「製品化」シリコンバレーの源泉

<日経産業新聞2003年7月23日に掲載されたコラムです。>

シリコンバレーのソフトウェア産業は世界の最高峰にある。しかしそれは、シリコンバレーに優れた技術があるからではない。世界からやってくる技術の種をビジネスへと仕立て上げる仕組みが確立しているからなのだ。

特に「優れた技術」を「売れる製品」へと最短距離で昇華する仕組みが「プロダクトマーケティング」である。形のないソフトウェアは、製品になるまで
その機能を説明するのが難しい。しかも先鋭的な技術ほど抽象度が高く、「種」の段階で市場の声を集めることは困難を極める。しかしそれを乗り越え、市場を
綿密に調査した上で、売れる製品仕様を決定するノウハウがシリコンバレーでは確立している。さらにバブルが弾けた今、「技術がすごい」のは当たり前、それ
を「売れる製品に仕立てあげる」ところまで突き進めることがベンチャーに求められているのである。

例えばあるセキュリティーソフトのベンチャーがある。この5月にVCから最初の投資を受けたばかり。まだ開発の内容も秘密の「ステルスモード」の会
社だ。マサチューセッツ工科大学(MIT)での研究に基づく革新的な技術を核としているが、製品化のプロセスが始まった今、その主導権は、発明者であり
CTOであるMITの教授から、プロダクトマーケティングのプロであるシリコンバレーのベテランの手に移った。主要メンバーはニューヨーク、ボストン、シ
アトルと全米を飛び回って、中核顧客となる大企業に直接インタビューし「売れる製品仕様」を模索中だ。いったん開発が進んでしまってから仕様を変更するこ
とは非常に困難なので、10人もいないベンチャーであっても、製品開発の手を動かす前に、果敢に大企業との面談を取り付け、大陸をまたがる出張を厭わず綿
密な市場調査を実行している。

生まれたばかりのシリコンバレーのベンチャーにこんなことができるのには二つ理由がある。一つは、シリコンバレーの人材が豊富で、しかも優れた製品
化ノウハウを持ったプロが流動すること。もう一つは、顧客となる米国大企業に、新しいITに挑戦する意欲が強いこと。新規サービスやコスト削減を可能にす
るソフトであれば、たとえ聞いたことのないベンチャーの製品でも果敢に導入して競合との差別化を図ろうとする。

シリコンバレーでコンサルタントをしていると、よく日本のかたから「新しい技術の種はないですか」という問いかけを受けるのだが、実は今日本に必要
なのは「技術(What)」ではなく「製品化の仕組み(How)」だ、と私は考えている。技術大国の日本には先進的技術はたくさんあるはずだ。しかし、そ
れはまだ「種」でしかない。種が水を与えなければそのまま干からびてしまうように、優れた製品化のプロセスを導入しなければ技術も枯れてしまう。

一方シリコンバレーでは、バブル期の競合激化によってプロダクトマーケティングのプロセスに磨きがかけられ、さらに当時の激しい人材流動によって地域全体のノウハウが底上げされた。

そしてバブルの荒波が過ぎた今、シリコンバレーのベンチャーは以前よりも磨きのかかった「How」で着々と製品を作りながら、IT景気復活の日を待っているのである。

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