Google IPO:未公開企業の価値の計算

Googleはインターネットによるダッチオークション方式で上場することになった。「ダッチ」と聞いただけで顔を赤らめているあなたは、変な通販の見すぎです。これは、入札者に指値をさせて、高いほうから取り込み、「売る株数と調達したい金額のバランスがいい値段」のところで足きりをし、それより上の値段に入れた人たちは全員「足きり価格」で買うことができるというもの。(調達金額・IPO時の売り出し株数とも、入札状況を見てGoogle側が変更可能)だから、とにかくどうしても欲しかったら、トンでもない高い金額で入れればよい。途方もない額で入札しても、結果的には足きり値段で買えるのだから。なお、このプロセスについてはBusiness WeekのFAQなどはわかりやすい。

(ちなみに、GoogleがIPOで調達希望と発表した金額は2,718,281,828ドル。そう、これはe、自然対数の底、オイラーのネピア数。Googleはこんなところでも遊んでいる。)

しかし、とはいうものの、高値で買って損をするのは困るわけで、投資効果を考えたら「一体どのあたりが適正な値段か」ということをよく考えて入札しないとならない。GoogleのIPOでは、これまでの普通のIPOと違って、一部の機関投資家だけでなく一般人も株が買える。つまり、普通の人たちも、「Googleの適正価格は何か」ということを計算しなければならないわけだ。(これまでのIPOとGoogle型IPOの違いについては、去年RedEnvelopeという会社がGoogleと同様の方式で上場したときに書いたエントリーをご覧下さい)

というわけで、今回は「会社の値段の計算の仕方」です。

株価とは

株価=会社の価値÷その会社が発行している株数

という風に決まる。ということは、そもそも「会社の価値(値段)」を算出しないといけない。

San Jose MercuryのRules of thumb to calculate company’s valueでは、comparableと呼ばれる計算方法を紹介している。これは、似たような会社と比較して価格を算出する方法で、普通の人が会社の価値を考える際には、最もよく使われる。

記事ではまず類似企業としてYahooとeBayを選出。 Googleとこの二社の類似点はInternet businessであること、very profitableなこと、そしてgrowing quickly。

では計算開始。

1)Yahooを例に取ると、今年度想定Net Income(earnings)は6億3千300万ドル-US$633Mで、現在の企業価値は380億ドルーUS$38,000M。(Yahooの財務関連数値はこんな風にウェブで簡単に見られる)
(以降100万ドルを$1Mと表記します。$1Mで大体1億円となります。237.9Mは大雑把に240億円くらい)

2)つまり、Yahooの株価は今年度想定Net Incomeの60倍。 (38,000÷633=60)

3)Googleの昨年のNet Incomeは $106M。だが、これは現在アメリカで論争の的となっているストックオプションを費用として既に落とした後のもの。一方YahooのNet Incomeはストックオプションを費用として落とさずに計算されている。なので、Googleの昨年のNet Incomeにストックオプション費用を足し戻し、今年度はYahoo同様に成長と想定すると今年度想定Net Incomeは$849M。

4)849×60=$51,000M

ということで、Yahooをcomparableとすると、なんとGoogleの企業価値は510億ドル、実に5兆円を越すことになる。

5)eBayをcomparableとして同様の計算をすると、Googleの企業価値は$38,000M(380億ドル)となる。

****

以上はearningsを基本としたcomparableだが、もちろんこれ以外にもいろいろな計算の仕方がある。大きな上場企業の価値を算出するには、CAPM・WACCといった4文字系の方法があるが、未公開企業ではそういう大それた方法ではちゃんとした価値が出ないことが多い。(規模が小さすぎるので)。

ということで、以下、未公開ベンチャーの企業価値計算で使われる方法です。

1)Comparable

a) 売上(Revenue)で比較:(企業価値÷売上をRevenue MultipleとかSales Multipleなどと呼ぶ)
特に未公開企業では赤字のことも多いため、上記のGoogle/Yahoo/eBayの比較のようなearnings multipleを使うと、計算できない。そういう時はこれが一番簡単

b)EBITDAで比較:
EBITDAはイービッダーともイービットディーエーとも読む。earnings before interest, tax, depreciation and amortizationの略。借金して資金調達しようが、株を売って資金調達しようが、事業の本質には関係ないはずで、だったら金利の影響を除いて比較した方がよい、ということで金利を抜き、同様の理由で税金や減価償却を抜いたEBITDAで比較しよう、というもの。EBITDA自体は、企業会計上いろいろと非難も浴びる数字なのだが、公開企業と未公開企業という、非常に異なる規模の企業同士を比較する場合には、より公平な条件で比べることができるともいえる。

