この世で最も悲観的なアントレプレナー

去年Technology Reviewの記事のタイトルをそのまま和訳して地球上で最もホットなベンチャーキャピタルという大げさな題をつけてエントリーを書いたが、それにもじって「この世で最も悲観的なアントレプレナー」。(「上手くいっているベンチャーを経営しているのに」というのが頭につきます)

それは私の知人のAさん。香港出身、半導体関連のエンジニアからアントレプレナーに。半導体設計自動化ツール(EDA)業界の人。10年ほど前に最初のベンチャーを数名で起業、業界大手企業に約6億ドルで売却。しかも全て現金。で、今また別の会社を立ち上げ、メジャーなVCからの増資も受け事業は順調に進展中。先日ランチを一緒にしたが、彼の自分の会社を語るときの熱のなさ加減といったら・・・・・。

こんな感じです。

私「会社のほうはどう?」
A「Good」
私「シリーズBはどうだった?」
A「OK」
私「セールスのほうはどう?メジャーなお客さんはゲットできた?」
A「So so」

(いつ会ってもこの調子。最初の頃は、「もしかして今回のベンチャーは上手くいっていないのかなぁ」と思い、あまり深追いしなかったのだが、会社は結構それなりに人も増えている様子。なので、今回はちょっと突っ込んでみた。)

私「会社の話するとき、いつも本当につまらなそうだけどどうして?」
A「アップサイドは知れてるから。かなり確実にそれなりの成功をする自信はある。自分たちはこの業界の肝がわかっているから当然だ。でも、成功したってそこそこだ。EDAは業界としてもう成長しない。だから、ベンチャーが成功するって言ってもたいしたことない。ボクの金銭的アップサイドも大体見えてる。まぁその程度のもんだってことだよ。」
(推測では、彼のアップサイドは数億円というところ。)
私「たいしたことないって言っても、アイダホかどこかの田舎の人が聞いたら腰を抜かすような金額でしょ」
A「まぁそれはそうだけれど、シリコンバレー的にはたいしたことない」

というわけで、彼ほどほんとーにつまらなそうに自分が起業した会社のことを語る人にあったことがない。とはいうものの、彼もアントレプレナーに不可欠な「しつこい」という点に関しては、決して人に負けることはない。今回のベンチャーも最初の資金調達では1年近く粘りに粘っていろいろな案を練り直していたし。淡々と、しかし成功するまでやめない、というタイプか。

また、野望もある。前述の会話の続きはこんな感じでした。

私「EDAがダメだったら、じゃぁ何がしたいわけ?」
A(突然目を輝かせて)「インターネット関係とか、そういうガーっと伸びるような事業がしたい!!Googleみたいな」
私「でも There is only one Google」
A「There was Yahoo too!」

ということで。野望はあるんですね。アントレプレナーというのは、「野望」と「しつこさ」さえあれば、残りの資質はなんでもあり、ということでしょうか。

この世で最も悲観的なアントレプレナー」への12件のフィードバック

  1. 経済学に「収穫逓減の法則」というのがありますが、モノやお金に対するありがたみというのも同じような法則が当てはまるのでは。例えば自分の生活で思い当たるのは朝起きて最初に飲む一杯目のラッテで、これは二杯目の何倍もの価値があります。Aさんにとっても最初に入ってきた数億の方が次に来る数億よりもうんと意味があったのでしょうね。で、今度は百億とか千億という金額でなければエキサイティングではないと思っているのでは。

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  2. EDA業界の展望

     また、全然本質と関係ないところへの反応ですが、、
     「On Off and Beyond」より。
    私「会社の話するとき、いつも本当につまらなそうだけどどうして?」
    A「アップサイドは知れて��…

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  3. Yuki-san,
    そうですね。何事も、手に入れてみると「こんなものか」という感じですものね。幸せは自分の内側にしかないってことでしょうか。

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  4. Chika-sanのご友人のAさんぐらい冷静にビジネスしないと、できることもできなくなるってことでしょうか。
    手に入った事で「満足」して自分で感動☆していたら、次の野望は生まれないんでしょうね・・・。
    大物って冷静沈着、おおらか、どことなく世の中を冷めた目で見てたりする気がします。中田ヒデ選手、イチロー選手、松井秀樹選手などなど。あ、スポーツ選手しか出てきませんでした(笑)
    そんな大物達はどこで幸せを感じているんでしょうか・・・。知りたい。Chika-sanの言う自分の内側の幸せって例えば何ですか?
    手に入れてみると「こんなものか」って思いますけど、手に入れる直前の緊張と興奮は人を前進させる要素ですよね。。。

