秘密のSeries A

アメリカのベンチャー投資は、「シリーズ」になっている。ボチボチちょっとずつ増資するのではなく、時々まとめて資金を集める。最初に、裕福な個人であるところのエンジェル投資家や、家族や友達から集めるのがSeed、その後初めてVCから集めるのがA、次がB、というのが普通。

最近は個人投資家が息を潜めており、「Seed」と「A」を足して2で割ったようなラウンドが多い。最初からVCがいきなり投資するわけである。が、それを発表するメジャーVCは少ない。
「まだ海のものと山のものともつかない投資は、秘密にしたまま様子を見よう」
ということ。このblogで過去に触れたことのある、MayfieldBessemerからSeed/A投資を受けているスタートアップ、MobiusからSeed/A投資を受けているスタートアップ、どちらも投資元のVCのサイトには乗っていないし、VentureWireやらVentureSourceでも発表されていない。

一方、バブルの絶頂の頃は、案件を求めて血なまこになっているVCも多く、「アーリーステージでもドンと来い」というPRのため、「小僧3人の会社に出資」みたいなのも結構発表していた。

ということで、その頃と今を比べると、統計上実態以上にアーリーステージの投資が減っているように見受けられる可能性もあるなぁ、と思う。

そういえば、最近上の二つのスタートアップとは別のベンチャーに勤める知り合いに会った。ちょうど増資が終わったとのことで一息ついていた。が、その条件はな、な、なんとliquidation preferenceが4X。。大変そうだが、何とかがんばって欲しいものだ。

イスラエルの軍隊

イスラエルのとある会社のCEOと朝ごはんを食べた。彼はイスラエルの軍隊に7年いて、その後INSEADでMBAを取ったという人である。

イスラエルは兵役が義務なので、男子全員が最低3年の兵役経験がある。だから、軍出身のアントレプレナーといっても別に珍しくはないのだが、彼のように義務期間を超えて長く軍にいてかなりの要職まで登った人がアントレプレナーには多い。

特にイスラエル出身者が多いのはセキュリティーとか情報分析(いわゆるKM)の分野。例えばClearforestとかCheck Pointなど。この分野では、軍時代に技官として技術開発に当たり、それを持って起業しちゃう人も結構いる。いかにイスラエルが、情報処理技術を国家安全対策上の重要事項として捕らえているか、ということの現われでもあるが、それ以上に、「軍の中で開発した技術で勝手に起業していいのか」という疑問がわく。

以前誰かが、「イスラエルは、起業推進のための国策として、軍人が軍で開発した結果のIPを持ち出して起業していいということになっているのだ」と言っていたので、そうなのか、と朝ごはん相手のCEO氏に聞いたところ
「そんなかっこいいもんじゃない。単に軍がIPにいい加減なだけ」
なんだそうな。軍の技術が持ち出されることがいいか悪いかは別として、「起業推進」てな政策を取るより、「規制緩和」で何もしない方が上手くいく、という好例か。

ちなみに、彼いわく、イスラエルの軍出身者が起業家になることが多いのは

1)イスラエルの軍では、若くして出世、どんどん責任のある仕事を任されるため、人材が育つ
2)軍で培った強力なネットワークがその後の産業界でも大いに役に立つ

からなんだそうだ。

ふむふむ。もう少し政情が落ち着いていたら、一度紅海でのダイビングがてら、是非行ってみたい国、イスラエル、であります。ま、落ち着かなくてもみんな私の知り合いは元気に生きているので、今行っても大丈夫かな、という気もする。一度検討してみますか・・・。

VC投資-liquidation preference

San Jose MercuryのVCs hope higher spending will boost start-up sales

調査会社のIDCが、ついに来年は企業のIT投資が上向きになると予測、VCは「これで投資先のベンチャーにも、上場や買収というexitが増えるだろう」と喜んでいる、と始まる。

ちなみにM&Aは、スタートアップの重要な「出口」である。
「下請け受注でお客様をハッピーに」
という会社であれば、生涯一中小企業としてやっていくこともできる。しかし、世界制覇的技術を提供するんだったら、それに見合った優秀な人材が必要で、そういう人を引き付けるには「出口」がないといかん。「出口」はVCだけじゃなく、ファウンダー、ストックオプションをもらっている社員、などなど、全ての人にリワードを提供する手段である。

しかし、と記事は続く。M&Aで、スタートアップがシスコやYahooに買収されるのを阻害する要因が一杯あるぞと。そのうちの一つの理由が

• The lawyers — Many start-ups are intimidating in their legal complexity.

