新日本監査法人のIPOセンサーという季刊誌に最近書いたコラムです。
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アメリカで病院にかかると、たいていの外国人はびっくりする。べらぼうに高いからだ。盲腸のようなちょっとした手術で200万円、アレルギーで点滴してもらって20万円、処方箋で買う抗生物質が1万円、といった調子だ。がんの手術ともなれば一千万円単位。保険があるからいいものの、そうでなかったら、うかつに怪我もできない。
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医療が高価な理由のひとつに、健康保険制度が自由化され、健康保険会社が1600社以上もある、ということが挙げられる。
日本を含めた世界中のほとんどの国には、国民皆保険制度がある。保険運営者は基本的に国に一つなので、価格交渉で大きな力を発揮する。たった一つの保険会社に嫌われたら、病院も製薬会社も困るからだ。その結果、治療や診断といった医療行為の値段や薬価を低く抑えることが比較的容易だ。しかし、米国では、1600の保険会社がそれぞれ個別に交渉をするため、勢い高値になりやすい。
一人当たり医療費は、日本、ドイツ、フランスといった先進国のほとんどが横ならびなのに、米国だけがその2倍近くなっている。薬の費用だけ取ってみても、アメリカはヨーロッパの6割り増しだ。しかも、この差は過去10年で2倍に増加、このままいけば2012年には、その差は400%に及ぶ、という予測値すらある。「生きるために働く」のは未開の国だけかと思いきや、豊かなアメリカでも、医療費という「生きるためのコスト」が人生設計の切実な問題になってきているのである。
しかし、こうした高い医療費のせいで、ヘルスケア産業のイノベーションが、加速度的にアメリカに集約してきているのもまた事実。
世界の製薬産業の利潤のうち、実に6割以上がアメリカで生み出され、ヨーロッパを全部合わせても2割に満たない。大手製薬会社の内部収益率は、米国では8%なのに、ヨーロッパでは1%という悲惨な数字となっている。結果としてヘルスケアのR&Dは、伝統的に製薬に強かったヨーロッパから、市場に近いアメリカへとどんどんシフトしている。1992年には、薬品の開発費は、ヨーロッパが100億ドル、アメリカ90億ドルと、ヨーロッパがリードしていたが、2002年には、ヨーロッパ210億ドル、米国260億ドルとアメリカ優位に逆転した。(注)
しかも、ヘルスケアのR&Dを推進するのは軒並み博士。バイオ関連のベンチャーでは、社員のほとんどが博士ということも珍しくない。そうしたベンチャーがどんどん生まれれば、高度な技能を持った人々の雇用も促進される。結果として、ヨーロッパからアメリカへの「頭脳流出」が起こっているとされ、実際アメリカのバイオベンチャーを訪ねると、スイス人、フランス人、ドイツ人といったヨーロッパ出身者に出会う機会も多い。こうして世界の頭脳が集まると、さらなるアイデアの創出も促される。
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こうして、アメリカの高医療費は、回りまわって世界の頭脳を惹きつけ、起業を促進しているわけだ。しかし、その一方で、健康保険の自由化により、「国民の15%が保険未加入」という恐ろしい事態も招いている。そのほとんどは貧しい人々だ。「世界から優秀な人材を集める一方、国内の貧富の差は拡大」というアメリカの縮図が、ヘルスケアの世界でも起こっているのである。
なぜこんな事態が政治的不安を招かないかというと、アメリカ人の多くが「今に自分も金持ちになれる」と思っているから。貧乏人に苦労を強いつつ、夢を持たせることにもなんとか成功しているところが、アメリカの危うさでもあり強みでもあるのである。
(注)出典:Imbalanced Innovation: The High Cost of Europe’s “Free Ride” ; In Vivo, March 2004
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この寄稿の内容は ヘルスケアのテクノロジーに注目されていますが、
同時にヘルスケアのマネージメントについてもアメリカに集約していますね。
ビジネススクールでもMDを取られてから
あらためてマネージメントを勉強し
病院経営、もしくは組織管理
さらには顧客サービスの改善を図っており
そういった病院専門のコンサルティングファームも
ありますよね、ともうすでに
ここ5から10年ほどの話ですが。
資金もシステムも十分ではないので
知恵を絞って 新しいシステムを構築する、
は Googleにも通じる姿勢ですが
厳しい環境が優れたシステムをはぐくむ のは
普遍の事実のようで、どっとはらい。
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今月からUCSD Rady Schoolに来ていますが、生徒の
1/3~1/2はBioMedのPhDや実務経験者だったり、
台湾のDermatology専門MDだったりとBio&Medが
偉く多いです。
FlexのMBA生徒は地元のStartupに勤めていたり、
自らStartupをやっていたり。
一方で、大学がオファーする、というか加入が
