スタートアップからのシリコンバレー進出:「進出すべき会社」ではなく「進出に望ましい会社形態」

先週、東京のセミナーで話した中身を何回かに分けて書きます。

セミナーのタイトルは「スタートアップからのシリコンバレー進出」で、アーリーステージのベンチャーがシリコンバレーに進出するにはどうしたらよいか、という内容。ただし、「シリコンバレーに進出すべきベンチャーとはどのような会社か」という内容ではありません

「シリコンバレーに進出するとして、そのために望ましい会社の形態はどういうものか」

についての説明なのであった。

前置き:シリコンバレーに「進出すべき」会社かどうかはなぜ二の次なのか

最近しみじみ思うのだが、「シリコンバレーに進出したい」という場合、「客観的に見てそれが正しいか」は、あまり意味が無いのではないかと。(会社だけでなく、個人がシリコンバレーで働きたい、という場合も同じデス。)

理由は2つある。

1.何が本当に正しいか誰にもわからない

シリコンバレーは、新しいものを開拓する場所だ。新しいものなんだから、過去の評価では計り知れないことが多い。地域全体が常時ブラック・スワン状態なわけです。(ナタリー・ポートマンではないのであしからず)。

「これはすごい」と誰もが唸った技術、10億、100億円単位で莫大な資金を調達したベンチャー、そうしたものの数多くが海の藻屑となった。一方で、最初は誰もが「なんじゃこりゃ」といったものが大成功したりする。そもそも何が「正しい」のかわからないのだから評価のしようがない。

参考:貧困生活を送るApple3番目のファウンダーの話

2. マクロとミクロは別

仮に、「これが正しい」という指標があったとしても、その「正しさ加減」の「評価ピラミッド」で、どのあたりに自分がいるか(=偏差値いくつ?みたいな)と、実際の成果は100%相関するわけではない。ピラミッドの上の方にいれば、「成功確率が高い」というだけ。どんなに成功確率が低くても、確率がゼロでない限り成功する人はいる。

「確率1%でも、100回やれば1回はあたる」

わけです。

全体の最適化を考える政策などでは、この「確率」をあげることを考えなければならないわけだが、その中の一プレーヤーとしては、確率1%だったら、その1%になればよいだけの話。勝てば官軍、です。

もちろん、あなたがまだ中学生とか高校生で、これから「将来シリコンバレーで成功するための確率が高まるようなことを次にしたいが、どうしたらよいか」というのだったら、話は別だが、「今ある事業でシリコンバレーに行きたい」というのであれば、確率が高かろうが低かろうが挑戦するしかありません。

しかも、最初に言ったとおり、確率が高いか低いかすらよくわからない世界。

メジャーどころのVC、Kleiner Perkinsですら、20%の投資先は会社クローズ、20%の投資先は事業失敗後に買収、らしいし。

「私はシリコンバレーで成功しそうなピラミッドのどこにいるのか」を考えること自体、あんまり意味が無いかと。

トライしてみない限り絶対成功しないし。

とりあえず何でもありではないかと

セミナーでも

「シリコンバレーに進出する価値のあるベンチャーはどんな会社でしょうか」

という質問があったのだが、私の答えは、

「いや、別になんでもありなので、行きたいと思ったら頑張って進出してみたらいいんじゃないでしょうか」

という(超いい加減な)もの。

その時「シリコンバレーで起業するベンチャーは、何でもありです」の例としてあげたのが、Manpacks

普通にアメリカ人が起業してるベンチャーだが、アメリカ人男性の過半であるところの、身だしなみに構わない人用に、きれいで(それなりに)かっこ良い(下着の)パンツと、ソックスとTシャツなどを、セットで定期的に送るオンライン通販事業です。(コンドームも買えるそうでございます。)

