資本主義は気持ち悪い

daniel.jpgインドをはじめとした海外へのアウトソースの話題が花盛りだ。

大学院時代のクラスメートでも、アウトソース会社をやっている、という人に結構会う。先月スキーに一緒に行ったZiaはパキスタンのコールセンターを経営、Yaradはエチオピアでソフトウェア開発をする事業を始めたと。(エチオピアにエンジニアがいたのか・・・と実はこっそり思った)今月になって、Palo Altoのダウンタウンでばったり出会ってランチを一緒にしたDaniel(写真)は、ウクライナでソフトウェア開発をする会社のCEOなのだそうだ。ウクライナあたりには、高い教育を受けたシニアなコンピュータサイエンティスト・エンジニアがザクザクいるらしく、年3万ドルでシニア(年寄り、という意味ではなくて、高度な技能のある、ということ)なエンジニアが雇えるとのこと。

同じくクラスメートだったイスラエル人(LA在住)のUriに「みんなアウトソースしてるのに、私は日本にアウトソースできるものがない」とブツブツ言ったら、「イスラエルだって給料が高いからアウトソースできない」。ということで、2人で同病相哀れむ。(冗談ですが)

それくらいアウトソースは盛ん。雑誌でも、海外へのアウトソース話が載らない号はないくらい。例えば:

Business Weekの2月3日号The New Global Job Shift
半導体やソフトウェアの開発のみならず、建築設計や投資銀行のアナリストの仕事まで流出している、ということで、「The truth is, the rise of the global knowledge industry is so recent that most economists haven’t begun to fathom the implications.」と締めくくられる。

Silicon Valley Biz InkのIndian workers’ exodus from valley to India picks up steam
シリコンバレーのインド人が母国に帰りはじめている、という記事。レイオフにならなくても、自ら選んで帰る人がたくさん、と。シリコンバレーでは貧乏な暮らししかできない人でも、インドだったら召使付きの悠々自適の生活が待っている。

Forbes:The Politics Of Outsourcing
しかも今年は大統領選。ということで、アウトソースが今年の大統領選に与える影響について。Kerry候補は “outsource President Bush.”などと言っているようだが。

***

しかし、である。ホワイトカラーの職が海外に奪われるというのはセンセーショナルで、「仕事を失ったインテルエンジニアのAさんの代わりに、インドのBさんが雇われた」という個人のお涙頂戴話は記事になりやすいが、実は海外へのアウトソースには、それほどのインパクトはない、というのが大方の分析結果だ。景気が回復してきているのに雇用が戻らないのは、アウトソースではなく、ITによる生産性の向上が要因、と。90年代にせっせと投資したITの成果が今になってボディーブロー的に出てきたのである。このあたりを冷静に記載しているのはこんな記事。

Business Weekの3月22日号、Where Are The Jobs?

The real culprit in this jobless recovery is productivity, not offshoring. Unlike most previous business cycles, productivity has continued to grow at a fast pace right through the downturn and into recovery. One percentage point of productivity growth can eliminate up to 1.3 million jobs a year. With productivity growing at an annual rate of 3% to 3 1/2% rather than the expected 2% to 2 1/2%, the reason for the jobs shortfall becomes clear: Companies are using information technology to cut costs — and that means less labor is needed. Of the 2.7 million jobs lost over the past three years, only 300,000 have been from outsourcing, according to Forrester Research Inc.

生産性が1%向上すると、130万人の職がなくなる。過去3年間に失われた270万の職のうち、たった30万人分がアウトソースのためだ、と。

Economist2月18日号The new jobs migration
海外でより安くできる仕事はどんどん海外に移管するのがアメリカのためだから、保護主義に走ってはいけない、と説く。

(なお、海外でより安くできる仕事は、その国に任せたほうがいい、というのはComparative Advantage(比較優位)の法則。Competitive Advantage(競合優位)と似ているので誤解されることも多い概念だが、もっと根源的に重要で、かつ数学的にすっきり説明されます。興味のある方は、こちらなどわかりやすいかと。)

***

EconomistやBusiness Weekに言われるまでもなく、海外で安くできる仕事は海外に出すに限る。社会主義的・共産主義的保護主義は決して国の経済を強くしない。海外に奪われるような仕事をしている人は、なるべく早くそれに気づいて、せっせと新たなスキルを習得する方が本人のためでもある。「雇用を守る」などとpaternalisticなことを言うトップに10年も引き伸ばされたあげく、「やっぱり海外に移管しちゃいました」といわれるくらいだったら、さっさと新たなスキル習得にかけた方がよい。

