エープリルフールじゃありません。当地はまだ3月31日だから。
FTC=Federal Trade Commision=連邦取引委員会。独禁法の調査とかするところですな。このたびGoogleがモバイルアドネットワークのAdmobを買収することになったのだが、それに待ったをかけて調査中。
で、私がお手伝いしているとあるiPhone appがAdmobとGoogle両方の広告を表示しており、その関係でこのたびFTCから召喚状が来たのであった。
ちょっと面白い経験だと思うので、以下経緯を書きます。
まず、Admobの人から2月17日に「FTCからの調査の件でうちの弁護士と話して欲しい」といわれて、OKしたところ、19日に電話がかかってきて30分ほどあれこれ語る。
基本的に私は、アメリカのモバイル広告市場はまだまだ小さく、これから大きくなるところで、数十億円規模の投資を受けたアドネットワークも複数あり、GoogleがAdmobを買ったくらいでモノポリーになるレベルに無い、と思っている。むしろ、Googleの広告主へのリーチにAdmobの技術的優位性が合体したら優良なモバイルアドネットワークになって素晴らしいのでは。
・・・と言ったところ、弁護士が私の発言をレターにしてドラフトを送ってきた。「サインして送り返してくれたらFTCに送るから」と。
そうしたら2月22日に今度はFTCの弁護士からメールが来て、話したい、というので、またこちらも電話で話す。
今度は1時間くらい根掘り葉掘り聞かれた。向こう側には3人。そもそもモバイルアドネットワークのビジネスモデルは何か、とかクリックスルー率ってどれくらい?とかいろいろ。
で、もうFTCと話したからレターはいいだろう、と無視していたら、3月22日になって、Admobから
「あのレターはどうなったの?」
と。なるほど、あれとこれとは別なのね、とサインして送り返す。そうしたら弁護士から電話があり
「実は、このレターを出すとFTCから召喚状がくるリスクがある。召喚状が来るとワシントンDCに出向かないとならない。それはきっと困ると思うので、Wilson Sonsini(シリコンバレーの著名弁護士事務所)の弁護士にFTC対応を依頼してある。もし召喚状が来たらその人に連絡するとDCに行かずに電話だけで済むと思う。・・といったような面倒なことがあるのだが、レター出してもいい?」
まぁ、乗りかかった船。FTCがAdmobごとき(ごめん、Admob 😉 )の買収にどんな調査をするかのプロセスにも興味津々だったので、OKしてみる。
そうしたら26日に今度はFTCの別の弁護士から電話があり、
「ワシントンDCのFTCに出頭して証言するようにという召喚状を郵送した」
おー、本当にくるんだ!召喚状。すわ、Wilson Sonsiniか、、と思いつつ
「それ、旅費は誰が出すの?」
と聞いたら
「FTCが出す」
うーむ、久しぶりにDCに行くのも乙なものか、と思ったが、どう考えても面倒くさい・・・などと思ったが、すぐ相手が
「でも、来たくなかったら、電話インタビューをすればyou will be absolved。」
absolve=罰則や義務から免除する・罪を赦す。初めて会話でabsolveという単語を聞いたです。
ということで、今日電話で話したんですけど、なーんと3人の弁護士相手に2時間も延々根掘り葉掘り聞かれて疲弊しました。
・・・いや、べつにGoogleのAdmob買収が成功しようと失敗しようと知ったことではないのである。ほんとに。
40分が過ぎたあたりで
「Curiosity killed the cat」
という諺が頭に浮かぶ。中国語だと好奇害死猫。「好奇心は災いのもと」ってことですね。FTCの調査プロセスってどんなだろう、という好奇心がこんなことに・・・・。
そしてそこからさらに80分も電話は続いた。ふー。
聞かれたことは、ad networkそれぞれのeCPM (1000回表示ごとの広告料)はどれくらいか、とかその推移はとか。Admobをサポートするレターを書いたのは誰だ、とかAdmobの弁護士の誰と話したか、とか。
言葉の端々に「GoogleがAdmobを買うのはモバイル広告業界にとって恐ろしいこと」と言わせたい趣旨がありあり。
でも、実際、iPhone app開発側としては、GoogleのAdmob買収より、AppleのQuattro Wireless買収の方が問題。(Quattro WirelessはAdmobの競合のモバイルアドネットワークで、1月にAppleが$300 millionで買収することが発表された。)先々、iPhoneのappに広告を出す場合は、Quattroじゃないとダメ、とかなりそうだがそれはひじょーに困るのだ。・・という話もしたが、FTCの弁護士いわく
