書評:How Starbucks Saved My Life(全米が泣いた!)

全米が泣いたか、単なる恐怖話かはご判断にお任せします。

「マンハッタンのタウンハウスと、35部屋もある大豪邸で恵まれて育ったマイケルは、イェール大学を卒業すると同時にアメリカでも有数の大広告代理店、J. Walter Thompsonのクリエイティブに就職。SVP(すごく偉い重役)にまで登り詰めるが、在勤35年を経て53歳で突然クビになる。その後10年、だんだんと不運が積み重なり、63歳では健康保険すら買えなくほど落ちぶれ、ついにスターバックスのバリスタとして働くことに。そしてバリスタをしながら初めて非エリートの人々の暖かさに触れる」というお話。

この取ってつけたような話しのどこに泣くかというと、これが実話だというところ。きゃーこわい!

(ちなみに、J. Walter ThompsonのSVPというと、例えて言えば「電通の専務」みたいな感じでしょうか。電通の専務が下町のスタバのバリスタになるところを想像してみてください。)

マイケルのお父さんは成功した出版業界人で、数々の文豪や著名人と交流しながら育つ。ヘミングウェーとも本当に会って話しをしたり。J. Walter Thompson時代は、仕事でアイアコッカにもプレゼンするし、エリザベス女王とのお茶会にも行く。

そして仕事に全人生を捧げて、意地悪なクライアントからクリスマスの朝に「今から来い」と言われれば、アイアイサーとばかり、泣く子供たちをうっちゃって飛行機に乗る。

しかしクビになった後、広告という若手有利な業界での50も半ばの元重役への風当たりは厳しい。しかもその上、暇つぶしに通っていたヨガ教室で出会った女性とうっかり浮気して子供ができて、奥さんと離婚。これが彼の経済状態には決定打となった模様で、63歳になった頃には懸命に見込みクライアントに連絡を取るも、仕事は全く取れそうもない。

で、スターバックス。

アメリカのスターバックスは、週に一定時間以上働くと健康保険が出る。アメリカの健康保険事情を説明すると、超貧しいと公的保険Medicaidの対象になり、65歳になると同じく公的保険のMedicareの対象になる。それ以外は、勤め先が福利厚生として提供してくれる保険に入るか、自分で民間保険を買わないとならない。そしてかなり高い。

で、本の出だしでは、マイケルはその「アメリカの保険のはざま」にはまり、無保険なのだ。しかも医者に「脳腫瘍の疑いが」と言われ茫然自失。そこで偶然「スターバックスで働かない?」と誘われ、「まさかそんな」と思いつつも、福利厚生の資料を見て、な、な、なんと保険が付くことを知り、「やります」と。

そして一度も持ったことのないモップでのトイレ掃除から仕事を覚える。

勤め先のお店へは片道1時間半の通勤。それでも夜明け前に来いと言われれば行き、夜中に店を閉める担当をしろといわれれば残る。なぜならクビになるのが怖いから。スターバックスは若者が働く店で、63歳なんていうのはマイケル一人なのだ。

しかし、お店でお客さんを集めての「コーヒーレクチャー」では、広告代理店の重役として培ったプレゼン能力で好評を博し、接客も素晴らしいと褒められ、疎遠になっていた元妻の子供たちとも交流を深めて行く、というホノボノな結末だ。トムハンクスが映画の版権を買ったらしいので、やがては映画になるのかも。大成功だ。よかったですね、マイケルさん。

ちょっと前のNew York Timesに、サブプライムローンで買った家を失う寸前の人が特集されていたが、いわく

「兄弟でやっていたコンピュータショップを辞め、次の職を探すが全く仕事がない。片道1時間かかる街まで行くか、飲食店の店員だったらもちろん職はあるが、そんなことまでする気はない」

ということで、こういう人はこの本を読んでよく考えるといいのではないかと、そう思いました。

ちなみに、マイケルさんはスタバの採用面接で、

「これまでリテールで働いたことは?」

と聞かれて、もちろんボンボンだった彼にはそんな経験はなく、非常にあせって

(そういえば、昔バーガーキングのCMを作るために体験店員をやった!)

