奇奇怪怪のIPO

お久しぶりでございます。さて、新日本監査法人が発行するIPOセンサー春号(PDFファイル)に掲載頂いたコラムです。二ヶ月くらい前に書いた白紙小切手会社と裏口上場の元ネタでもあります。

では本文です。

***

最近立て続けに何件かの風変わりなIPOがあった。「白紙小切手会社」「裏口上場」といった通称で呼ばれるものだ。

まずは「白紙小切手(blank-check)会社」。「よい企業を見つけたら買収する。その買収資金を集める」ことをうたい文句に株式公開する会社だ。より正式には「special purpose acquisition company (SPAC)」と呼ばれるが、事業の中身が何もないから白紙小切手会社。

白紙小切手会社上場は80年代に流行った資金調達方法だが、当時は詐欺そのものや詐欺すれすれの手法の会社が続出した。たとえば、白紙小切手会社を上場させ、その上場益で自分が所有する会社を次々に買って資金を還流させる、といった問題が発覚、その後の証券取引委員会の取り締まり強化に伴い下火になった。

しかし、ここ数年、白紙小切手会社はより公明さを増した形で復活、2003年8月からだけで43社が上場、総計30億ドル、実に3500億円以上の資金調達を行った。

そのうちの一社で3月14日に上場したAcquicorは、元Apple社の重役が設立したことで話題を呼んでいる。Apple共同創業者のウォズニアック、元CEOのアメリオ、元CTOのハンコックの3人の知名度を売りに、上場時に1億5千万ドルを調達、最初の一週間で株価は10%超上昇し、好調な滑り出しとなった。もちろん、買収するまで「事業内容は不明」なのだが。

その前日、3月13日には、別の白紙小切手会社が、サンフランシスコのジュースチェーン、Jamba Juiceを買収した。買収金額は2億6500万ドルで、白紙小切手会社側は、上場時に集めた資金に加え約2億ドルを新たに私募調達してまかなう。Jamba Juiceは全国に532店舗を持ち、売り上げ3億4500万ドルで順調に成長中の未上場企業。上場しても問題ない規模を備えた会社であり、扱う商品も天然の果物をふんだんに使った栄養満点のジュースで、白紙小切手会社の悪いイメージからは程遠い健康的企業だ。

一方、2月に「裏口上場(back-door listing)」を行ったのは、Handheld Entertainment社。こちらは、休眠状態の上場企業を買収、中身を自社事業に替えることで実質上場を果たした。いわば上場企業の換骨奪胎である。Handheld社はインターネットからダウンロードした音楽を聴くためのポータブルプレーヤーを作っており、2005年の最初の9カ月で2万台を販売した実態ビジネスのある会社。が、競合製品であるApple社のiPodが毎日15万台売れているのに比較すると、成功への道のりはずいぶん遠い。裏口上場で調達資金した金額も760万ドルとかなり小粒なディールではある。しかし、創業者のカール・ページが、Googleのファウンダーであるラリー・ページの実兄ということでささやかながら注目を集めた。

裏口上場は、reverse mergerとも呼ばれるが、白紙小切手会社同様、多くの問題を引き起こした過去があり、評判は決してよくはない。通常の公開に比べるとゆるい基準で上場できてしまうことを利用、中身の怪しい未上場会社を裏口上場させ、市場を操作して株価を上昇させたところで売り抜ける、というのが基本手段だ。また、詐欺ではなくても、結局は事業がうまくいかないケースも多い。1987年から2001年までに行われた裏口上場121件のうち、54%が2年以内に上場取消か倒産に至っているという調査結果もある。とはいうものの、証券取引委員会によるルール強化の結果、問題のある裏口上場は減り、Handheld社のようなそれなりにきちんとしたケースも登場してきている。

さて、こうした「白紙小切手会社」や「裏口上場」の増加を促しているのは何か。答えはヘッジファンドである。世界的な金余りのせいでヘッジファンドは近年急増、現在8000のファンドが総額1兆ドルの資金を運用しているとされる。そうしたヘッジファンドの中には、上場企業の私募に参加するものも多い。その資金を狙っているのだ。

そしてそのヘッジファンドの原資の半分以上は機関投資家。年金や生命保険、大学の寄付金などだが、そうした機関投資家の間で特にヘッジファンド利用率が高いのが、実は日本である。欧米の機関投資家のうちヘッジファンドに投資をしているのは3割に満たないが、日本ではその割合は5割以上とされる。ローリスク・ローリターン、着実さを重んじる日本人が営々と貯めた資金が、著しくハイリスク・ハイリターンな資金調達に回っているわけだ。グローバル金融の不思議、といえよう。

***

(注:ちなみに、「奇奇怪怪のIPO」というタイトルは新日本の方がつけたものですが、こういうのを書くと、「アメリカの資本市場はめちゃくちゃなのであるな」という感想をもたれる方もいるかも知れませんが、普通のIPOは至ってまっとう、というか、ガバナンスや情報公開に関する締め付けが厳しすぎて上場する会社が減っているほどでございます。かわりにオランダあたりで上場するのが楽らしいです、はい。)

奇奇怪怪のIPO」への6件のフィードバック

  1. 日本だと最近、IT企業が上場廃止になりましたけど、その会社のポータルサイトなんか、Yahoo! Japan とそっくりだし、パクリをしてる会社の価値(株価)が上がるって、変だとは思ってましたけど、一時は上がってたし。。。
    ただ、投資家の不勉強も一因だと思いますよ。日本でも、儲かる株はないかなって姉が言ってますよ、最近。

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  2. >>締め付けが厳しすぎて上場する会社が減っているほどでございます
    ほんとみたいですね。
    僕の友人も、最近日本に帰国してIPOを狙ってます。
    彼曰く、「日本の方があまあま。それだけでなくて、
    買収されないか?とか、解任されないか?とひやひや
    しなくてもいいし、起業家には日本の方が楽なんじゃない?」
    あとは、気持ちの問題なんだろーなーという気がします。

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  3. yozo-san,
    アメリカの場合、企業価値が3億ドルを越す企業の主要株主は機関投資家。株価も機関投資家しだいで決まるわけですが、日本だと一般市民がメインと聞いておりますので、知識不足も仕方ないのでは。機関投資家の投資担当者はそれが仕事でやってるわけですし・・・。
    Funa-san,
    日本は、公開市場での株価が高い分、いったん上場すると、その後さらに買収されるという「final exit」の可能性が低くなる、という問題はあります。(特に海外の大手企業から見たら、日本の上場ベンチャーの企業価値はとても手が出ないレベルになりがち)
    アメリカでは、上場してさらにその後買収される、という「会社のライフサイクル」は散見されます。
    もちろん、アメリカでも
    「上場したけど、その後泣かず飛ばずで株価も低迷、でも誰も買ってくれないよー」
    というつらい会社もいっぱいあり、一概には言えませんが。

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  4. Yuki-san,
    理論的には可能ですが、実際上は難しいです。
    「日本での収益がメイン」
    など、日本で資金調達する理由が明確でないと、さすがに日本の投資家も「自国で上場できないから日本にきたのか」と思うわけで・・・。

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