最近の多くのスタートアップは、法的にえらく複雑なナリタチになっているため、買収が難しい、ということ。

During the downturn, many venture capitalists, afraid of investing when most companies were going out of business, secured their investments with so-called “liquidation preferences.” These clauses guaranteed that, in the event the start-up was sold, the VCs would get their money first — before other executives or employees.

バブル崩壊後に、投資先が次々とつぶれるのにびびったVCが、投資する側の自分たちにとってえらく優位な条項を投資条件としてつけたがゆえに、それが問題で買収が成功しないことがある、と。

アメリカのベンチャー投資契約というのは、厚みにして1-2センチの長大なドキュメントである。ありとあらゆる条項があるのだが、まぁ殆どはそれほど重要でない。というか、「森を歩いていたら熊さんがあらわれ、その熊と奮闘しているところで雪崩がやってきて、熊もろとも下敷きになったときにはこうしよう」みたいな、「そんなこと、おこりますかいな」的条項が多い。

しかし、絶対に見落としてはならない大変重要な条項が「liquidation preference」である。特に「そこそこの条件で買収される」という、最もありがちなexitの際に著しい影響を及ぼす。

liquidation preferenceとはなにか。

liquidationは「清算」だが、買収されたり、倒産したりして、会社がキャッシュに変わる瞬間を指す。そのときに、VCがどれくらい優位な(preferredな)条件でキャッシュを持っていくか、ということ。で、liquidation preference。昔は「最初に投資した金額、プラス年利X%の利息分」くらいをまずVCが取り、残りをファウンダーや社員も含めた全株主で分ける、というのが普通であった。

が、しかし、バブル崩壊後、2Xとか3Xとかいう条件が流行りだす。「VCは、投資した金額の2倍、または3倍、先に分捕っていく」ということだ。何事もフェアかアンフェアかはrelativeなものなので、一概にひどいとは言えないが、しかしやっぱりひどいよなぁ。例えば、こういうことが起こるんである。

1)VCが10億円あなたのスタートアップに投資する
2)その後、ある会社が30億円であなたの会社を買収したいと言ってくる
3)社員は喜び、あなたも喜び、しかしヨーク投資契約を読むと、VCが投資額の3倍持っていく、と書いてある。ということは、何年間も汗水たらして働いた、あなたにも社員にも、一銭も売却益は入らない。

This sets management and employees at odds with the venture capitalists, and it is one reason Jeff Herbst, vice president for business development at Santa Clara’s Nvdia, said his company has avoided acquiring start-ups with such preferences. The start-up’s employees won’t profit, and so won’t take kindly to the merger: “The smart ones will say, `What’s the point?’ ”

ということで、そういう買収は、買収された会社の社員のやる気をなくさせるので、買収する側の会社もアンハッピー。そんなんだったら買収しないよ、ということになった案件が実際あるとNvdiaのVPは語る。記事はさらに、M&Aに際して、「ファウンダーチームの弁護士」「社員たちの弁護士」「VCの弁護士」など、弁護士がぞろぞろ出てくることもあると。

Owen Mahoney, VP of corporate development at Electronic Arts, agreed. “Many deals fall apart on their own complexity,” he said.

結果として、EAのVPは「複雑すぎて、結局買収がおじゃんになることが多い」と。VCは自分を守ろうとして、結局自分の首を絞めることに。

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「いやー、やっぱりそうだよなぁ」と思ってしまった。2X, 3Xって条件を最初に聞いた時は、「そんな殺生な」と思ったのだが、やはり行き過ぎた投資家保護は、結局回りまわって投資家にとっても困ったことになるのだと納得。

ちなみに、日本ではちょっと前まで、「株主は全員平等」という原則があり、グループごとに違う権利を持つ株主が存在する、ということが許されなかった、、、というか、強引にやればできたのだが、違法寸前。昔、日本でアメリカチックな優先株投資でベンチャー投資をする側になったことがあったが、投資先ベンチャーの弁護士が「こんなめちゃめちゃな投資条件を日本でつけるとは何事だ」と怒り狂っていたのも懐かしい思い出。

