一般公開される米犯罪者、身近な「監視社会」の現実

日経産業新聞 IT時評に掲載されたコラムです。

***
デビッド・ブリンはその著書で「IT(情報技術)の発展により個人情報が公に広がることは免れない。そんな社会では、もはやどうやってプライバシーを守るかではなく、監視されることを前提にどう生きていくかが重要」という趣旨の発言をしている。

そんな「監視社会」の現実を突きつけられるようなサイトが公開された。カリフォルニア州による、性犯罪前科者の検索サイトである。州全体で十万人いる性犯罪前科者のうち、特に悪質な約六万人が掲載されており、住所、氏名、犯罪内容、写真入りだ。すでに他の四十五州で同様のサイトが公開されており、カリフォルニア州はずいぶん乗り遅れた。

もともとアメリカでは、性犯罪前科者は一生ずっと毎年地元の警察に自分の居場所を報告する義務があったが、この情報は警察だけが見るものだった。しかし、一九九六年に通称「メーガン法」と呼ばれる法律が制定され、一般公開されることとなった。

性犯罪者は再犯の可能性が高いが、その動向を警察が知っているだけでは犯罪を未然に防げない。メーガン法は、七歳のメーガンという少女が、近所に引っ越してきた性犯罪前科者に殺された事件をきっかけにできた法律である。

ただ、一般公開されたといっても、これまでは、警察に出向いてリストを閲覧する必要があった。しかし、検索サイトができたことで、それこそ、世界中どこから誰でもインターネット経由で見られるようになった。

検索は、犯罪者の名前、自分の住む場所の町名、郵便番号など、いろいろな角度から可能。特定の学校や公園の名前でも検索でき、自分の子供の行動半径にどれくらい危険な前科者が住んでいるか、親が確認できるようになっている。

検索結果は、前科者リストの一覧でも表示可能だし、前科者の住所が点々とビジュアル表示された地図でも表示できる。地図上の点をクリックすれば、対象となる前科者の詳細データが表示される、という「ユーザーフレンドリー」な設計となっている。

サンフランシスコからサンノゼにかけてのシリコンバレー全域が表示される程度の縮尺で地図を表示してみると、点が重なりあう危険そうな町もあれば、ほとんど空白が続くところもある。ためしに自分の住む町で検索してみた。結果は八人。すべて顔写真つきで、身長、体重、生年月日、身体的特徴などが克明に記載してある。

安全な町だと思っていたのに八人も性犯罪前科者がいるのか、と愕然。では、凶悪犯罪者が多そうなロサンゼルスではどうかと検索してみたら四千三人もいた。ということは「たった八人でよかった」と思うべきなのか。

それにしても、犯罪から身を守る側としては好ましい情報開示ではあるが、一生詳細な個人情報が公開され続けるのは恐ろしい。もちろん、犯罪者にならなければよいわけだが、リストに掲載される「悪質犯罪」には、十四歳以下の子供に対する猥褻行為も含まれる。日本でよく聞くような「電車で中学生に痴漢」といった行為でもリストに載る可能性がある。

犯罪者リストは、IT監視時代に、監視される側と監視する側の間の境界線が意外に細いことを如実に象徴している。 


今日のSan Jose Mercuryに老人ホームに入居している前科者の追跡調査の話が載っています。カリフォルニア全体では何十人もいるとのことで、その中でもSan JoseがあるSanta Claraカウンティに住む3人は住所・実名入りで載っています。老人ホーム入居の性犯罪前科者が他の入居者を襲った事件があるとかで危険、ということですが、本当に一生追跡されるんですね。

それから、サンディエゴに留学していた方のリスト掲載者遭遇体験はこちらにリンクを入れておきました。

一般公開される米犯罪者、身近な「監視社会」の現実」への12件のフィードバック

  1. 日本でやったら恐ろしいな...

