Playdom、ロールアップで成長しDisneyに約700億円で買われる

DisneyがPlaydomを$763 million, 約700億円で買収することが発表された

Playdomは、SNS上のゲームを開発、Facebook上でNo.3、MySpace上でNo.1。

その歴史はといえば、♪日曜日に市場に出かけ~という、あの「一週間の歌」のようである。

2年前に起業、1年前にゲーム会社大手のElectronic ArtsからCEOをヘッドハント。すぐ$43 million増資、毎月一社のペースで他のゲーム会社を買収し、トータル9社をゲット、1年間で社員数を60人から600人に増やした。そしてDisneyに売却。

ちなみに、「同じ業界の小さい会社を買い集める」ことをロールアップという。一つずつは「1」の価値しかなくても、10個集めると30になったりするのです。なんで同じものを集めるだけで価値が増えるかといえば

  • 共有できる機能を統合して無駄を減らす(3社集まっても、人事部は一社分で大丈夫、とか)
  • サプライヤーに対する力を増して安く買う
  • バイヤーに対する力を増して高く売る

などなどあるが、ソーシャルゲームの場合、「規模の利益」がそのまま効いてくる、ということもある。プレーする人の数が増えるに連れ、ゲームの楽しさがどっと増すのがソーシャルゲーム。既にある規模のユーザ数が獲得できていれば、そこで他のゲームを告知することもでき、「規模の利益」を享受できる確率も高まる。

ということで、ソーシャルゲーム業界のロールアップが進行中。

ゲームに限らず、「零細事業者がたくさんいる業界」ではロールアップが可能。手間と根気は必要だが、地道にやれば企業価値の総和を増すことができる。ただ、

「ロールアップしたちびっ子会社をどうやってマネージするんや?」

という課題があるので、それなりのマネジメントチームがいる大きめの会社をひとつ核とし、そこに小さな会社を買ってはくっつけていくというPlaydom型の雪だるま作戦もとられる。MySpaceのファウンダーも、最近
ンフランシスコのMindJoltという会社を買収し、これを核にロールアップしていく
、と語ってます。

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Disneyといえば、子供向けのオンラインゲーム、Club Penguinを2007年に$350 millionで買収した。

ワタクシゴトながら、最近、ダンナ側のアメリカの親戚を訪ねたのだが、小学生の姪がClub Penguinのペンギンキャラクタぬいぐるみを見せてくれた。いろいろなコスチュームのぬいぐるみが15個くらいあり、今でも買い集めているそうだ。

Disneyはいろいろなグッズも作っているし、リテールも手がけているので、ベンチャーではなかなかできない、こうしたグッズ展開も簡単にできる。「買収によるシナジー」ってやつですな。

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一方、ロールアップで思い出すのは、90年代なかばにスタンフォードのゴルフ場で一緒にラウンドした人。ずいぶん前にも彼のことを一度書いたことがあるが、ビジネススクールの卒業生で、年の頃は40代半ばくらい。経営していたローカルなコインランドリー事業を売却してリッチになったのでアーリーリタイアメントにあいなったとのことである。こんな感じのことを言っていた

「親の経営する零細コインランドリー事業をついで、地味に生活していたら、たまたま、コインランドリーを全米でロールアップして上場させようとしている会社があって、そこに売って、その会社の株もちょっともらった。たかがコインランドリーだから、そんなたいしたことになるなんて思わなかったけれど、上場したら株がずいぶん上がって、僕もついでに大金持ちになってしまった。」

「まさか、自分が成功するなんて、夢にも思わなかった」

とのことで、余剰資金はなんとなくベンチャーキャピタルに投資したりしてみてる、と語ってくれました。AmazonやYahooが創業したばかりの頃だったので、もしかしたら彼はその後さらにとんでもなくお金持ちになったかも。

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「ロールアップして企業価値を増す、などというのは、まさに虚業!」

と思う人もいると思うが、しかし、資産の流動性を増すことでロールアップも資本主義に貢献しているのです。

ローカルのコインランドリーだけやっていたら、上述の彼がベンチャーキャピタルにお金を入れるなどということはまずなかっただろう。Playdomの600人の社員の多くがストックオプションを持っているはずだが、その彼らにもDisneyの売却益は入ってくる。その中にはエンジェルとしてベンチャーに投資する人たちも出てくる。