2)VCの立場から見た現在価値
「US$2投資して、会社の30%の株を取得する。ベンチャーは2年後に再度増資して、30%の株を売る。5年後に20%の株を売ってIPO、IPO時の企業価値は$400M。」といった、上場までのシナリオをまず考える。もちろん適当にな数字をでっち上げるのではなく、事業計画に基づいて計算するのだが、まぁ勘がものを言う。

このシナリオにしたがって、IPO時に自分の持分がいくらになるかを試算する。
 上場時の持分は  30%×(1-30%)×(1-20%)=16.8%
 16.8%の持分の価値は  $400M×16.8%=$67.2M

ということは、今の$2Mが5年で$67.2Mになる。つまり大体毎年2倍に増えることになる。つまり年利100%。(これをinternal rate of return、IRRと呼ぶ)投資先にはつぶれたり、つぶれないまでもイマイチなところもたくさん出るわけだから、IPOまでいった暁には大きなリターンが欲しい、ということでベニスの商人もびっくりな高リターンを求められる。

3)Asset value (資産値段)
その会社が持っている資産(コンピュータやらも全部)の価値を全部足す。これ以上は低くなるまいという最低価格、という感じか。

4)Firesale value(叩き売り値段)
その会社が倒産して、資産を一気に叩き売ったとした場合の価格。上記3より低くなる。本当にやばくなったらいくら回収できるか、という計算。Liquidation valueともいう。倒産大売り出し価格。

5)DCF
discounted cash flow。その会社が事業から生み出すことができる現金を未来永劫にわたって予測し、その現在価値を出す。

一見、とても正確に聞こえるが、「未来永劫にわたって予測」と「現在価値を出す」というところでかなり恣意的に計算できてしまう。前者については、まず数年分はまっとうに事業計画に基づいて計算し、そこから先はterminal valueと呼ばれる「その先入ってくるキャッシュ全部」をまとめて計算するのだが、これが全現在価値の半分以上を占めることもざら。その計算で効いてくる数字は「成長率」と「割引率」。しかしちょろちょろのベンチャーが将来どんな成長率で事業を伸ばせるかなど誰にもわからない。さらに後者の「現在価値を出す」というところで、再度「割引率」が登場するのだが、これまた「来年の1ドルは今年の何ドルに値するか」ということで、つまり「そのベンチャーの事業はどれくらいリスクがあるか」と問うていることになる。が、そんなのわからない。なので、さらにいい加減になる。

よって、いい加減×いい加減という、とてもいい加減な結果となってしまう。もちろん、一応計算してもいいのだが。

関係ないが、昔商社づとめをしていた頃、事業投資の検討では、全社どこの部門でも同じ割引率で計算することになっていた。会社の調達金利プラスちょっと、という数字だったと思う(理論的には正しい)が、これで判断を誤った事業が山ほどあるはず。だって、ケンタッキーフライドチキンと、衛星を打ち上げるのと、発電プラントが全部同じ割引率ってことないですよね。最近はさすがに変わったと思うが・・・。

この後、「会社に値段がつくとはどういうことか」について書こうと思ったが、というか、それがいいたくて、そもそも会社の値段はどう計算されるか書き始めたのだが、随分長くなったのでまた次回に持ち越します。

