初期のインターネットベンチャーでビジネスの人がすることは限られる

エンジニアでないファウンダーは最大一人まででお願いしますの続き。前回は「インターネット系ベンチャーでは、顧客フィードバックを元にサービスを改善し続けるのが成功の鍵。手が動かないと改善もできない。だからコード書けない人はあまりいらない」という話でありました。

今回は、「アーリーステージのインターネットベンチャーではビジネスの人がすることは限られる。だからビジネスの人はあまりいらない」という話。

対象となるのはアーリーステージのベンチャー

まず最初にクリアにしておきたいのがこれ。

アーリーステージとは「まだほとんどユーザ・顧客もいない。そもそも今のビジネスで将来の成長性が本当にあるかわからない」という「混沌フェーズ」を指します。ユーザがそれなりについて、その反応から「これでいける!」ということがわかる「前」の段階。

つまり、「これを売ればいける」という売り物がはっきりしてない段階。まだ人を雇ったりもせず、ファウンダーの3-4名で会社を回している状態です。

ビジネスの人がすること

さて、そういう初期のベンチャーでは、ビジネスの人がすることは大きく分けて4つあるかなと。

  • 法務・会計など「バックオフィス」

まぁ、これは面倒ではありますが、誰でもやろうと思えばできます。お金さえあれば弁護士や会計士にアウトソースもできるし。でも、プロダクトが本格的に立ち上がるまでは、会社にする必要すらなかったりするので誰もいなくてもOKです。

  • マーケティングに基づく製品のアイデア固め(いわゆるプロダクトマーケティング)

ここが「ビジネスセンス」が必要なところではありますが、これは、前回のエントリーで書いたとおり、

「アイデア→作る」

という2ステップのリニアなプロセスではなく

「アイデア→作る→使ってもらう→フィードバック→アイデア→・・・・」

という無限ループ。アイデアだけ出せる人がたくさんいても、「作る」ができる人がそれに見合うだけいないと意味がありません。で、一度でも何かを作った人ならわかると思いますが、「言うは易く行なうは難し」。1人が1日で考え出したアイデアでも、それを実装するには長い時間がかかるので、アイデアだけの人がいくらいても「作る」がボトルネックになって先に進まないのでした。

  • ユーザ獲得(セールス・PR)

消費者向けだと、ひとりひとり売って回るセールスは意味なし。テレコム向けのサービスだったりすると、がっつりセールスの人がいないと売れませんが、そういうのをインターネットベンチャーとして立ち上げる人はあまりいないことでしょう。

PRは、「これでいける」というサービスが固まってないとやっても意味なし。「ユーザがいないと、フィードバックももらえない」というのはありますが、これはもう友達に使ってもらうとか、自分でせっせとメディアサイトにプレスリリースを送るとか、Google Adwordsで釣ってくるとか、そういう地道な方法しかなく、どれも、フルタイムで一人必要なほどの仕事ではありません。(繰り返しますが、ファウンダー3-4人で頑張ってる状態のベンチャーで、です。)

  • 直接のユーザとはならない企業とのアライアンス作り

今日日、他社とのアライアンスはAPIでテクニカルに解決、というのがスタンダードとなりました。

FlickrのファウンダーのCaterina FakeがBizDev2.0と名付けたのがこれ。web1.0の時代は一社一社会って交渉して契約して一生懸命技術的につないで初めてできた「他社サイトに組み込んでもらう」という行為が、今では、APIと、その利用に際しての定形契約フォームを公開すればできてしまう、と。

とはいえ、誰も知らないサービスのAPIをメジャーなサイトが使ってくれるはずもないので、そこはせっせと誰かが人的にアプローチしないとならないわけですが、でもそこで得たフィードバックはAPIとして技術的につくり込むのが必要なわけで、ここでも、上記の「製品のアイデア固め」と同じく、「作る」がボトルネック。あんまりたくさんビジネスの人がいても仕方がないのですよ。

参考:Cannibalize Business Development by Popularizing your API

おまけ:大企業とのアライアンスに期待しない

あまり超アーリーステージで「大企業と組もう」と考える人もいないかもしれませんが、コードが書けない人が複数集まって起業したベンチャーだとこういう方向に話が流れがちなので、おまけで。

GoogleがYahooと提携したような、「夢のディール」は魅力的。「超メジャーなあの大企業と組めさえすればうちの事業は万全」・・・・そんな夢を皆が描くものです。でも、大企業に10年いた私が思うに、殆どの場合それはただの夢です。理由は:

  • 交渉にとんでもなく時間を取られる

たとえ、興味津々で相手から寄ってきたとしても、実際に何かの契約に至るには果てしない時間がかかるのが普通。別に日本だけじゃなく、大企業はどこでもそう。大企業のお相手をする間に、どれだけのことが実現できるか・・・・。失われる時間はほんとに貴重。

  • 実は大して成果もないことも多い

さらに、実際に契約に至ったとしても、成果のほどは意外にも低い、というのもこれまたありがちな話です。「上の人」が決めた話を「現場の人」が嫌がったり、ひとつの部署が決めた話を他の部署が拒否したり、など理由はいろいろですが、大勢が関わるとモノゴトは最初決めたようにはなかなか動かないもの。(これはアメリカ企業のほうが、日本企業よりひどいことが多い)。

コンシューマ向けの場合、「大企業のお勧めなら買ってもらえる」などという甘いもんじゃなかったりもしますし。

  • 大企業に振り回される

契約に至ったとしても、先々、いちいち大企業の社内政治・方針転換で右往左往。

もちろん、プロダクトによるし、アライアンスの種類にもよるので、一概に「大企業と組むのは愚の骨頂」とまでは言いませんが、少なくとも初期のインターネットベンチャーで大企業と組もう、なんて考えるだけ時間の無駄。

(なお、それなりに会社のサイズが大きくなってからでも、「全社の命運をかける」みたいな感じで大企業とのアライアンスに取り組まないほうがよろしいかと。「上手くいったらラッキーだけど、何も起こらないのが期待のデフォルト」くらいがちょうどいい感じかと。)

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参考:

Startup Sales – Why Hiring Seasoned Sales Reps May Not Work

Is Strategic Money an Oxymoron?

 

↓ JTPAシリコンバレーカンファレンスもお忘れなく

Silicon Valley Conference

初期のインターネットベンチャーでビジネスの人がすることは限られる」への2件のフィードバック

  1. >大勢が関わるとモノゴトは最初決めたようにはなかなか動かないもの。(これはアメリカ企業のほうが、日本企業よりひどいことが多い)。
    あ、やっぱりそうなんですか。私はシリコンバレーでも、技術系でもないけど、アメリカの組織に勤めていて、大勢が関わると、何か話が違ってしまう、という感じを強く持ち始めていて、その辺、日本はどうなんだろうと思ってました。
    その理由としては、やはりアメリカでは、上の人が今の職場での業績を、次の職場へのステップアップ、としか考えていないことが多く、そうなると今の職場ではそんなに必要なくても、華やかに見えるものとかに手を出しがちだからでしょうか。やれやれ。

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  2. 本当にいいエントリーですね〜
    本題もいいけど、
    >大企業とのアライアンスに期待しない
    がサイコー♪
    M菱商事から社内派遣でINSEADに来てた人が「商社ではevery dayがOB (organizational behaviorの方) 」と言ってたのを懐かしく思い出します。

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