とはいうものの、その過程はつらい。誰だって仕事を失いたくないし、できれば「新たなスキル習得」なんていう面倒くさい挑戦をせずにコトを済ませたい。

しかし、「いったん痛みがある」という状態があることで、はじめて人間はやる気を出して必死に「痛くない方向」へと移っていこうとするものだ。もちろん、「痛くない」状態でも、クリエイティブにやる気を出す人だっているが、社会全体が動くにはそういう殊勝な人だけでなく、不特定多数が「痛くない方向」へと舵を切っていかないとならない。そのためには、「痛み状態」があることが大切。これが資本主義の原動力だ。

この間日本で、
「国民全体の知識を底上げせずに、とある株式市場ルールを変えると、変化が理解できる一部の人が得をして、知らない人が損をする。それはとてもよくない」
というようなことが話題になった。私は
「でも、そうやって損をしたり得をしたりする人が出ることで、初めて大勢が『よし、せっせと株式市場のルールを勉強しよう』とやる気を出すんじゃないのか。そういう動機付けもなく、多くの人に知識を徹底するのって、一体何年かかるんだろうか」
と思ったが、これを話し始めると長いので黙って聞いていた。

日本的には、
「いったん『痛い状態』になることで、迅速にゆり戻しが起こって、よりよい状態にさっさと移行する」
という資本主義の原則は、ものすごい気持ち悪いんだろう。なんといっても途中が痛い。しかも、決して大団円的ハッピーエンドは来ない。社会・経済にはたくさんの要素があって、それがいつも移り変わっているから、いつもどこからか「痛い要素」が出現、全てが調和したハッピーな世の中なんて絶対に実現しない。(実現したら人類の進歩の終わりだ)。あー気持ち悪い。

上のBusiness Weekの記事もこういっている

What happens if all those displaced white-collar workers can’t find greener pastures? Sure, tech specialists, payroll administrators, and Wall Street analysts will land new jobs. But will they be able to make the same money as before?

そう。アメリカ人だって怖い。「アウトソースされて首になって、それっきりだったらどうするんだ」という恐怖は付きまとう。それでも、その不安定さを抱え持ったまま走るのが資本主義。

この「気持ち悪い感じ」「不安定な感じ」が楽しめると、資本主義も決して悪くないんだが。私は、かなり気に入っています。はい。

資本主義は気持ち悪い」への15件のフィードバック

  1. 最近、中国とカナダのエンジニアと一緒に仕事をしました。連絡を取り合う時の時差がけっこう大きな問題で、最後はみんな24時間体勢で仕事していましたね。それとは別にいろいろと苦労したのですが、言葉の問題よりは開発手法の違いを調整するのが難しかったです。(アーキテクトが優秀であればそれも大きな問題にはならないかもしれませんが、その優秀なアーキテクトが日本には少ししかいないのです。)
    みんなそれぞれ状況は違うのですが、それなりに生き残っていく方法はいろいろあるわけで。日本社会にある等質・均等を好む習慣をするっと抜けてリスクをとってみると、怖いのも確かですが周囲を出し抜いている感覚があってちょっとだけおもしろく感じたりもします。

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  2. 資本主義の本質は、綱渡りを楽しめるかどうか、と言ったことでしょうか。「明日はわが身」を感じつつも「明日があるさ」と考えられるのは強くなるためには必要なことかもしれないです。
    日本は、綱渡りするにしても、幅1キロくらいのロープの上を「危ない危ない」とか言いながら進んでいるような社会になっているのかも。

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  3. 資本主義は気持ち悪い

    資本主義は気持ち悪い
    海外オフショアの話の興味があるので、読んだのですが、読んでいてここがポイントだと思った。
    社会主義的・共産主義的保護主義は決して国の経済を強くし�…

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  4. 生産性が向上すると職がなくなるというのは恐ろしい話ですね。
    ITに限らず、industrial automation などに関しても、
    「人間が単純労働から解放されてより創造的な仕事に
    従事できるように」という目的がよく謳われます。
    しかし、創造的な仕事の能力は個人差が激しく、
    「要らない人」がどんどん増えてしまう・・
    というのは下記の受け売りです。
    http://www.cool-knowledge.com/
     

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  5. このオフショア話で思い出すのが、
    チャペックの書いた「山椒魚戦争」ですね。
    梅田さんがCNETで連載中のBLOG
    「シリコンバレーから見える中国の脅威」もあわせて
    読むと、小説のストーリーがぴったりとはまって来るように
    感じるのは私だけでしょうか・・・
    まあ、オフショアで人類滅亡までは行かないので
    大丈夫ですが :)