ま、日本のルールができた背景にはいろいろ複雑なこともあるのだろうが、私には
「投資家ごとに違う条件を付けて、それが理解できずに不利を蒙る投資家がでたりするとまずいですよね」という、「投資家はアホという前提」(もしくはpaternalism)と
「いったん明快なルールを政府が決めて、みんながそれに従えば最大多数の最大幸福が実現できますね」
という「社会主義発想」が根元にあると感じられた。

一方アメリカ型は、今回のliquidation preferenceの行き過ぎのように、
「短期的には非最適解が訪れることもあるけれど、中長期的には需給バランスのゆり戻しが起こって、最適条件にだんだん近づいていくんじゃないの」
という、投げやりな資本主義的発想でできている。で、途中の過程ではやたらと弁護士が儲かる、と、そういう構造になっている。

ちなみに、アメリカだって、一般投資家の多くはアホである、という認識はある。そこで、エンジェル投資家といわれる個人ベンチャー投資家になるにはSECで決められた「条件」がある。

SECサイトいわく
net worth・・・exceeds $1 million
または
income exceeding $200,000 in each of the two most recent years or joint income with a spouse exceeding $300,000 for those years and a reasonable expectation of the same income level in the current year
でなければ、だめ、と。

そう、エンジェル投資家になれるのは「お金持ち」だけなんです。でも、日本でこういうルールを作ったら「貧乏人差別」とかいうことで問題になるのかな。ちなみに、ベンチャー投資関連での商法改正後、何がどう変わったのかフォローしてないので、実は日本でもそういうルールがある、というようなことがあれば是非教えてください。

(ちなみに、アメリカでVCから投資を受ける際、liquidation preference以外で大切なのはratchet条項。内容は話すと長いので、弁護士に聞いてください 😉 )

Novell buys SuSE

NovellがドイツのLinux distribution、SuSEを買う。キャッシュで2.1億ドル。
CNETのIndustry cheers Novell’s Linux buyなど。

生きていたのかNovell、しかも、そんなにお金を持っていたのかNovell、という感じだが、Yahoo Financeをざっとみると、実はまだ6500人超の社員、21億ドルの企業価値、11億ドルの年間売り上げ、10億ドルの保有キャッシュがあるのだった。

それにしても、ほんの2週間ほど前には、NovellのSuSE買収トライは失敗などというニュースが流れていたのに。そのときは1.2億ドルをオファーして失敗とある。この記事によれば、SuSEの株主は、ドイツ政府が30%、IBMが20%とあって、ドイツ政府がバリュエーションに難色を示したのだ、とある。それが本当であれば、ドイツ政府は
「1.2億ドルじゃあ売らないけど2.1億ドルだったら売る」
という大変ビジネスライクな決断をしたことになる。ユダヤ人でも中国人でもないドイツにそんなことができようとは、にわかには信じがたいが、これは偏見か。

Novellに関して今年のこれまでの最大のニュースは、San JoseのオフィススペースをeBayに売るというもの。1996年に、当時1100人いたシリコンバレー社員のために、1.4億ドルで購入した実に48エーカー、約6万坪(俗な言い方をすれば「東京ドーム4つ分」だ)の敷地で、今ではたった80人が細々と働いている状態だったとのこと。高成長中のeBayですら「こんなにいらない」と、敷地のうち10数エーカーをSan Jose市に買ってもらう交渉をしていた。eBayが今2400人超だから、96年当時のNovellは、それをはるかに凌駕する社員数をSan Joseに収容するという野望を持っていたのだろう。

それにしても、2400人がゆうに収容できるオフィスで働いていた80人は、結構怖かったんではあるまいか・・・・・。家が高い当地のことゆえ、実は空室に住み着いちゃっていた社員、なんてのもいたかも。

全くもって全然関係ないのだが、今を去ることXX年前、高校の卒業旅行ということで、クラスメートの女の子4-5人でスキーに行った。300人ほど収容できる宿に泊まったのだが、館内のどこにいっても同じ従業員が私たちに対応する。そのうち、実は私たちの後をその従業員がついてきてサービスしていることに気づく。で、その後解明したのは、実は泊まっているのは私たちだけだった、ということ。他の階など真っ暗。もちろん夜は怪談に励んだが、真剣に怖かった。

もとい、Novell&SuSEにはがんばってLinux普及に励んで欲しい。。。と取ってつけたような結論で今日は終わりです。

Google on the Economist

Economistの最新号よりThe next hot internet stock: How good is Google?

