2001年ドットコムオークション

2001年の5月に、NHKテレビのビジネス英語教材のコラムで書いた文章です。当時のシリコンバレーのドットコムバブル崩壊の様子についてのもの。ナツカシー。
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インターネット・バブルが崩壊して久しい。去年(2000年)の4月にナスダック株式市場が暴落するまで、会社の名前に「.com」がついてさえいれば、資金が集まって上場できると言われ、数多くの「ドットコム」企業が誕生した。そして、できて間もないドット・コムに莫大な資金が投下された結果起こったのが、「コンピュータ機器バブル」「広告宣伝バブル」そして「オフィス家具バブル」である。

インターネット関係の事業は、かわいらしく見える物売りでも、実は裏側には大量の設備投資が必要となる。そこで、まずはコンピュータ機器の需要が一気に増大、機器製造の各種メーカーがみな増産体制に入った。さらに、消費者向け事業では、最初に知名度を上げた企業が勝つという迷信が広がり、100億円資金があれば50億は広告に使う、といった極端な宣伝合戦が始まった。シリコンバレーの動脈ともいえる101号線という高速道路の脇には大きな立て看板がたくさんあるのだが、この利用料も、一時期はニューヨークのタイムズ・スクエア並にまで高騰したらしい。

とどめは、オフィス家具バブル。ドット・コムの多くが、スタイリッシュなインテリアを整備、SF調あり、イタリアン風ありと、まさにバブリーなオフィスを作り上げた。ただし、これには一概に無駄遣いとは決め付けられない側面もあった。バブルの余波で失業率が低下、シリコンバレーの中心部であるサンタ・クララ郡では、なんと1%台前半まで落ち込んだため、人材確保の最後の手段としてインテリアが使われたのである。今はなきドット・コムの社長だった友人によれば、オフィスを改装したとたん、採用通知を出した相手が実際に入社する確率が、20%から90%に上がったとのこと。

しかし、奢れるものは久しからず。バブルのはじけた今、盛況を極めているのは、倒産企業の資産叩き売り、「ドット・コム・オークション」である。

出るわ出るわ。超ハイエンドのコンピュータ関連機器、社員の使っていたパソコン、そしておしゃれなオフィス家具。ありとあらゆるものが市場に出ている。そして私はといえば、ホームオフィス整備に向け、ハイエナのように虎視眈々と獲物を狙っている最中であり、待ってましたとばかり最近2件ほどオークションの出物を見に行ってきた。

まず一件目。Death of a Dot Com Number 5と銘打たれたオークションは、iSharpという会社の破産処理のためのもの。広大なオフィスビルの1フロアを占めていたiSharp社を、そのままオークション会場にするという、泣けてくる状態であった。がらんとしたフロアは、黒とグレーのモノトーンに赤のアクセントで統一されている。一角はサロンになっていて、冷蔵庫から皿洗い機までが、作り付けのバーカウンターに整然と並ぶ。黒くてふかふかの本皮の応接セットやら、赤い唇の形のソファーやら、インテリア雑誌から抜け出てきたような家具があちこちに点在し、社員の机はグレーの流線型に赤。オークションを待つホワイトボードの一つには、墓石の落書きがあり、墓碑銘としてWe were not that sharp after allと書いてある。入り口すぐの壁には横7-8メートルはあろうかという紙が貼られ、事業マイルストーンがすごろく状に描かれている。それによれば、もうすぐ最初の製品が世に出て、みんなで打ち上げをしている頃だったらしい。ということは、製品も出ていないのに、こんなすごいオフィスにしてしまったんだなぁ、とため息。そんなこんなで、中々素敵な家具がたくさんあったのだが、購買ロットが大きくて断念。机4台,本棚3つ、電話40台、などをまとめて落札しないといけないのであった。

もう一つは、eHomeという会社の残余資産。こちらはゲットしました、ハーマンミラー社のアーロンチェア。Design of the Decade賞を受けたこともある椅子の逸品である。今もこれに座って原稿を書いているのだが、とても快適。オンラインで売りに出ていたものを、市価の30%オフで落札。倉庫まで取りに行って、まだビニールに包まれた新品を、現金決済で入手してきた。

ちなみに、私は普段は買い物に無頓着で、価格を比較したりすることはまずなく、見る→欲しい→買った、という非常に単純な3段階のステップで購買行動が終わる。一応、自分では「一期一会」と称しているのだが、本当は単に面倒なだけである。私の家人は、世界一の締まりや集団の誉れも高い華僑なので、私の個人的商活動を見て、いつも頭をかきむしっている。しかし、倉庫でキャッシュで個人からモノを買う、という行為はまるで賢い消費者のようではないか・・・。我ながら感動した。

(実のところ「オフィス家具って、最近はオークションで安く売ってるんじゃないかなぁ」と何回かつぶやいたところ、全てのリサーチを家人が行い、私は最後の入札をしただけなのだが。)

ちなみに、椅子のおまけで、販促用の人工皮のバインダーをもらった。原価は一冊75ドルだったそうだ。イベントのために、8千ドルかけて作ったというプラスチックの人形も4体ほど倉庫にはいたが、これを買う人はまずいないだろう。そういう意味では,「広告宣伝バブル」で垂れ流されたのが、最も意味のないあぶく銭だったのだ。

