一輪車操業のシリコンバレー

<日経産業新聞2004年3月30日に掲載されたコラムです。>

今、シリコンバレー最大の期待は、早ければ数ヵ月後に起こるといわれる、検索サイト、グーグルのIPOだ。上場時の企業価値は200-300億ドル
(2-3兆円)とも言われ、好調とされる米国アマゾンやヤフーと同等か、それを上回ることになり、シリコンバレーの歴史の中でも最大のIPOとなることが
確実視されている。中々比較の対象もない「超ど級IPO」なのだが、強いて他の技術系企業と比較すると、例えばAT&Tが技術部門をスピンオフし
たルーセント・テクノロジーズのIPO時の企業価値が1996年当時170億ドルだったから、それをも凌駕するわけだ。理由は簡単で、グーグルが高収益だ
から。2003年の売上げは9億ドル、約1000億円、税引き前利益は3.5億ドル、約400億円と噂されている。

グーグルのIPOで期待されるのが、これで一気にIPO景気が上向くのではないか、ということ。それを見越して、ベンチャー投資は既に盛り上がりを
見せている。昨年9月ごろから上向き始めており、今年に入ってからは水面下で活発な投資活動が起こっていることが、ベンチャー企業と投資家の双方から漏れ
聞こえてくる。

こういうと「まだ起こってもいないグーグルのIPOを見越して、投資が活発になるなんて単なるバブルでしかない。そもそもグーグルは既に黒字なのだからIPOする意味がどこにあるのだ」と思われる方も多いのではないか。

しかし、シリコンバレーは、技術のイノベーションに徹底的な資本主義を導入して成功している場所だ。この地では、IPOや買収というエグジット(出
口)があって、始めて資金が投資家の手に戻り、それがさらに新たなベンチャーへと投下される。個人レベルでも、IPOで、ストックオプションによって億万
長者が大勢出現する。そうすれば、さらに一攫千金を目指して世界の頭脳が集まってくる。グーグルのIPOは、こうした「正しいイノベーション循環」の重要
な円滑油なのだ。

***

シリコンバレーは、走り続ける一輪車のようなものだ。海のものとも山のものともわからない技術に莫大な資金を投下し、世界の頭脳を働かせてみて、た
まさか上手くいったら、そこから回収した資金でまた新たな技術に投資する、という「究極の自転車操業」の地である。今回のグーグルのIPOでも、集まる巨
額の資金で何が起こるのか、本当のところは誰にもわからない。しかし、とにかく一輪車を止めてはならないから、よくわからなくてもIPOする。調子がよさ
そうだったら、一輪車のこぎ手の肩の上にもう一人立つ。さらに調子がよいようだったらどんどん何人もその肩の上に立って、曲芸乗りのまま突っ走る。あまり
調子に乗っていると、突然大きな石に乗り上げて、全員が放り出されるような「バブル崩壊」もやってくる。しかしそこで、「根本的に設計をやり直したほうが
いいのでは」「やはり補助輪をつけた方がいいのでは」などと悩まずに、もう一回泥を払って同じ一輪車に乗る。最初はヨロヨロしていても、だんだん加速す
る。そうしたらまた、その肩の上に大勢で乗って曲芸乗りをする。
「アツモノに懲りてナマスを吹く」の正反対の地がシリコンバレーなのである。

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