    On Off and Beyond: 一般公開される米犯罪者、身近な「監視社会」の現実
    いや、性犯罪者や犯罪者側に立つ意見でない事を前提として。
    「メーガン法」を今の日本でやるのは無茶があると思�…

    いいね

  2. はじめまして。いつも興味深く拝読させていただいております。
    昨年6月までSan Diego近郊に住んでおり、興味本位でメーガン法サイトにてかつての住所で検索したところ、なんと同じアパートに性犯罪歴者が住んでいた事実を知り驚愕しました。アパート管理人の旦那さんでした。
    個人の所業を家族に絡めて捉えがちな人が多い日本で同様の情報公開を行う場合、加害者自身も然ることながら、加害者の家族を不当な差別から如何に守るかという点も、問題の一つになるのではと思います。

    いいね

  3. こんにちは。初めて書き込みします。
    ひっかかったところがあったもので。
    >日本でよく聞くような「電車で中学生に痴漢」といった行為でも
    >リストに載る可能性がある。
    とのことですが、この程度の(軽い)犯罪なら一生罰を受けるようなことではない、という主旨なのでしょうか?
    私は「電車で中学生に痴漢」も充分に重い犯罪だと思います。相手が子供ということ、その犯人が犯罪に及ぶ思考は短絡的で、幼稚で、再犯率もおそらく高いでしょう。
    そもそも日本でよく聞くようなと言われるほど、子供に対する性犯罪は多いということです。多いから、「それほど重くない」犯罪ということになってしまうのでしょうか。

    いいね

  4. totoro-san,
    うーん、私も中学校のとき電車で痴漢に会ったことあります。そのときはほんとーにいやでしたが、じゃぁ、その痴漢は一生個人情報を公開されるべきか、というと躊躇するものがあります。
    子供に対する犯罪が許されていい、ということでは決して無いのですが「13歳の子供のオシリ触って一生さらし者」というのもなんだかちょっと怖い社会のような。
    もちろん、痴漢は大嫌いですが。痴漢(に対する怒り)に関しては、こんなエントリーを大昔書いています。
    日本の痴漢1 http://www.chikawatanabe.com/blog/2002/12/post_2.html
    日本の痴漢2 http://www.chikawatanabe.com/blog/2003/01/post.html

    いいね

  5. 偶然ですけれど、今週のNYタイムズにPedophile(子供に対する性犯罪者)に関する長い記事が載っています。
    http://www.nytimes.com/2005/01/23/magazine/23PEDO.html
    記事に出てくる前科者はちょうど中学生ぐらいの子供に日本でいう「痴漢」を働いて、懲役20年、執行猶予30年を宣告されています(法律のことを良く知らないので、記事にあるSuspended after 30 daysの意味は解かりません。。。)多分、性犯罪者リストにも名前を載せることが義務付けられるのではないでしょうか。
    というわけで、「痴漢」の罪の重さも日本とアメリカでは大分違うような気がします。この記事には子供に性犯罪を働くのは異常性格者とは限らず、普通の大人でも何かの弾みで悪いことをしてしまう可能性は大いにあるそうです。それを踏みとどまらせるのは、社会の受け止め方と、刑罰の重さなのではないでしょうか。そういう行為を許容する、または事の重大さを軽視する雰囲気があれば、問題は無くならないと思います。
    アメリカで性犯罪、特に子供に対する犯罪が重大な社会問題として受け止められ始めたのは20年ぐらい前だったと思います。(その他、家庭内暴力やセクハラが公に論じ始められたのも、確かそのちょっと後ぐらいでした。)
    日本の社会ではこういう問題はどういう位置づけになっているのでしょう。新聞などで例えば家庭内暴力が話題になり始めたのは数年前のような気がするのですが。。。

