人間は危機に直面すると固まるらしい

久しぶりに目からうろこの発見であった。「人間は生死に関わるような大惨事に直面すると、パニックで逃げ惑うより、心も体も麻痺して動かなくなることの方が多い」そうなのですわい。The Unthinkable: Who Survives When Disaster Strikes – and Whyという本に書いてあった。

私のかなり大きな恐怖の一つに「パニックに陥った群衆に踏みつぶされて死ぬ」というのがある。「新宿駅で大地震に見舞われる」とか。何度もその「最悪の状態」を想像したので、映画で見るようにフルカラーでリアルに見ることができるくらい。

「パニックに陥った群衆に踏みつぶされなければ、他の死に方はいいのか?」

という疑問をもたれる方もいると思うが、まぁ、長い間拷問されて、まぶたを切り取られたりしてチリチリと少しずつ殺される、というのはもちろん嫌だが、それ以外は「パニック群衆」よりましかな、と。核爆弾が落ちるなら、頭の上に落ちればOK、巨大隕石で人類が滅亡するなら、隕石がこれまた頭の上に落ちてきて欲しい。苦しい病死を迎えるくらいならスイスの合法安楽死団体にGo。

・・・と、ちょっと話がずれたが、とにかく「パニックに陥った群衆」というのが大変怖いのであります。だから東京からも脱出したし。(それだけが理由ではないが)。

(ちなみに、「群衆がパニックに陥いり押し寄せること」を英語ではstampedeという。通勤電車等々で毎日疑似stampede状態が発生している日本に、それを表現する言葉がないのは中々興味深い。)

しかし、この本を読んで大変心が安らかになった。というのも、冒頭に書いた通り、人間は中々パニックに陥ったりしないようなのだ。

本書は、ジャーナリストの筆者が、9/11時のWorld Trade Centerや、津波や、飛行機事故を生き延びた人、あまたの銃撃戦を経験した警察官、火事の修羅場をくぐり抜けた消防士など、「自ら危機を体験した人」や、リスク対策、群集心理などの「専門家」をインタビューして書いた本。インタビュー相手は数百人にも上る。

筆者の分析によると、人間の危機の対処は3つのプロセスを踏む。

  • 危機に直面すると、人間はまず「否認」する。「こんなことが起こっているはずがない」と、目の前の危機を全否定
  • あるところで危機の甚大さに気づき、次は、取るべき行動を考える「検討」プロセスに入る
  • そして検討結果を「実行」

ところが、「気づき」の後は、かなりの人が「全身から力が抜けて体が動かない、頭もぼーっとなって何も考えられない」という「茫然自失状態」に陥ってしまうのですね。

その状態になっても、他の誰かから力強く行動の指示を出されると、ゾンビー状態ながらになんとか脱出行動に出られるのだが、そうでないと、「茫然自失」のまま死んでしまうことが多々ある。例えば、火事の現場で、円卓を囲む椅子に座ったままの複数の炭化死体が見つかったりする。まだ火が回りきらないうちに、「避難せよ」という指示があったにもかかわらず、である。

9/11でも、自分のいたフロアに留まって亡くなった人たちが多数いたが、多くは避難しようとしなかったのではないか、と筆者は推測する。WTCに数千人の社員がいながら、死者が13人しかでなかったモルガンスタンレーでは、「リスク管理責任者」が元軍人で、戦場で茫然自失する部下を統率した経験を持つ彼が、拡声器で「動け動け」と連呼し続け、最後は歌を歌って励まして、やっとのことでみんな階段を下りて行ったそう。「責任者」氏は、「他の誰かから力強く行動の指示」が必要である、ということを実戦経験で知っていたのですね。(ご本人は最後までWTCに残り亡くなった)。

