている督永忠子さんのHPをご覧ください。 「オバハン便り」がおもしろいですよ。去年仙台で講演された時、行ってみましたがとてもパワーのある方でした。www.pat.hi-ho.ne.jp/nippagrp
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もっかーsan, snowbees-san,
では、いずれまたルアンダ問題で語りあいましょう。。。
柏木淑子-san,
はじめまして。Kite Runner、よかったですか?
ちなみに、「凧を揚げる」は普通はfly a kite、というのでは???この本では、「糸が切れた凧のあとを追いかけて走る」ことを「run a kite」と呼んでましたが。
そういえば、子供のころ、私もよく糸の切れた凧の後を追いかけたものです。(大体、電線に引っかかったり、人のうちの屋根に乗ってたりして回収不能でした)
ちなみに、Kite Runner作者のアフガン移民の人は、アメリカでお医者さんをしているようですね。。。
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お返事ありがとうございます。しんみりさせられた本でした。そのうち日本語版もでるかもしれませんね。 作者はDaVinci CodeのDan BrownのようなHpは持っていませんよね。
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お返事ありがとうございます。しんみりさせられた本でした。そのうち日本語版もでるかもしれませんね。 作者はDaVinci CodeのDan BrownのようなHpは持っていませんよね。
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【書評風】 -読み返す、何回でも-君のためなら千回でも
カーレド・ホッセイニ
君のためなら千回でも(上巻)
¥ 693
カーレド・ホッセイニ
君のためなら千回でも(下巻)
¥ 693
“For you, a thousand times over…
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罪を贖う – 書評 – 君のためなら千回でも(The Kite Runner)
翻訳本がずっと欲しかったのだが….
君のためなら千回でも(上下)
Khaled Hosseini /
佐藤耕士訳
On Off and Beyond: アフガニスタン小説Kite Runner – 全米が泣いた!全米が泣いた、というのはもちろん嘘ですが、私は泣いたよ。アフガニスタンとベイエリアを舞…….
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