誘拐される→身代金払う→もっと誘拐される(New York Times記事要約)

アメリカはテロリストに身代金を払わない。「国民が誘拐される→国が身代金払う→もっと誘拐される」という負の循環を断ち切る(そしてテロリストに活動資金を提供しない)ためだが、これに関する記事が半年ほど前New York Timesに掲載された。ISIS(イスラム国)より歴史の長いアルカイダによる誘拐について、身代金相場など具体的な数字を含むなかなか興味深い内容なのだが、やたらに長いのでお勧めしても読む人は3人くらいだと思う。なので以下要点を日本語でまとめてみました。

アルカイダ誘拐の歴史

  • アルカイダは設立当初は裕福な支援者からの援助で運営されていたが、現在ではヨーロッパからの身代金が主たる資金源と考えられている
  • 2003年に人質32人の身代金としてドイツが500万ユーロ払ったのが「アルカイダ誘拐ビジネス」の始まり
  • 2004年にはアルカイダ活動員が誘拐のハウツーガイドを発行
  • 身代金の多くは、民間企業を通じて払われるか、途上国支援金名目で支払われる。イエメンのアルカイダへの支払いはオマーンかカタール経由になることもある
  • 現在では誘拐は計画的に行われており、逃走用ガソリンを逃走路に埋めておく、人質が女性だった場合にモスリムの誘拐犯とその女性の体が触れ合わないためのマットレスを用意するなど周到

金額で見る誘拐

  • 2014年7月時点で、2008年以降にヨーロッパ諸国がアルカイダに払った身代金はわかっているだけで1億2500万ドル($1=100円として125億円)。2013年1年間で6600万ドル
  • 身代金相場は、2003年には人質一人当たり20万ドルだったのが、2014年には1000万ドルに(渡辺注=現在の身代金相場は約10億円。繰り返すけど10億円)

身代金支払いと誘拐の相関(2008-2014年)

  • ヨーロッパからアルカイダに支払れた身代金を国別でみると、トップがフランス、ついでスイス、スペイン、オーストリア
  • アルカイダが誘拐した人質53人の内訳は、トップがフランス17人。ついでスペイン、スイス、オーストリア
  • 身代金を払わないのは米国、英国をはじめとした限られた国だけ。誘拐された米国人、英国人で助かったのは自力で逃げたか特殊部隊に救出された場合のみで、残りは処刑または無期限人質状態となる
  • 2008年以降誘拐されたアメリカ人は3人、イギリス人は2人だけ(2004-2006年頃には複数が公開処刑されている)
  • 2012年に誘拐されたイタリア人女性が、「私の家族は貧乏だしイタリア政府は払わない」と誘拐犯に訴えると、誘拐犯は「イタリア政府は身代金は支払わないといつも言う。でも国に帰ったらみんなに言って欲しい。イタリア政府は払う。いつも払う」と返答

なおアルカイダは今では公開処刑には反対。新しいメンバーのリクルーティングに悪影響が出るのに加え、かつて同様の処刑動画を複数公開した結果、アメリカから激しく軍事攻撃された暗い過去がある。

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数時間前に、米国恒例、年に一度の大統領による一般教書演説があった。その中で重要課題の一つとして「ISISへの軍事攻撃の議会承認」が挙げられた。ISISは去年からアメリカ人(やイギリス人)の処刑動画を複数公開しており、これに対抗するもの。アメリカは身代金要求に屈しない代わりに力で対抗するのだが、一応法治国家なので議会の承認なく海外で軍事力を行使できない。だから「許可を」ということ。

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ちなみに、冒頭のNew York Timesの記事によれば、現在の身代金の支払いは「スーツケースに詰めたキャッシュ」で行われるようだ。いわく

砂漠の指定地についた政府エージェントの衛星携帯電話に次の指定地のGPS座標をSMSで指示、次の指定地に着いたら再度GPS座標をSMS、これを3回以上繰り返したのち、受取人が登場。地面に広げた毛布の上にあぐらをかいて座り全札をカウントした上で、小分けにして異なる地点に埋め座標を記録。

これって、去年最終回を迎えたアメリカテレビ史上に残る傑作ドラマBreaking Badのお金の受け渡しの手順にそっくり。実は「犯罪者だったら知っていて当然な一般的な知識」だったりするのでしょうか。

誘拐される→身代金払う→もっと誘拐される(New York Times記事要約)」への2件のフィードバック

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  2. ピンバック: 日本国・門外不出の秘伝の書 | On Off and Beyond

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