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  5. 私はIT業界暦15年で、ISP業界初期からプロバイダー業も始め、いまはウェブアプリやらASPなんかもやっているのですが、待望を抱くエネルギーが足りないせいか、なかなかガーッと伸ばして上場してでっかく儲けるというようなイメージがわきません。上記の悲観的なアントレプレナーさんが羨ましいですね。

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  6. kima-san,
    >Chika-sanの言う自分の内側の幸せって例えば何ですか?
    「今日はいい天気だなぁ」とか「海が青いなぁ」とか「草の匂いがするなぁ」とか「猫のおなかはやわらかいなぁ」とか、例えばそういう時のホノボノ感でしょうか。
    isl2005-san,
    IPOして大きく稼ぐ!というだけが人生ではありませんよね。私もそういう可能性など全くないスモールビジネスを愛してます。。。

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  7. はじめまして、知り合いのiPod関連ブログ経由で今日はこちらを閲覧していたところ、自分の業界ネタを見つけたので、こらえきれずにコメントさせて頂きます。
    Aさん、凄いですね。同じようなキャリアを持つ者(と言ってもこちらは、まだ宮仕えの身ですが・・・)として敬服するよりありません。
    それにしても、「EDAは業界としてもう成長しない。・・・」という下りに、いまだその業界の片隅に身を置くものとして何だか薄ら寒いものを感じました。
    Aさんにしても、みな、心を惹かれる者は一緒なんですね。 かくいう僕もEDAよりもネットでのビジネスの方がワクワクする気がしています。では両者がくっついたらという気もしていますが、B2Bではまだまだ難しい面もあるようです。
    またコメント&トラバさせて頂くこともあるかと思いますので、今後とも宜しくお願いいたします。

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  8. chika-san>ほのぼのした内側の幸せ、私も大切にしたいと思います。天気がいいな~!太陽ありがとう!って感じれたとき確かに幸せな気がします。それで干した布団がふわふわになった時とか。
    CAに住んでいた時はあの青空にいつも幸せを感じていたけど、日本に帰ってからなかなかあのような青空は見えないですね。。。日本の四季ははげしく変化しますね。先日なんて”春一番”が吹いた次の日が雪で風邪引きました。

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  9. AFN FAN-san,
    こちらこそ宜しくお願いします。
    ITの世界では成熟したといっても、まだまだ。古きよき繊維やエネルギーですらパワーアップして再成長する昨今、EDAもナノテクでどんでん返しがあるかも。
    kima-san,
    四季があるのも幸せ、って感じしませんか?こちらは、今梅と桜と桃が同時に咲いています。時差なし。とほほ・・・・

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  10. 内側のしあわせは、ビジネスの第一線で活躍されているchikaさんも、日本の地方でちんまりと活動する私もほぼ、同じだったとは、意外でした。(ウチの場合は犬ですが。)その他、おいしいもの食べたとき、温泉につかっているとき・・・かな。あの、イチロー選手もシーズンインしての感想を聞かれて、「匂いがいいですねー(球場の芝とかの)」と、コメントしていました。私が今、一番待ち遠しいのは、「春の匂い」なのですが、なかなか来ません・・・・
    先日、CNNだったかのHPで、イギリスで仕事の満足度が高いのはホワイトカラーより、美容師などの、技術系の仕事をしている人たち、というのがありました。ホワイトカラーはもっと上を目指そうとするから、満足度としては、低いってことなんでしょうか?もっとも、イギリスでは、ですけどね。

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  11. chika-san>
    日本の四季は確かにいいですね。ただ最近は春は花粉症、夏は記録的猛暑(40℃近い)、秋は台風、冬は大雪なんて1年もあり、住むにはCAみたいな変化少なめの気候がいいなって思うことあります。花粉症の人には日本の春は地獄ですね・・・。
    sarieri-san>
    >ホワイトカラーはもっと上を目指そうとするから、満足度としては、低いってことなんでしょうか?もっとも、イギリスでは、ですけどね。
    そうなんですか・・・。人は満足感や達成感を得るためにこんなに働いてるんでしょうか?また何のために生きてるんでしょうか?この質問にはまると少し気が重くなるのであんまり考えないようにしてるんですが。時々ふと思いますね(笑)
    友人には、Make your life as simple as possibleと言われましたが。

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  12. 起業家は懲りない:25年前の研究テーマをビジネスにするNumenta社のHawkins氏

    ここのところ雨が続いたシリコンバレーも、今日は少し晴れ間が見える。子供たちを学校に送っていった後、独りでオフィスに向かう途中、シリコンバレーの地元紙San Jose Mercuryを読みな��…

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