エンターテイメント医療の未来

Dr. Pimple Popper というユーチューバーがついにテレビ番組を持つに至った。

Dr. Pimple Popperは、ロサンゼルス近郊で皮膚科クリニック兼メディカル・エステサロンを経営する皮膚科医で、本名はSandra Leeという。彼女の YouTube チャンネル自体は2010年からあったが、最初の4ー5年はエステサロンの宣伝をにこやかに語る動画が10本ほどあるだけだった。しかし2014年の12月にお客さんのニキビを押し出す動画をアップロードしたところかなりのページビューとなり、「あらそんなのがよかったの?」と、その後いくつかニキビ押し出しビデオをアップロード、数人目に「ミスター・ウィルソン」と言う超弩級ニキビを大量に抱える中年男性の登場させたところ、その動画が大ブレークしたのである。彼はrhinophymaという皮膚が分厚くなる症状を持っているので、ティーンもびっくりのニキビが大量にある。これを一つ一つ押し出していくのだがこれが壮観。トータル6回のセッションを10数回の動画に分けてあるのだが、こちらの総集編など1700万ページビューですよ。

「ニキビ押し出しビデオ」を見ると心からくつろぐことができる私。きっと「猿のノミ取り」のような種の保存本能が暴走しているのだと思うのだが、本当は本物のニキビを押し出したい。しかし、そんなことをさせてくれる人は周りにいないので動画を見て満足しているのであった。

なお、Dr. Pimple Popperの登場前はDr. Vikramというインド在住の医師が、インド人の驚くべき黒ニキビ押し出しの接写動画をYouTubeにアップロードしてファンを集めていたのだが、彼の動画は不定期アップで、かつ動画が短い。だいたいいつも

「Thank you for your valuable time.」

と言って終わっていたのだが、ファンたちは

「私の時間、全然価値ないから。もっと徹底的に全てをクリーンナップする動画を長々とアップして」

と悲痛な声をあげていた。

そこに彗星のように登場したのがDr. Pimple Popperである。医療用手袋をして、清潔なセッティングで行われる押し出し動画。資格を持った医師なので麻酔もメスも使い放題、血が出ようが御構いなし、どんどん処理する。しかも、彼女は声がきれいで話がうまい。押し出しが佳境に入って来ると囁き声になるのもスリルを呼ぶ。

・・・・というわけで、彼女のチャンネルは320万フォロワーを持つに至ったのである。

最初の頃こそ、実際にやってくる患者さんに「ニキビ押し出し動画撮らせて」と頼んでやっていたようだが、なにぶんにもちゃんとした皮膚科医なのでニキビよりひどい症状も治療できる。赤ちゃんの頭くらいあるコブを切開して切り取ったり、全身に無数にある皮下の脂肪の小さな塊を一つ一つ切っては押し出したり。

やがてソーシャル・マーケティング専用のチームも雇い、撮影用のカメラもハイビジョンにアップグレード。ついには近隣に宣伝を出して「できものを押し出して欲しい人」を広く募集するようになった。

患者側としては、YouTubeに動画をアップされる代わりに無料で治療してもらえる。アメリカでは、「できもの」の多くは命に別状がなく、見た目だけの問題なため医療保険が効かないことがほとんどで、「頭大コブの取り出し」など多分数百万円単位でかかるのではなかろうか。それをタダでとってもらえる訳で、今やえっと驚くものすごいできものの患者が次から次に登場するチャンネルになってしまった。

私個人の趣味としては、あまりこういう「ハードな切開系」は好きではないのでちょっと残念。しかし、彼女のブレークにより、世界各地から「ニキビプチプチYouTuber」が登場したのは不幸中の幸いである。

こうした「押し出し系」を総合してpoppingと呼ぶのだが、Wall Street Journalの記事にまで「poppingという最もゾッとするインターネット・サブカルチャーの先駆者」としてDr. Pimple Popperが取り上げられた。

こちらの You Tuber 分析サイト によればDr. Pimple Popperチャンネルは月間8千万ページビュー、 広告収入は年間30万ドルから400万ドルとのこと。さらに、ご本人のサイトに行くと、Dr. Pimple Popperロゴ入りニキビ押し出しツールも買える。40代でもYouTuberブレークできるんですよ、みなさん。

+++

さて、Dr. Pimple Popperの台頭を見て思うのが、エンターテイメント・メディカルの未来である。

今までも、病的肥満な人を痩せさせるとか、美容整形で圧倒的に見た目を変えてしまうとか、そういうテレビ番組はあった。しかしそれは「テレビの趣旨に合う患者を探してきて番組を作る」行為であり、「テレビありき、患者はその道具」でしかなかった。しかし将来的にはDr. Pimple Popperのような「YouTubeにアップしていいなら無料」という医療行為がかなりメインストリーム化するのではないか。何らかの症状に困っている人が治療手段を考えるときに、「病院に行く」のに加え「YouTubeに露出する代わりに無料でやってもらう」ことが一つの選択肢になる、という感じ。

つまり、これまでの「人間改造テレビ番組」が「医療的なエンターテイメント」であるとすれば、YouTuber医師による治療は「エンターテイメント性がある医療行為」。

「歯石取り」「副鼻腔治療」「耳掃除」あたりはすでにかなりの数の動画があるし、Dr. Pimple Popperのようなカリスマのある人が登場すればすぐにブレークしそう。あと見たことはないが「植毛」というのも人気を呼びそうな気がします。

エンターテイメント医療の未来」への1件のフィードバック

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