Google Earthでダルフール民族虐殺を見る

GoogleがDCにあるホロコースト博物館と共同で「Crisis in Darfur: ダルフール危機」プロジェクトを始めた。ダルフールで何が起こっているかをGoogle Earth上のレイヤーで見られるようにすることで、世界のダルフール危機の認識を高めようと言うもの。

スーダンのダルフールでは、政府軍による民族虐殺が進行中で、250万人が家を追われ、30万人以上が殺され、20万人が難民として隣国のチャドにいる。

・・・なんて聞いてもピンと来ない。「もっとピンと来るようにしよう」と、Google Earthの3D世界地図に重なるダルフールレイヤーをつくったのが今回のプロジェクト。ダルフールレイヤーには、死者数、家族を殺された人たちの証言、燃え盛る家や、怪我をした子供、難民キャンプの写真が載っている。こんな感じです↓

Darfur

今回のプロジェクトを行ったホロコースト博物館には2年前に行ったが、ものすごい立派な建物で、「さすがユダヤ人の財力をバックにしているだけある」と感動したものです。

「ホロコーストでの虐
殺を真剣に考えるなら、その教訓を元に、将来の虐殺を少しでも防がなければならない」

というのが、今回のプロジェクトの主旨とのこと。偉い。昔のことを
いくら知っても、将来に生かせないのだったら単なる趣味である。

  • ルワンダ・ジェノサイド

さて、ダルフールを語るために、避けては通れないのがルワンダの民族虐殺である。あまりに心ふたがる話なので、できれば避けて通りたいと思ってきたのだが、重い腰を上げて書きます。

なお、私の情報源は以下の通り。
■ 本
We wish to inform you that tomorrow we will be killed with our families (邦題『ジェノサイドの丘:ルワンダ虐殺の隠された真実』)
Shake hands with the evil  (Romeo Dallaire)

■ 映画
Hotel Rwanda

■ ラジオ
The Fresh Air "Romeo Dallaire: The failure of humanity in Rwanda"

ルワンダ虐殺は1994年に起こった、フツ族によるツチ族ジェノサイド。たった3ヶ月の間に80万人のツチ族が殺された。(100万人という説もある。)

フツとツチの間は長いこと険悪だったが、政府側であるフツ族の大統領が暗殺されたのをきっかけにツチ族への攻撃が始まる。政府軍もさることながら、ラジオの扇動が大きな威力を発揮する。村から村へとフツによるツチの殺戮が広まる。冒頭の本の1節によれば、

Neighbors hacked neighbors to death in their homes, and colleagues hacked colleagues to death in their workplaces.  Doctors killed their patients, and schoolteachers killed their pupils.

「近所の人が家で近所の人を斧で切り殺し、同僚は職場で同僚を切り殺し、医師は患者を殺し、教師は生徒を殺した。」

武器は殆どの場合、原始的な斧(machete:「鉈」という日本語の方が近いかも。)。ホロコーストでは、「ユダヤ人の大量虐殺はガス室という文明の利器なくしては不可能だった」と言われたこともあったが、ルワンダでは、数十万人単位の市民が虐殺に加わったことで、「斧」一つでツチ族は壊滅寸前となる。言葉は悪いが、「虐殺のロングテール」。恐ろしいことである。

その際に、国連軍の指揮官としてルワンダに送られていたのがカナダ人のRomeo Dallaireで、彼の書いた手記がShake hands with the evil。この人は本当にルワンダ虐殺に命を吸い取られてしまった人だ。当時、

「ルワンダ問題はジェノサイドではないから、国連軍が介入してはいけない」

というアメリカの一声と先進国の無関心で、国連軍は虐殺を止めることができない。そしてジェノサイドを目の当たりにしながら何もできなかった職業軍人の強い精神は3ヶ月で崩壊する。Romeo Dallaireは、その後の深いPTSDと自殺未遂を経てこの本を書いた。

しかし、この本の執筆を手伝ったライターは、本の完成を待たずに自殺する。本のために、二年間ルワンダ虐殺問題をリサーチし続けた後のこと。Romeo Dallaireは

..UNAMIR mission(国連ルワンダ派兵)was still killing innocent people.