こうした「あぶく銭チックなお金」がまとまった額で循環していることがシリコンバレーの強みなのでした。

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Playdom、ロールアップで成長しDisneyに約700億円で買われる」への8件のフィードバック

  1. たぶんZyngaなりPlaydomなりを参考にしての動きでしょうけど、日本のソーシャルゲーム業界においてもロールアップの動きがあるようです。
    モバゲーあたりで成功して月商1億あるかないかの会社をコアにして、開発力はあるけどそこまで成功していない会社を何社かくっつける的な。
    ソーシャルゲームの会社に複数投資しているVC・Web系上場企業が色々動いているようですが、ただアメリカと違ってプロ経営者の流動性が低いんで、ロールアップしたあとの会社をちゃんと経営できる人がいる(or連れてこれる)かどうかがネックみたいですね。

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  2. コンサル時代に、政府系のマクロ経済プロジェクトにいたことがあって、日米の労働生産性比較とかをガリガリやるとほとんどの国内サービス業で日本は低い・・・という数字(これ自体は凄い有名になりましたが)について、まあ色んな業界についてやったんですがどこでもだいたい「理由は多分このロールアップ不足だろう」という結論を出していました。チェーン化比率とかがどこも低く、個人零細企業の比率が多く規模の経済が効いてない的な。
    で、その原因として税制とか規制とか具体例をあげて、それ解消してガンガン競争させたら合従連衡が進むだろうという、当時の風潮に載ったネオリベ的提言で終わったんですが、ただ、中小企業の割合が多い経済(イタリアとかそうですよね確か)と小さい経済ってのがあって、結構文化的要因も大きい感じもしていて、あれから大分たちますが、僕の中で結構重要テーマであったりします。
    で、色々やってみて思ったことなんですが、多分日本の会社群がもっと合従連衡してロールアップした方がいいっていうのは大枠正しいようですが、それを阻害しているのは経済学的な競争条件が甘いのが理由というより、もっと「心理的要因」というか、「先代から看板を守って来た我らの家業と地域のキズナvsそれを破壊する無味乾燥で血も涙も無い”アメリカ人みたいな”システム」みたいな構図があり、またその構図ゆえに規制緩和その他のネオリベ的政策にバックラッシュが起きてハードな政策的打ち手も前に進まない、という感じがします。
    でも実際に見てみると、「先代から看板を守って来た我らの家業」と言ってみたって息子の代では別にそんなもの継ぎたいと思ってるわけでもなかったり(むしろ重荷に感じていたり)とか、逆に日本では合従連衡してグループをまとめて行くには新しい構成員をいちいち納得させるだけの一種人間的魅力が必要だったりするので、地方で全国チェーン店を何十とまとめて持って地方の元締めみたいになってる社長は「ファミリーのドン」的魅力があったりして、どっちの方が「いかにも日本的人情が感じられる主体」なのかっていうのは結局「演出」しだいじゃないかなというところがあります。
    最近、地方の土建会社のオッチャン社長が農業に進出して、その地域のために頑張ろうとしたのに無駄な規制で本当に苦労していた・・・っていうトーンのドキュメンタリー(というかバラエティ番組)を見たんですが、あれって冷静に考えるとその規制で守られてる「先代から土地を守って来た(けど実質的にもうやる気ない農家さん)」よりも「土地のために頑張るおっちゃん社長」の方を「人情の代表」のように描いていたという時点で結構地味に画期的だったなあと思いました。
    で、多分地方のシャッター商店街とか地方の零細兼業農家とかは、一部をのぞいて廃業ってことになってOKなんだと思います。その程度の不幸は日本社会の中でいくらでも日々あるんだし、「次世代の息子」が「店は潰れたが店の精神は俺は継いで新しいコレをやって生きるんだぜ」とかなんとかそういうクサい話を用意できればOK。あと地方のイオンモールみたいな巨大チェーン店側も、今よりもっと参加者の心理的コミットを受け止められるような工夫をこらして、日本社会がそこに感じている「郷愁」の「新しい受け皿」を用意できればOKじゃないかと。要は日本社会が半分パターナリスティックな(笑)一体感を失わずにいられるかがキモなんだなと思います。
    グローバリズムの最前線にいる日本人は、「ガチガチの優勝劣敗状況になったらあのアホ日本人どもは目が覚めるだろ」的発言をしてしまいがちなんですけど、結局そういう「発言」自体が心理的バックラッシュを受けて物事が進まない真因というか、ちゃんと「浪花節的に理解できるパッケージ」まで考えるのが「日本における政策担当者」にとっての必須技能なんではないかってのが最近の結論ですね。
    例によって長文スイマセン。こういうアメリカのヒップな(笑)事例を一個ずつ「日本に着地させるには?」って考えて文章にしてみるのは結構僕の仕事的に勉強になるんですよね。

