Stanfordのオンライン英才高校

Stanfordがオンライン高校を開設した。通常の高校の卒業資格が取得でき、普通の大学受験ができる。

ただし、ただの高校ではなく、英才教育用高校。その名もEducation Program for Gifted Youth(EPGY)=Giftedな若者向け教育プログラム。Giftedは、アメリカの義務教育でよく使われる言葉で、「優秀な」という感じ。自分の努力で獲得するもの、というよりは、そもそも生まれつき神様から贈られている能力、という感じでしょうか。

「たまたま高い能力を与えられたんだから、その分思い切りがんばってもらおうか」

というニュアンスも感じられる。(能力の高い大人を形容するときにはgiftedとは言わない。大人の能力には、それまでの努力も多分に必要ということでしょうか。。)

ちなみに、Wikipediaさまによると、アメリカ教育におけるGiftedとは:

In Identifying Gifted Children: A Practical Guide, Susan K.
Johnsen (2004) explains that gifted children all exhibit the potential
for high performance in the areas included in the United States federal
definition of gifted and talented students:

The term "gifted and talented" when used
in respect to students, children, or youth means students, children, or
youth who give evidence of high performance capability in areas such as
intellectual, creative, artistic, or leadership capacity, or in
specific academic fields, and who require services or activities not
ordinarily provided by the school in order to fully develop such
capabilities.
" (P.L. 103–382, Title XIV, p. 388)

太字にしたのは私です。

「高い能力があるが、その能力を開花させるには、普通の義務教育を超えるサポートが必要」

というのがGiftedの定義なわけですな。Giftedな生徒のために、より難しいことを教えてもらえるクラスとか、近くの大学の授業を受けにいけるシステムが普通の高校にあるとのことである。

しかし、Bushが「No child left behind」という、成績の悪い子供を減らすためのキャンペーンを始めてから、落ちこぼれを救うための対策に予算が奪われ、Giftedな生徒のサポートがおろそかになっている、という問題も時として指摘される。

そこで登場したのが、このオンラインスクール=Online High School、略してOHS。オンラインで卒業資格が取れる高校はほかにもあったが、Giftedな生徒専用、というのはこのOHSがはじめて、とMercury Newsに出ていた。

OHSだけで高校を終えることもできるし、地元の学校とOHSを半々にすることもできる。その場合は、地元の高校の単位をOHSの単位に足すことが可能。また、OHSで興味のある授業をひとつだけとることもできる。海外に住んでいてもOK、と。

課外授業・・というか、クラブ活動も用意され、また、夏休み期間には、Stanfordのキャンパスに実際に出向いてクラスメートと実際に顔をあわせることができるサマースクールもある。

授業の内容は、「大学型」だそう。Overview of the Academic Program(PDF)によれば

While the typical high school student spends close to thirty hours per week in instructor-led classes, the average first-year college student spends between fifteen and twenty hours in class and a good deal more time outside of class studying in preparation. The seminar style classes offered at the OHS will be closer in spirit to college courses.

「授業を聞いて教えてもらう(高校型)」のではなく「予習に時間を割いて準備する(大学型)」になる、と。同じパンフレットによれば

Emphasis on writing, discussion, and argumentation. In seminar-style courses there will be an emphasis on fostering in the students the ability to read critically and write forcefully and persuasively. These themes, which are developed in depth in the OHS core courses, will be incorporated throughout the curriculum.

文章を書くことや討論に力点を置く、ともある。「注意深い評価と判断に基づいた読み方」「力強く説得力ある書き方」がカリキュラム全般で育成されるようにする、と。

「読み書き」って、アメリカの教育でやたらに力点が置かれることなんですな。日本の高校でまともに作文することってほとんどなかったという気がする。(中学ですらあまり記憶にない。)書いてもせいぜい3枚くらい。しかし、アメリカの高校生・大学生は、やたらに長い文章を書かせられる。うん十枚、とか。

ちっとは、「短く簡潔な要点だけの文章を書く訓練」というのもやったほうがいいのでは、と言う気もするが、一方、ある程度複雑な概念は、短く書くことは不可能であるからして、長い文章を読む・書くことに慣れておくことは重要だ。特にGiftedな生徒さんたちは、将来に備えて開発しておくべきスキルであろう。

ちなみに、このオンラインスクール「数学」に力点が置かれています。

Enhanced mathematical content. Where appropriate, courses in the natural sciences and the mathematical social sciences will have enhanced mathematical content. This will allow students to study material in greater depth and in a manner more closely approximating how these subjects are studied in the university.

自然科学、社会科学ともに、可能な限り数学を強調する、と。つまり「理系さん、いらっしゃーい」学校なんです。うれしいねぇ。OHSでは、「高校レベルの科目」と「大学レベルの科目」があるが、大学レベルのほうには「量子力学」「線形代数」などが並ぶのは当然としても、高校レベルのほうにも「Cプログラミング」「Javaプログラミング」などがある。

(なお、私とほぼ同じ年のダンナいわく、彼の高校時代はBasicのクラスがあったとのことである。学校でプログラムの授業なんて、私の行ってたころの日本の高校では想像できませんが(パソコンなかったし)。今はそういう授業もあるのか??)