いわく
Bankers have been overheard estimating Google’s value at $15 billion or more. That could make Google Silicon Valley’s first hot IPO since the dotcom bust, and perhaps its biggest ever.

That alone is enough to have some sceptics whispering “Netscape”.

バブル以来どころか、史上最大のIPOになるんでは、と。起業価値150億ドルといえば約2兆円だ。前に$1Bくらいかな、なんて書いたが、これは桁違いでした。記事には、年間利益が推測で$150Mとも出ている。売上げじゃなくて利益。もし本当だったら$15Bは固いだろう、確かに。で、そのIPOの噂で浮き足立つ中で、疑い深い人たちは「Netscape」とつぶやいていると。

Netscapeはあんまりビジネスモデルも売り上げも固まらないのに上場してしまった。Jim Clarkのエゴゆえ、といわれているが(特に、巨大なクルーザーが欲しかったからだ、とか。)、もう少し地味にやっていればMicrosoftともう少し互角に戦えたのでは、と残念がられている。

記事は、さらにMicrosoftについて書かれている。

Microsoft smells blood. It is currently working on its own search algorithm, which it hopes to make public early next year, around the probable time of Google’s share listing. Historically, Microsoft has been good at letting others (Apple, Netscape, Real) pioneer a technology before taking over, exploiting its dominance in desktop operating systems.

Microsoftが血の匂いをかぎつけた、ということで、MSはサメか・・・。ちなみに、MicrosoftはNetscapeを叩き潰すときに、ブラウザーのバージョンアップをやたらに頻繁にした。競合製品がバージョンアップをすると、自分たちもバージョンアップをしなければ、とあせってしまう。で、Netscapeは浮き足立ってしまった。

Microsoft側は、この「頻繁なバージョンアップで敵を狙い撃ちすること」を「hamster」という隠語で呼んでいたそうだ、というのは一時MSの子会社にいた人の話。ハムスターは、よく丸い滑車の中をくるくる回っているが、やたらあくせく速く動くだけでどこへも行けない。そういう状態に敵を陥れよう、という陰謀。競合がのさばってくると「Let’s hamster them」とかいって、バシバシとバージョンアップをする戦術に出るということ。戦術の内容はさておき、「hamster」という表現は的を得ていて怖いなぁと思った。

左脳と右脳とパラダイム

決断のスピードというエントリーを書いた。

基本的にその通り、という類のコメントをNaotakeさんとTakiさんのお二人からもらった。一方で、trackbackして頂いたblogでは

「決断のスピードを読んで思ったのは、日本の商売の形というのは、責任と信用と過程で金を取っているということ。要するに根付いているのは、「任侠」の精神だと、義理人情だと。これに対するグローバルという流れに対して、先進的な流れを好む人、誰かの前に立って目立ちたがる人、新し物好きな人、学者等を除き日本人は、反感を覚えているように感じる。」

という、ネガティブなコメントを頂いている。(ちょっと分かり難いのだが、多分ネガティブだと理解しました。)

どうして読み手によってこういう差が生じるのか。

私の元のエントリーは、アメリカ式=よい、日本式=悪い、という単純な図式を描こうとしているわけではない。私は、日本でも良い会社はキチキチと決断をタイムリーに下しており、アメリカだって上手くいっていない会社は、決断のスピードも鋭さも鈍っている、と思っている。さらに、日本も高度成長期の頃には、事業機会の多さに比べて人材が少なかったことから、30代で足が震えるような決断をせざるを得ないような局面がたくさんあったはず。今50代の日本の大企業の人から、若い頃には胸のすくような勝負をしてきたという話を聞くことが良くある。

この思いを、オリジナルのエントリーでは

「びしびしと決断していた昔に築き上げた事業があまりにすばらしかったので、いまだにそれの残り火で生きていける会社」を「みんなで合議に合議を重ねて、集団でスクラムを組む日本的美徳がゆえに成功している会社」と思ってしまった90年代はちょっと不幸だった。

とさらっと書いてしまったが、こんな短さでは、元々「アメリカ=いい、日本=悪い、という図式は納得いかないぞ」と思っている人を説得することは無論不可能。人間は普通は、既に自分の中にあるアイデアしか理解できない。それ以外のことは、目にし、耳にしても、電車から眺める景色のようにサーっと流れ去ってしまう。なにかを読んで「わかった」と思う時は、本当は「前から自分が思ってきたことが、まとめて表現されている」、というだけであることが殆どだ。全く違う考えを持っている人の心に響くためには、相当な厚みのある説得が必要なのである。

