とある仕事でスタンフォードのPh.D.の人と一緒に働く機会があった。
私の専門はハイテクのビジネスディベロップメントである。会社と会社を繋げるのが仕事。しかし、もちろん対象となる領域の技術を理解した上での競合環境の分析ができなければお話にならないので、それぞれの分野の専門家の方とチームを組んで働くことになる。特に車で5分のスタンフォード大学の研究者の方々は素晴らしいリソース。通常はprofessorと名のつく方に仕事を依頼することが多い。アカデミアでもジュニアであればあるほど、非常に深いが狭い専門領域のことしか見ておらず、またビジネスの世界とも縁遠いので、結果的にそれなりに経験を積んだ人にお願いすることが多い。よって、アカデミアとしてはジュニアもジュニアなPh.D.に仕事をお願いするのは大変まれなケース。
今回のPh.D.氏は、最初に会って話をした時に、かなりの数のベンチャーや大企業を知っていたので驚いてしまった。聞けば3年前にビジネススクールのアントレプレナーシップのクラスを取って、MBAの生徒とチームを組んでビジネスプランを書き、その時に競合調査として世の中のスタートアップを調べて興味を持ち、それ以降継続的にベンチャー事情をフォローしてきたのだという。
ちょうど知り合いがMITのPh.D.数名と一緒に仕事をしているのだが、
「驚くほど何もビジネスの世界を知らない」
といって頭を抱えていた。その知り合いは、
「Ph.D.とビジネスの話をするなんて時間の無駄だ。調査を依頼するなら時給10ドルくらいの価値しかないぞ」
とボロクソに言っていたが、決してそんなことはなかった。
これは、スタンフォードとMITの違いを象徴した出来事といえよう。ビジネスとアカデミアが近くて、早くからビジネスの世界と関係を持ちつつアカデミアの道を進む人が多いのがスタンフォードの特徴だが、MITでは「教授は神様、Ph.D.等々は平伏して仕えるしもべ、学問追求以外は邪道」という感じが未だあるらしい。
ちなみにアメリカで理系のトップといえばカリフォルニア工科大学かMITである。(細かくいうと、学科によっては違う大学が秀でているものもあるが、大雑把に言えばこの二つ。)
そのMIT出身者が
「スタンフォードの生徒で超一流なのは数えるほどしかいないが、『やればできる』とおだてられて、いい気になって起業にトライする。そのトライの母数が多いから成功例がたくさんあるだけだ」
というようなことをぶつくさと話していることもあるが、起業の秘訣は「質も大切だけど数はもっと大切」ということ。以前のエントリーで「マクロ予測に比べてミクロ予測は難しい、なぜならミクロは偶発要因に大きく左右されるから」ということを書いたが、起業はまさにミクロ中のミクロ。人事を尽くしても天命で吹き飛ばされてしまうことがたくさんある。だから、とにかくたくさんのトライが起こることが大切。
スタンフォードの「やればできる」(本当はその後に「かも」が入るのだが・・・・)という雰囲気は、やっぱり重要なシリコンバレーのファクターと言えるだろう。