Survey of Americaのエントリーの続き。「アメリカは強力だから変わっているのではなくて、変わっているから強力なのだ。」というEconomistの特集について、ではアメリカのどこがどう変なのか、という中身である。
いくつか拾うと。
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アメリカ人は子沢山
- 出生率は85年ごろ底を打ち反転、現在は女性一人当たりの子ども数はほぼ2人と先進国で最高レベルに
- 国民の平均年齢は、今から2050年まで36歳のまま変わらず(ヨーロッパは今の38歳から高齢化が進んで53歳になり、2050年には中国ですら44歳になる)
- 人口の半分以上が郊外に住んでいる
- 1990年代に建てられたオフィススペースのなんと90%が郊外
- 聖母マリアの処女懐妊を信じる人が、進化論を信じる人の3倍いる
- 80%が神を信じている
- 58%の人が、「神を信じない人はモラルがない」と考えている
- Ciscoにすら、”Geeks for God”という社員向けキリスト教の集まりがある
- 91%が非常に愛国心があると答える
アメリカ人は田舎モノ
アメリカ人は信心深い
アメリカ人は愛国心が強い
信心深いという点はアメリカの異常な点。「進化論を教えるな」と親や教会が真剣に抗議したり、中絶手術を行う産婦人科に爆弾を仕掛けたりする。とても正気の沙汰とは思えない。で、外国人たちは、「アメリカ人はこのまま宗教戦争に突入するのでは」と恐れているが、Economistは「いや、大丈夫。アメリカの教会はばらばらで、教義一辺倒の狭隘なものではなく、むしろ悩める現代人の癒し系」という。
全国規模の宗派が殆どなく、どれもセクトレベルの小さい集団で、しかも新しい宗派がいつもボコボコ生まれる一方、なくなってしまう宗派もたくさんあるんだそうだ。ある調査で、187の宗派を1995年から5年間フォローしたら、37なくなって、54の新しい宗派が誕生したと。
宗教だけではなく、政治も国レベルより州レベルの力が強い分権。(税金の額から、弁護士資格から、ギャンブルや売春の許可まで州ごとに違う)ご存知の通り、会社だって、栄枯盛衰が激しい。さらには、いろいろな価値観も乱立、相互にせめぎあっている。この「なんでも分権制度」がアメリカの特徴だ、とEconomistは強調する。
いわく:
Yet the contest of values is a source of strength as well as weakness for America. New opinions are always bubbling up; elite views are always being tested. This is messy but not acquiescent. De Tocqueville argued that the most insidious threat to any democracy was apathy, which conducts people “by a longer, more secret, but surer path towards servitude.” America’s culture wars help to bar that secret path.・・・・・Doctrines of American exceptionalism tend to be self-regulating.
価値観がせめぎあい、常に不安定であることで、デモクラシーが無関心によって崩壊するのを防いでいる。また、せめぎあいがあるせいで、あまり極端なことは自発的に修正される、と。
しかも、アメリカはどんな国とも異なっている一方で、よそ者の外国人でもアメリカ人になることができる。他の国が、民族や言語を同一にすることで成り立っているのと違って、アメリカの根本は「信義・信念」を同一にすること。「信義・信念」さえ受け入れれば、それでアメリカ人になれるわけである。
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外から見ている間は「勝手で傲慢で嫌な奴らだねー」と思っていたアメリカだが、一旦中に入れば、かなり心地よい。少なくとも、今のところ、私にとっては。言語とか、民族とか、そういう「自分の力で変えられないもの」で縛られているのではなく、信義とか行動様式といった、自分の意志で選べるものが国の成り立ちの根元にあるから、ということも大きいような気がする。「嫌だったらアメリカにいるのいつでもやめていいんだし」という大雑把な感じが「いいかんじ」なんですなぁ。
その昔、日本のテレビで、放送大学の講座をボーっと見ていたら、アフリカの原住民の部族についての話をしていた。いわく、ある地域に複数の部族がいる。部族間の行き来は自由。唯一のルールは、新しい部族の言葉を覚えることなんだそうだ。それさえクリアすれば、男でも女でも新しい部族の一員として迎え入れられる、と。
「あー、もう新しいところに行こう」
と決めたら、トコトコと出向いて、しばらくがんばって言葉を覚えると、アーラ不思議、あなたも新しい部族の人なのだ。
アメリカもそういう感じだ。実は、この「信義を受け入れれば、その国の国民になれちゃう」というのは、新しいものでもなんでもなくて、人類のもともとの行動様式に近い、とっても自然なものなのかもしれない。
この「エコノミスト誌」の記事は簡潔で中身が濃いですね。
「しかも、アメリカはどんな国とも異なっている一方で、よそ者の外国人でもアメリカ人になることができる。他の国が、民族や言語を同一にすることで成り立っているのと違って、アメリカの根本は「信義・信念」を同一にすること。「信義・信念」さえ受け入れれば、それでアメリカ人になれるわけである。」
この寛容さが崩れなければ米国の存在意義は保たれると思いますが、違法入国滞在の中南米からの移民に対する扱いを見ると、「アメリカの夢」が壊れていくような不安を感じます。
あと、「愛国心」が加熱しすぎているのが9/11以後の米国の迷走の原因だとすると、「愛国心」にも問題があります。但し、「愛国心」なしでは米国は成立しない。だとすれば、「愛国心の暴走」を如何に制御するかが大切と思います。
日本ではいま政治家たちが「愛国心を教えろ」という文言を教育基本法に入れようとしていますが、そんなもの、わざわざ教えなくても、日本の若い連中は充分に右傾化していると思うのですが。(苦笑)
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>「愛国心の暴走」を如何に制御するか
大事ですねー。
>日本の若い連中は充分に右傾化
私もコレ、怖いんです。日本に住んでた90年代後半は特にびびってました。普通の書店で超右傾的思想の漫画とかが平積みって怖いなぁ、と思ったんですよね。。。
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