所有しない人生。洋服を借りて暮らす


2ヶ月ほど前からRent the RunwayのUnlimitedという「会費制洋服のレンタルサービス」を利用しているのだが、「これはすごいサービスなんじゃないか」とジワジワ感じている。

個人的にモノはなるべく持たないのが望ましいと思っている。なぜなら、1)すっきり整った環境が非常に好きだ、しかし2)整理整頓が苦手(できるのだが、「片付いていさえすれば良い」という見た目重視なのでどこにしまったかわからなくなる)、というのに加え、3)なんでもなくす、という重大な課題も抱えているからである。

まず本は整理した。5年くらい前からよほどのことがない限り紙の本は買わないようにしている。もちろん、「電子版だと読んだ気がしない」「本はやはり紙に限る」と最初は思ったのだが、きっと紙、というかパピルスが出始めた当初はみな「粘土板に彫りつけてないと読んだ気がしない」と思ったに違いない、と数年頑張ったら、「画面じゃないとものが頭に入ってこない」という状態になった。めでたい。今では持っている紙の本のほとんどは(昔の)漫画である。

そして次なる課題は洋服だ。すべてカジュアルなシリコンバレーでは基本ジーンズでビジネスから日常までがカバーできる。さらに男性社会ゆえ「どうせ誰も私が何着てるか見ているはずない」とタカをくくってもいる。なので手持ちの洋服の1割で9割の時間がカバーできる感じ。なんとか残りの9割を処理したい。(と言ってもそんなにたくさん持っているわけではないのだが。東京で結婚式にたくさん出席していた20代の頃ですら全ての結婚式に同じスーツで行っていたくらいなので。)

一方、最近登場し始めたのが、「日常着のオンラインレンタル」。月会費を払うと洋服が送られてきて、着終わったら送り返すというサービスである。同様のサービス提供ベンチャーは日本でも数社あるようだがアメリカにもいろいろ登場している。いくつか比較してRent the Runway(以下RTR)が提供するUnlimitedを試してみた。

そして、冒頭に書いた通り衝撃を受けた。

単に便利とか効率がよい、というのではなく、今までと全く異なる新しい行動様式を可能にしてくれるサービスだったからだ。その行動様式とは「ファッショナブルな服を次から次へと着る」というもので、まぁ多くの男性には「それが何か」という感じだと思うが、私的にはAirBnB以来の衝撃である。AirBnBでは「これまでだったら絶対泊まれなかった他人の家に泊まって住まうように旅をする」という「それまでにできなかった行動」が可能になり目から鱗が落ちたわけだが、Unlimitedも同じくらい目から鱗が落ちた。

  • Rent the RunwayのUnlimitedとは

RTRは2009年起業のニューヨークのベンチャーで、結婚式やパーティーに来ていくドレスのレンタルが当初のモデルだったのだが、この会社が昨年始めた月会費制サービスがUnlimitedである。Unlimitedの対象には、元々のRTRのメインビジネスだったロングドレスと華やかなアクセサリに加え、普通のワンピースやブラウス、スカート、パンツなど、正価で300〜1000ドル(3〜10万円)くらいのブランド物がたくさんある。時には3000ドルくらいのお高い服もあり、月139ドルで常時3点借りられる。「月に3点」ではなく「家に3点」で、借りたものを送り返すとすぐに次のアイテムを借りることができる。DVDレンタルのNetflix状態ですね。

いや、これ素晴らしい。1回しか着なさそうな服でもレンタルなら何の問題もない。似合うかどうか疑問な服にも挑戦できる。門外不出で着ないまま送り返すものもあったが、「そういう服は似合わない」ということが確信できただけでも収穫である。

ちなみに、服はすべて自分で選択する。サイズや体型、希望の形などでフィルターすることもできるが、どの3点を送ってもらうか決めるのは自分。ブランドによるサイズの差は他のユーザのレビューで大体見当をつける。(このユーザレビューは非常に重要。普通の人が着ている写真はモデルが着ているのと全然違って大いに参考になる。)

なお、RTRにはアメリカサイズで大抵0〜12(日本の3~5号から15号くらい)がそろっている。(パーティードレスだと、さらに大きいサイズで14〜20くらいのものもある。)

Amazonなどのオンライン通販を多用すると、ダンボール箱が大量にゴミで出るのが悩みの種なのだが、RTRは厚手の布でできたガーメントバッグで送られてきて、着終わったらそのバッグに入れて送り返せば良い。返送時は、家のすぐ近くにあるUPSという配送会社の店でドロップする。
 こんな風に送られてくる

