Magic LeapとNBAと不可抗力条項

本来なら、現在の状況はMagic Leapにとって「望月の欠かけたることもなしと思えば」的絶頂になってもおかしくなかった。覚えていますか、Magic Leap。

冒頭の写真は数年前にMagic Leapが公開したもの(写真はイメージです /s)。「本物と見紛うばかりのバーチャルな物体が実際の視野の中に見える」というのが売りのヘッドマウントディスプレイを開発していたベンチャーである。

NBAとも提携しており、こんな風にゲームが見られる・・・はずだった↓

アメリカは、外食も旅行も通勤もしている人がたくさんいるからCovid-19の感染が止まらず、毎日1000人以上の死者が出続けている。ディズニーワールドも堂々オープン。

しかしその一方で、外食も旅行もせず、通勤しないから洋服もいらない、という人もたくさんいる。その中には、Magic Leapのゴーグルの定価が2300ドルでも、こんな風にNBAが見られるなら買うという人はたくさんいたはず。

しかし残念ながらそうはならなかった。

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Magic Leapは2014年にシリーズAでいきなり$50M(≒50億円)を調達した。

本社はフロリダ。

怪しい。

いや、フロリダが悪いわけではないのだが、「周囲に類似産業がないところから突然最先端の技術が出てくる」というのはなんだか怪しい。(逆に、たとえば、AMDの大きなオフィスや「カナダのMIT」と言われるWaterloo大学があるトロントで画像系のベンチャーが出てきても納得感がある。ただしもちろん納得感があるから全て正しいわけでも、疑いを感じるから全てインチキなわけでもない。検証の出発点が違う、というだけだ。)

特許申請書にあった製品の利用イメージ↓が「できたらいいな」のマイノリティ・レポート的だったのも怪しさを増した。

しかし、すぐにGoogleやQualcommなどから多額の増資をし、パロアルトのダウンタウンにもオフィスができ「怪しそうだが本当なのだろうか・・・・」と思い直した。

そして、2016年くらいが同社のハイプのピークだった気がする。

「ライトフィールド光学チップ」「フィイバースキャンレーザーディスプレー」「デジタルライトフィールドの眼球投影」など目もくらむような華やかな謳い文句をたくさん打ち出し、Wiredの創業者のKevin Kellyが、Magic Leap最高!(↓)という長い記事を出したりした。

(Magic Leap) is still, by far, the most impressive on the visual front—the best at creating the illusion that virtual objects truly exist.

さらには、スノゥクラッシュを書いたSFの大家、ニール・スティーヴンスンをアドバイザーに。おお!

先行きが怪しくなってきたのは2018年ごろ。身売りの噂が出始め、「グーグル、アップル、フェイスブックのCEOが本社訪問するも買収に至らず」といった話も囁かれるようになった。

しかし2019年には製品をついにローンチ・・・したのだが、残念ながら2300ドルという高価格にもかかわらず、画質・画角・モーショントラッキングなど全ての面でデモ画像とは似ても似つかないレベルで、Oculusファウンダーが「悲劇的ガラクタ」と呼んだ通りの出来となってしまった。もちろん製品は売れず、この4月には社員の半分、1000人がレイオフされた。会社を買収してくれる相手を探しているようだが、Facebook やジョンソン&ジョンソンとの交渉は破談になったという噂である。

流れを見ると、「シリアルアントレプレナーの創業者の志は高かったが、作りたいものが作れなかった」ということのようだ。ハードウェアは難しいですね。

しかし、この創業者氏のハイプ製造能力は極めて高いようで、怪しい風評が出た2018年以降も$1B(≒1000億円)以上を調達、過去7年の間に総額で$2.6 Bという巨額な資金を集めている。

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なお、多くのアメリカ人にとって命の次に大切なのがスポーツ観戦。Covid-19が爆発的に流行する中、NBA(バスケ)は「バブル方式」と呼ばれる、選手全員を1箇所に閉じ込めて隔離したままシーズンを行う戦略をとって、今のところうまくいっている。

「バブル」はフロリダのディズニーワールドの3ホテルと3アリーナ。$150M(≒150億円)で貸し切ってシーズン開催中。選手は毎日Covid-19検査をし、結果は数時間で返ってくるそうで、今のところ一人も感染者は出ていない。

この「バブル」は、シリアルアントレプレナーでNBAチームのオーナーのMark Cubanいわく「Hotel California」。一旦入ったら決して出られない厳重な警戒態勢らしい。

一方「普通にツアーして対戦、ただし観客はなし」という方針で始まったMLBの方は開幕後数日で感染者が続出、ガタガタになってしまった。最初に感染者が出たマイアミのチームは、「選手4人の陽性結果が朝出たのに、その夜の試合に出場した」ということで相手チームから激しく抗議された。結局最初の感染者が出たチームは選手18人、スタッフ2人が感染。MLBも独自の検査施設を運用しているようだが「2日に一回のテスト、48時間後に結果」ということで、「毎日・数時間」のバスケとの差が出たとも言われているが、やはり選手の自粛に頼るのは無理があるということではないでしょうか。

ちなみに、NBAとMLBの対応がここまで違ってしまったのは、選手とチームの雇用関係の差が大きいらしい。MLBは敵対的、NBAは友好的かつプロフィットシェアリング的な契約関係にあるようだ。

さらに、NBAでは、雇用契約の「こういう不測の事態があったら給料は払わない」という「不可抗力条項」に「疫病」が明記されているとのこと。

なので、選手にとっては

「無給と3ヶ月ホテルに閉じ込められるのとどちらがいいか」

という選択肢になったようだ。

この「不可抗力条項(Force Majeure)」は英文の契約書では度々お目にかかるもので、大昔、わたしが商社で働き始めた頃、何十ページもある契約書の最後に突然「港湾ストライキ、天災等の際は免責」という条項が出てきて「ソフトウェアの契約なのに港湾ストライキとはこはいかに」と先輩に聞いたら「ああ、それは呪文だ。気にするな」と言われたのだが、Covid-19ではこの条項はパンデミックにも適用されるのかと時々問題になっている(旅行保険など)。

しかしNBAのように「疫病」と明記してあったら逃れられませんね。

だいたいこういう呪文的な契約条項は昔誰かが一回書いたものをコピーしながら綿々と使われ続けているのがほとんど。その昔NBAの契約に「疫病」の一言を加えた人が何を考えていたのか、聞いてみたい気持ちでいっぱいである。

NBA/MLB関連ソース:
New York Timeポッドキャスト
Recode Media ポッドキャスト

Magic LeapとNBAと不可抗力条項」への2件のフィードバック

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