Google IPO:未公開企業の価値の計算」への16件のフィードバック

  1. 釈迦に説法は百も承知で…。
    未公開株、特にVC投資の世界では会社の価値決定は投資家と起業家の交渉の果たす役割が高いですよね。
    ホットなスタートアップであればあちこちのVCから引き合いがあるので起業家もより高い価値をつけてくれるところ(=同じ金額を、より少ない株式数を発行することで調達できる)を選んだり、「よそはいくらのバリュエーションだと言っている」などという(そこまで単純でもないですが)手段も使えます。
    実際には、VCの経験、そしてVC間のネットワークを通じて「相場」が形成されて来るのであんまり無茶なバリュエーションが成立することは希ですが、交渉の力関係で、多少の違いは出るものです。
    起業家が「ウチはX(会社名)と同じようなビジネスモデルで、しかも同じような成長率を実現できるはずだからXが公開したときのSales Multipleがcomparableだ」(実際にはもうちょっと説得力のあることを言いますが)と言えば、VCは「いや、自分の経験からすればそちらのcomparableはむしろYのものに近いはずだ」などと応酬したりするはずです。そこでDCFの議論などをすることはまずなくて、だいたい売上の成長率とcomparableをめぐっての議論でしょう。
    VCとしては、liquidity event(公開・買収など)の時に自分の持分の価値を最大化するためにはより少ない金額でより高い持分を獲得しようとするわけなので、会社の将来にどんなに期待していてもお金を出すときには渋いことを言う傾向があるやに思います。VCの2面性でしょうか。
    スタートアップの資金調達においては、会社の価値は起業家にとっては自分が経営上発揮できる支配力そして自分も含めたそれまでの投資家の運命、VCにとってはファンドに投資してくれた投資家と自分の報酬の運命がかかっているので、そりゃあまあ熾烈なバトルになりますわな。
    公開株の価格付けが「美人コンテスト」(ケインズでしたっけ)だとすれば、未公開株の価格付けはフリーマーケットでの「まかるか、まかりまへんか」みたいな世界かもしれませんねぇ。

    いいね

  2. Googleの企業価値の算出

    またもや政治とは関係ないですが、Googleの企業価値の計算方法を、渡辺千賀さんがすんごく分かりやすく教えてくださっております。 MOTの方、是非、これを読んで勉強しましょう! 尚、原本は、San Jose MercuryのRules of thumb to calculate company’s valueのようです。…

    いいね

  3. googleのIPO関連

    メモメモ。 時間が空いたら考えよう。 GoogleのIPO申請、そのやり方に異議あり(CNET 梅田さん) GoogleのIPO、乗るか乗らないか 株式公開とコーポレートガバナンスと投資家と社会 Googleのコ��…

    いいね

  4. ども、いつも楽しく拝見しております。
    「昔商社づとめをしていた頃、事業投資の検討では、全社どこの部門でも同じ割引率で計算することになっていた。会社の調達金利プラスちょっと、という数字だったと思う(理論的には正しい)が、これで判断を誤った事業が山ほどあるはず。だって、ケンタッキーフライドチキンと、衛星を打ち上げるのと、発電プラントが全部同じ割引率ってことないですよね。」とのことですが、
    後半部分の異なる種類のPJに対して異なる割引率を適用することに関しては、各PJのリスクを反映させたうえで割引率を決定すべきということが理解できますが、前半部の調達金利プラスプレミアムで事業投資を評価することが理論的に正しいとの記述が今ひとつ理解できません。
    私の理解では、総合商社という事業の集合体であるがゆえに、いかなる事業であっても、本体(多様な事業の集合体)がかかえるリスクと同じであるため、前述のようなことがあくまで理論上は言えるのでしょうか。
    お時間があるときにお返事いただけましたらうれしいです。

    いいね

  5. 企業評価とバブルの発生メカニズム

    昨日のコメントに対して、梅田さんやatomisedcross さんからコメントいただきました。ありがとうございます。 梅田さんと「言いたいことがずれている」んではないかと、atomisedcrossさんか��…

    いいね

  6. 企業評価とバブルの発生メカニズム

    昨日のコメントに対して、梅田さんやatomisedcross さんからコメントいただきました。ありがとうございます。 梅田さんと「言いたいことがずれている」んではないかと、atomisedcrossさんか��…

    いいね

  7. 今年のゼミは・・・

    最近聞いた八木情報によると今年度ゼミの内容はさらにパワーアップしている模様。
    去年もやった企業分析。2万字レポート×3。
    財務諸表やweb情報、インタビューとかをもとに
    「企業…

