IT業界のM&A

日経産業4月8日掲載のコラムです。

情報技術(IT)業界では最近、M&A(企業の合併・買収)が盛んだ。米シリコンバレーでも、M&A絡みのニュースが新聞の紙面を毎日のようににぎわせている。

大手コンサルティング会社のマッキンゼーは二〇〇四年の初頭に出した報告書で、企業内アプリケーション、セキュリティー、ミドルウエアなどIT業界の十一の領域でM&Aを通じた再編が起こるとすると予測した。その根拠となっているのは、成長率や領域内のプレーヤーの数、利益率などだ。成長が鈍化した成熟分野でありながらプレーヤーの数が多すぎれば利益率が落ちる。その結果、利益率向上や売上高増大に向けたM&Aの動きが活発になる。

さて、M&Aの実態をよくみると、この報告書にあるような成熟産業型のM&Aと、成長産業ならではのM&Aの両方が同時に起こっていることがわかる。

まず、成熟産業型の代表例としては、オラクルによるピープルソフトの買収がある。データベースでは業界最大手としての地位を確立したオラクルが、企業内アプリケーションでも影響力を強めようと、人事アプリケーションに強いピープルソフトを買収。買収額は百三億ドル、日本円で一兆円を超す。通信業界大手MCIの買収をめぐっては、同じく通信事業者であるクエストとベライゾンが八十億ドルを超す買収額で激しい争奪戦を繰り広げている。

一方、インターネットビジネスでは、成長産業型のM&Aが主流となっている。たとえば、グーグルは二〇〇四年に四社を傘下に収めた。リアルタイムでウェブのトラフィック解析を行うジブダッシュやデジタル写真管理のピカサ、衛星写真データによる地図アプリを持つキーホール、やはり地図関連とされるホエア2がその対象だ。しかし、買収額は、四社合計で五千六百万ドルと小規模で、買収された企業はいずれもまだ利益がないか、あってもごくわずかだ。グーグルの目的は優れた技術とエンジニアの獲得、成長のスピードアップにある。

買収劇の中には敵対的なものもある。たとえば、オラクルのピープルソフト買収では、当初オラクルのラリー・エリソン最高経営責任者(CEO)は、「買収したら、ピープルソフトの製品は全てつぶし、社員も全員解雇、顧客ベースだけいただく」などと言い放っていた。その後、オラクルはピープルソフトの製品ラインは継続するとはしたが、ここまでの脅威的発言があってなお、買収が成功してしまったのには驚く。

最近、日本ではライブドアとフジテレビジョンのニッポン放送買収合戦が話題となっているが、公開している以上は敵対的買収の攻勢を受ける可能性があるのは当然だ。それがいやなら公開せずにプライベートなままという道を選ぶべきではないか。

日本はさておき、米国のIT企業では、どうやって敵対的買収から自社を防衛するか、どうやって積極的にM&Aを活用して成長するかが、今後の企業戦略上より重要になっていくだろう。

IT業界のM&A」への5件のフィードバック

  1. 昨年、セミナーでお会いした直後、進めていたM&Aがまとまったと思ったら、「今回はキミ行って」の一言で取締役になりました。で、M&A後のほうがタイヘンでした。特に人事面。N放送ではないですが、「子会社になるならやめます」という人がごそっと退職。残りのユラユラをなんとか沈静化させ、やっと再出発のスタート地点です。
    ところで5月にまたイスラエルです。石鹸まとめ買いしてこなくちゃ。

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  2. お疲れ様です。You look tired….参照 http://www.jtpa.org/newsletter/000279.html の5番)
    M&A先を上手に自社組織に取り入れているシスコでは、M&Aが完結する前から、組織integrationプランを作成、相手先企業のkey employeeは誰かを明確化し、その人たちに会っていかに彼らが重要であるか、等々、をコンコンと説明したりするそうです。(繰り返しになりますが、M&Aがクローズする前から、です)それくらい、ここがキーなんでしょうね。。。

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  3. そうそう。事前に説明をしたんですけどね。業務が少し動き始めてから退職者が出始めたんですよ。いいにくかったのか、我々が期待はずれだったのか?笑 最近わかったんですが、買収側は「あまり組織を触るとイヤだろうから様子を見よう」と思っていたのですが、された側は「乗り込んで大きく変えて欲しい」と思っていたらしいというスレ違いもありまして、買収するほうもされるほうも、慣れてなかったからでしょうかねぇ。
    それでも、なんとか軌道に乗りつつあります。

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  4. 期待はずれはかなしいですね・・・。どうせ変る組織なら、さっさと最初に変えるのって大事みたいですね。軌道に乗ってなによりです。

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