私の元のエントリーは、例えばコンサルティングレポートとしては絶対失格だ。(当たり前だが)。コンサルティングのレポートは、客観的なデータを満載することで、懐疑心を持っている人でも納得させられるように構築しなければならない。これを、「相撲取りは太っている証明」と私は呼んでいる。相撲取りが太ってことを100ページのレポートにしたとする。そんなの当たり前、と思う人から見れば、
「くどくどと何を証明しているんだ、平均体重や平均身長・体重比なんてデータなんか何もなくたって相撲取りはでかいのは当たり前だ」
となる。しかし、生まれてこの方相撲取りを見たことない人にとっては客観的データは重要。しかも、たくさんのデータを積み重ねられることで、だんだんと納得していくのである。(相撲取り話については以前のエントリーでも書いた。)

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話は飛ぶが、Ramachandranという人が書いた「Phantoms in the Brain」には、人間の右脳と左脳の役割に関する興味深い症例が出てくる。どうも、右脳は「パラダイムシフト認識担当」、左脳は「秩序作成および入ってきた情報をその秩序のの枠組みの中に整理する担当」、となっているらしい。で、脳溢血などで右脳が大々的にダメージを受けた人の間で、時として非常に特異な障害がでることがとあるのだという。右脳がやられたため、左半身が麻痺しているにも関わらず「左半身不随であることを認識できない・しようとしない」という障害が現われるのだ。

「健常」という、自分が世界を捉えていたパラダイムから、「左半身不随」という全く新しい世界観のパラダイムに移行したのに、その変革を認識する担当の右脳は機能していない。そこで、左脳は「健常」という従来の秩序の枠組みに、「左半身が動かない」という情報を格納しようとする。そのためにはありとあらゆるギミックを駆使するらしい。医者に「左手を上げて下さい」といわれて「いや、皆さんに邪魔されていて上げられません」と言い切ったり。

(ちなみに、右脳については、Amazonの「立ち読み」でいろいろ読めます。Amazonの立ち読みの説明はこちら。)

ということで、通常は左脳がフル活動して秩序を作り上げている。大抵のことは、従来の秩序に整理できるし、そうするのが生き方としても正しい。ちょっとした差異が誕生するたびに新しいパラダイムを構築していては普通の生活ができなくなってしまう。読んだものの中から既にわかっているアイデアを拾い出して納得する、というのはまさに左脳的正しい反応である。

しかし、左脳で処理しきれない「差異」がある一定量をオーバーすると、右脳が「コレハチガウ!」と新しいパラダイムを構築するわけだし、それができないとまずい。

村上春樹のアンダーグラウンドには、サリン事件の地下鉄に乗り合わせ、あちこちで人が倒れ、周りの人たちがみんな避難した後にまだ「今日は倒れる人が多い日だなぁ」程度に思ったという若い男性が登場する。彼はもしかしたらサリンのせいで判断力を失っていたのかもしれないが、右脳が機能していないとこういうことになりかねず、命の危険を伴うので、右脳は大切にしよう。

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さて、本題に戻ると、「スピーディーな決断をするのが良い会社」というのは、きちんとデータを取って証明できない限り、私の個人的パラダイムである。個人的なものではあるが、私自身がそれを元に転職や引越しという行動を起こすためには、十分納得性のあるパラダイムである。が、これをもっと普遍的に説得するには、「平均的決断の規模とそれに関わる担当者数」とか、「XX円の資金投下を必要とする決断に要する時間」とか、「その指標の同じ会社の中での経年変化と、業績の相関」とか、「異なる会社間での、指標と業績の相関」とか、いろいろなデータをきちんとる必要があるのであります。。。。

VC投資・Alien・Gillette

San Jose Mercury NewsのVC investments held steady in third quarter

「もっとよくなっているかと思ったけど、とりあえず横ばい」という内容だが、

In the Bay Area, venture capitalists invested $1.35 billion during the quarter

ということで、ベイエリアだけで7-9月の3ヶ月間に13.5億ドル、実に1600億円超が投下されている。腐ってもシリコンバレー、である。毎日VentureWireから送ってくるAlert Emailの全米(プラス時々イスラエルやイギリスなどの海外)VC投資額合計を見ると、一日当たり平均大体5千から1億ドルなのを考えると、「3ヶ月・ベイエリアで13.5億ドル」はちょっと少ないかな、という気もする位。