「iPhoneはQuattroじゃないとだめになる、という情報は確かなのか」
いや、Appleの基本行動パターン的にはありですけど、基本、単なる憶測です・・。
とにかく、手を変え品を変え、GoogleがAdmob買ってひとつになったら競争が阻害されて困るでしょ、GoogleとAdmobがトッププレーヤーなんでしょ、といわれ続け、そのたびに
「いや、そんなこと言ってない」
と反朴したのだが、言葉を変え、論旨を変えて、畳み込まれているうちに、当方だんだん弱気に。。。い
や、彼らは独禁法専門のプロの弁護士ですもんね。しかし、携帯広告はまだまだこれから、という論旨は最後まで頑張ってキープしてみました。
***
FTCですが、先方から「今日の話は全て秘密。外には決して漏らさないから何でも言ってくれ」といわれたので、「私は今日の話を他の人にしてもいいのか?」と聞いたところ、「それは全然問題なし」とのこと。
ちなみに、関連する弁護士、殆どが女性です。FTC側もAdmob側も。独禁法は女性の領域なのでしょうか。
それにしても、感銘を受けたのは、たかがモバイル広告ごとき(ごめん、業界の人)で、ここまでやっきになってFTCが調査をしているということ。アメリカのモバイル広告の2009年の推定市場規模は$300 millionいかないくらいなのに・・・。「モバイル広告業界がどうなっているか、とことん理解するためのテストケースでは」とAdmobで働くとある人は言ってましたがいかがなものか。
なお、この弁護士の大群、FTCはもちろんFTCのコストでやっているはずだが、Admob側の費用も相当なもの。たまったもんじゃありませんなぁ。
(豆英語知識:召喚状=subpoena、「サピーナ」と発音します。今回のやりとりで初めて綴りを覚えた。今までは読めるけど書けませんでした。)
FTCから しょうかんじょうが くるなんて ちかさんの おおものぶりが つたわる はなしですね。 よのなかに えいきょうりょくを もつ ひとの ぶろぐを よんでいることを あらためて じっかんいたしました。
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面白かったです!
渡辺さんは労働対価として面白かったと思いますが、
読者は不労所得みたいな面白さで本当にありがたい。
勉強になります。
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すごいですね・・・。弁護士たち・・・。なんとしても市場競争を守りたい(googleを邪魔したい)という気概が伝わってきます・・・。
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誘導尋問乙って感じですね(笑)
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はらはらしながら読みました。
FCCの調査、仮説で誘導パターンなのですね。
そのたびに誘導されずにNoと言い続けるChikaさんがすごいです。
お疲れ様でした!
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Curiosity killed the cat というところで、思わず笑ってしまいました。この表現は知らなかったけど、自分もそういうこと(よく)あるから。。。
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やはりFTCの動きは噂どおりですね・・・。僕はFTCがRejectしてくる可能性は高いと見てますが、どうなりますかね。
私たちがQuattro WirelessをAppleに売ったのはiPadの発表の直前ですからそのあたりも何かありそう。
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“ad networkそれぞれのeCPM はどれくらいか、とかその推移”のくだりで、アメリカの弁護士の論法の端っこが見えたように思いました。いえいえ弁護士だけではなく、日本人には見られない、彼らの論理的な攻め方はこんな感じなのでしょうね。
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今日のFTCの決定は渡辺さんの貢献大だったようですね。
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