ITと生産性向上

<日経産業新聞2004年6月1日に掲載されたコラムです。>

インターネットバブル崩壊を経て、ついに情報技術(IT)による生産性の向上が数字になってあらわれ始めた。

一九八〇年代から米国はばく大なIT投資を続けてきたが、その結果はなかなか数字にあらわれず、ノーベル賞を受賞した経済学者のロバート・ソローは「コンピューターエイジはありとあらゆるところで明らかだが、生産性統計にだけは見えない」とまで言った。

しかしやっとその成果が表れてきたのだ。実に、一九七一年にインテルが最初のマイクロプロセッサーを発表してから三十年以上かかったことになる。

九〇年代後半の生産性向上はニューエコノミーと呼ばれ話題を呼んだが、バブル崩壊とともに、ただの幻想だったと片付けたられたかに見えた。

しかし、九五年から二〇〇〇年のブーム時には年間二・五%に過ぎなかった労働生産性向上率が、二〇〇〇年以降は三・四%に上昇。バブルとは関係ない、本当の長期的な生産性向上が起こっていることが明らかになってきた。

しかし、生産性向上は失業者増という恐ろしい結果をもたらす。少ない人手でより多くの仕事ができるからだ。結果としてアメリカは、景気が回復しているにもかかわらず、雇用がなかなか伸びないジョブレス・リカバリーのただ中にある。

生産性が一%向上すると百三十万人が失業する。米国で過去三年間に失われた約二百七十万の職のうち、そのほとんどが生産性向上によるものとされている。

ITによる生産性向上は、長らくIT産業そのものに限られているといわれたが、現実には多くの分野に広まりつつある。好例は電子商取引の拡大だろう。通常の小売業では三―一〇%しかない利益率は、オンラインでは二〇%を超す。

Shop.orgが五月二十五日に発表した調査結果では、〇三年の電子商取引の売上額は前年比五一%増加の千百四十一億となったが、一方では競争力のない小規模な店舗が米国の街角から姿を消しつつある。

アマゾン・ドット・コムの余波で独立系書店が街角から姿を消して久しいが、さらに今、宝石店が同じ運命をたどり始めた。街の宝石屋の大きな収益源だった婚約指輪の購入者がオンラインに流れているからだ。値段が安いだけでなく、ダイヤモンドの選択に必要な知識もオンラインなら自分で納得いくまでゆっくりと学ぶことができる。

こうして、ITとは全く関係ないように見えた宝石販売という業種にまで、IT導入による効率化が起こり、結果として非効率な仕事をしている人たちは職を失う。

この過酷な生産性向上を是とするか否とするかは、経済が成長し続けると信じられるかどうかにかかっている。「常に新たな技術革新が起こり、新しい産業が誕生する」という信念があれば、生産性向上により職を失った人も、必要なスキルを身につけることで新たに誕生する産業に移ることができると考えられる。

しかし、「新たに移っていくより良い産業が誕生しない」、つまり全体のパイは変わらないまま必要な人間の数だけが減るという「ゼロサム発想」に基づけば、生産性向上は悪でしかない。

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