Mad Menと性転換者の体験談に見る女性蔑視

「女性として理系の大学に行って、総合職で就職して、その後のキャリアを作るのは大変でしたか?」的な質問を時々されるのだが、いやー、全然(笑)と大体いつも答えていて、だってですね、

  • 大学はペーパーテストだけだから男女関係ないし、それ以降は「男社会の中で珍しい」ということでむしろ得をしてきた気がする
  • そもそも男になったことがないから、男だったら優遇されたかどうかわからない

もちろん、世の女性が仕事の場で差別されることがあるのは「統計的な情報」としては理解しているが、それが私個人と関係あるかは別問題。・・・・と思って来たのだが、最近2つほど「もしかして違うかも」と今更ながら思わせられることがありました。

  • テレビドラマ「Mad Men」が見られなかった

Mad Menは、広告業界が全盛期だった60年代のニューヨークの広告代理店を舞台にしたドラマで、歴史的背景への忠実さと脚本、演技の素晴らしさで、アメリカのテレビの歴史に残ると言われる名ドラマ。なんとなく見ていなかったのだが、ある日思い立って見てみることにした。

冒頭のシーンは、会社で働く女性が「女の子」としてしか扱われない男尊女卑的なオフィス環境を強調したエピソードで始まる。新入社員の女性が歩いていると、じろじろ品定めされたり。

で、非常に驚いたのは、見ている自分の中で怒りが込み上げ、心の底からムカムカし、15分も見ていられなかったということ。

私が最初に就職した90年代の総合商社は、かなーりMad Menの状況に近い感じの職場であった。会議と言えば、男性がプカプカと無限にタバコを吸い、部長の部屋にはウィスキーが常備されていて、「おい、ちょっと!」と言えば女性がお茶をもって行く、みたいな。そして、私はと言えば、1週間に2−3回は「結婚したら仕事は辞めるのか」と聞かれた。

もちろん、私は心の中では(うるせーよ)と思ったのだが、

「いやー、結婚できるかわからないし♪」

「人生のゴールは、売れない作家と結婚して主夫になってもらうこと♪」

など、その場その場で適当なことを言って笑いでごまかした。その他、「女性だったら気を利かせてするもの」という全てのことを、ことごとく笑ってごまかした。(お茶を入れるとか、お酒をつぐとか、エレベータで乗り込む順番を待つとか、そういうこと全般)。周りがみな良い人だったせいか、これで嫌がらせされたりすることもなく。

一方、「おおおお、営業部門に女子総合職がっ!!!」という驚きは社内に強く、入社当初は、社内の人が「女子総合職見物」に来たものであった。部屋の入り口の所から覗き込んでこちらを指差しながら「あれが、あの」みたいな。ふと目が合ったら、にっこり笑って手を振る。天皇陛下なのか、自分。

で、会社のいろいろな部門の人からランチやディナーのお誘いがかかり、何もしなくても人脈がバリバリでき、いや、なんか人生お得〜、と思っていた。

それなのに、Mad Menを見て、思いがけずイヤーーーな気持ちになり、「うーむ、もしかしてあの日々は、意外にも心に残るストレスフルな日々だったのかも」と驚いたのであります。心の中というのは、自分自身ですらわかり得ない難しいものなんですね。

  • 性転換した人の体験談に衝撃を受ける

冒頭で言ったように「男になったことがないから、男だったら優遇されたかどうかわからない」。これ、私に限らず、どんな人にとっても「他の全ての条件は同じまま性別だけ変えた場合何が起こるか」はわかりようがない。

しかし、この前提を覆すのが「性転換者」。「他の条件は同じまま性別だけ変える」という、対照実験が可能なわけです。おお。

そしてRedditに出ていた実際のコメント:

女から男に転換した24歳

the biggest thing I’ve noticed is people who don’t know I’m trans take my advice more seriously when we discuss technical things (I work in IT) than when I came across as a lesbian. I find it hilarious how people harp on about sexual equality while their own behaviour is sexist and they don’t even realise.