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  3. Peppyさんがリンクをあげているサイト、結構面白いなーと思って読みました。そこにこういう風にあったのですが。。。
    「ストック・オプションを末端社員にまで出している会社は、立ち上げたばかりで資金繰りに苦しい会社(シリコン・バレーの各会社がこれに当たる)である場合が目立ちます。逆に、確実に利益を出せる、つまり株価上昇が期待できる大きな会社ですと、役職者以上にしか、出していない場合も多々あるのです。」
    どう思われます? 私は、やっぱりニューヨークがアメリカの中でも極めて特殊な都市であるのと同様、シリコンバレーもアメリカの中で特殊な地域だなーと思います。もちろん、ものすごく魅力的!なのですが。

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  4. ベンチャー企業にとって、ロールアップされるのと、頑張ってIPOするのとどちらが、いいんですかね?
    最近は、IPOの基準(あまり詳しくないですが)が厳しくなって、市場もこんなドヨ~ンとした感じですから、寄らば大樹の影作戦が早道って感じなのか?
    それともポートフォーリオの価値が膨らまないベンチャーファンドが、実績を示したいが為、売りつけちゃうのもあるような。。。。

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  5. chikaです
    >ロールアップ不足
    日本も高度成長期はがっしがっしとロールアップしてる会社があったんですけどねぇ・・・。日産なんか有名では。何十社ロールアップしたんでしょうか。イオングループとかもハイペースでローカルスーパーをロールアップして、会社再建の神様みたいな人を送り込んで流れ作業で統合してたはず。post-merger integrationなんていうかっこいい名称ができる前に、ちゃんとそれを成し遂げてた会社や人がたくさんいるんですよね。
    なんだかだいって、精神論じゃなくて、「成長しよう」という野心を伸ばせる成長率を多数の業界で実現できるかが問題じゃないのかなぁ。パイの奪い合い=嫉妬と妬みで縛る社会、となりがち。
    >極めて特殊な都市
    そのとおりです。なので本文でも「それがアメリカの強み」とは書かずに「シリコンバレーの強み」と書きました。ただ、そういう場所を多数国内に抱えられるのがアメリカの強みだと思います。
    >ロールアップされるのと、頑張ってIPOするのとどちらが、いい
    好みの問題じゃないでしょうか。ハワイとパリ、どっちがいいか、みたいな。

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  6. 「成長しよう」という野心を伸ばせる成長率を多数の業界で実現できるかが問題じゃないのかなぁ。パイの奪い合い=嫉妬と妬みで縛る社会、となりがち。
    <<
    そりゃそうですね。やっぱ同じ会社内でポストの数が限られてるっていう状況だけでも息詰っちゃいますもんね。特に「そんなの俺関係ないし」となかなか言わせてくれない日本ではギスギス感もひとしお。
    そういう新しい成長の実現についても色々思うところはありますが、それはさておき、高度成長時代にガンガン「ロールアップ」が進んだのは、そういう存在を社会が容認あるいはバックアップする「空気」が濃密にあったことが前提として大事だったと思うんですよね。今は、小・中規模ぐらいまでは進むんですが、そこから先「天下を取るぞ」的展開にならないのは、彼らに「正義」を空気として与えられないからで、そこのところの「演出」をシッカリやることは精神論では無くてかなりリアルなことだと思います。

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