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  6. Offshore

     アメリカではアウトソーシングの話がここのところ世間で話題に登ることが多い。特にSE系の仕事がインド・中国などのアジア・海外での賃金の安い地域へ流出していることで、ホワイトカラーの仕事もよそに奪われると、雇用面での不安をあおる話がよく出る。
    たまたま、よ…

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  7. tomo-san,
    「なんでもアウトソースできるわけではない」
    しかし、
    「できるもの、した方が効率がいいものはアウトソースした方がいい」
    ということでしょうね。時差は曲者ですよね。。。
    「怖いのも確かですが周囲を出し抜いている感覚」というのは、多分私の思う「資本主義社会で暮らす楽しさ」に近いのだと思います。そういう気持ちになれる機会がより多い社会なんですね。(日本と違って、あちこちで「ちょっとずつ出し抜く」努力がたくさん払われているので、「出し抜かれてるよ、とほほ」という思いをすることもたくさんありますが)
    taka-san,
    アメリカ人は基本的に「明日があるさ」的妙な楽観主義者が多いですが、これはやっぱり「デコボコはあるけど国全体ではパイが増えていく。」という自信に基づいてるのかも。まぁ日本もバブルのときはそう思ったわけで、アメリカの拡大がいつまで続くかが見ものですが。
    「競争が激化して、単に今あるパイを食い
    あうだけだったら、先進国の豊かさが中国やインドに奪われて終わりなんじゃないのか」という説もありますが、パイが拡大する余地はいくらでもある、と思います。どれほど人類が進歩しても必ず新しい発展のネタはある。っていうか、今わかってること・できることなんて、それほどたいしたことじゃない、とそう思うんですが。
    yugo-san,
    「要らない人」にならないようにがんばれば、なんとかなるんじゃないでしょうか。
    「要らない人」が出るのは一時的。そういう人が「やばーい」と、あせっていろいろ努力することで、より付加価値の高い仕事ができるようになる、というのが「一旦痛いけど、そのせいでよくなる」ということですよね。
    とはいっても、もちろんがんばってもどうにもならない人も局所的には出ます。そういう人には、キチンとセーフティネットを準備しないとならないですよね。
    とはいえ、
    「競争激化のせいで、多くの人が努力をしなければならない、それって大変なだけジャン」ということもあろうかと思いますが、
    例えば義務教育が始めて導入された頃は
    「これからは誰でも学校で勉強しなきゃならないんだ、大変だ」
    とか
    「勉強ができる人とできない人の格差が広がる」
    とか思われたんじゃないでしょうか。でも、結果的には、やってみれば、殆どの人がそれなりのレベルまではなんとかなるし、社会全体の生活レベルも底上げされましたよね。
    Honda-san
    すみません、山椒魚戦争、読んでいないのでわかりません。。。
    なお、「戦争」ということでは、上記の私の楽天的シナリオは、地球全面戦争とか、著しい天変地異(巨大彗星が降ってくるとか?)、そういうカタストロフィーがあったらやばいです。そんなことになったら人類の進歩どころの話じゃありませんね。。

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  8. はじめまして。
    以前からたまにこちらのブログを読ませて頂いていたのですが、今日、Daily Englishのエントリ「必勝英語勉強法」
    http://www.eigomaster.com/cgi/mt/archives/000056.html
    からまたこちらのブログにたどり着き、このエントリのタイトルに惹かれて読ませていただきました。言い得て妙です。
    資本主義には、それを支えるダイナミズム、変化する力あるいは性質が社会に必要なのだと思います。
    そのダイナミズムが、今の日本にあるかと言うと、よく分かりません。感覚的には、たぶん、ない。
    僕自身、ここ数年の間活力を失っていて、仕事が頻繁に変わるようになり、変わるたびにどんどん所得が低下してきています。
    今は、もう復活できないのか、というくらい落ち込んでいるのですが、このエントリを読んで基本に立ち返ったような気持ちになり、またがんばってみようと思いました。

