書評:In The Woods

アイルランド、イタリア、アメリカ、マラウィで育ち、今はまたアイルランドに住むTana Finchのデビュー小説。暗いっす。最初の8割が桐野夏生、最後の2割がカズオイシグロ、という感じ。

話の出だしはアイルランドの森。12歳の少年少女3人が姿を消す。必死の捜索の結果、一人の少年Adam Ryanだけが見つかる。その靴はぐっしょりと血で重く、シャツは10セン
チほどの裂け目が平行に4本ついている。靴と靴下の濡れ方から、脱いであった靴に血が注ぎ込まれ、それを後から履いたようだ。Adamには擦り傷はあるが、靴が重くなるほどの出血はない。残りの二人の行方は杳として知れない。二人の匂いを辿る警察犬は、Adamが見つかったすぐ近くまでは行くが、そこで痕跡を失い混乱してしまう。助かったAdamには事件の記憶はなく、結局迷宮入りする。

ここまでが最初の6ページ。

Adam Ryanはその後刑事となり、同じ場所で起きた別の事件の担当となる。そして、新しい事件と古い事件が絡み合って進んでいく。

「探偵モノ」じゃありませんので、すっきりくっきりの解決を望んで読むと落胆します。12歳という幼さで親友を二人失い、しかも、(おそらくあまりの恐怖で)どう親友を失くしたかの記憶すら失ってしまった少年が、その圧倒的な喪失に飲み込まれながら生きていくお話。暗いけれど、独特の世界観がある。

話の筋とは別に「なるほど」と思ったのは、1980年代のアイルランドに「失われた10年」があった、というようなプロットが出てくること。そのころ学校を出た人たちはまともに就職できず、出だしでくじけたために結局そのままうだつのあがらない人生を社会の辺境で送る。どこの国でもこういう「めぐり合わせの悪い世代」というのがいるんだなぁ、と。

それから、「大人を小さくしなびさせたような顔の赤ん坊」が登場するところがあって、実は日ごろからうちのダンナが「白人というのはごく小さいころから大人のような顔をしている子供がいて少々怖い」とつぶやいていたのだが、そうか白人同士でも同じように思うことがあるのね、という発見がありました。これまた筋とはまったく関係ないですが。

書評:In The Woods」への1件のフィードバック

  1. 「めぐり合わせの悪い世代」ってありますよね。。。
    子供一人しか産めない世代(国)とか。。。
    戦争になっちゃった世代とか。。。
    人生運ですね。

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