    いいね

  6. Yuki-san,
    97年に2年間のアメリカ滞在を終えて一旦日本に帰ったとき、愕然としたのは「痴漢は犯罪です」というポスターでした。いろいろな駅にはってありました。「犯罪である」ということすら宣伝しないといけないのか・・・と怖い思いをしたものです。
    個人的には、痴漢は、
    「老若男女、誰でもかまわずレイプしようとする変態10人」
    と密室に1ヶ月くらい閉じ込めて、わけのわからない他人に迫られるのがいかに不気味なことかを身を持って体験して欲しい、という気もしますが・・。

    いいね

  7. 千賀さん、
    すごい意識の差ですねー。というわけで、前につかみ男さんがお書きになっていたコメントについても考えさせられてしまいました。
    「加害者自身も然ることながら、加害者の家族を不当な差別から如何に守るかという点も、問題の一つになるのではと思います」とお書きになっていますが、凶悪とみなされる前科者に対して極端な反応を示すのはアメリカ人も同じです。この前も出所してきた凶悪犯がベイエリアへ引っ越してくるというのでテレビや新聞で大騒ぎになりました。どこへ引っ越しても性犯罪者リストに載るのですぐに隣人にばれます。そしてその町の住民が住居の前で大挙デモをして追い出すので、今でも定住地が見つかっていません。子供に危害を加えた前科者は徹底的に社会から排除されます。
    「加害者の家族」ですけれども、つかみ男さんがおっしゃっているのは出所してきた前科者の奥さんや子供の事なのでしょうか。アメリカでは出所や執行猶予の条件として子供との接触を一切絶つ事を約束させられるという話を良く聞きます。加害者の子供も例外ではなく、多分自分の子供であっても一緒に暮らすことはできないし、第三者の監督無しでは会えないのではないでしょうか。でも、そうなる前に母親が離婚を申し立てて親権を要求し、再犯の可能性のある夫から子供を守ろうとする場合も多いと思います。あくまで守られるべきなのは子供です。
    前科者の人権と罪の無い子供を守る事とどちらに重きを置くかはその社会に住む人たちの価値観を表す問題だと思います。

    いいね

  8. Yuki-san,
    >前科者の人権と罪の無い子供を守る事とどちらに重きを置くかはその社会に住む人たちの価値観を表す問題だと思います。
    正論ですよねぇ・・・。そういえば、イラクの囚人を虐待した写真で有名になった兵士の女性の家族は、マスコミ攻勢に耐えかねてどこかにいなくなってしまっていましたね。アメリカだって、そういうことは多々あるわけで。。。
    一方で、アメリカでは、「他の州に行ったら、まるで他の国に行ったかのように前の情報が(かなり)消えて人生やり直せる」ということが多いですが、日本だと全国一律に情報・システムが成り立っているので、どこに行っても逃げられない、というのが怖いところでしょうか。少なくとも「前科者の家族(両親、兄弟、他モロモロ)」の人たちは、アメリカだったら遠くに引っ越せば大丈夫なように思うのですが。

    いいね

  9. 他の州に行ったらやり直せるって本当ですね。Everyone gets a second chance in Americaって言いますものね。そういうところが日本とは違うんですね。
    ところで、やり直しがきかないって、日本の不良債権の始末にこんなに時間がかかっている一因になっていません?アメリカでだったら沈みかけた船にはさっさと見切りをつけて新しいことを始めようと普通考えるし、80年代の銀行破綻や、近年のハイテクバブルも後始末はあっという間でした。でも日本の大きな銀行や会社で偉くなった人には他の所でやり直すというのはきっとすごく大変なことなのでしょうし、大量の失業を招くから世間に顔向けができなくなるのでしょうね。
    でも、そういう社会事情のせいで一部の人々が何時までたっても守られ続けて、悪いところは良くならないというのは世の中全ての人が迷惑をこうむるということですよね。
    話がどんどんそれてしまいました。

    いいね

  10. 冒頭に出てきたデビット・ブリンって、知性化の嵐3部作の彼でしょうか?ちょうど先日読んだばかりだったもので。

    いいね

sima2*blog への返信 コメントをキャンセル