そしてまた、OHSでは、生徒の力量次第で個別にどんどん先に進める、ともある。

Self-paced, directed study courses. Many gifted students are frustrated by having their progress limited by the abilities of the other students in the class. We will accommodate such students in courses that do not involve regular student-student interaction by allowing them to proceed through the curriculum at an accelerated pace under faculty direction.

「他の生徒を待つことなく、好きなスピードで進めるのでフラストレーションがない」と。

***
あー、私が子供ころにこういうのがあったらなぁ・・。「英語」というところがしんどいが、あらかじめわかっていれば何年かがんばって準備すればなんとかなるかも。

なんといっても、私は勉強が大好きだったのであります。小学校のときは、4月に教科書をもらったら、3週間で1年分の問題を解いた。中学、高校と進んでも、数学も物理も古文も英語もOKであった。

そして、それは、かなり恥ずかしく、みっともないことであった。

もちろん、アメリカでも、「勉強できるやつはクールじゃない」という偏見はある。

「勉強ができることもクールだよ」というメッセージの(と映画評に書いてあった)Akeelah and the Beeという映画が今日封切られたが、それは逆に言えば、「映画で伝えなきゃならないくらい、メッセージが普通じゃない」ということだ。

というわけで、「勉強ができると同級生からクールじゃないと思われる」というのは、日本もアメリカも一緒かもしれない。しかし、アメリカでは、教育システムとか、社会システムは「勉強ができることはいいことだ」というメッセージを強力に発信していると思う。「Gifted生徒向けプログラム」もそのひとつ。一方、日本では、

「そもそも勉強ができること自体、大してほめられることではない、いやむしろ社会で成功する上では逆効果だ」

というイメージが大いにあるように思う。少なくとも、そう明言する人は多い。今でも覚えているが、小学校の高学年くらいのときに「成績のよい子供は創造性がないから、クリエイティブに物事を作り上げ、解決していく人間になれない」という類のモノを読んで、

「そうか、私は創造性がないのか」

と悲しく思ったものだ。

なんかもうちょっと、優遇してくれてもよくないですかねぇ、、、。せっかく、世の中のほとんどの人が嫌いな勉強を好きこのんでする、という奇特な人間なんだから。

***

ちなみに、OHSの年間授業料は12、000ドル。必須ではないが、サマースクールにも行ったらプラス4、700ドル。一応、「奨学金が出せるよう画策中」とのことですので、受かりさえすれば何らかのサポートが受けられるかも。ま、日本で私立の高校に行っても、これくらいはかかるのかな?

というわけで、今年の秋から始まるOHS、受験希望の方は、こちらに要綱がございますので、どんどんトライしてみてください。アメリカの高校卒業資格があれば、アメリカの大学への進学も簡単になりますし。

Stanfordのオンライン英才高校」への5件のフィードバック

  1. こういうのは日本にないから、いいですね。日本だと飛び級とかないし。
    余談ですけど、こういうのはサイエンスとスポーツだけにして、数値で測れない分野はどうかなって思いますけど。ビジネス スクールなんて、ビジネスの学校って、まぁ、行って損はないけど、成績を付けられる内容じゃないでしょうし。
    勉強したけりゃ、各自で自主的にするのがいいかと。
    論語の「知之者不如好之者、好之者不如楽之者」がやっぱり一番理想的かなって思います。

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  2. いいなあー。いやまあ高校生のころはそんなに勉強好きじゃなかったし、Giftedでもなかったのでたとえその頃にあっても何の関わりもなかったとは思いますけど。
    でも今でもアメリカの高校生とか大学生とかが受けてるようなwritingのクラスはすごく受けてみたいと思います。

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  3. 2.イノベーションとインフラ整備
    科学技術の発展を目指すインフラ整備は、経済発展の機軸である。スイスの研究機関(IMD International)の発表によると、世界のトップ50の科学技術研究機関の内38が米国の研究機関が占めている。しかし、米国の科学技術の影響力が低下傾向にある。4年以内に、中国人のエンジニアの博士の人数が米国を追い抜くと予測されている。科学技術の分野への本格的な投資・社会資本整備が必要である。
    http://www.yorozubp.com/0604/060423.htm
    「ハミルトン・プロジェクト」の要旨にあります。

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  4. 中学の数学の授業は、先生の授業を無視して勝手に教科書終わらせて、勝手に別のことやっていたのですが、先生は何も文句を言わなかったのが素晴らしかったことを今更ながら思い出しました。
    今の日本の教育制度は出来る子にとっても出来ない子にとっても不幸だと思いますねぇ;;

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  5. >しかし、Bushが「No child left behind」という、成績の悪い子供を減らすためのキャンペーンを始めてから、落ちこぼれを救うための対策に予算が奪われ、Giftedな生徒のサポートがおろそかになっている、という問題も時として指摘される。
    ままあそのBush「落ちこぼれ防止法」のおかげ様でインド系オンライン家庭教師産業が急成長してるそうですね。売上の八割が米国からだとか。
    Stanfordのそれも裏側でインドの会社が動いてたり?……はしないですね、きっと。:)

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