と書いている。Dallaireのラジオインタビューも、本当に心が重くなるもの。(上記のリンク先で聞けます。)

映画、Hotel Rwandaは、この虐殺のただ中で、ヨーロッパ資本のホテルのマネージャが、数多くのツチ族(や穏健派のフツ族)をかくまって命を救ったという実話だ。映画には、夜、車でとある村を走っていると、路面が悪くなり、車がガタガタと揺れるシーンがある。車を止めて外に出てみると、路面は惨殺死体に埋め尽くされ、それがどこまでも累々と続く。

We wish to inform you that tomorrow we will be killed with our familiesは、虐殺の翌年から3年間のリサーチを行ったライターによって書かれた本。タイトルは、絶体絶命となったツチ族の神父7人が救いを求めてフツの神父に書いた手紙の一文から取られている。

「私たちが明日家族と共に殺されることを、お伝えさせていただければと思います。」

敬語なのがつらい。(その後、手紙を書いた神父たちは殺される。)

この本の筆者が虐殺後のルワンダに行った際に、民家の井戸を覗いたら、まだ死体が累々と重なっているのが見えた、という記述もある。また、とある教会では、虐殺された人たちをそのままの姿で残してあるそうだ。Hotel RwandaのDVDのボーナスコンテンツでは、白骨化した遺体が、静かに並ぶ様が映像で収められている。

***

ルワンダ虐殺で一番恐ろしいのは、実はフツ族とツチ族の間には明快な区別がなく、ほぼ同一の民族といえること。もともとは違いがあったが、混血が進んで誰がフツで誰がツチかはもはや彼ら自身にも見た目にはわからない。この二つのグループを分けたのは、植民地支配をしたベルギー。

「ツチはエチオピアから来た背が高く高貴でヨーロッパ的な民族」

「フツは背が低くて団子鼻の下等な民族」

とし、身長やら鼻の幅やらを計測して、国民の14%をツチ、85%をフツ、1%をそれ以外のTwa族と認定、IDカードを発行した。そして、少数のツチによる多数のフツ支配、という構造を作り上げる。(植民地支配するには、そのほうが楽だ。)

その後これが逆転し、フツが政府側となったわけだが、

「もともと区別できないほど同じような人たち」

であることには変わりない。いうなれば日本人が「縄文人」と「弥生人」に分かれて戦うようなものである。不毛だ。

不毛であると同時に、大変恐ろしい。無意味な区別で戦いあうことができる、というところが恐ろしい。

しかも、ルワンダ虐殺では、数十万人のフツ側の人々が、手に手に斧を持って顔見知りを切り殺していった、というのがぞっとする。親戚内にフツとツチ、両方がいる場合もかなりあったらしいが、その場合も、義理の兄弟姉妹、甥や姪を斧で切り殺す。

もちろん、フツの中には殺戮に参加したがらない人もいたが、「自分だけ手を汚さないのは許さない」という周りの圧力で、結局斧を手にする。拒否すれば自分が殺されてしまうわけで、まさに生きるか死ぬかの決断。

***

ルワンダの教訓は

「他人事ではない」

ということ。

頭がおかしい、強硬派、凶暴、狂信的、といった人たちではなく、昨日まで普通の社会生活を送ってきたごく普通の人たちが「一致団結してツチを絶滅させよう」というラジオの扇動で、次々に立ち上がって、どんな恐怖映画も顔負けの大量殺人を行う。

自分はそんなことはしない、と思いたいところだが、そういう風にタカをくくると、実際に異常な行動へと促す集団プレッシャーがかかったときに、それを異常だと認識するのが遅れるんじゃなかろうか。「みんながやってるからそうすべき」という「生活の知恵」を乗り越えるのは、実は結構大変なもの。

