(少し前にtwitterで連投した内容を以下まとめました。)
ロシア、中国、北朝鮮がどれくらい国家的、組織的にハッキングしてるかは、普通のアメリカの新聞で頻繁に報道されている。
北朝鮮のハッキング部隊は2017年で6000人とのこと。
そして北朝鮮のハッキングの目的はソニーメールのリークのようなカオスを起こすことから、金銭争奪になってるらしい。
(Lazarusは3つある北朝鮮の国家的ハッカー組織のうちの一つ。)
国連いわく、北朝鮮が不正ハッキングで稼いだ額は20億ドルにのぼる。
ちなみに、去年のWall Street Journalによれば、国家精鋭ハッカーたちは、こうした違法行為の他に、UpworkやFreelancer.comといったオンラインジョブサイトで世界からコーディングの仕事を受託、Github、Paypal、LinkedIn、Facebookなどを駆使しながら、ウェブデザインやモバイルゲーム開発などをして外貨を稼いでいるとのこと。切実である。涙ぐましいというか。
なお、上記の「北朝鮮のハックが金銭目的に」というのはロシアのセキュリティソフト会社Kasperskyの今年の5月の発表によるものだが、そもそもロシア自体、超精力的にインターネットを武器にしている。ハッキングは無論、セントペテルスブルグにInternet Research Agency (IRA)という「トロールファーム」がある。トロールはFacebookやTwitterで嘘や嫌がらせのポストをすることだが、偽アカウントを大量に作ってトロールし続ける人海戦術組織がIRA。(IRAでトロールとして実際に働いていたロシア人のインタビューも広くメディアに出回っている。これとかこれとか。それによれば、 IRAは週給US$1400らしい。セントペテルスブルグの平均は週給US$700を切るようなので倍です。「ヒラリーはピザ屋で子供のポルノ」とか書く人材を常時キープするにはそれくらい出さないと、ということであろう。)
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一方、一般人にも馴染み深いハッキングといえばクレジットカード情報の盗難。これはもう相当前から国家と関係ない犯罪も含めてグローバル産業化し、下記のような分業が成立している。
- ハッカーがクレジットカード情報、口座アクセス情報など盗む
- 盗んだデータはTORでしかアクセスできないdark webでオークションにかけられる
- データを買った人(またはそこからさらにデータを買った人)が末端の人間を雇い、転売が容易な物品を買うなどして現金化
2の「ダークウェブ上で盗難クレジッドカート情報を売る」というところは、下記のように整理されたショッピングサイト状態で、国やクレカの種類、地域などで検索ができるようになっている。気になる盗難クレカ情報のお値段はというと、盗まれてからの時間経過や情報の深さでかわるようだが、アメリカのものだと$9.99から$19.99程度で流通している模様。
個人的には、「500キロくらい離れた行ったこともない街で、ATMカードで1000ドル降ろされた」ということが7−8年前にあり、発行元の銀行に電話したら「大規模な流出があったことが認識されており、あなたの被害もその一部なのですぐ返金する」と言われた。被害があってから私が気づくまでに3ヶ月くらいかかっていたのだが、気がつかなかったらそれっきりだったのか。大規模な流出がわかった時点で連絡して欲しいぞ。(というか、告知しなければならないという法律があるはずなのだが。)
なおこの手の「大規模な流出」はかつては非常に多く、大手金融機関でダークウェブを張ってるセキュリティチームが監視してたりした模様だ。「うぉ、うちの銀行が発行してるカード番号大量流出」などと、慌てて出回っている限りのデータを買い集めたり(いまはもうその手の流出は減ってきている)。
3の「末端の人間」には「家でできる簡単なお仕事」などの電信柱のビラで集めたオンライン発注人材もいる。本人は盗まれたクレカだとは知らずに「自分のアカウントでAmazonにログインして、(盗まれた)カード情報で、商品を買って指定の住所に送る」といったことをさせられる。なかには売春組織と兼業の団体もあるとのことで、本業が暇な時はこちらをさせるらしい。昼はカフェで夜はバーになるPRONTOなのか。(ソース:a16zの2019年6月25日のポッドキャスト)
わたしのクレカも、テキサスのモールで1日で200ドルくらい不正使用されたことがあった。利用の中身はXBoxのような転売しやすいものではなく、「食事80ドル」とか「洋服45ドル」など、「普通の人が買い物に行きました」的なもの。これは、盗んだクレカ情報で物理的なカードを偽造して売り払った転売人がいたのだろうか。
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とはいえ、この手の「クレカ情報まとめて盗難」というのはICチップ導入など対抗技術の進歩で非常に困難になってきており、その代わりに絶賛成長中なのが「架空人間合成詐欺」。人間が手間暇かけて2年くらいかけて架空の人格を作り出す、というもの。
適当な名前、住所、メアド、ソーシャルセキュリティ番号を組み合わせて、クレジットカード申請をし、それを繰り返すと「そういう人がいる」と信用会社3社のデータベースに載る。それを元にクレカを作って少額の買い物をし続け、かつの返済を続けるなどし、信用スコアを高め、十分高くなったところでドーンと限度額の大きいカードで詐欺をして逃げる。
架空の人を作りだし、その信用スコアをあげるには2年くらいかかるとのことで、かなり労働集約型である。まだそれほど組織的には行われておらず、米国のいくつかの地域で「地場産業」的に発展しているらしい。
中には、「一つの住所に住む20代の子供5人とその両親」というように、多数を同時に育成している意欲的なケースも発見されたとのこと。
以上、世に犯罪のタネは尽きず。
おあとがよろしいようで。