(ITの仕事をしているけど、男になってからの方が、技術的なアドバイスを真剣に聞いてもらえる。みんな「男女同権」と口では言っても、実際の行動は男尊女卑的な人が多くて笑える。)

男から女に転換した24歳(この人は彼氏が女→男に性転換しているので、その経験談もふまえ)

Guys, in general, tend to get treated with more intellectual respect.(中略)

as a kid (中略)if I were to have an idea people would be very interested, ask me how it worked, ask me what I wanted to do to achieve it. (中略)

But now however if I have an idea the comments are all on why that person thinks it won’t work, why I shouldn’t do it, and suggestions on what to do instead.(中略)

(男の方が知的に尊敬される。男の子だった子供の頃は、自分がアイデアをもつと、みんながとても興味を持ってくれ、どんな風にそれが実現できるか、それを実現するために何が必要か、と聞いてくれた。でも、女性になった今は、アイデアを口にすると、返ってくる答えは全て、それがなぜ実現不可能か、なぜそれをすべきではないか、代わりに何をしたらよいか、ということばかり。)

これ以外にもたくさんの人がコメントしてますが、大体みんな言ってることは同じ。

・・・・がーん、そうなのか。「その他の条件一緒」でもダメなのか。

「そんなこと改めて聞くまでもないのでは」

と思われるかもしれないが、「統計的にそうだ」と言われるのと、自らその差を体験した人に言われるとでは、全然印象が違う。なんだかこう打ちのめされる感があるというか、「頑張っても無駄じゃーん」というがっかり感があるというか。

ま、強いて言えば上記の2人はまだ20代。まだキャリアを積み上げ始めたばかりのところなわけで、その時点でどういう扱いを受けるかと、ある程度実績を積んでからどうなるかは別だ、ということはありますが。

しかしながら、結果論で言うと「こういう現実を、若い頃に実感として知らされなくてよかった」とも思う。「女性だから大変でしょう」と言われても、「そんなこと言われても、男だったこと無いからわかんないし」と信じている方が気楽にいろいろなことに挑戦できたと思う。(もちろん、こういう現実とともに、「しかし頑張れば女性でもこんな風に認められる」とかそういうアファメーションも同時に受けていれば話は違うと思いますが、そういうのは無かったので。)というわけで、結果的には知らないことが功を奏したと言えよう。

ちなみに、上記の1人目の人はこうも言っている。

People are also less accepting of any eccentric things I talk about. If I’m a girl awkwardness make me endearing, but if I’m a guy it just makes me seem weird.

「男性になってからは、エキセントリックな話をすると嫌がられる傾向が強い。女の子だった時は『ちょっと変なヤツ』というのは愛すべき点だったが、男だと単なる変な人になってしまう」

とても変なことを話しがちな私は、女で良かったのですね。

そういえば昔、「レズビアンの女性が男装して1年暮らす」という体験談の本の書評を書いたこともありました。こちらは「なんだかんだいって過剰な期待を受ける男は結構大変だ」というのが結論で、上述の「女は軽く見られる」というのと表裏をなす話であった。こちらはこちらでまた当たり前の結論ながら、実体験であることがその重みを増しておりました。

Mad Menと性転換者の体験談に見る女性蔑視」への2件のフィードバック

  1. なるほど。確かに性転換者の体験談というのは、面白いですね。他の例も読んでみたいなー。
    差別されている人が差別されていることについて自覚的であったほうが良いかどうか、については、African American Studiesあたりでかなり議論されているらしいです。昔の白人は、おおっぴらに差別したけど、今の白人はそういうことはなく、差別的な発言・態度というのは、白人だけが集まったときに表出して、他の人種が混じっているときは、意図的に避けている、という調査が結構あるらしいので。
    結論から言うと、千佳さんの仰るとおり、そういうことを知らないこと・考えないことのメリットもそれなりにある。でも、長い目で見るとやっぱりデメリットもあって、その一つが、差別がたまに人事など公の形で起きたとき、心の準備が無かっただけに、ものすごくショックを受ける、ということだそうです。
    という話の流れから千佳さんの例を考えてみると、若い、どうせ仕事のこと色々教えてもらわなくちゃいけないときに、差別のことを考えず、そういうことがだんだん気になったり、実際表面化するかもしれなかった年齢になってから、アメリカに来てしまったのが良いのかも。外国に来ると、どうせまた学ばなくちゃいけないことがあるし、外国人だから、ということで、うるさいこと言われずに済む部分もあるし。そうしているうちにmulticultural/multinationalという新しい武器に磨きがかかって、今の千佳さんみたいな素敵な人が生まれたか、と。直接お目にかかったことも無いのに、勝手なこと言って申し訳ありません。

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  2. そ、そうですよね!私もMad Menのシーズン1を見たときに全く同じことを考えてしまいました。あのデジャヴューは気のせいではなかったのですね。
    90年代の初めに日本に転勤になったことがあったのですが、番組に出てくる職場の雰囲気はその外資系の東京支社のあの当時の様子にそっくりでした。見ていてまるで間違った国のまちがった時代にタイムスリップをしたかのような感覚にとらわれ、結構衝撃的でした。

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