死と税金と憲法上の黙秘権

ちょっと前に、「スタンフォードのロースクール出身で高級コールガールをしていて、その収入の税金を払わなかったので国税に追われ」ている元ご近所さんの話を書きましたが、その時コメントで

tax evasionのみchargeですか?アメリカでprostituteは合法なのでしたっけ?

と頂きました。売春は殆どの場所で違法です。(ネバダ州は合法だけど)。しかし、売春の証拠をつかむのは難しいのでそちらはあきらめ、代わりに国税が調査に当たっているのですよ。

アメリカの国税は、アルカポネの時代から、

「それ以外では尻尾を出さない犯罪者を、脱税で追い詰めお縄にする」

という役割を担っております。(アルカポネも結局脱税で捕まったように)。

「この世の果てまで追ってくる、決して逃れられない恐ろしいもの」という意味で税金は死と同じ、ということで

death and taxes

という表現もある。

ついては、麻薬販売、売春など、違法な行為で稼いだ収入もきちんと税金を払うべし、というのが基本ルール。アメリカ人が、まことしやかに「どんな違法な収入を申告しても、決して国税は警察に報告したりしないんだよ」と言うのを聞いたこともあるが、軽くインターネットを調べた感じでは、そこまで厳格なものではなく、納税申告に犯罪行為を記入したら証拠として利用可能らしい。(注:犯罪者の方は弁護士にきちんとご相談ください。)

一応論争としては、

「違法な収入でも税金を払え、というと、納税申告書に収入の元となった違法な行為を書かなければならない。これは黙秘権の行使に反し憲法違反」

というのが昔あって、裁判で争われた模様。黙秘権はアメリカ憲法修正第五条なるもので定められた権利なので「The Fifth Amendment」という。

(ちなみに、口語で「それは答えられないよ」みたいな意味で「I’ll take the fifth」と言ったりする。固く言うと「黙秘権を行使する」と言ってるわけです。)

で、裁判で争った結果、「違法行為の内容を書かなくてもいいから収入額は正しく申告、それに基づく税金もきちんと納税すべし」ということになった。国税であるところのIRSのサイトにも「第五条があるから税金払わない」というのはダメだ、と書いてある。

で、この「黙秘権を行使しつつする納税申告」を通称「Fifth Amendment tax return」という模様でございます。

つまり、収入の元となった行為のところに「黙秘権行使」と書き込むわけです。ただし、こう書くと当然の事ながら、監査が入りやすくなるらしく、しかもその監査はかなりややこしいものになる模様。黙秘権行使の申告をして監査が来たら即座に税専門の弁護士を雇え、と書いてある本もあった。

ちなみに、こうした犯罪収入の納税をどうするかは頭の痛い、しかしかなりありがちな問題であるらしく、こんなページもありました。あと、脱税で国税に追われている人が、どう納税申告したらいいか、なんてのも。(納税申告は1年過去に遡って行うので、「過去の犯罪を自ら暴くのか?」という悩ましい問題が生じる模様)。

というわけで、違法行為でも税金は払おう、と。

しかし、ロースクール出身のクリスティーナが払っていなかったということは、実はやっぱり上記をいろいろ考えた上で、脱税をするほうがリスクが低い、ということなんでしょうか?

死と税金と憲法上の黙秘権」への8件のフィードバック

  1. どうでもいい豆知識。アメリカで売春が合法な州はロードアイランド州とネバダ州のふたつ。
    ロードアイランド州は、いわゆるたちんぼと売春宿の経営は違法なので、やりたい人はネットとか使って個人的に屋内でやればいい。
    ネバダ州は、40万人以下のカウンティだけがカウンティごとの厳しい規制のもとで売春宿を経営する権利を欲しい人に与えることができる。ので、ラスベガス(のあるカウンティ)では違法。

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  2. 税法は最も勉強しなくてはいけないことの多い分野のひとつで、JDの学生がLLMに進学する珍しい法域でもあります。(他の専門でJD修了者がLLMに行くのは聞いたことがありません。)
    ABAの必修科目でもなく、CAの司法試験科目でもないので、taxの授業を一切受けなくてもロースクールを卒業できるし、弁護士にもなれるんですよ~。
    クリスティーナさんは税法をまったく勉強したことがない、という可能性もあるかも。 😉

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  3. 素朴な疑問、愛人を託っている政治家(の愛人)はほぼ確実に贈与税を脱税していると思うのですが、こいつにはマルサが入らないのはなぜなんででしょう。

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  4. 立件が難しい犯罪でも、派生する偽証、脱税などの容疑で犯罪者を追及するのがFBIの常套手段みたいです。マーサ・スチュアートやマリアン・ジョーンズもインサイダーや薬物使用では起訴されませんでしたが、偽証で
    刑務所行きになっているし、先週有罪になったテッド・スティーブンズ上院議員も収賄は追求されませんでしたが、地元の有力者から受け取った25万ドルにものぼる様々な「贈り物」をちゃんと申告しなかったということで重罪になっています。

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  5. なるほど!と思ったのですが、どこでコレを活かせばよいのやら・・・。
    要は税金はちゃんと納めましょうということですかね。

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  6. chikaです。
    >マルサが入らない
    入るんじゃないですかね、多分。ちょっと浮気、くらいはあっても、「愛人を囲ってる政治家」って相当少ないと思いますが。スーパースキャンダルだからなぁ・・・。(Edwardも消えていったし・・・・)
    >どこでコレを活かせばよいのやら・・・。
    「絶対一生役に立たない知識」こそ、知る喜びの王道ではありませんか!!

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  7. ブラピ主演の「ジョーブラックをよろしく」の中で、この死と税金のハナシが一つのキーポイントでしたね。この背景を知らないで観たときは???でした。

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  8. >>「絶対一生役に立たない知識」こそ、知る喜びの王道ではありませんか!!
    詩情ですねぇ。有であるが無駄である。有と無。

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