・・・・なんじゃそりゃ。

でも、メジャーどころのインキュベータの500 Startupsの投資を受け、さらにエンジェルラウンドもクローズ中とか。

理屈をつけるとすれば、「アメリカ独身男性のニーズを深く理解してる」とかいろいろ言えるかもしれないが、普通に考えたら、やっぱり

「なんじゃそりゃ」

ではないでしょうか。

Manpacksが成功するかどうかはわからないが、とりあえず出だしはこんなのもありなわけです。

以下本題:シリコンバレーに進出するにはどういう形態が望ましいか

いつもながら前置きがなくてすみません。進出「すべき」会社の望ましい事業の中身がテーマでないかわりに、いったい何が言いたかったのか。

それは、「これを外すと、事業の内容に関わらず、『シリコンバレーで成功するために鍵となる3つのこと』を実現するのが難しいのは何かを説明する」ということなのであった。

シリコンバレーで成功するために鍵となる3つのこととは、

  1. 米国投資家からの資金調達
  2. 現地での優秀な人材の雇用
  3. ファウンダーとしてシリコンバレーに渡る人のビザ取得

ではないかと。

それぞれを実現するために、「会社はどこで登記すべきか」「ストックオプションはどうあるべきか」「ビザにはどんな種類があって、どうすればそれがとれるか」などが今回のセミナーで私が話したことであった。

事業の内容という「本質的」なことにくらべて、かなり瑣末な形式的なことです。

しかし、世の中には、形式的なことを押さえていくうちに、段々と中身もそれにともなってきてしまう、ということがある。

特にアメリカは、社会のルールや評価が誰にでも(頑張れば)わかるようになっていて、しかも、それに則って行動しているうちに、いつのまにか正しい成果がついてくることが多い国である。

(資本主義が機能するためには、こうならざるを得ないので・・・・・。)

なので、こうした「形式的なこと」を整えることが大事だったりする。

もっと言うと、ビザがないと、そもそもアメリカで働けない。

日本からシリコンバレーに進出しようとする多くの会社が、こうした「形式」すら整えられないうちに終わってしまうのです。

とりあえず、形だけでも整えて進出する会社が増えれば、それだけ成功する会社が誕生する確率も上がる。

で、「まずは形を整える」といえば、茶道。お茶碗の回し方とかお辞儀の仕方とかうるさく言われますよね。で、それをマスターしていくうちに、段々と「茶道の心」もわかっていく、、と。

ということで、プレゼン資料の最初のページが茶道の写真となっております。

(当日利用したプレゼンはこちら。)

では、続きはまた後日。

スタートアップからのシリコンバレー進出:「進出すべき会社」ではなく「進出に望ましい会社形態」」への7件のフィードバック

  1. シリコンバレーに限らず、どこでも何でもありなのは間違いないですね。
    個人的な話ですが、30歳過ぎてフリーターから社会人になり、アジア(台湾、中国、今は日本)でネットベンチャーらしきことをしてきて、その度に無謀だとか絶対無理とか言われましたが、何とかなってきました。(大成功はしてませんが、それぞれきちんと生き残ってます)
    若い皆さんも、あまり頭でっかちにならず、どんどん挑戦して欲しいと思います。一昔前の日本企業だって、かなり適当なスタートから世界的な大企業になったところばかりだしね。
    私もITバブル崩壊の頃、今ならシリコンバレーでもチャンスがあるかもと思い、現地でビジネスの可能性を探りました。しかし、レベルの差は勿論のことメンタリティの違いに圧倒され、すごすごとアジアに逃げ帰ってきました。
    自分の場合、テクノロジーというより、シリコンバレー周辺の気候や自然や食が大好きで、そこに住みたいということが目的でしたが。今考えるとITではなく、レストランとか食や農業関連に目を向ければよかったと後悔しています。
    そんなことはどうでもいいですね、では。

