前回に引き続きSecond Life。今日は「一体全体、誰がSecond Lifeを使ってるの?」というテーマ。
結論から言うと、
「Second Lifeは、割と年季の入った世界のオタクのコミュニティ」
現状ユーザーのどれくらいがオタクかはさてはおきつ、「まずはこの手のユーザーに受け、それをバネに一般ユーザーに広げる」、という「二段ロケット型事業拡大」の道を推移している、というのは間違いない。
(ちなみに、オタク=geekです。褒め言葉ですので、お間違えなきよう。)
よく知られることだが、メディアで騒がれてる割には、アクセスしてみると閑散としているSecond Life。
前回も言ったとおり、1CPUあたり20-30人というのが大体のキャパで、1Sim(Second Life内単位エリア)が1CPUで、しかもSimは16エーカーと大きいので当然のことではある。
一応、予め大勢の人が来ることがわかっているイベントがあれば、複数のCPUをクラスター化することでもっと大勢集まることも可能らしい。一方、スクリプトをたくさんくっつけたアバターが集結するとかなり苦しい模様。佐藤さんは「鷹の爪の吉田君にトランペットを持たせて、ひよこが5匹後ろからついている」というアバターらしいが、こういう人がたくさん集結すると困るようだ。
CPUのキャパに近くなると、そのエリアはクローズしてしまい、誰も入れなくなる。
ということで、入れるエリアは閑散とした雰囲気。また、人がそれなりにいたとしても、「見知らぬ人同志が大勢で自然発生的おしゃべりに花を咲かせる」、みたいなことはまずない。(何かのセールスの人が声をかけてくることはありますが。)
じゃ、みんな何してるのか?無料で入れるので、「とりあえず様子見に来ました」という人もフラフラといることはいるのだが、多くが、粛々と3Dオブジェクトを作っているんです。
私の数少ないSecond Life内会話経験でも
1)通りがかりの家のドアを開けたら開いたので中に入った。そしたら中に人がいた。何してるの、と聞いたら
「ダビンチ柄のすりガラスを作っている」
とのこと。「このガラスどう?」と聞かれたので「きれいなんじゃない」と言ったら、「そう」といって会話終了
2)蜂をペット代わりに連れて歩いていたら
「自分で作ったの?」
いや違う、そこでもらった、と説明したら会話終了。
最初の質問が「どこで買ったの」とか「どこでもらったの」じゃなくて、「作ったの?」というところに「みんな自分で何かを作っている」というSecond Life特性が現れているかと。
もちろん、自分の狭い経験だけで判断するのはあまりに独りよがり。しかし、Linden Labの内情に詳しい人も
「アクセスしてるのは、少なくとも2006年前半時点では、変態と3Dグラフィクスを自分で作りたい人が大半だった。」
とのことでした。「変態」は、Second Life内でサイバーセックス行為にいそしむ皆さん。(teledildonicsなんていう単語もある)。ドイツ人のハードコアコミュニティがあるらしい。ただし、3Dオタクでない単なる変態が秘め事にいそしむには、Second Lifeはかなり敷居が高い。「局部」からして、自分で作るか、買ってきて装着するかしなければならない。ということで、「変態」は「3Dオタク」の部分集合であろう。
以上、多くの人がせっせと静かにものづくりに励んでいる、というのが少なくとも1年前までのSecond Lifeの在りようなのであった。
しかし、「3Dオタク」だけで、「登録者数百万人」なんていう規模になるのか?
ここには「英語オンラインビジネスは最初から国際事業になれる」という秘密があるのであった。
今年5月の国別
アクティブユーザーのうち、比率が1%を越す国はこのグラフのようになる。
ちなみに、アクティブユーザーとは、過去1ヶ月に1時間以上ログインした人、というのがLinden Labの定義。これを見ると、アメリカが4分の1しかない。一方、ヨーロッパ諸国を全部足すと48%と半数近い。
(ただしこれは、単純なユーザー数割合。ログインした時間総計での割合をみると、アメリカのユーザーが35%と多くはなる。しかし、ヨーロッパは時間総数でも46%とやはり半数近い。)
ということで、「3Dオタク」という、一国だけで見たらニッチな層でも、世界から集めれば相当数になりえるわけで、設立当初から世界を狙える英語圏の強みがここにある。(他の米国オンライン事業では、「海外ユーザー増加に、海外での広告営業が追いつかず、コストばかり増えて収入が伸びない」という問題を抱えるところすらある。)
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次にユーザー数の推移を見てみる。
サービス開始当初の2003年9月からの登録者数と有料会員数の推移が下のグラフ。
赤線がアカウント数、緑がユニークユーザー数、黄色が有料会員数。Second Lifeは無料で利用可能だが、登録時にクレジットカード情報を入力する必要がある。これを元に数えたのがユニークユーザー数。一方、一人で複数アカウント持つことも可能で、それが赤線。
黄色の有料会員は、登録者総数と比較すると地を這っていてよくわからないので、有料会員数の推移だけ取り出すと下のグラフのようになる。こちらは、2005年1月からの数字。
ユニークユーザーは、「とにかくこれまでに登録した人全部」という積分値なのに対し、有料会員は毎月の会費を納めている人なので、よりサービス拡大の実態を反映していると言える。一時に比べると伸びは鈍化しているが、それでも、去年の秋口から一気に拡大しているのがわかると思う。
