スタンフォード大学のBiodesign Fellowshipという1年の奨学金プログラム。対象領域は医療機器、です。
Biodesignは医学部と工学部の学際学部、Bio-Xの一部門。奨学生は年間4-8人程度の少数精鋭ながら、過去7年間分の生徒の母集団から、外部からの増資に成功したベンチャーが10社誕生。なお、冒頭の写真はBio-Xの校舎。NetscapeファウンダーのJim Clarkが工事費の相当額を寄付したのでClark Centerと呼ばれている。
以下、同プログラムのサイトと、半年ほど前にこのプログラムの推進者であるところのDr. Yockに伺った話を基にしてます。
さて、これまで生まれたベンチャーの内訳は・・
- Kerberos: 買収
- InnoSpice: 買収
- NeoGuide: シリーズC増資
- Acumen: シリーズB増資
- Stemcor Systems: シリーズA増資
- iRhythm: シリーズA増資
- simpiricaspine: シリーズA増資
- Spiracur: シリーズA増資
- Curant: SBIR Phase 1
- InSite: SBIR Phase 1
増資状況は、半年ほど前に聞いたときのものなので、今はちょっと違うかもしれませんが。「シリーズ」は増資の進み方で、Aが最初、その後、B、Cと進んでいく。買収されるのは大変美しいエグジットであります。
なお、奨学金のファンディングの一部はベンチャーキャピタルからも出ており、彼らもまじめに投資先を探しているということかと。
ちなみに、SBIRは政府のsmall business向けグラント。9つの政府機関が、総計年間$2 billion、約2000億円をベンチャーに投資する。アプライ中の知人いわく二つのフェーズに分かれるが、総計$1 million、1億円近くくれるそうで、「単なるアイデア」を次のステージに移すには十分な額といえましょう。融資でも投資でもなく、ただくれる。しかし、そこはアメリカ、どこにどんなグラントがあるかを探すのは大変です。こちらのページでサーチできるが、中々難しそう。ま、ここでくじけるようなヤツに血税1億円を渡してはいかんのでしょうが。
Stanfordの奨学金プログラムはInnovation Fellowshipという名前だが、これ、毎年何十人も生徒がいるわけではありません。最初の数年は1年に4人、その後は8人、という感じで最初の7年分からで10社。かなりの成功率。すごい。(ちなみに、今年の夏に終了したのが8年目)
プログラムの進行はこんな感じらしい。
- Clinical Immersion- 4人が1チームとなり、大学病院で実際の医療現場を観察、チームごとに200個の「ニーズ」を探す。これを3ヶ月間行う
- その中から12個を選び、さらにそこからベスト4の「ニーズ」を選ぶ。
- チーム構成員がそれぞれ1つの「ニーズ」をもって分散
- 個々のチーム構成員が、ビジネススクールなど他の学部の生徒とチームを作り、それぞれの「ニーズ」を元に、それを解決するアイデアをいろいろ出し、様々な角度から検証しながらビジネスプランにする
「ニーズ」を選ぶ際には、ベンチャーキャピタルから、医療機器の専門家、許認可の専門家など20人のメンターと話し合う。また、アイデア出しからビジネスプランに落とし込むまでの過程では、関連領域の様々な専門家がレクチャーに来る。「FDA承認とはこうなっています」とか、いろいろ教えてくれるそうです。
なんともスバラシイ。
応募資格は、
Applicants with a background
in engineering, medicine, biosciences or relevant business /technology
are encouraged to apply.
「工学、医学、バイオサイエンス、関連するビジネス・技術のバックグランドを持つ人に応募をお勧めします」ということで、そういうバックグランドがなかったらダメとは書いてない。(とはいっても、そうじゃない人が受かるのは難しいだろうが)。できれば、修士、博士、医学博士所持者が望ましいともあるが、これも一応絶対条件ではありません。
医者、特に外科医は別枠で先に選考がある。来年のプログラムに関し、こちらの枠の締め切りは終わってしまったが、それ以外の人(主に、工学系のエンジニアのイメージ)の締め切りは今月末。まだ間に合う!外国人でもOKだそうですのでいかがでしょうか。応募要綱等はこちらにあります。
なお、「姉妹プログラム」のStanford-India Biodesignもある。こちらはスタンフォードとインド政府との合同プロジェクトで、奨学生は半分をインドで、半分をスタンフォードで過ごす。インドならではのニーズにあった「起業」をするとのことで、たとえばインドで新しく実施された救急体制にあった除細動器、とかそういうのをやったそうです。
日本も、どこかの大学がStanfordと共同で同様のプログラムをすれば面白そうなのになぁ。
プログラムを推進するDr. Yockは、自身も複数の医療機器発明を行ってきたシリアルアントレプレナー。スタンフォード大学医学部のほかの教授と話していたら、
「Biodesign Fellowshipは、Dr. Yockが新しい起業のアイデアを探して自分も一枚かもうという野心のための手段」
と揶揄していましたが、たとえそういう野心があっても、いや、むしろ野心があるからこそ、一生懸命プログラムを推進してくれるのではないかと。全然悪いことだとは思いませんが。
ちなみに、このプログラムの授業の部分だけをウェブキャストで聞ける、という企業向けのコースがあるが、実際にそれを受けた方いわく、「ごく当たり前のことを言ってるだけで肩透かし」とのことでしたのでご注意あれ。「医療機器の開発の流れも許認可も何も知らない、という初心者だったら面白いかもしれないが」とのことでしたが。多分、実際に起業できるかも、という当事者の野心満々でやらないとつまらないのでありましょう。
すばらしいですね。
この畑と種が出会う機会と環境を提供出来る力がアメリカの強さなのでしょうね。
やはりフロンティアを求めて渡って来た祖先たちのDNAが根付いているのでしょうか?
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