と思い出し

「バーガーキング」

と答えるところがある。

ふふーん、私だったら「マクドナルドのトレーナーやってました」と言えるな、とちょっと自慢に思ったのであった。

なお、この本、後半はスターバックスのPR誌か、というくらいひたすらスターバックスをベタ褒めで、ちょっとコソバユイのだが悪しからず。

書評:How Starbucks Saved My Life(全米が泣いた!)」への8件のフィードバック

  1. >「兄弟でやっていたコンピュータショップを辞め、次の職を探すが全く仕事がない。片道1時間かかる街まで行くか、飲食店の店員だったらもちろん職はあるが、そんなことまでする気はない」
    >ということで、こういう人はこの本を読んでよく考えるといいのではないかと、そう思いました。
    この話のミソは、保険の高い米国において、
    「アメリカのスターバックスは、週に一定時間以上働くと健康保険が出る。」
    という優れた福利厚生があるところではないでしょうか。だから米国スタバの労働者には、一定時間以上で長期間働き続けるようなインセンティブが働く。
    日本のマクドナルドやスターバックスにそういう優れた福利厚生があるという話は、おそらくない。仮にあったとしても少なくとも有名ではないですね。だから日本のファーストフード業界においては、可能な限り早い内に足を洗って他の仕事につくようなインセンティブが働く。
    実際に多くの産業においてそういう『人を使い捨てにする』傾向が見られると思います。

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  2. > 奥さんと離婚。これが彼の経済状態には決定打となった模様で、
    イタタタタっ・・・。まさに決定打ですね。
    ジョージ・ルーカスも離婚でお金が必要になって旧スタジオ(現ピクサー)をジョブスに売りましたもんねー。
    > トムハンクスが映画の版権を買ったらしいので、
    エントリーの冒頭で即座に思い浮かんだ展開でした・・・w
    さすがアメリカですね。

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  3. トイレから出世というと、確か、マイクロソフトの東洋の女帝とか呼ばれていた人もそうだったよね。仕事がないというより、仕事が嫌いだっていう問題で、蹉跌してしまう人が確かにいるね。たいてい、仕事だけとは限らないけど、依頼やお願いを断ることから始まっていたりする。ただ、絶対に断っていいのは、金を貸してくれというのは個人間では間違いない。金をくれというなら、ケースバイケース。
    そうそう、イギリスのスターバックスでも外国籍のバイトにも有給病欠がある話には驚いたことがある。日本は、ちょっとひどすぎ。真面目であっても損するところがありすぎだし、ただ、治安の良さが大きな福音でもあるけど。なんともいえないな。
    まぁ、本なんか読まずに、自ら街にでてなんでもしてみた方が、著者の体験と同じことはできるので、本なんて読んでいられる余裕のある人は、ダメかもね。

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  4. この話のミソは「日本では、週に一定時間以上働く、もしくは自身で月に1万円ほどの国民健康保険料を支払うことで健康保険が出る」ということでしょう。
    そもそも米国に比べて国の厚生が手厚いんだから、このエントリをもって日本のファーストフード業界を批判するのは意味無いでしょ。マイケルさんが日本人ならスタバは選ばなかったと思います。

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  5. >そもそも米国に比べて国の厚生が手厚いんだから、このエントリをもって日本のファーストフード業界を批判するのは意味無いでしょ。
    「福利厚生 = 健康保険」であればそうでしょうね。
    でも世の中には健康保険意外の福利厚生もあるのでは?

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  6. >そんなことまでする気はない
    これ日本でもあてはまるみたいです。先日ブランチ(というほど洒落てないですが)した「吉野屋」のアルバイト募集ポスターで、夜間帯の時給がなんと1300円を超えていました。好況だった私の学生時代でもあり得なかった相場です。
    でも、人が集まらないようです。私が入ったのは朝でもなく昼でもなく、ちょっと中途半端な時間帯ではありましたが、牛丼をよそうところからお勘定まで、たった一人でこなしていました。

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  7. 今朝のCNN Europeで、このマイケルさんがインタビューされていました! 
    リラックスした感じで スタバの店内をそうじしたり、ミルクなどのポットをそろえたりしている様子とあわせて、記者のインタビューが報じられました。
    「今、もし大企業から、年俸50万ドル出すからCEOに就任してくれ、というオファーがあったらどうしますか?」という質問に、「断るでしょう。」ときっぱり。 理由は「そういうポジションだと、四六時中仕事のことを考え続けることになるから。You will never leave the job.」と言っていました。仕事と自分の生活のバランス、難しいですが、こうして自分にとって何がよいか、はっきりわかっているととても幸せかも、と思ったわけでした。
     

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  8. 偶然に手に入ったので読み始めました(今”掃除主任”に昇進したあたりです)。
    間に入る回想とかが程よくて、さすが ”The Few, The Proud(海兵隊が今でも新兵募集に使っています)”を書いたコピーライターだけのことはあると思うんですが、やっぱり
    >うっかり浮気して子供ができて、奥さんと離婚
    この部分、どうも感情移入しにくいですね。浮気して失業したんならともかく、失業してから浮気するなよ、と(笑)。
    でも、その結果初めてまともに「子育て」を体験して、人生観が変わってしまった、などというあたりは、私も新米パパとしてちょっとわかる気がします。ホロリ、と。

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