裏をかけ!

Aribaが一見「死に体」である。1999年には一世を風靡したBtoBアプリケーションの会社だ。

Aribaの抱える問題の要点は、
1)現Chairmanが前CEOに、2001年に1千万ドル(プラス210万ドルの航空券代)を支払った。これは個人的金銭授受とされていたが、実は会社のexpenseとして処理されるべきものだった。
2)上記以外にも、過去のdisclosureに不正な会計処理が含まれているので、2000年にまでさかのぼって帳簿を訂正することに。
3)しかし、訂正作業が間に合わず、disclosure書類が期日までにSECに提出できない。このため、Nasdaqからdelistされる可能性が大。
4)実際にSECの非公式な調査が始まったことも、今日発表された。さらにいくつかの株主訴訟も起こされている。

ああ、もうAribaもだめか、と思うのが普通であろう。しかしその実態は・・・・

「実はビジネスのほうは結構順調に伸びていて、人も雇用している」という、驚くべき事実。Aribaで働く友人情報である。
(ただ、これだけ訴訟やSECの問題があると、今後セールスに響いてくる可能性はあるが・・・)

世の中はマスコミのニュースだけではわからない。

マスコミに限らず、一部の人たちの間ではご神託のように重要視されている「シリコンバレーVCの評価」というのも、必ずしも実態を反映しないこともある。

例えば。

知り合いのスタートアップは、これまで投資家に見向きもされず風前の灯火だったのだが、競合の(やはり風前の灯火だった)スタートアップが大手に買収され、時を同じくして別の大企業が同じビジネスに参入した。ビジネスの面から言えば「急に大手の競合が2社登場する」というのは大変悩ましい事態。が、VCからの関心は突然高まった。VCにとっては「大手も手を出す魅力領域、しかもexitの可能性あり。競合のM&A価格で企業価値も算出できる。」という「おいしい」分野になったからだ。これなど「VCの評価と事業の本質が全く違う」良い例だろう。

私が得意とする仕事はbusiness development、事業開発なのだが、いつも頭を悩ますのが「ある会社の、シリコンバレー・コミュニティでの評判を教えて欲しい」という依頼。もちろん、世で言われていることを知った上で相手会社との交渉を行うのならいいのだが「評判が悪い」というだけで、交渉の対象から落としてしまうこともある。「評判と実態が違うことも多々ある」ということを納得してもらうのは結構難しい。

Aribaの例で言えば、delist寸前だとか、株主集団訴訟が雨後のタケノコのようにあるとか、そういうことを知らずにAribaと商談をするのは、もちろん問題だ。しかし「第3者情報に基づいた決断」では「隠れた宝」を探し出すことができない。みなが価値を認めるものは高くつくのは当たり前。誰も知らない価値を見つけ出して始めて、良いものを安価に手に入れることができる。

Serendipityという言葉がある。日本語では、「掘り出し物をうまく見つけ出す才能」という長い言葉に訳されるが、serendipityこそbusiness developmentの醍醐味。

negativeな情報は、相手に直接確認すればよい。例えば、delistされてまず問題になるのは、将来の資金調達、顧客からの信用、それに社員のretentionというところ。それぞれに関して相手先会社がどのような対応策を持っているかを聞けばよい。その上で、さらに第三者に確認できる情報についてはきちんと裏を取ることで「自分の判断に役立つ正しい情報」ができあがるのである。

英語では、日本語の情報にあたる言葉にinformationとintelligenceがある。intelligenceの方がより高度に分析された「上等の情報」で、CIAの「I」もintelligenceのI。マスコミやVCの噂話は「information」、相手から直接入手して裏を取った情報は「intelligence」というところだろうか。

ちなみに、Aribaの情報をあちこちのサイトで読んでいて発見したClass Action訴訟ポータル、その名もBig Class Action.com。原告に加わりたい人は、自分の情報をウェブでインプットすればクリックするだけで、取りまとめ法律事務所に情報が届くという「お手軽訴訟」です。いやはや。

裏をかけ!」への2件のフィードバック

  1. サーチのコツ

    リアルタイムである業界を徹底的に知りたい時、一番いいのは、そのプレーヤーである企業に直接話を聞くこと。第三者の噂話はただのinformation、直接入手した情報(かつその裏を取った㮮.

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  2. それいけ、セレンディピティ探検隊!!

    今日の夕刊を見ていたら、ビックリした。
    以下、がんばって全文引用!!
    あすへの話題 by 茂木 健一郎先生 @日経新聞−・−・−・−・−・−・−・−
    ▼『セレンディピティ』(偶然幸運に出会う能力)と言う言葉が、最近注目されている。
    ▼もともとは、イギリスの……

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SHINGO IWATA "before start-up" への返信 コメントをキャンセル