こうして、バブル崩壊の損切りが一気に進んでいく様子は、日本の過去10年間とは全くの別世界である。日本でも、これが92年ごろできていれば・・・・。

2001年ドットコムオークション」への7件のフィードバック

  1. 本当に懐かしいですね。バブルの頃はまるで超豪華なパーティーに呼ばれて、大判振る舞いのご馳走が次から次へと出てくるような感じだったし(それが数年も続いて、私も私の知っている人もみんな完全に浮かれていたんです)、終わった後はシリコンバレーの(短い)歴史の中でも最悪の不況でした。
    でもハイテク業界に長年いると好不況の波は数年おきに必ず来るものだということが身にしみてわかります。だからどれだけ景気が悪くなってもシリコンバレーは必ずまた復活するという事を私は一度も疑ったことがないし、いつかは前のバブルよりも更に高い成長を遂げるだろうと思っています。

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  2. Yuki-san,
    そうですよね。シリコンバレー、気候もいいですものね。もうちょっと不況が続いて生活費が下がった方がいいかも・・・。

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  3. MostlyVowels-san,
    そうそう、懐かしいですよね。
    なお、頂いたリンク先おもしろかったです。特にイギリスのドットコムならではの用語や背景が興味深いですね。「マネジメントがpublic schoolの同窓生」とか。(あと、イギリスではマネジメントのことをMDとういのでしょうか。Medical Doctorの略でお医者さんという意味でMDというのは良く使いますけど、この場合はmanaging directorですよね??)

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  4. そうですね。英国で「誰某はMDだ」と云えば、まずその人物は”Managing Director”(会社の最高責任者、=CEO)だ、と云う意味に取られます。勿論、米国系の金融機関と接触する機会が多いイギリス人の場合、米語の”Managing Director”は普通CEOでは無い、と云うニュアンスの違いは認識していますが。ともかく、”MD”とは医者を表す記号である、と云う認識はイギリスでは普通は有りません。
    国際医学学会等では、参加者自ら提出する略歴、肩書き等ではアメリカからの参加者は”Jane Doe, MD”、イギリスの参加者は”Dr. John Doe”と表記が微妙に違うのも面白いです。ちなみにドイツからの参加者は”Prof. Dr. Hans Reh”等と少々堅苦しい表記が目立ちます。
    また、博士号を取ったドイツ人の企業経営者は、”Herr Professor Doktor Generaldirektor Karl-Gustav von Meiningen-Hildburghausen”等と、非常にフォーマルに紹介される事も多いです。 (笑
    英語と米語の語彙、ニュアンスの違いはネット上では多くのサイトで紹介されていますが、殆ど使わないサイトをブックマークするのが面倒くさいモノグサの私は必要なたびに、只Googleに”spanner wrench zucchini courgette barrister”と適当なキーワードで検索をかけています。勿論、”public school”等の階級的な要素、又はイギリスの飄々としたユーモア等の「文化」の理解は、ネット上の検索だけでは把握は難しいのは理解しておりますが…

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  5. ほほー、MD=医者、というのはアメリカだけなんですね。では、イギリスではwebMDという社名は通用しませんね。
    なお、エストニアの会社のシリコンバレーオフィスで働く韓国系の知人がいます。彼女は博士なのですが、ヨーロッパの人たちからのメールには、Mrs.XXXと最初に書いてあることが。「何度送られても変な気がする」とのこと。(MostlyVowelsさんはもちろんご存知と思いますが、アメリカでは、ビジネスでは女性への敬称はMs.が普通ですので)
    ちなみに、アメリカで、非常に堅苦しく、夫婦宛に招待状を出す場合、
    ダンナさんがJohn Doeで奥さんがJane Doeだとすると、
    Mr. and Mrs. John Doe。奥さんの名前は出てこんのですな。ひえー。奥さんあてでもMrs. John Doeと書くのが伝統的な形とか。(年寄りの未亡人の中には、ダンナが死んだ後も、自分をMrs. John Doeと死んだダンナの名前でサインする人が居るそう)
    また、博士の場合はDoctorとなりますが、奥さんがDrだったら、Mister and Doctorとなるのか?変ですね。ま、このしきたりができた頃、奥さんが博士なんていうことは想像もされなかったんでしょうね。
    しかし、まぁ私の周りでは普通はMr. John Doe and Mrs. Jane Doeと書くのが普通ですが(こんな堅苦しくかくのは結婚式の招待状くらいですが)。

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  6. 宛名の書き方というのはアメリカ人も迷うらしいです。今年のミス・マナーズのコラムには「同性のカップル(同姓とそうでない場合)へのお手紙はどう宛名を書いたら良いのでしょう」という相談が載っていました。
    http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A405-2004Jul20.html
    友人に夫婦別姓で子供の名字はお父さんと同じという家族がいますが、クリスマスカードの宛名にだんなさんの名字でThe Smith Familyと書くと奥さんを無視しているような気がします。奥さん、だんなさん、子供と全員の名前を書いてもいいのですが、これが子沢山の家だったらどうなるんだろう、とか考えてしまいます。(そこの家は3人だけなんですけどね。)

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