バージニア工科大学の銃乱射で、とある教室で唯一無傷で生き残った男子生徒は、全く身動きできなかった、と語る。

人間に限らず、どんな生き物も、甚大な恐怖に直面すると体が麻痺するようだ。捕食者から攻撃を受けたとき、動かない方が生き残れる確率が高いからだが、人間においては、「恐怖で麻痺」は死に直結することの方が多い。しかし人間は「恐怖で避難」という次のレベルには進化しきっていない・・・・というのが、「危機で固まる」理由ではないかと筆者は語る。

一方、パニックになるのは、いくつかの条件が重なった時のみで、それは「閉じ込められる可能性がある」「周囲との連帯感が失われる」など。が、非常事態では人間は瞬時に周囲との連帯感を感じることが多いそうな。見知らぬ人同士が助け合うのがデフォルト。なので中々パニックにはならないとのこと。

***

というわけで、人はパニックになるより硬直する傾向がある、とわかって私はいたく安心しました。

しかも、この「硬直・麻痺した状態」においては、本人は痛みも恐怖も何も感じなくなる模様なので、ますます安心。何も感じず、無駄な努力にあがくこともなく、椅子に座ったまま(または立ち尽くしたまま)死んで行くのは、群衆に押しつぶされるよりずっとよい、と私は個人的に思います。はい。

なお、会社、国レベルでも「こんなに絶体絶命状態なのに、どうして何もしないんだろう?」と、傍目に思うことが多々ありますが、実は組織レベルで茫然自失してるだけなのかもしれませんね。

あ、あと、本には、危機に直面しつつも、まだ動ける状態だと、「リーダーと思われる存在」に、合理的理由なく、ついて行ってしまう、ということも起こることが書いてある。例えば、町中で爆発があり、そこにパトカーがやってくると、人々は意味もなくパトカーに突進、それでも最初は爆発現場から逃れる方向に走る訳だが、パトカーのところまで来ると、そこでくるっと180度方向転換して、パトカーにくっついて爆発現場に戻ってしまう、という謎の行動を取る。(災害時に、こうしてまとわりついて来る群衆をどうやってさばくかが警察官、消防士などの大事なノウハウらしい)。

この「危機においては、合理的な理由なくリーダー(っぽい)人にくっついて行ってしまう」というのも組織レベルでもあるかもですね。

(本では、「では、どういう人が茫然自失とせずに毅然と行動できるのか」、についてもあれこれ書いてありますので、興味がある人は読んでください。)

The Unthinkable: Who Survives When Disaster Strikes – and Why

人間は危機に直面すると固まるらしい」への18件のフィードバック

  1. つい最近、私のたずさわっているITプロジェクトで深夜商用作業でトラブルが発生し、現場担当者の一人が茫然自失。危機といっていい事態かどうかはわかりませんが、こちらを読み他人事に思えませんでした。ポチッとしたいと思います。ご紹介ありがとうございました。(Twitter 経由でお邪魔しました)

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  2. すごくよく分かる気がします.お化け系マジメに怖いから,お化け屋敷で「キャー!」とか言う余裕ないもん.固まる.(だいぶ恐怖のレベルが低いけど).軍人さんはその辺鍛えられるんですね.本能を乗り越えるノウハウっていう感じですね.
    雑踏に関しては,自分では耐性高い方だと思っていた(中高と新宿雑踏を潜り抜けて通学したので)んですが,先日リヨンに行ったらバスの混み具合に閉口し,東京に帰れないかも・・・という危機感を抱きました.

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  3. >ご本人は最後までWTCに残り亡くなった
    かわいそう…。ご立派に行動されたのに。
    しかし何が怖いって、
    >まぁ、長い間拷問されて、まぶたを切り取られたりしてチリチリと少しずつ殺される
    こういう妄想が次々出てきてしまうChikaさんが怖いっす。

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  4. 人間も同じなのですね。
    暴れている馬も屠殺場に入ると急におとなしくなる、
    というのを祖父から聞いたことがあります。

