VoIPの破壊力と通信規制

9月16日日経産業新聞ITに掲載されたコラムです。通信規制緩和の話。

その前に、ちょっと背景を説明すると・・・

カリフォルニアでは、数年前に電力危機がありました。原因のひとつは、電力の卸価格は規制緩和したのに、消費者へのリテール価格は規制されたままだったこと。規制緩和は、
「供給できる量が少なくなれば、値段があがる」

「値段が上がれば、消費が減る」

「供給できる量が減った分需要も減って、一番適切なところで値段が均衡する」
という、「風が吹けば桶屋が儲かる」方式でバランスをとるためのもの。卸だけ規制緩和して、消費者側の価格が変わらないと、「供給量が減ったのに、消費者はがんがん使い続ける」ということになって、電力事情が逼迫。

同じようなことが、VoIPを「最後の藁」として、通信でも起こるのでは、という危機感の表明でございます。ゆがみのパターンは違えど。

とかいって、自分もVoIP使ってるんですよね。アメリカでは、携帯電話・固定電話・VoIP電話の3つの間で、自由に電話番号を移行できるのが破壊的威力あり。我が家も、家で使っていた番号を、VoIPに移してしまいました・・・。では本文へ。

***
最近、カリフォルニアの我が家でVoIP(ボイス・オーバーIP)を導入した。以前からケーブル・インターネットによるブロードバンド(高速大容量)通信接続ができたので、それを利用した。電話番号も従来から持っていた電話番号をそのまま移行した。これで我が家には通常の電話線を利用する電話は存在しなくなったことになる。

通信インフラ先進国の日本に比べれば、米国でのVoIP普及は遅きに失した感もあるが、やっと立ち上がってきようだ。なんといっても安い。筆者が使っているサービスでは、毎月たった八ドルの基本料金で留守番電話や不在転送など豊富な機能がある。さらに月に十ドルほど追加すると、アメリカの番号に加え日本の電話番号を持つこともできる。

日本で誰かがその番号に電話すると、カリフォルニアで電話がなる、という仕組みだ。同じ会社が提供するサービスでは月三十五ドルほどの固定価格で、アメリカ、カナダはもちろん、中国や韓国、日本、シンガポールとなどアジア各地にかけ放題、というプランまである。「日本と頻繁に電話をしたら、月の電話代が十万円」というのがほんの十年前だったとは信じがたい。

このようにVoIPは、既存ビジネスがガラガラと崩れてしまう「破壊的技術」だ。コンサルティング会社のマッキンゼーの試算によると、VoIPの普及で失われる通話料収入は日本で二十七億ドル、米国で五十五億ドルとされている。利用料が下がることは利用者にとっては望ましい限りだ。だが、こうした価格破壊は果たして通信事業にかかるコストを適切に反映したものなのだろうか。

通信は多くの国・地域で政府・当局による独占的な企業による運営でスタートする場合が多い。そこから政府・当局が規制緩和を徐々に進めて現在に至る。

簡単な構図に置き換えれば、既存の通信事業者を「不当な強みを持つ悪玉」、新規参入者を「守られるべき善玉」と位置づけ、新規参入を促し、競争を促進する施策がとられてきた。

米国ではこうした施策が強力に推進されてきた結果、およそ千八百に及ぶ電話会社が全国に乱立した。地域、長距離に加え、携帯、新規参入地域電話会社などだ。一方、通信事業は巨額のインフラ投資が必要なうえ、その回収には長い年月がかかる。過疎地など利益が出ない場所でも提供しなければならない。

守られるべき善玉として、既存のインフラを安価に借用する権利を得た新規事業者が増え、しかもインフラ構築を手掛けてきた既存事業者の力が弱まれば、新たなインフラ投資に踏み切る体力を備えた事業者がいなくなる可能性がある。実際、米国のブロードバンドは大いに遅れており、日本のように各家庭にまで光ファイバー通信網が届く日は恐らく永遠に来ないだろう。

VoIPはこの乱戦状況にさらに新たな競合をもたらすだろう。VoIP専用企業に加え、ケーブルテレビ会社も電話事業ができることになる。最近ではネット競売最大手の米イーベイがVoIP大手のスカイプ・テクノロジーズ(ルクセンブルク)を買収すると発表した。

VoIPは特にその技術の破壊度が大きいがゆえに、短期間に業界の勢力図を塗り替える可能性がある。「気がついたら電話があるのは都市部だけ」といった困った事態だけは、どこの国・地域でも避けて欲しいものである。

***
注:なお、文中で触れたマッキンゼーのレポートはこちら
A new route for telecom deregulation

おまけで、同じくマッキンゼーのこちらも面白いです。
Regulation that’s good for competition
「競争のためになる規制」ですね。