一方、ピーク時の同時アクセスユーザー数は、2005年末が5000人、2006年8月頃で1万人、今年の1月で3万人、最近が4万人程度。大体同時アクセスユーザーの10倍位が正味利用者という推定が業界的にはあるようで、そこから考えると、現在大体40万人くらいが正味ユーザーで、うち9万人が有料会員、という感じ。
話を戻して、世界のオタクを集積させるとどれくらいのサービス規模までいけるのか。
1年前くらいまでは、殆どのユーザーが単なる3Dオタクだったという仮説に基づけば、
- 有料会員2-3万人
- 正味のユーザー10万人
- 積分値登録アバター数100万人
くらいまでは軽くいける、ということになる。私の個人的感覚では、「1年前までは殆どオタク」、というのはかなり控えめな数値で、多分今でも相当数のユーザーがオタクと思われるので、そう考えると有料会員7-8万人、正味ユーザー30万人、積分値アバター500万人くらいまでは、世界のオタクでカバー可能かと。
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さて、さらに、Second Lifeを利用する3Dオタクの中身であるが、今年の5月時点での年齢別利用者分布はこうなる。青い棒が過去1ヶ月に1時間以上ログインしたアバターの数で見た割合、橙色が利用時間で見た割合。
結構年がいっている人が多い、というのが他のバーチャルワールドと比較したSecond Lifeの特徴である。
45歳以上も10-15%いる。平均年齢は一般エリアが30歳。(これ以外に17歳以下専用のTeenエリアがあって、こちらの平均は15歳。)去年後半あたりでは平均33歳だったので、やや若くなってきてはいるのだが、それにしたって割合年がいっている人が多い。
どうりで、20前後の人がたくさん集まるSNSのようなノリノリ感がないわけです。
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以上、Second Lifeは、「割と年季の入った世界のオタクのコミュニティ」というのが私の独断を交えた分析であります。少なくとも、その手のコアユーザーであるところまで立ち上がったところで、一般ユーザーも「どれどれ、ちょっと見に行ってみようか」とやってくるまでになった、というのが事業拡大の推移であることは間違いありません。
ちなみに、この手の
「一部のオタク(かっこよく言うとアルファギーク)に受けたゆえにその後一般層に広まる」
っていうのはオンライン系事業の一つの王道ではあります。(この間取り上げたFlickrも同様の拡大パターン。)日本だと、アニメ、アキバなんかがそういうパターンかな。オンラインビジネスではとっさに思いつかないんですが何かありますか??
なお、Second Lifeに関するデータの出典は、Linden Lab発表のSecond Life Key Metrics。こちらでエクセル形式ファイルがダウンロードできます。こういう風にとことん詳細な数字をなだれのように提供されると、謎の分析オタク心が刺激される、というのもあり。世の金融・経済オタク系の人たちが、これまたせっせとSecond Life貨幣経済の分析などしています。この辺も玄人受け戦略の一環なんでしょうね。
千賀さん、こんにちは。
Seond Life については、自分も興味があり、次世代のWEBブラウザーに
取って代わるのかな、、、、、
なんて、勝手に考えていましたが現実はまだまだ時間がかかりそうですね。
クライアントプログラムがオープンソースになっているので、
次にサーバープログラムがApacheのようになれば、
すぐにでもサーバー立ち上げたい、などと考えていたのですが・・
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セカンドライフって友達から聞いたことあります…
話は変わりますが、現地と日本語学校のダブルファイナルのため、アップが遅れましたが、アニメコンのレポートはこちらです…
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渡辺千賀さん、はじめまして。こんにちわ。
立教大学法学部で政治学を勉強している、4年生の桜井啓太という者です。
千賀さんのお噂は、工学部に行った友人からかねがね聞いてました。「こんな素晴らしい人がいるよ。」と。
しかし、技術系出身であるということもあり、著作を読む事も「保留」していたのです。
そんな中、4月14日の日記を読んで驚きました。
というのも、僕がこれからゼミで扱うテーマがダルフール紛争とルワンダのツチ族とフツ族だったからです。
千賀さんが日記で挙げられていたソースは僕がチェックしていないものがあり、コメントの内容自体も鋭くて共感しました。
渡辺千賀の知的好奇心は国際政治にまでアンテナを張っているのか、と感服しました。
日記も非常に読み応えのある内容で、これから読むのが楽しみです!著作もできるだけ早く手に入れます。応援(?)してますので、これからも質の高いコンテンツ、期待してます!
最後に、僕の方からダルフール問題で一つURLを載せておきます。
http://www.cfr.org/publication/13129/crisis_guide.html?breadcrumb
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