「集団の愚挙」の一部に自分がならないためには、「自分も愚かな行動をするかもしれない」ということを理解し、それと向かい合い、一つ一つの判断について、「これは本当に正しいか」と自問自答する訓練を続けないとならないのでは、と思います。大変ですが。

  • 今ダルフールに関してできること

私がルワンダの本や映画を読んだときには、既に虐殺は終わってしまっていたわけだが、

「こんな暴挙が同じ地球上で行われているときに、のほほんとしていた自分」

にショックを受けた。

今回のダルフールでも、結局のほほんとしてるところはそれほど変わらないが、少しでも「こんな恐ろしいことが起こっている」ということを知ってもらうために、がんばって長いエントリーを書いてみました。もちろん、ダルフールで起こっていることはルワンダとは違うが、どれほど恐ろしいことが起こっているかを想像するには十分ではないでしょうか。

以降、ダルフール関連リンク集です。

プロジェクトの記者発表のビデオはこちら

「ダルフール危機」プロジェクトのWhat can I do? ページより「あなたもできること」:

1. Join our community of conscience
2. Contact the media
3. Communicate with decision makers
4. Get engaged in your community
5. Support education and relief efforts.

1.ホロコースト博物館のジェノサイドに関するメーリングリスト等を購読して今後も情報を受け取る
2.メディアに「もっとダルフールの情報を流して欲しい」と電話やメールで要求する
3.政治家や国際組織にダルフール問題に取り組むよう伝える
4.家族や友達、自分が属する組織でダルフールの話をする
5.プロジェクトに寄付

寄付ですが、ホロコースト博物館への寄付はこちら。ただしこれは、博物館全体に行ってしまうようなので、ダルフールに特化した寄付をしたい場合は、CAREという慈善団体のものもあります。CAREは、慈善団体に詳しい知人に推薦された組織。CAREのDarfurでの取り組みはこちら。寄付はいずれもクレジットカードで可能です。

Google Earthのダウンロードはこちら
「ダルフール危機」レイヤーのダウンロードはこちら

Google Earthでダルフール民族虐殺を見る」への10件のフィードバック

  1. こんにちは。ルワンダ・ジェノサイド…ほとんど知りませんでした。。「ジェノサイドの丘」読んでみようと思います。
    >自分はそんなことはしない、と思いたいところだが、そういう風に高をくくると、実際に異常な行動へと促す集団プレッシャーがかかったときに、それを異常だと認識するのが遅れるんじゃなかろうか。
    そうですね。集団の異常心理とかって、よっぽど訓練でもしてないかぎり大抵の人は逃れられない気がします。「es」って映画とか見てそう思いました。
    ご参考:「X51.ORG : 情況の囚人 ― 1971年”スタンフォード監獄実験”とは」
    http://x51.org/x/06/04/2439.php

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  2. [外国で]隣人

    隣家の夫妻は夫はアメリカ人で妻はもともとルワンダ出身だ。 わざわざ「もともと」と書いたのは、ルワンダ虐殺を逃れて彼女が12か13歳の時に家族でドイツに移住(ドイツでは永住権を持っている)して以降はずっとドイツで暮らしているから、ドイツ出身と言えなくもないから…

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  3. >「こんな暴挙が同じ地球上で行われているときに、のほほんとしていた自分」にショックを受けた。
    わたしも同じです。
    ホロコーストはわたしにとって歴史上のできごとなんだけど、ルワンダ・ジェノサイドは地球の違う場所にいたというだけのことでしかなくて、なんて人間はおろかで悲しい生き物なんだと思いました。
    ダルフールの話知らせていただいてよかったです。