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  2. >身だしなみに構わない人用に、きれいで(それなりに)かっこ良い(下着の)パンツと、ソックスとTシャツなどを、セットで定期的に送るオンライン通販事業です。(コンドームも買えるそうでございます。)
    LLBeanで定期的に上から下まで購入している身としては、最後に残った下着や靴下を全部お任せできるのは便利と言えば便利。値段がそれなりならば利用したい気はしますね。
    特に外に見えるTシャツなどと違い、下着や靴下だと黄ばんだりすり切れたり穴が開いたりしてもそのまま使っちゃってたりするので、過去のデータを元に「パンツは平均何枚/年、靴下が平均何足/年必要」みたいなデータを用意して、自動的に予想不足分だけを定期的に送ってきてくれるような付加機能があるとなお便利。
    。。。ただ「それがベンチャーとして成功するのか?」と聞かれたら、答は「???」ですが\(^o^)/

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  3. 「会社はどこで登記すべきか」「ストックオプションはどうあるべきか」「ビザにはどんな種類があって、どうすればそれがとれるか」
    これらの具体的な話をめちゃくちゃ聞きたかったので、セミナー見逃していてめちゃくちゃ悔しいです。。3000円なら払えるから絶対いったのに。。
    スタートアップなんて最初始める時はなんにもわからないけど、ビザとか登記とかは後からだと遅いとよく聞くので。
    僕はCSも持ってないし、特別な専門性もあるわけでもなしなので、そもそもビザが取れずに終わってしまう。。

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  4. 半月ほど前に“YOMIURI ONLINE”に出ていた“ITベンチャー バブル進行中”というコラムを拝見しました。
    私が知らないことばかりでしたので、なるほどと感心していたのですが、ブログもやっておられるのですね。こっちも、興味深い内容で良かったです。
    “1.何が本当に正しいか誰にもわからない”というのは、言い得て妙と思います。ネット分野は、特に、そんなことが多い気もします。
    私も、新しいタイプのネット事業をはじめるならアメリカでと考えて数年前から思いつくままに取り組んでいましたが、勝手がわからずに、時間と費用ばかりかかって戸惑っています。
    とりあえずは特許と、アメリカに特許申請したのですが、なかなか手続きが進みません。日本では特許が取得できたネット配信技術が、アメリカの特許庁からはトンチンカンな通知が何度もきて、アメリカの特許庁にはまともな人はいないのかと思ったりします。
    やはり、アメリカにしばらく滞在して取り組まないとスムーズには進まないのでしょうね。
    長文になってしまい、恐縮です。

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  5. ベイエリア在住です。H1B でこの土地に来てから10年、待たされ続けた green card が取れ、ついに職業選択の自由をゲットしました。「誰か現地に送りたいけど、ビザの問題で煮詰まっている」などで困っているようなら、できるだけお手伝いしますよ。

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  6. 先日、アプリ系中心のスタートアップカンファレンスに参加したのですが、みながシリコンバレーとか世界進出とか言っている中で、とある女性が「なんで皆さんシリコンバレーばかり見ているのですか?しかもシリコンバレー進出と世界進出は違うのでは」?という発言が印象的でした。
    曰く、ビジネスの基本は自分の強みが発揮できて、成長している市場、加えて競合が少ない地域を選ぶこととプレゼンしていました。あまりにも当たり前すぎて、アプリで世界進出と浮かれている方々がとても小さく見えました。

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  7. 本当に 素晴らしく勉強になります。
    1度も行ったこともない シリコンバレーですが 生生しく 分りやすく
    今 直ぐでも行き 新天地の仕事を したいです。
    ただ IT関連、英語が全然 ダメなので
    どこから どうしたら いいやら!?
    でも シリコンバレー発、企業創造、買収、ソシャール等 技術関連が
    眠っているのは間違いなし!
     渡辺先生書かれていた 最低 IT大学4年卒業、理工系の腕前がなく 果たして どうしたら?
    また 考えて見ます!
    ブログ参考に なります。 有難うございます。 敬具

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