ちなみに、この記事の紙版の方には付表でTop Bay Area Investmentということで、過去3ヶ月で最も高額の増資をした5社が載っているのだが、そのうちトップは4700万ドルの投資を受けたNetwork StorageのBlueArc、2位から4位はバイオ・製薬系で、Renovis, Tercica, Rinat Neuroscienceと続く。5位はRFIDを作るAlien Technology。Alienは今年始めにジレットから5億個のRFIDのオーダーを受けた、と発表して話題になった。

RFIDは、超微小な電気的タグ。日本では「トマトにつけて、携帯電話で生産者情報(作ったのはXX県のZZさんです、、、とか)を提供」などというおまけ的要素が真剣に追求されていて面白アンテナがぴくぴくするのだが、アメリカでの用途は「サプライチェーン管理」一本、という感じだ。全商品にタグをつけておいて、そのまま倉庫、納入先、陳列商品棚などでリアルタイムで情報を自動的に読み取ろうということ。

ジレットでは実に1テラバイトの情報を持っている、と業界関係者に聞いた。どこで何が売れているか、というマーケティング情報もさることながら、情報収集の真の目的は、いかにグレーマーケットを廃するか、ということにあるんだそうだ。かみそりとかみそりの刃では、もちろんかみそりの刃が収益源。で、この刃はコストに関係なく、利益を最高にする値段を設定して売られる。で、その値段は国によって当然違う。そうすると、安い国から高い国へとこっそり輸出して、そこで差益を得る業者が出てくる。それをいかに取り締まるか、ということがジレットの本当の狙い。全商品にタグをつけて、どれが誰に売れたかの追跡ができれば、違法な輸入品が出回ったときに、出元を確認できる。ちなみに、P&Gでは10テラバイト級のデータを持っているとのこと。

もちろん、RFIDは少なくとも理論的には、誰がいつどこで何を買ったかの隅々まで管理可能になるということでもり、プライバシー問題と紙一重でもある。トマトの生産者の田中さん情報を教えてもらう、という方が楽しそうなことは確かだ・・・・。

決断のスピード

最近何人かのアメリカ人から、異口同音に
「どうして日本の会社との交渉はすぐブラックホールに入ってしまうのか」
と嘆かれた。

こういう嘆きが出る理由のひとつは単なる商慣習の違い。カルチャーショックというヤツである。

カルチャーショック・例1は、ミーティングをするということに対する日米の心構えの違い。アメリカの会社側は、
「ミーティングをしたら、次のステップに進むか進まないかのYes/Noを決断するものだ」
と思っているが、日本側は
「中々面白い会社ですなぁ、ほほー」
という感じで、そのままふわーっと終わってしまってもなんとも思わないことも多い。とりあえず知り合っておいて、将来何かあったらよろしく、という程度の気持ちで、軽く会っているだけなので、突然YesかNoかと聞かれるのは、まるで一回目のデートで結婚を迫られるようなものである。

(スタンフォード大学のとある研究所のトップが、ひたすら「表敬訪問」に来るのに、全然寄付をしてこないあまたの日本企業に業を煮やして、「ミーティングフィーを取る」と言い出したのを、部下が止めた、なんていう笑い話もある。)

カルチャーショック・例2は、日米で、大企業とベンチャーとの間のアライアンス形態が異なることに基づくもの。日本側は、日本の中小企業を下請けにするような気持ちで、VCから資金調達してぴかぴかの技術を作ろうとするアメリカのベンチャーと対応して、相手から求められる資金額が一桁・二桁大きいことに驚いたり。

が、しかし、カルチャーショックについては、準備さえしておけば十分に克服可能である。

それより大きな問題は、日本の会社が決断をするのが苦手なこと。Yesの決断をするのは中々できないが、かといってNOという決断をするのも困ってしまう、ということで不返答のまま時だけが流れる、ということもある。とにかく、ひたすら検討に検討を重ね続ける、ということもある。