 開けるとガーメントバッグで返送ラベルも同梱

ドライクリーニングせずに返送できる、というのも大変魅力である。私、そもそも「ドライクリーニングに出すのが面倒だからドライクリーニングが必要な服を買わない」というところに落ちていたくらいクリーニングが嫌いだ。そして1回出すとすっかり忘れて数ヶ月たってしまうこともある。

しかし、考えるに近所のUPSはクリーニング屋の並びにある。なのにクリーニングよりUPSに出すほうがずっと気持ちが楽なのはなぜなのだろうか。UPSだと出すだけなのに対し、クリーニング屋は出す・引き取る、と二度手間なのもあるが、むしろ「UPSでドロップすれば次のアイテムが借りられる」というインセンティブが大きい気がする。人間、何事も動機付けなのですな。

なお、これまでに12点ほど借りて、裾がほつれていたのが2点、かなりくたびれた感があった服1点。私の場合代替は「ファッショナブルな服は着ない」だから、少々ほつれていようが、くたびれていようがそれほど気にならないのだが。

最大の懸念は「本当に利益を出せるビジネスモデルなのか」という点。初回3点の正価計1171ドル、2回目計2870ドル。139ドルで両方借りられるのは美味しすぎないか。RTRはこれまでにベンチャーキャピタルから1億1500万ドルも調達している。これはもしやバブル期にありがちなVCのお金で民衆が得する例の現象なのではないか。「Amazon(等)が買収してくれる日を夢見て札束を燃やす」というアレである。

一応、ファッション業界に詳しい日本の方に伺ったところ「アメリカではブランドものの洋服をものすごく安く買うルートが存在するので、意外に仕入れコストは低いかも」ということで少しだけ安心。RTRのファウンダーはForbesのインタビューで「ついに見つけたproduct market fit、UnlimitedのおかげでRTRの今年の売り上げは1億ドルを越す」と語っている。18ヶ月以上ベータサービスを行い、人材・組織問題を乗り越え40回以上の変更を重ねてやっと公式スタートにこぎつけたUnlimitedでもあるので、正しいビジネスモデルであることを切望いたします。

以下借りたものから何点か。

(左からMarni、Milly、Marni、Tibiというブランドらしい。自撮り練習中)

  • Le Tote

ちなみに、Le Toteというサンフランシスコにあるサービスも試してみた。こちらは2012年起業でこれまでに2800万ドルを調達しているベンチャーである。サービスは月59ドルで洋服3点とアクセサリ(バッグ含む)2点が入った箱を何回でも借りられる。RTR同様、一箱送り返すと次の箱が送られてくる。最初にサイト上のアイテムを見て、好きなものを選んでチェックしておく(これを同社ではMy Closetと呼ぶ)。すると、My Closetの中か、またはそれに似たアイテムをスタイリストが選んで5点ワンセットで勧めてくれ、その選択肢をさらに自分で変更して最終決定して送ってもらう、という流れである。

 送られてきた箱

して、結果は・・・・・ううむ、なんだか全体的にダメなサービスであった。まず、最初に勧められるアイテムにMy Closetで選んだものが全然入っていない。サイトの指示に従って数十点選んだのに。そして勧められたものを拒否して別のものを選ぼうと頑張っても全然着たい服がない。(もちろんMy Closetに入っていたものはすべて在庫なし。本当に全アイテム在庫を持っているのか。最初の一覧は単なる「ツリ」なのではないか、と疑惑を感じた。)

頑張って選んだ5点

そしてなんとか選んで送られてきた5点に含まれていたバッグの内側は、魚屋が生の秋刀魚を入れて売り歩いてたんじゃないかというくらい生臭かったのでファブリーズをかけまくった。

 「へーい、魚屋でーす」

Le Toteのサイト上に書いてあるレンタル品の正価レンジは洋服で40ドルから100ドル、アクセサリで10〜20ドル台がほとんど。そして実際届いたものは、その値段分の価値がかなり微妙な製品ばかりだった。とはいえ、長めのTシャツは部屋着としてかなり活用したのだが、別にレンタルしてまで部屋着をおしゃれにしなくていいです。

Le Toteファウンダーは「買い取りたいという需要も多いので、物販も売り上げのかなりの割合になっている」と語っているのだがこれも個人的にはかなり怪しいと思う。一番着たTシャツですら、届いた時には一部毛羽だっていて明らかに誰かが着た形跡があったのに買い取り価格は54ドル。物価が高いアメリカと言えこれは高い。

