ベルカーブはトンデモ本ではありません

Real Educationの著者は、以前The Bell Curveという本を書いており、この本、ものすごく論議を読んだ本なのだが、決して「トンデモ本」ではない。ベースとなっているのはまともな科学的調査。もちろん、読んでみて「これは違うだろう」だと判断するのは自由だが、他人が言ったこと(たとえそれがStephen Jay Gouldであっても)を鵜呑みにして、読みもせずに「トンデモだ」というのは勿体ない本じゃないかと思います。Bell CurveもReal Educationも決して読み物として楽しくはないのが痛いところなのだが。

論議を呼んだ経緯は英語のWikipediaに詳しい。最初の方にcontroversialと書いてあるので「批判された」本だと勘違いする人もいるかもしれないが、これ「議論を呼んだ」という意味の単語ですのでよろしく。

(付記:グールドの「人間の測りまちがい」という、Bell Curve批判の最右翼(左翼?)的本こそ、自分の主張を通すために都合の良いデータを選んで書かれた部分が随所にある、という批判も多々あることをコメントに書きました。FYI。)

Bell Curveは、「黒人のIQは遺伝的に低い」と言ったとして批判されたのだが、実際に本に書かれてあることを上記のWikipediaより引用すると、

"It seems highly likely to us that both genes and the environment have
something to do with racial differences."
「人種間のIQの差は、遺伝と環境要因の両方が関連している可能性が非常に高いと我々には思われる。」

"The debate about whether and how much
genes and environment have to do with ethnic differences remains
unresolved."
「どれくらい遺伝と環境要因が関連しているか、または、そもそも関連があるかどうかに付いての議論は未だ決着していない」

(貧富の差など、人種以外の要因を全て抜いても差が残る、という調査結果に基づく)。

前のエントリーでも触れたが、この本に関する論争を受けて、米国心理学会の特別タスクフォースがレポート(PDF)を出しているが、そちらは

「Bell Curveが言う通りこれまでの調査では人種間のIQ差は存在する。しかしそれが遺伝的な物であるという証拠はない。何が原因かは不明。」

著者と言ってること一緒じゃん。でも、

「知性を決定する要因に付いてはわからないことも多いから、断定的議論はすべきでない」

とも言っていて、やんわり「そこまで言わなくても」ってトーンではあるのだが。それでも、「全くもってでっち上げのトンデモ本だ」とは言ってない。

さらに言うと、The Bell Curve、「人種間の能力の差」の本ですらない。全然ない。人間の知能は正規分布に従い(つまり半分は平均以下=ここで言う平均は統計上の母平均)、必ず知的弱者が世の中には存在するから、彼ら彼女らが不利にならないよう、そういう人たちのためになる施策をとろう、という主旨だ。至ってまともじゃないですか?

***

あと、Real Education、

「複雑なホワイトカラーの仕事の実績とIQは統計的に正の相関があり」

「IQとファミリーバックグランドは正の相関がある」

と言っているが、正の相関があるからといって、特定のファミリーバックグランドを持つ人が必ずそのバックグランドに見合ったIQを持つとは限りませぬ。集団が特定の傾向を示すのと、その中の個人にどのような特徴が現れるかは別の問題。「相関が1」という時以外は、いろいろな結果を生み出す人がいて当然。

(余談ながら、学歴だけは無駄に高い私であるが、親は高卒です。3歳児検診では知恵おくれ認定だったし。)

なので、一人一人の子供を育て教育する立場の人(親とか先生とか)は、「誰もが可能性を秘めている」という前提で当たるのが正しいと思うが、一方で公共政策として、限りある資源をどうやって配分するか、という時は、統計的に最も成果が出そうなことを選ばないといけないと、そういう話し。

ちなみに、Real Education、

「国の将来を担うトップ層にはデータ分析、特に統計の概念をきちんと教えろ」

と言ってて、この人、Bell Curveで統計を理解しない人に叩かれまくって本当に頭に来たんじゃないかなーと思ったり。

・・・・以上、このエントリーを要約すると、「Bell Curveトンデモ批判はBell Curve読んでからね」です。

(山形浩生さんですら「噂だけ聞いてトンデモだと言ったが、読んだらすごく納得した」という類いのことを言っているのを発見。あの山形さんをして、読まずにトンデモだと言わせるくらい、「トンデモだと言いやすい本」なんですね。。。。。)

ベルカーブはトンデモ本ではありません」への13件のフィードバック

  1. 「人種間のIQの差は、遺伝と環境要因の両方が関連している可能性が非常に高いと我々には思われる。」

    「Bell Curveが言う通りこれまでの調査では人種間のIQ差は存在する。しかしそれが遺伝的な物であるという証拠はない。何が原因かは不明。」

    >著者と言ってること一緒じゃん。
    なのか?