    いいね

  8. naotake-dono
    交渉次第、というところ、まさにその通りですね。マルチプルすらあんまり関係なくって、とにかく相場はこれくらい、とか、このラウンドだったらdilutionはこんなもん、とかいう「世の中相場」で決まってしまうというか。
    とはいうもののマルチプルとか、上場したときのバリュエーションはいつも頭の片隅にあって、「とはいってもこの条件で投資して、ちゃんとリターンを得られるのだろうか」というsanity checkを常にしているわけですが。
    座長さん
    やっぱり:-)
    akさん
    「割引率はcost of capital」って呪文のように教わるような気がするのですが。cost of capitalはつまり調達金利。しかし、そのさらに根元には「cost of capitalは事業リスクを反映している」という前提があるわけですね。つまり、リスクの高い会社は貸出金利も高い、という。ですから、総合商社みたいにまとめてドーンと低金利で調達できるからといって、その金利を事業投資案件に一律に適用するのは間違っていますね。ということは理論的にも間違っていますね。ということは、「理論的には」ではなく、「表面的には」正しいとすべきでした。ご指摘ありがとうございます。
    せきさん
    Stanfordで受けたGrousbeck先生のEntrepreneurshipのクラスで最初の1時間で習ったことをそのまま書いただけですので・・・。(ペンキ屋買収、という地味なケーススタディーでした。はい。)
    http://gobi.stanford.edu/facultybios/bio.asp?ID=53

    いいね

  9. Chikaさん、こんにちは。
    こちらではお久しぶりです。
    このテーマ面白いです。続編も期待してます。
    DCF法の「いい加減さ」は言われるとおりですが。
    一方で「簡単で公平」に見えるComparable(類似企業比較法)についてもどうも、生理的に受け付けないというか、
    うさんくささを感じるというか、要するに納得できないものがあります。
    株価は所詮、需給関係で決まり、時にはovershootしたり博打の対象になるものという考えからすると、Comparableの対象の価値も「砂上の楼閣」に感じてしまうというか。
    株価の妥当性を測る指標は色々あれど、後付けで正当化しようと色んな理屈が出てきますし。
    まあ「市場のお約束事」に乗れないなら、投資しなければいいだけですが。
    「商社の市場金利プラスちょっと」の「ちょっと」にも興味があります。メーカーとどう感覚が違うのか、とか。

    いいね

  10. ��ʾ�γ���Ψ����ͳ

    ̤�跹�Фΰ�̣�������� �кѳؤ��бijؤǤϡ�̤���μ��פ��ͤ����ݤˤϡ�����������Ψ�Ȥ������Τdz������ǡ����߲��ͤ�ľ����ɾ�����뤳�Ȥ�������������˹Ԥ����Ƥ��롣�ºݡ����Ƥζ��ʽ��Ǥ�(������ľ͢�������ܤζ��ʽ��Ǥ�)������ɾ���κݤˡ������μ��פ��…

    いいね

  11. Chikaさん曰く:
    「だから、とにかくどうしても欲しかったら、トンでもない高い金額で入れればよい。途方もない額で入札しても、結果的には足きり値段で買えるのだから」
    このGoogle株のオークション形式のIPO、本当に興味深いですね。
    Googleの創業者のLarry PageとSergey Brinはどうも金儲けよりはGoogleの社会的使命とかを意識しているフシがあるので、案外、最高入札額順から株をアロケートするのではなく、統計的な中央値以上の入札者に、各入札者が希望した株数に比例した株をアロケートするかもしれませんね。
    もちろんその為には、非常識な高額、低額の入札額を集計対象から外し、中央値以上での入札株総数×中央値が少なくともGoogleの希望する調達額に達するのが前提ですが。
    中央値に近い額で株を発行すれば、Google自身も警告しているオークションにありがちなWinner’s Curseに因る、取り引き開始直後の株価下落圧力を緩和できるかもしれませんね。
    Winner’s Curseについての解説もちょっとググってみました (^^)
    http://www.kobe-mba.net/square/keyword/backnumber/22suehiro.htm
    http://www.techcentralstation.com/050404E.html

    いいね

  12. 企業評価とバブルの発生メカニズム

    昨日のコメントに対して、梅田さんやatomisedcross さんからコメントいただきました。ありがとうございます。 梅田さんと「言いたいことがずれている」んではないかと、atomisedcrossさんか��…

    いいね

  13. スタートアップの企業価値評価

    どの会社にいくら投資するのかを決めていくのがベンチャーキャピタルの仕事の一つであり、その方法はさまざまなのだが、SVJENで連載しているコラムに纏めようとすると、自分が学んで�…

    いいね

  14. マネックス・ビーンズHDがダッチ・オークション参入

    今日のフジサンケイビジネスアイのニュースでマネックス・ビーンズ・ホールディングスは21日、オークション型価格決定による上場引き受け事業の国内展開に向けた準備会社を新設した。とあった。
    ダッチ・オークション方式とは、一定株数を募集する場合、入札価格の最も高…

    いいね

コメントする

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google フォト

Google アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中