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  5. それほどの重大な危機でなくても、ただ「ヘンな人に襲われた」とかでも固まってしまうのが常人ですね。ウチの子供が通う空手道場では、最初に帯の色があがる昇級テストでは、「先生が悪者になってその子を連れて行こうとするのに抵抗して逃げる」というテストをやります。先生は強くてコワイので、演技だとわかっていても、それでも本当に子供たちは固まってしまいます。いつも元気な子でも、ジタバタすらできない。あれを見ていると、なるほどー、ああなっちゃうのかー、と思ってしまいます。
    そのときに言われるのが「絶対に戦ってはだめだ、子供が大人に勝てるわけがない、とにかく、逃げろ」ってことなんですが、逃げられもしない。それで、とにかく自分で行動を起こせるまで何度もやりなおさせ、まわりの親たちが一生懸命声援して、ようやく子供は動き出す。
    ・・なので、この本の話、とってもよくわかります。

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  6. じゃあ、ちかさんのブログを読んで、焦ってGREを受けた僕は、「(日本に)閉じ込められる可能性」を心配しているのかな(笑。
    でも、お年寄りがたくさんいる国では、国債を発行しまくって子孫になすり付けるっていうのも、合理的に思えますが・・・ちかさんはどう思いますか?

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  7. 阪神淡路大震災でもそんな感じだったようだ。
    とりあえず逃げ惑ったり騒いだりする人はあんましいなくて、
    その場に立ち尽くす人の方が圧倒的に多かった。
    自分が平気だったのは………ユーカンだったからと思いたい。

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  8. 昨年、人身事故のすぐ後の電車に乗って複合ドミノ倒しを体験した者(女)です。
    超超満員電車でパニックが起きるとどうなるか。意外に男性が叫ぶ。「しぬ~」とか「あぁ△×%◎÷◇>~」とか。思わず黙れ!と怒鳴りつけたくなりました。普段通勤電車にいない子連れ主婦や年配者もいたので。
    そしてブレーキの度にじわじわ増してくる荷重。ほとんど意識喪失しかけた私は、つり革に指2本と片足つま先立ちで斜めになったままそれでも終点まで持ちこたえました。骨挫傷してましたが・・(今でも後遺症に悩まされてます)
    その時、私もちかさんと同じことを考えましたよ。戦場で死ぬのとパニクった群集に踏み潰されて死ぬのとどっちがいいか。
    結論は、前者(戦争経験がないから言えるのかもしれませんが)。圧死のじわじわ迫りくる恐怖だけは二度と味わいたくありません。

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  9. その論文は、単に一つの観察を全体に当てはめているだけです。
    人は、エネルギー準位、つまりトーンを下げていくと、怒り、恐怖、無気力となって行きます。無気力の段階で意志を無くし行動しなくなります。
    心理学なんて、その論文程度のもの疑似科学です。

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  10. >お年寄りがたくさんいる国では、国債を発行しまくって子孫になすり付けるっていうのも、合理的に思えますが・・・
    それは「合理的」ではなく「利己的」では?
    >意外に男性が叫ぶ。「しぬ~」とか「あぁ△×%◎÷◇>~」とか。思わず黙れ!と怒鳴りつけたくなりました。
    個人的には「意外かな?」という気がします。
    ジェットコースターで「キャー」と悲鳴を上げるのは女性と相場が決まってるようですが(一応脳かなにかの性差と関係しているらしい)、楽しいを超えた悲鳴となると、「キャー」も言わなくなるでしょう。
    そういう時に「こんちくしょう」とか「死ぬ~」とか強がりみたいなことを言うのが男性であろうと女性であろうと、そんなに不思議ではないと思います。
    >>ご本人は最後までWTCに残り亡くなった
    >かわいそう…。ご立派に行動されたのに。
    今最新のスタートレックを見ていたんですが、懐かしの「コバヤシマル=テスト」が出ていましたよ。
    コバヤシマルのような事態に現実に直面する可能性は何十年も前から想定されているわけで、その時にリスク管理責任者が先に逃げ出すことが絶対に許されないことは、本人が一番良くわかっていたことでしょう。