ほぼ義務化されたHealth Planは内容がしょぼく、
その割に生徒の負担はでかいという皮肉な状況。
本当にこの記事の内容、そのまんまです。
ホットなビジネスはSilicon ValleyからSyringe Valley
へと移っているんでしょうか。どっとはらえ。
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いつも興味深く読ませてもらっています。
アメリカの医療費が高額なのは、薬の値段が高いこともあるようです。
以前、60minsで取り上げられていましたが、アメリカでは製薬会社も効能も全く同じ薬が、他国よりずっと高く売られているそうです。他国(たとえばカナダ)では国が薬価をコントロールしているので低く抑えられています。製薬会社は投資の回収のため、アメリカで高くうって儲ける必要があるそうです。米国内に利益が集中する理由はこのためかもしれません。
内外の価格差が大きいと並行輸入が増えて価格が均衡しそうですが、安全が確認できないなどの理由をつけてFDAがこれを禁止しています。製薬業界による巨額のロビー活動のおかげです。このロビー活動費も薬価に上乗せされるわけです。
じゃあ自由化しないで日本みたいなのでいいかというと、それはそれで、ムダや官と業界の癒着、診療報酬詐欺などの温床となってしまうという問題を抱えています。
貧しいひとが最低限の医療が受けられない状態は、やはり異常だと思います。どこかで手を打たないと政治的不安を呼ぶことは間違いありません。
普段”アメリカンドリーム”という言葉を耳にすることが全くないくらい、アメリカは学歴&階級(クラス)社会です。
ほとんどの場合、どのクラスに生まれたか、で将来が決まるといっても過言ではありません。よくいわれる貧困の”vicious circle”です。
アメリカ社会の安定は、いつか金持ちになれるという”hope”によるものではなく、どうにもならないという”hoplessness”によるものかもしれません。
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http://www.mainichi-msn.co.jp/science/medical/news/20050814k0000m040114000c.html
日本の健康診断(心電図など)は年間9000億円、過去30年間で総額が約30兆円に昇るが、殆ど有効性が無く、「ムダ」であると。(8/14毎日新聞)
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アメリカの薬の高価格について、ロースクールの授業でTRIPという国連の知的財産保護の条約(だったかな?)についてのトピックで、アフリカ諸国などで、エイズの薬がそうした薬の製造特許を持つアメリカのメーカーからの輸入物だと高いので、自国でコピーして生産するという手段に出て、アメリカの製薬会社が怒ったり、かと言って、国際世論では、貧乏国に特許権を基に高値の売りつけを図るのは、非人道的との批判があって、結局、アメリカのメーカーが安く売ることにした、とか聞きましたが。ブラジルも同様の理由で国営企業でエイズ薬を製造を開始したとか(情報が正確か確認してませんけど。)
特許を持ってるからって、貧乏人の死を放置する姿勢は人倫に反している、と思いません?
それとも、高値で売らないと、倒産するんですかね?
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http://traveliteindia.com/medical.asp#2
インドの手術料は米国の1/3~1/4(米国vsインド 手術代金の比較)インド最大の病院チェーン「アポロ・ホスピタル」は、最先端医療でも驚くべき実績を持つ。たとえば、心臓手術の施術例が55,000人で、成功率99.6%。これだけ技術水準が高く、かつ手術代がやすいので、最近では欧米やアジア近隣諸国からも患者が押し寄せる。その名も「Medical Tourism」が、アポロを含むインドの病院の新事業として急成長していると。(週刊ダイヤモンド2005/09/17より)
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はじめまして。いつも興味深く読ませてもらっています。
>なぜこんな事態が政治的不安を招かないかというと、アメリカ人の多くが「今に自分も金持ちになれる」と思っているから。貧乏人に苦労を強いつつ、夢を持たせることにもなんとか成功しているところが、アメリカの危うさでもあり強みでもあるのである。
やっぱり奴隷制度をもっていた連中は、収奪する技術が我々とは根本的に違いますね。恐ろしいです。
かといって、「貧民層のみなさん、あなたたちは、いくら努力しても無駄なんです!」という啓蒙のしかたもおかしいでしょうし。なんかやるせないです。
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故郷を離れ外国に移住するドイツ人急増、最も人気なのは隣国スイス
(記事概要) 最近テレビの番組でも騒がれているように、故郷であるドイツを離れる…
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