アメリカのコロナウィルス対応とリスクに対応するには計画が必要なことについて

alonso-reyes-LWFdBz4d6nE-unsplash風邪をひくと2ヶ月治らない渡辺です。風邪といっても咳が出るのとだるいだけで熱が出るわけでもなく、咳は薬で止められるんですが、今回は日本から帰国後また咳がひどくなって3日間ほど家庭内隔離してました(前後の状況から全く意味はないけれどなんとなく。)でも明日がちょうど2ヶ月目なのでそろそろ完治するはず。皆さんにおかれましてはお元気ですか。

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さて、そんな風邪とは全く異なるCOvid 19、コロナウィルスに対して、アメリカは異常な厳戒ぶりである。

その施策はたとえば:

  • 武漢やダイヤモンドプリンセスからの国内引き上げには旅客機ではなく貨物機を利用
  • 最初の武漢からの引き上げでは、一旦他の州から隔絶されたアラスカ州アンカレッジに着陸して感染者はそこで隔離・入院、さらに軍用基地に着陸し、飛行機格納庫を利用した隔離施設に収容
  • ダイヤモンドプリンセスからの引き上げは、カリフォルニアとテキサスの病院併設の空軍基地へ
  • 引き上げ時には、感染が確認されている14人も同じ飛行機に乗ったのだが、実はこの人たちは機内後部に設置されたコンテナ状の完全隔離ボックスに入れられた。(リンク先に写真あり。もちろんドアにはバイオハザードマーク。何年も前から準備されていた。)ボックスの内部はさらに3つの部屋に別れていて、一番奥が感染者、一番手前が医師などが防護服に着替えるところ、真ん中が感染者と医師が出会うところ。もちろんウィルスが外部に漏れるのを防ぐため負圧なのだが、飛行機内で急激な減圧があってもボックス内は負圧のままという厳重管理。同じボックスはアフリカでのエボラ患者対応にも使われているらしい
  • 現在カリフォルニア州だけで5000人以上が「念のための自宅セルフ隔離」中。実際、ベイエリアではそうしたセルフ隔離中の人が発病、皆本人が自発的にやっていたと思って「セルフ隔離してくれてありがとう!」というコメントがオンラインで多々あったが、実は保健所的なところが管理してる模様。ただ、そろそろこの管理も数量的に限界にきてるようではあるが

何でこんな手際よく引き上げや隔離ができるのか、と考えるに、これはきっともともとある何かのマニュアルに基づいているからなのではなかろうか。

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という推測は、9-11での米国の対応に基づく。9-11の時もアメリカの対応は何だか激烈であった。二機目が世界貿易センタービルに突っ込んで「これは明らかなテロ」とわかったところで、ブッシュ大統領は放浪の空の人となり、チェイニー副大統領は地下壕に姿を消してしまった。

ブッシュは基本ずっと大統領機エアフォースワンに乗ったままで、時々飛行場に降りて記者会見をし現状報告、会見が終わるとすぐにまたエアフォースワンに乗ってどこかに飛んでいってしまうのである。行き先は公表されず、しばらくするとまたどこかの空港で突然記者会見がある。「どうやってわからない行き先の記者会見に記者が集まるんだ」というと、記者たちもエアフォースワンに乗っている。ということで、全国を転々としながらびっくり箱のように「今回は何とXX空港!」とタッチダウンする感じで大統領は空の人となったのである。

一方チェイニーは、大統領が殺害された時の用心のため地下壕に篭ったまま何週間も一度も出てこなかった。9-11再現テレビ番組といういい加減な情報源によれば、チェイニーの執務中、突然シークレットサービスの巨漢が二人走ってきて背の低いチェイニーを両脇から持ち上げ、足ブラブラで地下壕に連れ去ったらしい。

(9-11のより正確な情報源としては、政府の調査委員会がまとめた9-11 Comission Reportがある。すごい面白い。)

なんでこんな激しい手段が突然とれるんだ、と思ったら、これは、「本土核攻撃を受けた際のマニュアル」を発動させたとのことであった。

一方、全米の上空の飛行機は全て着陸命令が出たが、常に何千機かが米国上空にいることを前提に空港が設計されているので、全部着陸するキャパがない。しかし、そういう時のために「普段大型旅客機はこないけれど大型機が着陸できる空港」というのが戦略的に点在していて、その一つのアラスカの僻地の空港では「おらが村にジェット機がきた」と近所の人々が空港までわざわざ見にきたそうだ。で、この「全米上空の全機着陸」は「2000年問題マニュアル」に基づいて行われたとのこと。(2000年問題を知らない若者はWikipediaを参照)。

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ほぼ20年アメリカに住んでしみじみ思うのは、

「あらかじめ計画されていないことは、どこの国だろうがなかなか実行できない」

ということだ。アメリカに来る前は、「非常時にアメリカが有効策を取れるのは、一部の人がその場で英断するから」と思っていたし、そういうケースも絶対ないとは言えないのだが、こと集団行動となると、アメリカといえども、というか個人主義のアメリカだからこそ、全くもってグタグタになる。

今回も、ダイヤモンドプリンセスからの引き上げはエボラ並みのパンデミック対応マニュアルが適用されているのではないかと疑うほど厳重なのだが、その一方で、カンボジアに寄港したウエステルダム号は、下船した乗客があとになってマレーシアで感染を確認されるという事態になり、まだカンボジアにいたアメリカ人は足止めされ現地で全員検査となったのだが、「そんなの知ったことか」とアメリカに帰ってしまった人たちが何人かいた。ウエステルダム号で働いていたコメディアンもその一人。アメリカの空港での入管時にウエステルダム号乗船者とバレてしまうのだが、入管担当者は「家でセルフ隔離しておいてね」とスルー。ダイヤモンドプリンセス引き上げの厳格な扱いと雲泥の差である。

素人が邪推するに「感染している可能性が低い中途半端な人がパラパラ帰国してしまう」というのがマニュアルになかったのではなかろうか。

これだけ世界を人々が行き来している状況だとなかなかパンデミック対策は難しそうで、アメリカの厳戒施策も爪で拾って箕でこぼす的な印象は否めない。

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とはいえ、思うに、アメリカのどこかには「本土核攻撃マニュアル」「パンデミックマニュアル」など、ありとあらゆる「想像を絶する大問題を想定し、それに対応するためのマニュアル」があり、常にアップデートされ、新たに作られ続けているに違いない。

そしてそれは大統領だったら全部アクセスできるはず。

私は「悲惨な死に方」とか「想像を絶する大事故」の話を読むのが大好きなので、大統領になったらずっとこれだけ読んで任期が終わってしまいそうなのだが、トランプは毎日何時間もテレビをみていて日常の報告書すら読まないらしい。もったいないこと極まりない。

 

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