今日、Wilson Sonsini Goodrich & Rosati(WSGR)でパートナーをしている多久洋一郎さんという弁護士の方とランチしました。WSGRは、シリコンバレーで最も由緒正しいベンチャー特化型弁護士事務所。HPやAppleも、スタートアップの頃からフォローしたという名門です。
さて、その多久さん、最近ブログも始めたということですが、これがブログと言うよりシリコンバレーのベンチャー投資の要項を事細かに説明したWikipediaみたいな濃厚なもの。アメリカでベンチャーをやろうと思っている人必読。
イメージで言うと、日本の最高峰的弁護士事務所であるところの森・濱田松本のパートナーが、ブログで事細かに法律問題を解説しているような感じ。
「シードファイナンスは、シリーズA優先株と転換ローン、どちらでやった方がいい?」
とか、
「anti-dilutionってなに?」
などなど、事細かに説明してあります。)
WSGRが見た、最近のシリコンバレーベンチャー増資の動向も具体的で興味深い。
さらに、
「シリーズA優先株タームシートのテンプレート」
はもちろんのこと
「つなぎ資金としてベンチャーが転換ローンを受ける時のタームシートのテンプレート」
なんていうのまであります。
ちなみに、この「タームシート」というのは、ホンモノの契約書ではなく、その要約版。「こういう骨子で投資したいと思う」というポイントだけを書いた紙で、通常投資家側が作成してベンチャーに渡すもの。優先株投資のホンモノの契約書は20ページ以上あるのが普通で、さらに付随する別の契約書もあるので、なんだかんだでトータル100枚以上になることもあります。
というわけで、アメリカでのベンチャー投資、あまりに条項が沢山ありすぎて、ベンチャー企業側は
「もう、弁護士と投資家で適当にやって頂戴」
という感じになりがちなんですが、決して、絶対に、何があってもないがしろにしてはならないのがliquidation preferenceです。必ず心の底から理解してから投資を受けるように。
「会社が買収されたりしたとき(liquidation時)、まず最初に、投資家が投資金額のX倍をもらう。ファウンダーやら社員は、その後の残りを分けてね」
という条項。「1倍」だったら当然ですが、これが2とか3とか、ベニスの商人みたいなのがありえるんですね。
この条項が厳しくなっていても、Googleのようなホームラン的上場や買収だったらあまり問題は無いのですが、「そこそこの価格で買収される」といった場合、買収で受け取ったお金が全部ベンチャーキャピタルにもっていかれ、ファウンダーや社員に一銭も入らないことになりかねない、ゆゆしき条項。アメリカ人のアントレプレナーもあまりよく理解せずに投資を受けて、後で泣くケースが多数あります。
いい弁護士がつけば、ちゃんとそのあたりポイントを絞って説明してくれるはずですが。
なお、WSGRは、名門弁護士事務所ゆえ、「頼んだら高そう」という気がしますが、一概にそうでもない。特に会社設立、ベンチャー投資、転換ローンといった「ベンチャーに必要な一般的契約書一式」については、メニュー方式で変数を入れていくと契約書が自動生成されるといったソフトもあるとのことで、
「必要ないことにコストをかけず、意味あるところで活躍」
というポリシーだそう。働く側の弁護士さんとしても、日がな一日同じような契約書ばかり書いていたらモーチベーションも下がるだろうし、自動化できるところは自動化するのは大事かと。
ちなみに、多久さん、
「最近クライアントの会社がみなPHPやらRuby on Railsのエンジニアを探しているので、自分でもちょっとPHP書いて理解してみようと思ってwordpressでブログを始めた」
とのこと。えらいですねぇ。
こんにちは。初めてコメントします、先月まで多久弁護士とWSGRで働いていました弁護士の増島と申します。
WSGRで学んだシリコンバレーの実務を生かし、ベンチャービジネスをますます活性化させるべく、秋から日本の森・濱田松本法律事務所にて勤務予定です。
日米双方のベンチャー投資の実務を見てきて、日本でも投資家、創業者共により合理的なタームでのベンチャー投資がなされなければならないと感じています。
昨年の会社法改正により、日本でもシリコンバレーで典型的に用いられる優先株の条項のほとんどを導入することができるようになりました。ところが、平成18年度のVC投資動向調査によると、日本ではVC投資の80%が普通株でなされているとのこと、今や米国ではエグジットの重要な一方法として認識されているM&Aによるエグジットがほとんど重視されていないことが伺えます(普通株投資ということは、liquidation preferrenceのない投資ということですので)。
日本でも、最近は、今まで大きなプレイヤーだった銀行系と言われるVC以外に、当初から事業の海外展開を意識し、また海外の投資家を意識した投資を心がけるVCが出始めているようです。まずはこうしたVCと共に、日本のベンチャー投資シーンがより国際標準に近づくよう、努力していきたいと思います。
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Listen-ITの方でコメントできなかったので、
こちらに失礼します。
今回の音声ファイルなんですが、途中で切れていませんか?
「Lはウという時」という中途半端な言葉で終わっているのですが…。
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