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  2. いや、
    「人種間のIQの差は、遺伝と環境要因の両方が関連している可能性が非常に高いと我々には思われる。」
    「どれくらい遺伝と環境要因が関連しているか、または、そもそも関連があるかどうかに付いての議論は未だ決着していない」
    の二つの合計と同じじゃん、ということです。「我々には(主観的に)思われるが(客観的には)決着していない」と言ってる訳で。

    いいね

  3. 「人間の測りまちがい」 スティーヴン・J. グールド (河出文庫) ISBN-10: 4309463053 も読んでみるといいかもしれませんね。

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  4. 某ドラゴン桜によると、学習能力とは考える習慣の持ち方に影響を受けるそうで、従って躾や生活習慣のファミリーバックグランドはIQに多いに影響がありそうですね。
    ただ、躾の範囲であれば、訓練によって能力の再生も可能になりそうなので漫画の方ではいわゆる落ちこぼれを東大に合格させましたね。(IQはどうなったか分かりませんが向上したのではないでしょうか?)
    遺伝云々よりも文化的な要素が大きいと思ったりするのですが、そもそも、IQ検査に直感的に価値を感じないような社会階層が有ったと仮定した時、実施者が期待するような態度でテストを受験していないとしたら、IQ試験や統計が意味なくなるという、”それを言っちゃあおしまい”な話はないでしょうか?日本に於ける受刑者のIQ調査では試験そのものが疑問視されているようですね。
    この本の出版の目的は、従来のアメリカが行ってきた全員参加的な民主主義よりも、エリート支配的な社会へ誘導する事ですか?
    それこそ国家の運営を一部のエリートの自由にする。つまり、ブッシュのような指導者が現れても優秀な指導者の考えた事なので反対するものも(あまり)出ない、戦前の日本やドイツのような社会の構築を目指すことではないでしょうか?
    標準偏差を元に出されるIQではありますが、実際のテストに於いて正規分布とはあくまで仮想(理想)の状態だという事が問題のあやふやさを呼んでいる気がします。
    アメリカにおいては、あり得ないIQ値(ライス氏のIQは200とか)を政治にまで利用しようとする事がしばしば起きます。
    そもそも、エリートに徳や倫理が期待したシステムに危険がないか照明しなければならないし、これはそれこそ議論沸騰の話題ですね。
    アメリカ人、”フォレストガンプ”や”アイアムサム”好きでしょう?
    結局、その意味で統計を利用したトリックが使われているのではないでしょうか?

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  5. 親が生活保護の子の家庭の高校進学率は日本全世帯の高校進学率の7-8割だったかな?逆に高校非進学率で考えるとは数十倍(99%以上が高校へ進むから)ということになるみたいで。
    貧困の再生産ですね

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  6. IQなんて価値が無いのに、実際には価値があると思っている人がたくさんいるから議論を呼ぶのでしょうね。皆自分のIQは気にするもんね。
    3歳で知恵遅れ認定する医師が日本にいることのほうがずっと議論を呼ぶべきだと思うね。

