技術系「以外」のシリコンバレー就職術

拙書「ヒューマン2.0」の読者からこんなメールを頂きました。

シリコンバレーでの働き方が大変参考になったわけで、自分も働けたらすごくいい!と感じました。しかしながら、私自身は、シリコンバレーの労働者の
コアを形成している技術系の仕事ではありません。技術に関連したマーケティングやセールスは経験したものの、Software
やHardware(コーディングや半導体知識等)もさっぱりです。年齢にもよりますが、いまから技術を学ぶにはちと遅いでしょう(30代前半)。

それでも、シリコンバレーが好きで、どうしてもシリコンバレーで働きたい!と考えたときに、働く機会をどのようにつくっていくのおすすめですか?ブログ等でコメントをして頂けると幸いです。僕以外にもたとえば管理系(財務・物流・人事とか)の仕事をしている人で、シリコンバレーで働く可能性はありえますか?

もしご存知であれば事例とあわせてご紹介して頂けると幸いです。

お答えしますとも。

結論から言いますと、「技術系に比べると大変だけど、無いわけではない。ただし英語力は(技術系よりずっと)必要」という感じです。

方法としては、こんなパターンがあります。

  • 日本の会社の駐在員としてシリコンバレーに行く

大手企業だと、いつまでたっても送ってもらえないかもしれませんが、そうでなければ社内でアピールすればかなり可能性はあるでしょう。(大手だと、アピールすればするほど、「あいつは生意気だから国内で修行させる」とか言われるかもしれないので注意。)

自ら「シリコンバレーオフィス開設要員」となる、なんてものありえますね。江島さんなんかはこのパターン。日本発ベンチャー、リアルコムザイオソフトも最近シリコンバレーに複数送り込んでがんばってます。

大澤さん
は、駐在員時代にシリコンバレーのベンチャー社長に見込まれ、「会社を辞めて、自分とベンチャーキャピタルをやろう」と誘われた、という人。黄金の転職パターンです。

  • シリコンバレー企業の日本社員となり、社内転籍でシリコンバレーに行く

アメリカの会社は、ポジションがあくと社内で求人します。これで、シリコンバレーのポジションがあいたらすかさず応募するなど。原さんはこのパターン。(今は日本に戻っていますが。)本社の人との個人的なコネクションを作って引っ張ってもらう、という手もあります。

しかし、この手も、「駐在員パターン」同様、かなり運に左右されますね。

  • アメリカに留学してそのまま就職する

準備期間はかかりますが、上記二つに比べると確度は上がります。学位をとれば、その後1年間practical trainingなる「お試しビザ」が出るので、そこで仕事をゲットし、会社にH1Bという就業ビザを申請してもらう、という流れとなります。西川さん(今は日本ですが)、橋本さんなど。

「管理系(財務・物流・人事とか)の仕事」をしている人だと、留学→就職が、まず最もありえるパターンです。日本人は緻密なので、実はこの手の仕事は向いているのですが。ただ、英語力の問題もあるし、アメリカの財務、アメリカの人事、アメリカの物流、を知らないといけないので、それを専門に勉強するために留学するのがよいのでは。

(なお、以前、NPOのJTPAで、シリコンバレーに住むいろいろな日本人の方に、「私はコレでシリコンバレーに来ました」といういきさつをインタビュー、その中身をサイトに載せています。上述の方々も多くはこのページにリンク。インタビューページはこちらです。)

  • 上記の変形パターン

まず最初の足がかりとして、シリコンバレー企業の日本市場向け社員として就職、しかし、

「シリコンバレーベースで働きたいのでビザを出せ。日本へは出張で行く」

とか、

「日本ベースでよいが、3分の1は出張ベースでよいからシリコンバレーの本社で過ごさせろ」

とか(できれば就職時の)条件交渉時にネゴる。ずっと日本にいると、どんなに実績を挙げても、「日本では活躍できるけど、シリコンバレーでどれだけ役に立つか未知数」という評価にとどまるかも。ずっと日本ベースでいいなら、これで万々歳ですが、「シリコンバレーに行きたい」という目的がある場合は、NG。

それに、頻繁にコミュニケーションしないと、「なんか遠くでやたらと数字だけ上げてくるよくわからない人」という感じに見られることも。本社の人たちとのコネクションを強くして、その人たちが次の会社に移ったときに引っ張ってもらえるような強いネットワークを築くには、もっと人間的付き合いが必要。(「実績」は当然のこととして。)