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  4. こんにちは。いつも興味深く拝読させていただいております。
    自分にとっては、「無意味な区別で戦いあうことが出来るのが恐ろしい」のはもちろんですが、もっというと「他の人たち(この場合ベルギー人)が作った無意味な区別が発端となって戦わされるという状況」が本当に恐ろしいです。
    おそらくこの虐殺のときにも、ベルギーの人たちは問題なく日常生活を送れていたのだろうなと思うと(想像でしかありませんが)、なんともいえない気分です。
    とはいっても、もちろん、「だからベルギー人は~」とかいう話ではなく。これと似たような状況は今でもいろいろあるのだと思います。日本人も世界では強いほうに位置するわけで、自分がのほほんと暮らしている時に知らないうちに誰かの生活を踏みにじっているような状況もあるのでしょうな。
    そういうことのすべてに自覚的になることは不可能なのでしょうけど、でもなあ・・・と割り切れない思いを抱えつつ、でも明日になったらまたのほほんと生きていくのだろうなと思う次第であります。
    結局心の隅に時々でもこういうことを置いている事が大事なのかもしれませんね。(ありきたりですが)
    個人的にはChikaさんがこのような話題を取り上げられたことに敬意を表します。書くだけでも結構気が重くなるようなことでしょうから。

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  5. 先週のNYタイムズにちょうどこんな記事が出てました。
    http://www.nytimes.com/2007/04/13/washington/13diplo.html
    だいぶ前からダルフールの難民を助けようと活動をしているミア・ファローがスダンの政府に加担をしているといわれる中国政府に圧力をかけるために、2008年の北京オリンピックへの協力をしているスティーブン・スピルバーグ宛に「ダルフールの虐殺を意に介さない中国を手伝うあなたは北京オリンピックのレニー・リーフェンスタールとして歴史に名を残すだろう」という内容の公開状を新聞で発表したそうです。ユダヤ人でSchindler’s Listを撮った監督にはこのメッセージはこたえたようで、その後まわり回って中国政府の高官がスダンを訪れ国連の介入を受け入れるように伝えるという顛末をむかえたそうです。実にややこしい話で、国際関係って本当に一筋縄ではいかないんだと思いました。
    私はWomen for Womenという団体もお奨めしたいです。先進国の人たちがスダン、ルワンダ、アフガニスタン等の貧しい女性を直接支援することが出来るよう活動を行っています。
    余談ですが私はホロコースト・ミュージアムと同じように原爆博物館もアメリカで作るべきだと思います。ものすごい政治的なプレッシャーがかかって実現は大変困難でしょうが、核保有国全てに一つは建設されるべきだと思っています。

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  6. 千賀さん、初めまして。いつも楽しく拝読させています。
    今日は考えさせられるテーマです。1週間位前、偶然にもTVで放映されて見ていたんですが、余りにも残酷でチャンネルを変えてしまいました。
    頭がおかしい、強硬派、凶暴、狂信的、といった人たちではなく、昨日まで普通の社会生活を送ってきたごく普通の人たちが「一致団結してツチを絶滅させよう」というラジオの扇動で、次々に立ち上がって、どんな恐怖映画も顔負けの大量殺人を行う。
    現代にこういう事があったことを受け入れる気持ちになるには、少々気合が必要かもしれません。

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  7. 初めまして。いつも寄らせて頂いていますが、初めてコメントします。
    ルワンダの虐殺、数年前に教育テレビで特集を見て初めて知り、大変ショックを受けました。今回こちらのエントリーを読み、改めてその残虐さに胸塞ぐ思いです。恥ずかしながら、今、ダルフールで起きていることはほとんど知りませんでした。日本のメディアでは本当に取り上げないですよね・・・
    日本ユニセフ教会のホームページを見たところ、「スーダン・ダルフール緊急募金」というのがあったので、私もスズメの涙ですが募金しました。他にも、「子供とエイズ募金」と「マンスリーサポートプログラム」というのがあったので、こちらにも参加しました。オンラインでカード決済でき、とても簡単でしたので、皆さんもいかがですか?
    今回のエントリーで色々考えされられ、また募金などにあまり積極的でなかった私の背中を押して頂けたので、感謝しています。今後も色々な切り口のエントリーを楽しみにしています。

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