ショーンK。彼が英語で話しているYouTubeを見て、アメリカ人のダンナは「この人はハッパ(ハワイのローカル・スラングでハーフ)だね、見ても聞いても」と言った。在米歴が20年を超す日本人Nさんは「俺はこの人を尊敬する」と宣言した。往年の小林克也のような「英語圏に住まずにネイティブ並みの発音をマスターした偉大な人」である。
して気になるのが、「どうしてこんな嘘で固めた人生を今まで歩んでこれたのか」「なぜ今更バレたのか」ということだが、どうも47歳というのは「嘘がバレる危険なお年頃」のようだ。
たとえば2008年に、離婚した妻との間の子供を誘拐して指名手配されたClark Rockefeller。「ロックフェラー家の一員」「国防総省のアドバイザー」「宇宙物理学者」「Yale大学に14歳で入学」「新興国のパートタイム財務大臣(?)」等々と言っていたが全て嘘。ベルリン生まれのドイツ人で17歳でアメリカにホームステイ、そのまま消息をくらましたChristian Gerhartsreiterという人だったのである。苗字が長い。しかも、1980年代に殺人までしていたのも判明する。(とりあえず1人分は有罪判決。誘拐と合わせ終身刑。しかし、それ以外にも彼の周りで行方不明になった人が複数いたようだ。・・というNew York Timesの記事を以前読んだのだが、今探しても見つからなかった。)
誘拐した子供の母親(=元妻)は、Stanford大学卒、Harvard MBA(ほんとに)、マッキンゼーのパートナーで、同社最年少でDirectorになったという人である。そして二人の結婚生活はなんと10年以上も続いた。しかし誘拐事件後、彼女がInterpolまで巻き込んで探し回ったことで話題になった。(実際、親権を失った子供を道連れに心中する親も多いので探し回るのもわかる。)
そしてこの時RockefellerことGerhartstreiterは47歳だったのであった。
これ以外だと、学歴詐称で今はなきRadioShackという全国チェーンのCEOをクビになったDavid Edmondsonもバレた時47歳。
「孤児として育った」、海兵隊で「パイロットをしていた」、「テコンドー黒帯」、「Pepperdine大学Ph.D.」という触れ込みだった、Lotus(覚えていますか1-2-3)のCEO、Jeffrey Papowsは鍵カッコ内が全て嘘だった。この人はちょっと早くてバレた時45歳。
ちなみにPapow氏の嘘について1999年に書かれたWall Street Journalの記事は、読んでいるほうが恥ずかしくて身悶えするディテールで満載。
Lotusの前にはGEの子会社で働いていたのだが、ある日会社に目の周りにアザを作って登場「操縦訓練していた海兵隊の戦闘機がスピンした」と同僚に告げたり、その会社を辞めた後にわざわざ同僚に電話して「予備兵として操縦していた戦闘機が事故にあい(またか)、同僚が脱出に失敗して死んだ」と話したり。過去の知り合いに電話してまで嘘をつくとは奥深すぎる。(その同僚には、その後海兵隊からと称して「Mr Papowsをサポートしてくれてありがとう」という額が送られてきたそうだ。念が入っている。)どうも彼は映画Top Gunが大好きだったらしく、部下を連れて映画館に行ったこともあったらしい。「ソフトウェアのセールスは戦闘機の接近戦だ」と公言しており、会社のセールスイベントでは、自分が戦闘機からパイロットとして降りてくる「プロモーションビデオ」を広告代理店に作らせたこともあったようだ。
ちなみにこの方、GEの子会社では3年で売り上げを5倍にし、Lotusでは1000億円を超す売り上げの会社を任され、さらに4年で30%増やしている。なぜ嘘をつく必要があるのか。闇が深い。
++++
参考まで、嘘の質が違うものの早熟な一群もいる。
- Frank Abagnale (Catch Me If You Canのモデルの人)は捕まったのが21歳の時。
- ZZZZ Bestという会社を高校生の時に起業して上場、しかし実体のない架空会計だったことがバレたBarry Minkowは有罪判決時22歳。(この人は、その後もう一回詐欺会社を起業し44歳で再度有罪判決を受けている。)
- 19世紀末のシカゴ万博時にわざわざ「殺人ホテル」を建設、どんなに叫んでも声が漏れない隠し部屋や骨まで焼つくす炉まで設置して観光客を次々に殺害していたH.H. Holmesは逮捕時33歳。
- 著名シリアルキラーのTed Bundyは捕まったのが29歳。
++++
というわけで、「嘘がバレるのは47歳」とまでいうと言い過ぎなのであるが、しかし一方で、えっと驚くステータスの人のえっと驚く嘘がバレるのは40代後半から50代前半が多い気がする。やはりこのあたりは「嘘が人生に追いつくデンジャーゾーン」なのでは、と思うのであった。
(なお、冒頭のビデオはTop Gunの主題歌、Danger Zone。)