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  7. chikaです。
    えっと、本エントリーは本に書いてあることの個々の事象の議論する物ではなく、「てなこともあるので、是非オリジナルの本を読んで、自分で考えて欲しい」というものです。
    「IQに価値があるか」も含め、「超ヤバい」領域故、とてもブログエントリーレベルで一刀両断に語れるものではありませんので・・・・。
    あと、anti-Bell Curveは多数いますが、pro-Bell Curve派も結構います。
    52人の関連領域を専門とする学者が署名した「BellCurveに書いてあることはメインストリームのサイエンスである」という声明もあり。(1994年にWall Street Journalに発表された)。この声明のためにコンタクトされた100人の学者のうち、Bell Curveに書かれてあることは正しくない、とした人は7名だったそうです。
    (出典:
    http://tinyurl.com/8wr87m
    http://tinyurl.com/zexdn
    どっちもWikipediaですが・・)
    いや、もちろん
    「大勢の学者が正しいと言ったことでもその後間違っていることが立証される」
    ということはたくさんあるんですが。
    ですが、たとえば、anti-Bell Curveの筆頭として、コメントでも挙げられたGouldのThe Mismeasure of Manがあります。しかし、Gouldの方をさらに「バイアスがかかっている」と批判する人たちもいます。
    書き手としてのレベルは圧倒的にGouldが上で、読んで心温まるのもGould。しかし、読み物として優れ、心温まるが故にGouldの方が絶対に正しい、というわけでもなく、事実の理解と言うのは難しい物であることにため息。
    pro-Bell Curve=共和党的、anti-Bell Curve=民主党的、という政治的な面もあったりして、根は深く。
    (ちなみに、Gould、私は好きですが)。
    もちろん、Bell Curveが全ての面で全面的に正しいというわけでもないわけですが。Mismeasure…の方も決して正しいことばかりじゃない、(というか、学会的にはかなり非難囂々)というのについては、WikipediaのMismeasureに関するエントリーなど。Criticismの項目をご覧くださいませ↓
    http://tinyurl.com/35ybbb
    あとこんなのも
    http://tinyurl.com/6sq5at
    ”The biologist Bernard Davis …called attention to the fact that reviews in the popular and literary press, such as The New York Times Book Review, The New Yorker, and The New York Review of Books, were almost universally effusive in their approbation, whereas most reviews in scientific journals, such as Science (Samelson, 1982), Nature, and Science ’82, tended to be critical on a number of counts.”
    「(GouldのThe Mismeasure of Manは)New York TimesやNew Yorkerなどのポピュラーなメディアでは大絶賛されているが、ScienceやNatureなどの科学ジャーナルからは、多くの点で批判されている。」
    この文章、超長いのでGooleの翻訳を通してみたんですが、、、、単にお笑いになってしまった・・。むむ。
    タイトルの
    Reflections on Stephen Jay Gould’s The Mismeasure of Man
    「Stephen Jay Gouldの、The Mismeasure of Manに関する考察」

    「スティーブンJグールドの反射マンの測りまちがい」
    反射マン・・・・orz どこをどう機械翻訳したらこうなるの?「計測マンの反射」だったらまだわかるけど・・・あ、そうか「グールドの反射」で切れて、「マンの測りまちがい」なのかな?
    全然日本語になってませんが、Google翻訳はこちら
    http://tinyurl.com/9w4rww

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  8. しつこくてすいません。
    私の言いたかった事は、”高いIQを持ったエリートを教育して、徳を養うことで幸せな社会を作れる事。”が立証されていないのに本書の目的となっている事です。
    その他のデータは結果論として正しいんだろうと思います。

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  9. chikaです。
    ああ、それも、4章に説明があります。「幸せ」とは定義してませんが。オリジナルは
    「America’s future depends on how we educate the academically gifted」
    です。
    さわりで、4章の出だしだけ。。。。
    The last of the simple truths is easily misunderstood, so let me be clear at the outset: The proposition is not that America’s future *should* depend on an elite that is educated to run the country, but that, whether we like it or not, America’s future *does* depend on an elite that runs the country. (中略) The idea is instinctively unattractive.
    というわけで、このアイデアが本能的に受け入れがたい、ということは承知の上で、延々説明が入ると言う・・・・(実際、この本、くどいです。なんといっても4つ言うだけで200ページ以上費やしているので。読んで楽しくない本であります。)
    この本はそもそも、彼が言うところの「4つの真実」を既存の事実としてそれを元に理論を組み立てる本ではなく、「その4つを説明する/立証する」という本なのでした。

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  10. ご対応ありがとうございます。
    >pro-Bell Curve=共和党的、anti-Bell Curve=民主党的、という政治的な面もあったりして、根は深く。
    この匂いが気になったんだと思います。
    現状で世界屈指のエリート教育ができているアメリカで、これ以上エリートに配分しようというの主張でしょうから。

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  11. いや、一概にそうではなく。
    「高校までの義務教育は、全員が大学に行くための教育ではなく、高校までで社会人として求められる教養を身につけられる選択肢も増やそう」
    「今の大学の代わりになり、一般教養じゃなく職業訓練を受けられるような教育機関を増やそう」
    ということで、彼の主旨はいろいろな本を通じ、一貫して
    「学力的に平均、平均以下の人たちが社会で不遇にならないような施策を導入しよう」
    というベースがあるんですが、まぁわかりにくいですな。

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  12. なるほど。
    ”エリート以外の人と職場には、学士号よりも技術資格の方がマッチするし、社会的にも経済的。”ということですね。
    学士号より技術資格ということなので、ブルーカラーを増やせば?という案だと思うんですが、受け入れる労働市場の条件も必要ですね。

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