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  11. 私はどういう死に方も一長一短だって思いますが(だって、じりじり死に近づくほうが、そうしている間にだれかに助けてもらえる可能性が少しはあるから)、大きなショックを受けると、体が麻痺するのは、本当のようですね。車に乗っていて、後ろから追突されたことがあるのですが、そのときも意識はあり、大きな怪我も無かったけど、頭と体が分離したみたいな感じで、救急車のお兄さんに「どこが痛いか。」とか聞かれても、答えようがないっていう感じでした。

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  12. 強姦被害者に対する「なぜ逃げなかったんだ」という発言がありますが、ご紹介の分析、「逃げられないものなのだ」ということを傍証するかも知れませんね。
    そういう私は強姦未遂にあったことがありますが、そのときの自分の反応はとても興味深いものでした。「これは強姦だ」と気づいた瞬間に自分の中で「パチッ」とスイッチが切り替わる音、そして「どんな非人間的なことをしても逃げおおす。相手を殺してもいい」という声がして、「違う自分」になりました。結果として、相手が男性4人だったにも関わらず逃げられた。そしてそのことが、自分の人生において一番の自信になっています。私は危機に直面したらスイッチが入って逃げおおせる人間なんだという。
    ただ冷静に考えると、それは私が勇敢だからでも特別なわけでもなく、当時性犯罪に興味があり、強姦される可能性を何度もシミュレーションしていたからなような気がします。普通人はそういうことをシミュレーションしないものですので、私は強姦被害者が「動けなかった」というのは全く真実だろうと思いますし、そもそも動けようが動けなかろうが、被害者の対応に加害者の罪の重軽が左右される理由はないと思っていますが。
    というわけで、
    >(本では、「では、どういう人が茫然自失とせずに毅然と行動できるのか」、についてもあれこれ書いてありますので、興味がある人は読んでください。)
    という部分に興味を持ちました。読んでみたいと思います。

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  13. chikaです。
    >強姦被害者に対する「なぜ逃げなかったんだ」という発言
    本には、この話も出てきます。確か推定40%が「動けなくなる」と書いてあったような気が。最も、「動けなくなる」という反応が出やすい「危機」の一つとして例証されていました。
    >何度もシミュレーションしていたから
    逃れられて何よりでした。
    本では、危機から逃れる方法は、ほぼこれしかない、となってました。そもそも脳の構造、脳内物質の組成で、人間の危機に際しての行動パターンは決まってしまう面もあるが、「避難訓練」を重ねることで、実際の危機に際しても行動に出られる、と。
    ホテルの部屋に入ったら、非常階段の場所を調べるだけでなく、一度はその階段で一階まで降りて外に出てみること、を勧めています。「そこまでやるか」という感じですが、実は私、常日頃からホテルに泊まると必ず非常階段の位置を確認するところまではいつもやってたのですが、この本を読んだ直後、香港のホテルで実際に階段のあるところにいってみたら、従業員のサービスエリア(リネンがなどが重ねて置いてある)を通り抜けないと階段に行き着けないことが判明。黒煙の中で判断を失ってたら、とてもこれは無理だな、と実感しました。。。。

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  14. >人間に限らず、どんな生き物も、甚大な恐怖に直面すると体が麻痺するようだ。
    うちの実家の前の道では、猫や狸がしばしば車に轢かれて死にます。敏捷な小動物が、夜間に車のヘッドライトの前で体が固まってしまうのは、こういう事なのですね。
    >香港のホテルで実際に階段のあるところにいってみたら、
    はじめてネーザン道の重慶マンションのゲストハウスに宿泊した時、ここはすごい雑居ビルだから、火事になると逃げ遅れるよと言われ、私も階段で地上までの経路を確認した覚えがあります。

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  15. ピンバック: ERが緊急事態を乗り切る方法 : FX 為替チャート

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