職種としては、こんなのがあると思います。

  • 日本市場マーケティング

日本の市場ニーズに基づいて製品のスペックを決める、など。でも、かなり大手でないと「アメリカ市場だけで手一杯、日本向けに新たな開発リソースをさく暇はない」という感じになりがち。その点・・・

  • 日本向けセールス

これは「稼ぐ要員」ですので、ニーズは高い。日本でこれまでどんな製品をどのように売ってきて、どんな顧客に食い込んできた実績があるか、といったことが問われます。

じゃ、こういうニーズがある会社をどうやって探すの、といえば

  • Craigslist (このページのjobsというところがベイエリアの求人情報)Monster.com等で目を光らせて探す
  • 個別の会社のサイトを片っ端から見て求人情報を探す
  • ヘッドハンターに「こういう仕事がしたい」とはっきり説明しておく。ヘッドハンティング会社は日本にもいろいろありますが、シリコンバレーにもあります。がんばって探そう!
  • 日本の雑誌などで製品が取り上げられたシリコンバレーの企業にアプローチ。(日本市場開拓のため、日本メディアへの露出をがんばってるシリコンバレーの会社もあるので、興味がある可能性アリ。)
  • 「日本だったら売れそうだな」と思われる製品を自ら探して、相手先企業にresumeを送る。

「そんなの確率低いんじゃん?」
と思うかもしれませんが、ここで力説したいのが

「量が質を生むこともある」

ということ。いろいろ試行錯誤する中で、だんだんresumeの書き方がうまくなったり、「今のままの経歴だとダメだから、こういう仕事を一旦してみよう」と自分のキャリアを見直すきっかけになったり、といった「副作用」があるもんです。いろいろ探し回る間に、だんだん転職知識も身についてくると思うし。インターネット上のほかの人のresumeみるだけでも「なるほどね」と思うことがあると思います。

ちなみに、「紹介なしでresumeを送っても、返事なんか来ない」という人がいますが、これは間違い。もちろん、確率は相当落ちますが、本当に欲しい人材は、鵜の目鷹の目で探してます。なお、社内でも担当が違うとダメなので(日本と違って、横の連携はひじょーに弱い)、一人にresumeを送ってダメでも、別の人に送ってみる、という手もあり。(もちろん、open positionがサイト等に明記してあり、そこに応募先が書いてある場合は、その人が「right person」ですが、「自ら可能性がありそうな会社を探す」といった「当たって砕けろ作戦」では、CEO、VP of Sales、Asia Pacific担当者などいろいろな人がright personの可能性がある。

といったようなことが、

「うへっ大変だ」

と思う人には、「留学→残ってそのまま就職」をお勧めします。ずっと楽です、多分。ビジネススクールも最近は1年オンリーのとか、平日は仕事をしながら週末だけで取得、といったタイプが盛ん。大学院以外でも、28歳からもう一度アメリカの四大を1年生からやり直したモザンさんみたいな人もいます。

最後に、現在db4objectsというシリコンバレーの新鋭企業の日本代表を務める佐藤さんに、db4objectsの仕事をするようになった経緯をメールで伺ったので、それをご紹介。

たぶん日本で最も古いユーザーで、
顧客でもあったからでしょうか。

思いっきりベタな話で恐縮ですが、
そもそもdb4objectsが会社になる3年ぐらい前から、
今技術部門の責任者をしている人間が一人でしこしこやっていた頃

そのぶっとんだホームページを見て面白そうだなあ、
と思って年100ドルの会費でdb4o(データベース)を触ったのが始まりです。

その後会社組織になってから、
Christofから突然メールが来て、
今度日本に行くから会えないかと。

(中略)

私なりの意見は、
「犬も歩けば棒にあたる」
ということでしょうか。

なんとなく、スタンフォードの文化かもしれませんが、
日本以上にネットワーキングにすごく熱心なので、
向こうからいくらでもやってくる、
そんな具合なんでしょうか?

文中に登場するChristofはスタンフォードのビジネススクールを出たドイツ人のアントレプレナーでdb4objectsのCEO。彼も、「留学でまずシリコンバレーに来て、そのまま根が生えた」というタイプの人ですね。

何か他に良い案があったら教えてください。他の質問も受付てます。

技術系「以外」のシリコンバレー就職術」への7件のフィードバック

  1. 知人で、日本の学部を出た後すぐにアメリカで就職したソフトウェアエンジニアの方がいらっしゃいます。今から20年近く前のことだそうなので、ビザが厳しくなった現在は、内部から引っ張ってくれる強力なコネがあったとしても通用するかは謎ですが。