しかし、その根底には、会社のトップ層が決断を回避しているという問題が大きいと思っている。他社となんらかの契約を行う、というのは会社にとってとても重要な決断のはずで、その決断はアメリカの大企業でも相当にシニアな人でないとできない。で、そういう人たちが実際に会議に出てきて、その場で決断を下す。決断する権限のない人たちがいくら検討しても、問題点がひたすら浮かび上がってくるだけだ。問題点を指摘するのは楽しいし、自分が優秀になったような気がするし、周りからも優秀だと思われたりする。米国ベンチャーとのアライアンスについて、問題点がいろいろあってもやっぱりやろう、という決断ができるのは、日本の大企業だったら役員クラスであろう。そういう人たちがリードを取らないと、タイムリーな決断は難しい。

まぁ、とはいうものの、アメリカだったら大企業でもブラックホール化せずに物事が決められるかといえば、必ずしもそうではない。例えばマイクロソフトも、どんな会社がアプローチしても反応がないので、シリコンバレーの企業からは嫌われていたが、「こんなことでは、いい情報が入ってこなくなり、正しいアライアンスもできなくなる」と一念発起して、コンサルティング会社を導入して、新しい組織を作って迅速に交渉ができる体制を整えた。

ということで、日本だからできない、アメリカだからできる、という単純な問題ではないはず。

昔話で聞くところによれば、日本だって80年代初頭までは、重大な決断をかなりの若手がスピーディーに下す、ということがあちこちで行われていたようではないか。今だって、高成長している企業はスピード決断をしている。

「びしびしと決断していた昔に築き上げた事業があまりにすばらしかったので、いまだにそれの残り火で生きていける会社」を「みんなで合議に合議を重ねて、集団でスクラムを組む日本的美徳がゆえに成功している会社」と思ってしまった90年代はちょっと不幸だった。

ちなみに、「どうして日本の会社との交渉はすぐブラックホールに入ってしまうのか」と嘆いていた一人は40代前半にして、今の会社で10数社目の起業という、スーパーシリアルアントレプレナー。こういう海千山千の人を嘆かせてしまう日本の事なかれパワーというのはたいしたものだ、と結構感心してしまったり。

Corporate VC is not dead!

Wall Street JournalのAOL Time Warner Keeps Venture Investing in Strategy(すみません。有料です。)

AOLは、1998年にVC投資のファンドを2億5千万ドルで設立した。アーリーステージの技術企業に投資するためのもの。投資先の中にはTivoなども含まれる。70社投資したうち、20%が上場したか買収され、今のところ1億5千万ドルのリターンがある。残っている40社のうち、さらに上場する企業もあるので、まぁとんとんかな、というところ。

で、このファンドの位置づけはというと:
The venture fund, which typically invests between $2 million and $5 million per company, barely registers a blip on AOL Time Warner’s bottom line.

ちっぽけな額なので、投資利益は関係ない、と。

But it plays a key strategic role on behalf of its parent: making sure AOL Time Warner keeps its finger on the pulse of promising new technologies.

が、戦略的には大事、と続く。将来が期待される新たな技術の会社の「脈をはかる」のが目的だと。

企業による戦略的なベンチャー投資は、いろいろな会社がやっている。数十億円くらいの小さいものから数百億円とかかなり大規模なものまでいろいろ。それも、時流にしたがって「はやりすたり」があるのだが、はやっているときにどっと投資して、すたっているときにやめる、というのはもちろん危険。

そもそも「はやっている」ときは、投資先の企業価値も高くなるから高買いすることになる。「すたっている」ときは、安くいい会社に投資できるチャンス。

さらに、戦略的投資先のベンチャーの技術をうまく自社事業に活用するには、それに適した人材を組織のあちこちに配置、経験を積んでもらう必要もある。例えば、「社内の技術と、社外の技術を冷静に比較できる能力」と、「社外のものの方がいいとなったときに、自社の開発をやめさせられる力」の両方を持った人材が欠かせない。前者の「比較能力」を持った人材を突然どこかから連れてきても、後者の「社内での信頼または政治力」を得るには時間がかかる。それ以外にもいろんな社内システムが構築されている必要があり、その実現には「組織的ラーニング」の蓄積が必要なのである。

ということで、企業のベンチャー投資は、本気で、かつ淡々とそうめんのようにながーくやっていくことで、いぶし金的効果が出てくるものなのだ。

インテルキャピタルも、今だに250人の人材を世界において投資をし続けているとのこと。

Z会も言っている通り「継続は力なり」なのであります。