アナログな未来

今日のSan Jose Mercury Newsの特集はSV150 Silicon Valley’s Largest Publicly Traded Companies。紙媒体で18ページある「大」特集。売上、利益、市場価値、その他様々な項目で企業や業界を縦横無尽に切り、さらに様々な特集記事が載っている。

売上順では、一位がHP、Googleも初登場ながら19位。市場価値÷売上では、Googleが一番高くて15.7、以下eBay、Yahooと続く。

利益率No1はLinear Technology。アナログ半導体の会社である。一位であるからして、当然、高価なマイクロプロセッサを作るIntelよりも上。Linear’s gold mine is unique analog chipsはその高収益率の理由を追った記事だが、そこで語られる秘訣は、アナログという職人芸が必要とされる製品のコンサルティング販売である。

An experienced engineer will visit a customer such as General Motors and anticipate that in a year the company will need, say, a faster version of a chip that the customer is already ordering. The engineer will propose, design and shepherd the project if the customer signs up for it. Apple Computer, for example, will pay a higher price for a chip that makes the sound better in its iPod.

Linear Technologyは1981年創業、という老舗だが、その設立当時は:

The personal-computer revolution was just starting at the time, and some expected the digital age to make analog chips obsolete altogether. But far from disappearing, analog chips grew up to be a $34 billion business that is expected to hit $42.7 billion by 2007, according to the Semiconductor Industry Association.

当時は「時代はデジタル。もうアナログはいらない」という予想もあったが、実際には340億ドル規模に成長、さらに成長を続け2007年には427億ドルにまで伸びると予測されている。

ちなみに、世界中でアナログ半導体エンジニアは不足している。熟練の域に達するには長い年月がかかる上に、アナログ設計を教える大学も限られているからだ。特に日本では「これからはデジタル」という一言で殆どの大学がデジタルへ、デジタルへとなびいてしまい、アナログエンジニアは払底。しかし、世の現象は、音にしろ電波にしろ電力にしろ、すべからくアナログ。電波(その名の通り波。1-0ではないです。)を飛ばして、その電波を読み取る、というワイヤレスでは欠かせない技術でもあり、ニーズは高いが、開発できるエンジニアは居ない、という状況に。デジタルは、設計ツールを使えばかなり容易に設計可能だが、アナログはそういうわけには(今のところ)行かない。

というわけで、「アナログ」といえば、「レトロ」「時代遅れ」の代名詞として使われたこともあったくらいだが、そこで大勢に流されずに踏みとどまってアナログ一筋に邁進したLinear Technologyは、シリコンバレーの公開企業で一番高収益の会社になったわけです。みんなが同じことを言うときは注意した方がよい、ということのよい例でしょうか。

アナログな未来」への4件のフィードバック

  1. chikaさん、はじめまして。よく読ませていただいておりますが、コメントは初めてです。
    このMercury Newsの記事は、ビジネスチャンスの見つけ方、技術のマネジメント、ビジネスモデルの確立、などなどいろいろなことを考えさせられる面白い記事ですね。
    さて、シリコンバレーに来て知り合った友人がこのLiner Technologyでエンジニアとして働いています。彼と話をするといつも「この会社はしっかりしているなぁ」と感じさせられるのですが、収益率No.1というのを知ってびっくりしてしまいました。しかしながら、この記事を読みつつ彼のセリフを思い出すと納得できるところもありますので、ご紹介します。
    「うちは同業他社に比べてチップそのものの値段は高いが、客がどういうものを作りたいかを理解してチップの使い方や回路の設計まで含めてコンサルするので、客が欲しい物を短期間に確実に実現するお手伝いができるとことが他社との大きな違いだ(それを考えるとトータルではお客さんに無駄なお金を払わせることはしていない)」
    「それでも高いと言われても、うちは絶対に安売りはしない。金額が折り合わないときは『じゃあ、他社チップを使ってご自分で設計なさってください(そのかわり、苦労しても知りませんよ)』と言える」
    うーん。こういう経営/仕事ができるというのは、うらやましいなぁ、と感じます。
    ところで、微妙なニュアンスの感じ方の違いであったら大変申し訳ないのですが、chikaさんは
      >そこで大勢に流されずに踏みとどまってアナログ一筋に邁進した
    と書かれていますよね。この「踏みとどまって」というのは私には少し「守りの姿勢」に読めるのですが、むしろ「デジタル時代が進展するからこそアナログ回路がもっと重要になり、ビジネスチャンスがある」という信念に基づいた「攻めの姿勢」だったのではないか、と思います。「It(=analog) bonds the real world to the digital world」というのがその信念を象徴するメッセージだと思いましたし、だからこそ創業者も「My frustration overcame my 14 years of loyalty to National (to found Linear in 1981)」という行動に出たのではないでしょうか、などということを感じました。
    おっと、長々と駄文を書き連ねてしまいました。それでは、失礼いたします。

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  2. aa-san,
    上手くいっている会社というのは、社員の人ひとりと話すだけで「ちゃんとしているな」という感じがにじみ出てくることが多いですよね。
    「安売りしない」というのも大切。一旦安く根付けしたものを、高くするのは殆ど不可能。。
    「デジタル時代が進展するからこそアナログ回路がもっと重要になり、ビジネスチャンスがある」
    という攻めについては、確かにおっしゃるとおりです。
    我とわが身を振り返ると、大勢と違う決断をする時は、たとえそれが私なりの攻めであったとしても、「自分の足場を守っている」という感じが強いので、感情移入して「踏みとどまって」と書いてしまったのかな、と思います。
    では。

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  3. シリコンバレーのオーラは薄れたか?

    日経産業新聞で「オーラ薄れたシリコンバレー」というコラムを読んだ。渡辺千賀さんも取り上げられていたSan Jose Mercury Newsのシリコンバレー150という記事を紹介した後、昔はシリコン○…

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