マニュアル人間万歳

2017-09-05 22.09.42

少し前に俳優の河相我聞さんのブログを読んだ。 「カーペンターズの青春の輝きがどうしても歌いたかったのでピアノとボイトレと 英会話のレッスンに行った結果」というタイトルそのままの内容なのだが、「さすが一芸を極めた方だ」と感銘を受けた。

いわく、

基礎から始めてしまうと先が長すぎて心が折れてしまう可能性があるので、プロで実際に活躍している方を探しました。

プロでお仕事されている方って「人の心を動かす」事が絶対条件なので、ピアノを弾くにあたって押さえるツボみたいなものが違うと思うのですよ。

弾き語りをしたい、のであって、ピアノや歌の先生になりたいわけではない。そこで、「うまく人前で演奏する」というゴールに適した先生を探すのである。さすが上達のコツを抑えていらっしゃる。

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さて話は少し飛ぶのだが、去年出たPeakという本がある。日本語版のタイトルは超一流になるのは才能か努力か?(やや恥ずかしい)。「天才」について研究していた大学教授 が、「生まれもっての天才はいない。天才的な成果を生み出すのは高質な練習」という結論にいたり、それについて書かれた本だ。(それって、100年近く前にエジソンが言った「1%の才能と99%の努力」というのと同じじゃないのか?というのはさてはおきつ・・・・)

Malcolm GladwellのOutliersは「1万時間の練習で誰でも一流になれる」という説で一躍有名になった本だが、この「1万時間」の元ネタ論文を書いたのが著者。「Gladwellの本で『1万時間』という『量』ばかりに注目が集まってしまったが、1万時間が大事なのではなくて、どうやって練習するかという『質』が大事なのだ」というのがPeakのテーマである。

そしてその「質の高い練習」を、deliberate practiceと著者は定義している。deliberateは「意図的な」といった意味だが、ただなんとなく時間を使うのではなく、1分1分集中して全力で上達のために必要な鍛錬を積むことが重要なのである。そしてその鍛錬には、必ず「強い集中力」と「苦しさ」が伴う。楽しいだけでは上達しないのだ。

しかし、自分一人で練習していると、「苦しいけれども次のレベルに結びつく練習」がなんなのか分からない。そこで重要になるのが「正しいコーチ」につくことだ、と著者は語る。

なお、この本を元に作られたFreakonomics(ヤバい経済学)のポッドキャストを聞くと、本を読まずともだいたい中身がわかる。ポッドキャストの中には、元論文を読んで「モノは試し」と著名ボイストレーナーについて18ヶ月歌の練習をし、見事ポップシンガーとしてデビューした42歳のデンマーク人女性のインタビューと彼女の歌の「練習ビフォーアフター」もある。「カラオケ屋でもやや痛いレベル」から「歌姫Christina Aguilera級」へと変貌を遂げ、「おおお、私もちょっとデビューしてみようかな」と思せるくらいには説得力があった。

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私事ながら、Peakを読む前から、年を重ねるにつけ「マニュアルの重要性」を強く感じるようになってきている。とりあえず優れたマニュアル通りにすれば短期間でほとんどのことはそれなりにできるようになる。「マニュアル」という言葉に抵抗があるなら「ハウツー」に置き換えてもいい。

一番良い例は料理だろう。美味しいと評判のレシピをそのまま作れば9割以上の確率で美味しいものができる。もちろん達人は最初からアレンジしても美味しいものができるわけだが、私は料理に精通していないので、もうレシピ鵜呑みでそのまま作ります。はい。そのために0.01g まで計れる電子秤も持っている。(その秤をキャリブレーションする100gの重りまで持っている。冒頭の写真参照)。誰が笑おうと「塩2グラム」と書いてあったら初回は2グラムきっちり計る。それ以外も書いてある通りに作れば相当美味しいものができる。書いてあることがわからなければ、さらにそれを調べてきちんと理解した上で調理にとりかかる。

また、今年の頭にフォーブスジャパンに短編小説を書いたのだが、小説家の知人にノウハウを伺い、推薦された初心者向け小説執筆マニュアルを読み、さらにWiki Howの短編小説の書き方を読んでから書き始めた。本はかなり読んでいるつもりだったが、目うろこな手法があれこれあって、それをそのまま忠実に実行したところ、はじめて書いたフィクションがボツにならずに済んだ。

ただしマニュアルならなんでも良いわけではなく、それが「正しいマニュアル」であることは必須。が、それさえ間違えなければマニュアルに従えばたいていのことはできる、という信念は年々強まる一方である。そして、Peakを読んで以来、「正しいマニュアル探しに時間を使う」「闇雲に始めない」という点に一層注意を払うようにしている。

「マニュアル」と「コーチ」は違うじゃないか、と思うかもしれないが、インターネット上にマニュアル本やマニュアル動画が大量にあり、さらにそのレビューも豊富にある今では、「コーチ」の役割の相当部分は「書き物」や「動画」のマニュアルで代替可能だと思う。(Peakにもそう書いてあった。)

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河合我聞さんの話に戻ると、「いきなりプロの先生を探す」ところから練習が始まるところが「さすがプロ!」と思った次第。ご本人のブログに戻ると、

今まで歌を自分で独学で練習していても何が良くて何が悪くて、どこに向かって練習すればいいのか全くわからず、途方にくれておりましたが、やはりプロで歌っている方に習うと、簡単に解消されるんですね。

その人の歌のキーだったり、自分に合った表現の仕方だったり、一曲をどの様に山場を作って聞かせるか、言葉の切る位置によって伝わり方が変わるとか、マイクに対してどの様に歌えば自分の声のポテンシャルを最大限発揮できるか、など、歌に対しての取り組み方を目から鱗が落ちるほど沢山教えてもらえます。

というわけで、ものごとはマニュアル(または優れた指導者の教え)で一気に上達できる、というお話でした。アレンジはその後がよろしいかと。

 

  • お知らせ

北米で前月に$10M以上を調達した全ベンチャーご紹介するウェビナーを毎月開催しています。次回は日本時間9月15日(金)8-9AM。初回参加は無料ですので、ご興味がある方はこちらのリンク先からお申し込みください。当日参加できない場合でも、後から資料と録画をご覧いただけますのでご興味があれば是非。

マニュアル人間万歳」への4件のフィードバック

  1. 通りすがりですが全くもってその通りだと思いますね。
    ただどれがもっとも正しいマニュアルなのか調べだすとキリがないのが難点ですね。後は実現するために必要な行動力とお金、環境があるかどうかも問題でしょうね・・・。
    昔大阪から東京に1週間ボイトレにいってことがあり、非常にためになりましたがお金がかかりすぎて断念してしまいました。

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