VoIPの破壊力と通信規制」への9件のフィードバック

  1. 日本だとNTTの人、どーするんでしょうね? 仕事がなくなっても、あれだけの大人数、雇うところなんて、あるんでしょうか?
    こっちの電話番号はVoIPは050、携帯は080、090、固定は相変わらずなんで、移行できないようです。
    光ケーブルは月、5000円なので、それと工事費も3万数千円(無料キャンペーンもたまにありますけど)。そこまで払う気は、いまはあんまり起きてません。
    テレビを流してくれれば、使うかもしれません。

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  2. NTT東の従業員は、すでに1万人台です。西も同じぐらいです。
    全世界がスカイプ(もしくはその類似のもの)のユーザーになることは既定路線なんでしょう。光の回線貸しでは、この程度の従業員で運営できる?
    NTT Bフレッツの光電話はVoIPです。基本料金は500円/月からです。同番移行が可能です。既存の回線契約は留保でき、その月間支払いは0円です。
     優良子会社のドコモも、500円/月かけ放題携帯が普及すれば、同じく縮小する方向に加速的に進んでいくのでしょうね。
     ま、インフラは、国民の税金で作ったも同然の日本ですから、

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  3. NTTは、セミ独占企業であり、消費者からネコババした電話債券料など資産も保有しています。従って、一般の企業と単純比較はできません。それゆえ、既設の通信業者について、マッキンゼイ報告も心配していません:
    QUOTE Billions of dollars can be lost or won by operators—incumbents and attackers alike—as a result of regulatory decisions. Under current conditions, some incumbents may be set to lose significant revenues and profits. But they may compensate to various degrees by cutting their costs, providing their own VoIP or other services, adapting their strategies, or indeed influencing regulatory decisions. Moreover, some of the incumbents are also mobile operators. And consumers are the real winners if prices fall.UNQUOTE

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  4. ボイスメール!

    日本からシカゴにカムバック!
    日本滞在中に、幾度か会社に電話する機会があった。・・と日本ではボイスメールがまだまだ普及していないことに気付く。携帯は普及しているのに。
    「はい、�xxxです。」…

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  5. 問題は、過当競争のため消費者にかえって悪い状況、即ちchika-sanが言われているように都市部でしか電話が使えないなど不便が起きないかが心配です。日本の通信産業が競争力を更に失い中国の会社とかSBCに乗っ取られてお金が海外へ流出し、結局国民の生活水準は下がるってことになるかもしれません。NTTを含め大会社の悪口はよく言われますが、単純にNTTがどうなるっていうミクロな問題ではないように思います。

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  6. 日本にいるときは、NTT許すまじー、と思っていましたが(NTTのみなさん、ごめんなさい)しかし、たとえネコババビジネスで儲けたとはいえ、そのお金で、日本の電機メーカーを国際競争力のある企業にし(N○○とか、東○とか。。。)かつ全国に優れたインフラを整備し、しかも優れたカスタマーサポートを行うという点で、実は優秀であった・・・と、アメリカに来てからはしみじみ思います。
    それくらいアメリカのテレコムインフラは酷いんです。。。。SBCも酷いけど、SBCがいなくなっちゃったら、もっとひどいことになるのでは・・という気もする。
    giveme5×2-sanのおっしゃるとおり、「単純にNTTがどうなるっていうミクロな問題ではない」と思うんですよね。テレコムは第二の航空産業になってしまうのか。またいつか書きたいと思いますが、忘れぬうちに私の頭に浮かぶことをメモ的に書くと:
    – 比較事例
      ==既存航空会社vs新規航空会社(Southwestとか)
      ==GM/Fordの年金負担vsトヨタとか
      ==会費でやっと成り立つ本屋、Keplers
    – 通信がインフラとサービスに分離、インフラは公共事業として税金で運営?
    – 自由化の行き過ぎ:競争が崩れる速さに規制は付いていけるか?
    ・・・うむ、散文。またの機会に。

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  7. NTTは日本メーカを米国から守り競争力を高める国家プロジェクトを進めました。JRも同様ではないかと思います。様々なサービス品質はあがり、多くが米国より日本の方の品質が高く、米国では何か文句をいうにしても電話は待たされるしメールは返事無いしdisgustingっていう経験をお持ちの方は多いでしょう。ただ、日本の会社は国際競争力はあると思いますが、本当に海外で頑張っているのはToyotaをはじめとする自動車メーカー等に限定されてきています。家電メーカーも韓国、中国にやられてきています。海外での交渉力も問題なのかもしれません。やはり日本は他国とは海を隔てていて、外国=海外ですね。鎖国の影響も引きずっているのかもしれません。ボーダーレスの時代といいつつ日本にはボーダーがありますね。しかし米国の問題の方がより複雑かもしれません。う~ん。。。

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  8. アメリカで日本の電話番号を持てる?

    アメリカでは、携帯、固定電話、VoIP電話の電話番号体系が同じなので、自由に番号を移行できると知っていましたが、VoIP電話では日本の電話番号を持つことが出来るそうです。
    VoIP電話のアダプターを日本に持ってくれば、そのまま使えてしまうような気がします。発信すると…….

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