フィクション:コロナウィルス 流行から2年後の世界

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Photo by Clay Banks on Unsplash

(以下フィクションです。)

「千葉でサーフィンしてたら波に巻かれちゃってさ」

タイキが頬の擦り傷を指差しながら顔をしかめて言った。

「擦り傷って痛いよねー」

リコが携帯をチラチラと見ながら笑った。

ゼミ仲間で集まるのは久しぶりだ。

居酒屋のこじんまりした部屋では、不釣り合いに大きな空気清浄機がゴォーと音を立てている。最近の居酒屋はどこもみんなこういうカラオケボックス風の個室が並ぶ作りだ。

個室のドアが開いて、フード付きの全身ツナギに透明なプラスチックのフェイスシールドをしたウェイターの姿が見えた。ずいぶん前に頼んだドリンクがやっときたようだ。ウェイターは、ビニールの手袋をした手でテーブルの隅においてあったいくつかの携帯を押しやると、グラスが乗ったトレーをおき、さっと身を引いてすばやくドアを閉じた。

ウェイターはタイキやリコのような孫がいてもおかしくない年代の男性のようで、こんな若者ばかりが集まる居酒屋で働かなければならないのは気の毒ではある。

「巨峰果実酒の人」

グラスの下に置かれた小さな紙に書かれたドリンクの名前をモエが読み上げると、サクラが小さく手を上げて「ハーイ」と言った。

「ジントニックの人」

とモエが言ったところで、複数の携帯から同時に例のチャイム音が流れ始め、みんなハッとしてテーブルの上に出してある自分の携帯を見た。

「ヤベェ、俺か」

とユウタが言いながら携帯を掴むのと同時に、ミツキが顔をパッと赤くして

「あれ、わたしもだー」

と、スワロフスキーでデコレーションした携帯を手に持ち、椅子の背もたれにかけてあったバッグとジャケットを掴むと「じゃ、しばらく会えないけど、みんな元気でね」と立ち上がった。ユウタも「巻き込んじゃってたらごめん、またな」と言いながら部屋から出て行った。

残された5人は「おう」「元気でね」「なんかあったらLineして」など口々に言いながら二人が出ていくのを見送ったのち、数秒お互いを見合わせていたが、

「あの二人付き合ってたの!?」

とリコが首をすくめて小声で言ったのを合図に

「まじかよ!」

「うっそー」

とドッと歓声が沸いた。

タイキは「ありえなくね?」と半信半疑な顔をしていたが、リコが

「絶対だよ!ミツキ真っ赤になってたじゃん!」

と返し、ひとしきりどうしてミツキとユウタが付き合うようになったのか、あれこれ推測して盛り上がった。

こうしてみんなで会って話すのは本当に楽しい。

最近はなかなかできないが。

ひと段落ついたところで急に神妙な面持ちになったモエが

「二人と会ってた私たちにも、もうすぐカクリの連絡がくるかもだよね」

と言うと、皆やれやれ、という顔をしながらため息をつき、タクミが「会計すっか」と言ってテーブルの隅のボタンを押した。

++++

コロナウィルス が流行り始めて2年以上たつ。最初の頃は、世界中で外出禁止令が出たり、国境が閉鎖されたりと大変だった。当時は、ほんの数ヶ月の間に数万人単位の死者が出た国もあったりして世界が大混乱していた。それでもあの頃は、数ヶ月我慢していれば過ぎ去る病気だと思っている人が多かった。今にして思えば楽観的としか言いようがないのだが。

その後結局、全人口の大多数がいったんコロナにかかったあとで治り免疫ができるまで、なんとか病院のキャパを越さない程度に流行を調整し続けなければならないことが明らかになり長期戦が始まった。どこの国も何度か調整に失敗しては小規模・大規模の閉鎖を頻繁に繰り返したが、ここ半年ほどはそれもほとんどなく落ち着いた感じだ。今ではほとんどの国が発症数を一定に保つことができている。

調整の方法は国によってそれぞれだ。都市ごとに順ぐりに閉鎖を繰り返したり、国民全員に厳しい外出制限をしている国もあるが、日本ではコントタクトトレーシングと隔離だけでなんとかコントロールできている。ただし、症状が軽かったりなかったりすることが多く、しかも大勢で集まりがちな若者の行動は厳密に監視される。公共交通機関の利用も時間が制限がされているので、みんな折り畳みの電動スクーターで移動するようになった。

最初の頃は政府や警察、自衛隊などいろいろな人たちに人海戦術で見張られている感じだったが、1年ほど前から携帯を登録するだけでよくなった。GPSとNFCで、どこにいるか、誰と会っているかが自動的に把握されるから見張られていることに変わりはないのだが。

患者が発生すると、会った相手が自動的に洗い出されて携帯に連絡が入る。連絡を受けたら、一定時間内に自宅に帰らないとその後の行動がさらに制限されるからみんな速攻で帰る。

家にはすぐ体温計と血中酸素濃度計が配達される。1日3回測定することが義務付けられていて、結果はインターネット経由で直接アップロードされ、異常値が出ると救急車がやってきて病院行きとなる。

プライバシーを守りたければ携帯を登録しなくても良いが、そうすると、国内でも違う都市にいくたびに14日の検疫を受けなければならない。コロナフリー証明なしでビザを出す国もないから海外にいくこともできない。

「耐乏生活もワクチンができれば全て解決だからそれまでの辛抱だ」と最初の1年くらいはみんな今か今かとワクチンの完成を待っていたが、世界の数十のトライアルが難航する一方、一般への接種を強行した国で重い副作用がでる人が続出したりしてから、だんだんと望みが薄れてしまった。

それでも、あと数年以内にはワクチンができる、とメディアや政府は言っている。しかし、もう今の生活が日常になってしまった。ほんの2年前まで、いつでも誰にでも会いたいだけ会えたことの方が信じられない。

それに、いいこともある。空気はきれいだし、街は空いていて、都心のどんな公園もゆったりとしている。

これはこれでいいのかもしれない。

(以上、世界の政府発表情報や論文を読みまくって、想定できる一つのシナリオとして書きましたが、まったくのフィクションですのであしからず。)

フィクション:コロナウィルス 流行から2年後の世界」への2件のフィードバック

  1. 面白い。続きが読みたいですね。NFCを入れる辺りがChika sanらしく感じますが、日本企業はシェアとれるかどうか、気になる未来です。

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  2. ピンバック: 政府、コロナ感染者との接触を知らせるアプリ開発公表 - まるごとにゅーす

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