総括すると、「Le Toteには洋服への愛が感じられない」というのが最大の印象であった。共同創業者が金融出身のストレート男性二人、というのもその印象を高める(・・・というのは差別的発想だとは思うのだが、せめて洋服を愛するゲイの共同創業者を入れるくらいの工夫はして欲しい)。

しかしLe Toteの印象が悪かったのは、RTRを試した後だったからかもしれない。レンタルアイテムが正価で10倍以上違うのに、月額料金は2倍強しか違わないわけで、お得感が全然違う。とはいえ、59ドルと139ドルはずいぶん違うので、Le Toteは普段着もまだこれから揃えていきたい若い人には良いのかも。また、RTRは普段着でも結構気合いを入れて着るアイテムばかりなので、「そんな服を着る機会は皆無」という人もいると思うが、その点Le Toteは恐ろしく普段着。そのまま洗濯機に放り込める感じなので、それはそれでメリットがある。

というか、一箱送ってもらって明らかになったように私はLe Toteのターゲットユーザではないわけで、その私がレビューするのはフェアではない気がする。そもそも、RTRを試す時にLe Toteのサイトもみて「これは私は着られる服がない」と思って試さなかったのだが、今月初回無料キャンペーンをやっていたので物は試し、とトライしたらやっぱりダメだった、というのが経緯。Le Toteの立場に立つと、無料で送って悪いレビューを書かれるとは踏んだり蹴ったり。でも、そもそも無料じゃなきゃ借りないような人間はターゲット顧客ではないのだ、きっと。そしてファッションというのは非常に主観的なので、ターゲットでない人に試させるのはハイリスク、ということなのでしょう。

  • シェアリングエコノミーは需要を増やすか減らすか

さて、こうした「レンタル事業」はいわゆるシェアリングエコノミーの一環である。そしてシェアリングエコノミーは果たして需要を減らすのか増やすのかという大きな疑問がある。

一つの製品の稼働率をあげるという意味では製品需要は減ることになる。しかし、一方で消費者にとっての選択肢を増やすという意味では需要を促進することになる。

サンフランシスコ市では、Uberの市内売り上げが、ライドシェアが登場する前のタクシーの市場規模の数倍になり、これは「選択肢を増やすことで需要が促進」された例ではあるが、車メーカーの立場からすると需要が促進されたかどうかは微妙だ。というか需要抑圧効果が高そう。

しかしUnlimitedによる私自身の行動を考えると、これはあきらかに洋服の需要を増やしている。Unlimitedがなかったら、1回しか着れないような派手さで、しかも時に数千ドルもする服を私が買うことは絶対にない。だから私がレンタルしたことは、たとえ部分的とはいえ、それらの製品の消費を増やしたことになる。

そのあたりのシェアリングエコノミーに関する経済学的な考察では、ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitzがやっているポッドキャスト・シリーズのうちのひとつ、An Economics Take on the Sharing Economyが、The Sharing Economy: The End of Employment and the Rise of Crowd-Based Capitalismという本の著者を呼んで語っていて非常に示唆に富むので、興味のある方は聞いてみてください。

そしてRTRのUnlimitedはこのリンク先に。このリンクを辿って購入すると、あなたも30ドル引き、私も翌月30ドル引き 😉

所有しない人生。洋服を借りて暮らす」への4件のフィードバック

  1. 記事を読み終えたあと、RENT THE RUNWAYはおもしろそうなサービスで、私はアメリカ在住だから一度試してみるかと思い、おしまいのリンクをクリックしてみたのですが、女性用のアイテムしか提供していないようで、私は男ですから残念ながらサービスを利用できない。ま、このサービスが女性用オンリーだということは当たり前にも思えるわけですが、記事を読んでいるときはそこに考えが及ばなかった。

    男向けでは、機械式腕時計を(かなり高額な)会費を払うことで借りることができるelevenjames.comというサービスが存在します。このサービスのビジネスモデル、維持可能とは私にはどうしても思えないのですが、まだ存続しているみたいですから、高額な贅沢品(何万ドルもするような)のレンタルというのもビジネスとして成り立つのかもしれません。

    この記事の最初にある写真は、このサイトにあるヴィジュアルの中で、インパクト効果一番かと思いました。やっぱり、女の人達にはオシャレしていただいたほうが、書かれておられるように経済も回るようになるし、男のほうも喜ぶし、いいことずくめかと思います。

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    • 最初の写真は夫受けは最低でしたw 変だ、ベルトしたら、その他もろもろのコメントが。elevenjames、いいですね。機械式時計はメンテナンスが大変なので、これでロテーションする方がファッションとしては有意義な気が・・・(ファッションとしての時計という概念がある男性には、ですが。もちろん)

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