アメリカの大統領はどれくらい国政を左右できるのか


予想を覆しまくってトランプ大統領が誕生し、上院・下院とも共和党だ。最高裁も2月に急逝したスカリア判事のポストが空いているが、これもトランプ指名になる。残り8名の判事のうちリベラル派には83歳、78歳の長老がいて、この人たちがトランプの任期中に死ぬとこれまたトランプ指名となる。CIAによる大統領向けウルトラ国家機密項目の報告も、就任を待たずしてすぐにトランプにすることになるのだが、多分CIA長官も「えっ、まじで」と動揺しているに違いない。テレビやラジオの報道関係者は、少なくとも今日の昼過ぎまでは声に動揺が隠せない感じだった。周りで泣いた、という人もいれば、泣いている人を見た、という話もあった。勝利演説をした後トランプ本人も姿をあらわしておらず、きっと本人も動揺しているに違いない。なんといってもアメリカ史上最高齢の大統領だし。

今回ヒスパニックの有権者が怒涛のように投票に行ったのだが、フロリダではなんと彼らの相当数がトランプに投票したらしい。選挙前の有権者インタビューを聞くと、ヒスパニックやイスラム教徒でもトランプ支持という人たちが結構いて、彼らは一様に「家族の価値」について語っていた。分かりやすく翻訳すると「ゲイの結婚」や「中絶許可」は許せない、ということであろう。白人層だとsecond amendmentの重要性を強調する人たちがこれまた相当数いて、これは「銃を持つ権利」である。そんなことで国政が左右されるのか、と思うかもしれないが、多分日本で「タバコ廃止」を謳った政治家が登場したら、その人の他の政策がどんなに良くても絶対投票しない層がいそうなわけで、それと似た感じかな、と個人的には思っている。

そして、「えっ、まじで」という最初の動揺を超えて、トランプが大統領になったとして何が起こるのか、という疑問が世界を渦巻いているのではないかと思うのだが、それに答えるようなPodcastがこちら:

How Much Does the President Really Matter?

Freakomonics(邦題「ヤバい経済学」)の共著者によるFreakonomics Radioというシリーズの一つででなかなか面白いのだが、結論からいうと「実はたいして何もできない」。「大統領がしたいこと」にはほとんどの場合結局議会の承認が必要だし、「大統領がしたくないこと」に拒否権を発動しても、上院・下院両方が3分の2以上のスーパーマジョリティ投票をすれば実施されてしまう。大統領の最大の貢献は「ムードメーカー」としてみんなを特定の方向に盛り立てること、と。

・・・でも、昔のテレビドラマ24みたいに、バシバシとexecutive order(大統領令)を出しまくって勝手気ままに世界を混乱の渦に巻き込めるんじゃないのか。

ということで、もう一度「大統領の権力」について再検討したFreakonomics Radioのpodcastが

Has the U.S. Presidency Become a Dictatorship?

確かに規定上は大統領に力はないのだが、実は歴史に名を残す偉大な大統領はルールを破りまくっている、というお話。既存のルールに則って律儀に大統領業をこなした人は凡庸な大統領でしかない、と。前例がない事態に果敢に対処するためには全て規範に則っていてはダメ、ということなのでしょう。

しかし、ではなんでもできるか、というと、やはりそうではなくて、議会の賛同を促し、部下を動かし、民意を動かす力がなければ結局はルール破りな命令を発動しても実態としては動かない。相当数のexecutive orderを出したオバマだが、悪評高いグアンタナモの閉鎖については何度もトライしたができなかった・・・と。

ということで、多分トランプ政権もそれほどたいしたことは起こらないのではないか、と思っているのですがどうでしょうか。

あと、これは反論も多分にあるとは思うが、個人的にトランプが最後の方では本当に努力している感じなのには結構感心した。テレビ討論でボロクソに論破されたあと、演説中「Stay on topic, Stay on topic」と自分に言い聞かせていた、とヒラリーが語っていたが、「へー、トランプ、そんな自制心があったんだ」とちょっと驚いた。きっと周囲に諭されたのではないかと思うのだが、70歳という年齢で、それまで勝手気ままに生きてきたであろう大金持ちが、この後に及んで従来のやり方を変えていくのは相当大変だったにちがいない。就任演説も極めてまともだったし。このトラジェクトリーのまま頑張って欲しいことです。

(冒頭の写真は選挙前に撮った近所のTrump支持者の家。シリコンバレーにもいるのです。)

アメリカの大統領はどれくらい国政を左右できるのか」への3件のフィードバック

  1. アメリカ国外に対しては、
    ヒラリーさん、良かれと思って迷惑なことをしそうに感じていました(アメリカ正義!みたいな感じで)。
    トランプさんの方が話していることの影響力を分かった上で、わざと言ってるんだろうなと感じてました。
    どちらが良かったのかは分かりようもありませんが、ひどく迷惑なことをしなさそう、という意味ではトランプさんかなあ、と思ってました。
    名を残したい、みたいな欲もある程度満たされてるでしょうから、意外に地に足のついた大統領になったね、みたいになってくれることを祈ります。
    まあ、驚きましたけど。

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  2. でも上院も下院も共和党なので、何者も新大統領を制御できないのではないのでしょうか
    クリスティやギングリッチが要職というのも恐ろしいです

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  3. 連邦の公務員制度は日本やヨーロッパのようなメリットシステム(キャリア官僚制)ではなく、スポイルズシステム(猟官制)を採用しているので、トランプ就任とともに課長以上の幹部公務員(約3500人程度)がいっせいに民主党員から共和党員に交代になります。

    GOPが人事を主導するようですが、ポストによってはバノンらオルトライトや、トランプファミリーに絡む縁故採用もあり得るでしょう。極端な話、移民局の中堅幹部に白人至上主義者をすえたり、環境局に石油業界の回し者を大量に送り込む程度のことは議会を通さなくても容易に可能なんです。

    個人的には大統領の職権の狭さよりも、こっちの影響の大きさを危惧しています。

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