ソフトバンクは大丈夫なのかと(頼まれもしないのに)心配する今日この頃

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Jp Valery

WeWorkのCEOがついに辞職に追い込まれそうだが、一方で噂が高まりつつあるのが、投資したビジョンファンド側の進退である。

ビジョンファンドは、1000億ドルというこれまでと二桁違うレベルのベンチャーファンドということで驚嘆された。しかしさらに驚くべきことに、そのうち4割はなんと優先株で調達しているのである。4割の投資家には、投資事業が儲かろうが儲からなかろうが毎年7%の配当を出さなければならない。ベンチャーキャピタル業界の常識を覆すハイリスクなファンドである。

「数千億円規模の売上があるレイトステージのベンチャーが未公開のまま多数存在するのは今だけの特殊事情。この状態が続いている間に優良ベンチャーに多額の投資をするアービトラージのチャンス!」

・・・・と思ったかどうかは知らないが、ビジョンファンドは2017年から2年かからずに10兆円を投資しつくした。すごいですね。

シリコンバレー的には、ビジョンファンドはベンチャーに100億円単位の投資を持ちかけては

「断ったら競合に投資するぞ。巨額の資金が競合の手に落ちたらどうなると思うか」

とかなり強引な投資していたとも言われる(Kara Swisher談)。一方で、創業者や従業員の持ち株も大幅に買い取っていたので、 IPO ならぬISO、Initial SoftBank Offeringとも呼ばれ、ソフトバンク系から巨額投資を受けたらもうこれで上がった感も醸し出されていた。

しかし、レイトステージでもリスクがあるのがベンチャー。投資先のUber、Slack等のIPO後の株価下落に加え、今回のWeWork上場無期延期で大株主であるソフトバンクへの問題波及が懸念され「今回のバブル崩壊はソフトバンクがらみでくるのでは」という人も出てきた。

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あっという間に国家予算規模の資金を投資したビジョンファンド(とソフトバンク)のその投資先はどんな会社、ということで、 Crunchbaseで、ソフトバンクとビジョンファンドが2017年以降投資したベンチャーについてデータを取ってまとめると、これまでの金額トップ20はこんな感じである。

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(CrunchbaseのデータをGoogle Data Studioでグラフ化)

他にも投資家がいるので、グラフ全部がソフトバンク系が出している額ではないが、やはりWeWorkがダントツですな。なお、グラフの中で赤くなっている部分は、ソフトバンクまたはビジョンファンドがリードした投資。「10兆円いけいけ」でWeWorkのように実情をはるかに超えたバリュエーションが多い可能性がある、つまり今後評価減する可能性が高いのではないか、と個人的に思っている部分である(ビジョンファンドの方申し訳ありません)。なお、NVIDIAはすでに上場している会社への投資で、2017年の投資時から評価額は少し上がっており、また今年2月には36億ドル分を売却しているので、ここはほぼ回収済み。

さらに、ソフトバンクまたはビジョンファンドが自社「だけ」で投資したラウンドを見ると、その総額は264億ドル、3兆円で、内訳はこんな風になる。

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やはりWeWorkへのエクスポージャーが半端ない。

日本の80年代バブル末期に、日本企業がアメリカの不動産を買いあさって軒並み大損をした、ということがあった(20億ドルが破産でパーになった1989年の三菱地所のロックフェラーセンター購入など)。

今回のソフトバンクの投資もそれに似ている、とまでいうもいる。

FTの記事によれば、今年5月にビジョンファンドは29%リターンがあると発表したが、それに大きく貢献したのがOyo社評価額が40億ドルあがったことで、しかしその評価額は創業者が自ら株を買った際の価格付けによるもの、しかもその購入資金は(ソフトバンクを大手取引先とする)野村やみずほから借り入れた資金であり、それってガバナンス的にどうなの、という疑問の声もあると。

日本人的にはいつもの「孫正義マジック」ではあるのだが。

冒頭で言ったように、投資がうまく行っても行かなくても毎年7%の配当(利息)を払わなければならないビジョンファンドは、すでに上場した投資先(Uber、Guardantなど)の株を抵当に40億ドルの借り入れをしたことも先月発表しており、「借金のような優先株で投資する稀に見るVCファンド」から「本当に借金して投資するVCファンド」に進化中である。

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以上、アンチ孫正義、アンチソフトバンク、と思われるかもしれないが、私、90年代から孫正義氏のファイナンスマジックをずっと見てきて、どれほど瀕死になっても不死鳥のように復活、さらに巨大になり続ける慧眼と豪胆さ、強靭さを尊敬している。

WeWorkのAdamは、クレージーさでは孫正義級かもしれないが、上場前に自分が7億ドル手に入れて私腹を肥やしたという点で、私の中では倫理的に許せない存在で、純粋に事業拡大を推し進める孫正義氏が、オヤジ殺しで名高いAdamに手玉に取られたのではないだろうか、などと(頼まれてもいないのに)気を揉んでしまう今日この頃なのであった。

参考:過去ポストWeWorkのIPOが危ういたった一つの理由もあります。

 

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