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  2. >シリコンバレー企業の日本社員となり、社内転籍でシリコンバレーに行く
    シリコンバレー企業の日本社員でしたが、このケースは極めて稀(勿論ないことはないが・・・)でした。
    会社の規模にも依ると思うのですが、私が所属していたのは極めて大規模な会社だったので、ヘッドカウント等も完全にシアターごとに振り分けられていて、転籍は容易ではなかったです。
    >日本の会社の駐在員としてシリコンバレーに行く
    私の感覚や経験ではこっちの方がずっと可能性大に思います。
    日本の会社の従業員は外資系のそれらに比べて、英語が堪能な方が比較的少ないですから、それ故英語が出来るというだけで海外に行けるチャンスは大になるようです。

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  3. 丁寧にお返事をいただきまして有難うございました。本を読んで、シリコンバレーという世界に魅力を感じつつも、疑問が浮かびました。実際にうまくいくにはどうすればいい?特に技術系以外の人は?その疑問に明瞭にこたえて頂き感謝致します。
    どのルートも一筋縄ではいきませんが、決してチャンスがないわけではない。とくに紹介して頂いた中で、「量が質を生むこともある」という言葉には、勇気が得られました。
    また、僕に限らず、日本の中で閉塞感を感じ、あらたなチャンスを模索したい仲間は、少なくないでしょう。そういう仲間が元気を感じられれば、質問してよかったと、ほっとしています。
    それにしても、どのルートもご本人の勇気が不可欠で、その気持ちを支えたのは、シリコンバレーでぜひ働きたい、そういう強い意志だと感じました。そしてまた、渡辺さんもそういう人たちを応援しているし、よろしかったらどうぞ!という明るいお気持ちも伝わりました。
    シリコンバレーの根底には、こういう冒険とそれを支える人たちがよい関係を築いているのですね。
    ありがとうございました。

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  4. chikaです。
    shima-san,
    エンジニアだったら、日本の大学から直ってのもありですよ。(ただし大手に限られますが)。2年位前に東大のマスターから直接Rambusに就職した人が、日本からリクルーティングしたいといってましたが、去年は結局誰も見つからなかったそうです。Rambusに興味がある人は、彼に紹介しますので、メールください。
    エンジニア以外は「留学→就職」もやっぱり結構厳しいんですよネェ。スタンフォードのMBAでも、シリコンバレーで仕事を探したのに、結局望ましい仕事が見つからなくて日本に帰っちゃう人も結構います・・・。英語力がイマイチの人が、「アメリカ人MBAホルダーとの戦い」となると厳しいわけです。(アメリカ人を含めたスタンフォードMBAトータルで見ても、卒業時までに就職が決まらない人が毎年相当数います。)なので、「英語はほぼネイティブ」という人以外は、やっぱり「日本向けセールス」みたいに、ピンポイントで会社が望むスキルを持ってることが大事でしょうか。じゃなかったら、留学して、在学中にかなり積極的に活動してもぐりこめるようにしておきましょう。

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  5. 社内転勤でシリコンバレーに10年以上もおり本文に出てくる方に大変お世話になっていた者です。結局転籍もせず、日本に戻ってきましたが、シリコンバレーではベンチャー会社との付き合いも非常に多かったので、渡辺さんのヒューマン2.0を拝読して、1つ1つ「そうだよなー」と納得してしまいます。そんな状態から日本に戻ったので、もはやまともに日本人扱いはしてもらえませんが、それを武器に日本でがんばろうと思っております。

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  6. 邦題「木を見る西洋人 森を見る東洋人」(リチャードEニスベット)はおもしろいですよ。アメリカに行く前にちらっと読んでみると、日米の考えかたの差についてなにかと参考になるかもしれません。本の中で「西洋は相互独立的社会」で、「東洋は相互協調的社会」とあって途中でこのような問題も出てきます。
    あなたは次のような考え方を支持しますか?
    ●成功や尊敬を得られるか否かは、一生懸命に働くかどうかで決まる。
    ●管理職が部下よりも年長であることは重要である。
    ●年長者は若年者よりも尊敬されるべきである。
    私の場合、仕事は並で学歴は短大卒なのにもかかわらず、どうしても考え方が相互独立的なのでしなくても良い苦労が多いです。。

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  7. なんとなくなアメリカ就職術

    On Off and Beyond「技術系「以外」のシリコンバレー就職術」について、そっとコメントしておきたい。

    自分の場合はエンジニア&多くの人にお世話になったこともあり、それほど苦労は無かったかとおもう(もしくは辛いことは忘れた)。
    職についたルートとしては
    その1…

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