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  9. おぐらさま
    私の場合、落ち込む→暗くなる→周りの人に暗いと思われる→いい話が来なくなる→落ち込む、という循環に入ると中々抜け出られなくなります・・・。そういうときに「とりあえずがんばって」とか他人に言われると、「がんばってないと思うのか」とむっとします。がんばっても上手くいかないときって、誰にでもあるんだと思います。
    とはいうものの何か脱出の術は無いのか・・・。おぐらさんがどういう状態かはわかりませんが、私の場合は、落ち込んだときは、太陽に当たる時間を増やすことにしています。(気分の変動と日照時間には因果関係があるという説を信じて)シリコンバレーは夏は夏時間になり、朝の日の出は6時と遅めですが、夜は夏至で9時過ぎ、今でも8時ごろまでは明るいのですが、こちらにきてから、夏場は本当に気分が晴れます。
    もしかしたら、日照時間の長い地方に引っ越すとよいことがあるかもしれません。あと、日本は日の出が早いので、早起きして早朝散歩に出て日に当たるとか。
    冗談でも茶化しているわけでもなく、真剣にそう思います。
    Cheers!!

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  10. chikaさん、お忙しいところ、お返事ありがとうございます。
    太陽の光に当たるのは本当にいいそうですね。
    僕は天気が悪くなると気分が落ち込みやすく、気持ちが天気に左右されやすいほうかもしれません。
    今は人生を上向きにするための感情の持ち方にとても興味があって、EQについての本を読んでいます。
    エントリの本題から外れたコメントになってしまい、失礼しました。
    chikaさんもお忙しい中、お体にお気をつけて。

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  11. Amazonと機械仕掛けのトルコ人(後編)

     Google BaseとかGoogleが立て続けにリリースする新サービスの陰に隠れてしまってか、ブログ上でもあまり活発に取り上げられていないようだが、Mech

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  12. はじめまして。Googleで「資本主義」を検索してたら、chikaさんのブログにたどり着いたので少し読ませていただきました。
    お金は人を良くもすれば、悪くもする。しかし、どちらかと言えば、お金は人を悪くしている方が多いと思う。
    一昔前、大金持ちの年配の知り合いが病気になり、亡くなる前、最後に、「欲を出すな。欲を出さず、じっと周りの人達を見ていろ。いい勉強になるぞ。」と言われた事を思い出しました。今、思い出すと、あの頃は六本木の六丁目周辺も下町の雰囲気が残っていた。そこで働く人たちも、人情味をもっている人が多く、「金儲けや利益を優先にしろ」などと誰もいわなかった。金より、どうしたらいい仕事が出来るか、そしてより多くの人に感動を与える事ができるか、そっちのほうに心を砕く人が多かったという気がする。
    私の人生を振り返って見ると、バブルの頃から、日本人の心が変わってしまったという気がする。当時から、バブル時期に精神形成をとげつつある少年少女のことが心配だと思っていたが、それが残念ながら現実になってしまったようだ。
    当時、中学生、高校生であった人たちが、人の親になろうとし、社会に責任をもつ世代になっている。ところが、バブル期の大人たちの狂乱を見て育ったせいなのか、我欲をかき、「勝ち組」になった人が人生の勝利者という「刷り込み」が行われてしまったようだ。刷り込みについては本人は無意識なので、一種、本能のようなもので、自分の「意志」でそうやっていると思っている。マインドコントロールも刷り込みの一種だろう。子供のころに刷り込まれたことは、よほどのことがない限り、消えていかない。始末のが悪いことである。自己犠牲とか社会のためとか、ひと時代前のまともな大人なら、心のどこかにもっていたものを欠落させてしまった人が多くなっている。若者に限らず、オッサン、オバサンの間でも、よく見られる現象だ。
    六本木ヒルズのビルを見るたびに、バブル経済が生み出した「罪」について思ってしまう。あの建物はそもそもバブル期に開発が予定されていたものだ。もちろん、バブルの「良さ」も少しはあったことは否定しないが、マイナス面が多すぎる。バブルを生じさせ、これを急速にしぼませたことによって、どれほど日本人が傷ついたか。
    一方で、役人たちのしたい放題。社会保険庁のあの無駄遣いなど、氷山の一角である。
    今の膨大な財政赤字の根源も、そこにある。ところが、当時の与党、自民党も旧大蔵官僚も、誰ひとり責任をとっていない。そんな事情を知れば、資本主義は良いと言えるのであろうか。とはいえ、お金はある程度なければ生活出来ないけど、必要以上にお金を持つと、自分を見失いやすくなるのではないかと考えられるので、必要以上にお金を持てば持つほど、責任感も強くしていかなければいけないとおもいます。お金を稼ぐのは技術、使うのは芸術だと思います。というわけで、「資本主義」って良いのか、悪いのか? 微妙ですね。

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